第5話 デイモンとエマが出会った日
その時代、一番魔力量が多く、魔力の強い者が魔界ランドの魔王に選ばれる。任期は500年だ。
「ボくがつギのマ王コウほでスカ?」
「あくまで候補だよ、モンたん。儂が魔王になって120年、まだあと380年は勤めがある。その間にモンたんよりも魔力量が多く、魔力の強い者が現れたら、その者が次の魔王だ。今のところ、モンたんが一番魔力量が多くて、魔力が強いから次の魔王となる可能性は高いのう」
この時デイモンは3歳だった。
「今度の外交で天界に行く時にモンたんを紹介するので、そのつもりでな」
「はい、オじいサま」
3歳のデイモンは頬っぺたぷくぷくな丸顔で黒髪の美少年だ。最近やっと人型に変化できるようになったデイモンはボルゾイっぽい顔立ちで黒白なハスキーっぽい毛皮のちびフェンリルだ。性格は素直で聞き分けも良く、目の中に入れても痛くないほど可愛がっているじじいの顔は緩みっ放しだ。
「ようこそ魔王陛下。天界一同、心より歓迎いたします」
「ご招待に心より御礼申し上げます、こちらは次の魔王候補で、孫のデイモンです。最近やっと人型に変化できるようになりまして、まだ人の身体、特に喉に慣れていないため、言葉が覚束ないところがあります。さ、モンたん、ご挨拶しなさい」
「だィモんです」
魔王によるデイモンのモンたん呼びを天界の面々はクールにやり過ごした。
一方、なんとか挨拶を済ませたデイモンだったが、天界に到着してからずっと、そわそわしてたまらなかった。居ても立っても居られない。こみ上げる衝動のまま走り出したい思いを押さえるのに必死だった。
そわそわした衝動と戦っていると、ぴょこ!と狼耳が飛び出し、両手で押さえる。とたんにポン!と尻尾が飛び出した。なんとか本性を押さえようと四苦八苦していると・・・・
「モンたん、いったいどうしたんじゃ?」
「おジイさ・・・」
じわりと涙が浮かぶ。
「モンたん!モンたん?」
「カらだが、かッテに・・・。ぼク。びょウき?」
けも耳の美少年の泣き顔に天界の神々もぐっときた。
「我々が本性を押さえられない時・・・それは番を見つけた時じゃな・・・」
「つガい?」
「モンたんの番が天界にいるのかもしれん」
カッと目を見開く魔王と困惑顔の孫。
「それは一生を左右する大事ですね、視察を延期して番を探されてはいかがでしょうか。よろしければ私が同行いたしましょう」
「ウリエル殿、ありがたいご提案です」
「デイモン君、そわそわする気配はどこからするのかな?」
「あっチです!」
「モンたん、ウリエル殿が同行してくださるのだ。気持ちはわかるが落ち着きなさい。さ、じいじと手を繋ごう」
「あっチ!アちです!」
ぐいぐいと祖父の手を引いてやってきたのは畑だった。
「ここはルシファーのハーブ畑です。ああ、あちらにルシファーがいますね。ルシファー!」
ウリエルが呼びかけると美女が振り返った。
美女の側に3人のチビ天使がいた。
赤毛のチビ天使と目が合った瞬間、デイモンはポンっとチビフェンリルに変化し、祖父の手をするりと交わして駆け出した。
「ああっ!モンたん!待ちなさい!!」
キューン・・・、キューン・・・・キューン!
柵に阻まれて近づけないチビフェンリルが悲しそうに鳴いていると、ルシファーと天使たちがすぐ側までやってきた。
「ウリエル?こんなところに来るなんて珍しいわね。何かあったの?」
「いや、それが・・・」
キュウ!
ルシファーの横でプカプカと浮いている赤毛の天使に向かって尻尾を振る子フェンリルを振り返る。
「あら、かわいいワンちゃんね。どうしたの?」
キュン!キュン!
デイモンは、もう赤毛の天使しか見えていない。
柔らかそうなくせ毛の天使が、濃い緑色の瞳で不思議そうにデイモンを見つめ返す。
「番・・・エマちゃんにはまだ早いのではないかしら、まだ3歳なのよ?」
ウリエルの説明にルシファーが答える。
ひとしきりキュンキュン騒いで、騒ぎつかれたデイモンは人型に戻り、ニコニコとエマを見つめている。エマは見られすぎて恥ずかしそうにテオとニナの影に隠れようとしていたがテオとニナによって前に出されてしまい困っていた。
「もちろん、今すぐにどうこうというわけではなくて、将来の話です。孫もまだ3歳ですからな」
「エんマ?ボく、だぃイモン、3サい」
ニコニコと話しかけるとエマがびっくりしてルシファーの背中に隠れるがルシファーによって前に出される。
「・・だもん?」
エマがルシファーの背中から顔を出した。
エマに名前を呼ばれ、ぱああ!とデイモンの顔に喜びが溢れた。
その後もエマをかまいたがり、エマの側を離れたがらないデイモンだったが、保護者付きデートの約束を取り付けて、しぶしぶと魔界ランドに帰った。
一方のエマは熱烈なアプローチを受けてぐったりと疲れてしまった。
「ふふふ、今日は大変な一日だったわね」
「エンマつがいとか、よくわからないし!」
「そうねえ、今から真剣に受け止める必要はないと思うわよ。それにしても、あのデイモン君て子はエマちゃんのことが大好きなのね。それに美少年だったわね。大人になったらきっとハンサムよ」
「よ、よく分からないし!・・・でもワンワンはちょっとかわいいと思いました」
恥ずかしがって下を向くエマは可愛らしかった。
「ふふふ、そうねえ。デートが楽しみね」
テオとニナが恥ずかしがるエマの頭をなでる。