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第31話 エマとママ

「じいじ!」

居間でダイアナとカールが寛いでいるところにエマが帰ってきた。


「おかえりなさい、エマちゃん。」

「ただいまダイちゃん。じいじ、これは今週の分です。」

どうぞ。と、大事に抱えてきたバスケットをカールに渡す。


「ああ、なんと甘い香りじゃ!今までで一番の出来ではないか?エマちゃんは天才だのう!」



カールは肉類も好きだが、干芋も大好きだ。

中でも加護持ちのエマが育てたサツマイモでエマが作る干芋が大好物だ。

毎週一度、決まった量の干芋をカールに贈っており、受け取ったカールはバスケットの甘い香りを楽しんでは

「10年に1度の逸品!」

「まろやかで濃厚。近年まれにみる出来!」

「過去最高と言われたものを上回る出来栄え!」

「これぞ『ザ・干芋』!」

「過去最高と言われたものに匹敵する50年に一度の出来!」

とボジョレー張りのコメントでエマをねぎらう。


干芋入りのバスケットをダイアナに渡し、エマを抱っこして頬毛ですりすりと愛情表現するとエマもきゃっきゃと嬉しそうだ。



「その子は誰!?」

居間に緊張が走る。

灰色の髪に紫色の瞳の美女が腰に手を当てて仁王立ちしていた。


「レティ!」

「まあまあまあ!帰ってくるなら知らせて頂戴!」

「そうだぞ!前もって知らせてくれればレティの好きなトンカツを・・・」


バターン!

「ごめん、じいちゃん!ばあちゃん!」

バタバタと薫が駆け込んできた。

クールな薫らしくない慌てぶりだ。


「かおタン!」

「ごめん、ここでの話を父さんとしていたら、盗み聞きした母さんが飛び出してしまって、慌てて追いかけてきたんだ。母さん!やきもちは止めておきなよ、それに人の話はちゃんと聞いて。盗み聞きもお行儀が悪いよ。」


レティーの機嫌が急降下だ。

「薫君は口うるさいのよ!姑みたい!」


「母さんが子供っぽいだけだよ!それに義姉さんは、まだ兄さんの番になると決まったわけじゃないんだからね。兄さんの努力次第でなるかもしれないし、ならないかもしれないのだから。ちゃんと理解している?」

騒ぎを聞きつけたフェンリル姿のデイモンが扉の影でガーン!という文字を背負っている。


「そうよ!もしもデイモン君の番になったら私がママになるんだから挨拶にきたのよ!」

薫の言うことをまったく理解していないレティの発言に薫が頭を抱える。


「・・・・ママ?」

カールの腕の中でエマがつぶやく。


「あっ・・・。」

「あっ・・・。」

「あっ・・・。」


「母を訪ねて三千里」騒動を知らない薫はぽかんとしているが、カールとダイアナとデイモンは青ざめていた。


「帰るよ!母さん!!」

「母を訪ねて三千里」騒動を知らないが察しの良い薫がレティを連れ帰ろうとする。


「ママ?」

恥ずかしそうにレティを振り返るものの、真っ赤になって再びカールに抱き着く。


ほっこり顔でカールとダイアナがエマを覗き込む。

「あの子は私たちの一人娘なの。」

「名前はバイオレットじゃ。」

紫の瞳だからバイオレットなのじゃとか、レティは愛称よ、などと話しかけるが、首も耳も真っ赤なエマはカールにしがみついて離れない。


「・・・・・ちょっと。」

「なんじゃ?」

「その子をこちらに・・・」

「虐めるからダメじゃ!」

「虐めないわよ!」

信用してよ!と怒りながらレティがエマを抱き寄せる。

真っ赤なエマはレティに抱かれて顔も上げられない。

なによ・・・可愛いじゃない。


エマがレティにグリグリと頭をこすりつけるようにしがみ付く。

まんざらでもないわね・・・・。

レティの鼻息が荒くなった。


「お顔をみせてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

おずおずと真っ赤な顔を上げるが目を合わせることはできない。

「・・・・・・・まま。」

ぎゅっと目をつむって消え入るような声でつぶやいた。


カチッ。

レティの母性スイッチがONになった。


「レティ、エマちゃんはママに憧れがあっての、じゃからエマちゃんの憧れにケチをつけては・・・・」


ドカっ!

フェンリル化したレティがカールを弾き飛ばしながら走り去った。エマを連れて。


「カール!」

「エンマ!」

ダイアナがカールに走り寄り、フェンリル化したデイモンがレティを追う。


ペロリ。

サンルームのクッションの上で丸くなったレティがエマを抱え込んで、エマの頬を舌で撫でる。

「・・・まま」

「なあに?」

優しい瞳でエマを覗き込む。

ママ!とレティに抱き着くエマ。


「母さん!エンマを返してください!」

ぎゃんぎゃんと涙目で吠えるデイモン。


「ウォン!ウォン!ウォン!ウォン!」

群れを巣立ったデイモンに容赦なく吠えるレティ。


「エンマ!」

「ウォン!ウォン!ウォン!ウォン!」

「母さん!」

「ウォン!ウォン!ウォン!ウォン!」

デイモンが負けた。


「そう、アニメに影響されたばかりだったんだ…。」

レティに撥ねられたカールをダイアナが膝枕し、レティに追い払われた涙目のデイモンを薫が撫でていた。

「レティは相変わらず元気なのね・・・。」

カールとダイアナが恥ずかしそうに俯く。

「父さんの言うことは良くきくからなんとかね・・・。」

薫も目を伏せた。


レティは幼い頃から言うことを聞かないタイプで、カールとダイアナはレティを連れて人間界で犬のしつけ教室にも通ったことがある。(効果はなかった)ワガママではなく欲望に忠実なタイプのだめフェンリルなのだ。


翌日もエマはレティに夢中で、レティの側を離れなかった。


「エンマ・・・。」

扉の影からハンカチを噛みしめながら二人を覗き込むデイモン。


「兄さん、ほどほどで母さんを連れて帰るから・・・。」

慰めるように薫がデイモンを撫でる。

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