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第54話 青鬼は強くて優しい

「すまなかったな。」

瞬間移動で突然消えたことを閻魔大王が謝罪する。


「いや、あの場合は仕方なかったよな。」

謝罪を受け入れる赤鬼。

「いやあ、大変だったんだぜ・・・・。」

「こら。」

愚痴る青鬼を咎める赤鬼。


「いや!大変だったんだって!大王様が消えた後、ぜってえ荒ぶると思うじゃん?しかも二頭じゃん?俺も腹くくったんだけどよ、めそめそ泣くの!」


ガネーシャのペットの小象二頭、エラワンとジャンボに追いかけられ、泣きながら逃げるエマを見たカールとデイモンは、水鏡に向かって叫んでいたが、閻魔大王がエマを抱き上げ、ガネーシャが小象たちを静止させた時には無言で水鏡を覗き込んでいた。


「あれはフェンリルが荒ぶる前兆だと思ったね。こう・・腹に力を込めて、いつ攻撃されても良いように身構えたんだけどよ・・。」

「お友達になって」と言いながら小象に手を伸ばすエマを見て顎が外れるほど驚いた顔で固まる二頭が、その場で崩れ落ちてめそめそと泣き出した。


「まさかフェンリルが、あんなにめそめそ泣くなんて・・・。」

よほど意外だったのか、赤鬼も無言でうなずく。

「ガチで泣いていて攻撃はなさそうだなって判断して、声をかけたんだけど泣いてて会話にならなくてよ・・・、宥めまくって落ち着かせたと思ったら、まためそめそ・・。」

青鬼がげんなり顔だ。


「一緒に訪問されたサタン殿は、この事態を予想していたようなので、青鬼が宥めている間、サタン殿と状況を確認して今後について相談させてもらった。」

「おめえは要領良すぎてちょっと冷てえよな。」

青鬼が赤鬼を睨む。


情けない姿を晒すことも多い青鬼だが、強くて優しい男なのだ。母親である梨花リーファの教育により「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」を骨身に叩き込まれた。

もちろん梨花リーファの愛読書はレイモンド・チャンドラー全集だ。

この他にも「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」のアレンジで「殴っていいのは、殴られる覚悟のある奴だけだ」を言い聞かせられながら格闘訓練を受けた。


「確かに俺は泣かれると弱い。どうしていいか分からなくなる。つまり苦手だ。どんな相手でも優しく真摯に向き合うお前はすごいと思う。尊敬している。」


ぶっふぉー!

赤鬼のストレートな告白に青鬼がお茶を吹いた。

「ななななななななな!ててててててててててめえ!俺を動揺させて弱らせてどうするつもりだ!この野郎!」

「・・・お前のちょっとアホなところも相殺される長所だと思うぞ。」

赤鬼が生暖かい目で青鬼を見る。


「それで、サタン殿と話した。カール陛下とデイモンはサタン殿が魔界ランドへ連れ帰り、頻繁に抜け出して地獄を訪れないよう監視するとのことだ。」

「ちびを地獄に預けるつもりということか?」

「冷却期間が必要だろうと言っていた。その間にカール陛下とデイモンの再教育をするつもりだってことと、定期的にお嬢ちゃんの様子を確認したいので連絡するそうだ。」

「そうか!冷却期間か!」

しばらくエマと過ごせると知り、閻魔大王の機嫌が急上昇だ。


ウッキウキの閻魔大王が執務に戻る中、フェンリル二頭を宥めて疲労困憊の青鬼は早上がりで帰宅した。

「ただいま~。」

「おかえりアオ、早かったのね。」

青鬼を迎えたのは春麗チュン・リーだ。

「めそめそフェンリル二頭の相手で疲れたぜ。」

春麗チュン・リーに覆いかぶさるように抱き着く青鬼。


「・・・・・でも、デイモンの気持ちも分かるんだ。もしも俺が愛猫・・愛ユキヒョウのユキちゃんへの愛情が行き過ぎてお前に愛想を尽かされたら、ぜってえ泣く。赤鬼の前だろうが部下5000人の前だろうが、ぜってえ泣くからな。」

「・・・うん。」


その頃、赤鬼は誰もいない家に帰宅した。

いつも冷静で仕事もできるが、なぜかモテない赤鬼であった。

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