第100話 ブラシ形のハゲ
「どうしたの?何かあったの?」
まだサンルームの中の様子を知らないダイアナが呑気だ。
「だだだダイちゃん・・・。」
「・・・・中に何かあるの?」
「べべべべ別に・・・何にもないのじゃあ(震え声)」
そのままスルーできた可能性をカールが自ら潰した。動揺し過ぎてクールに振舞えなかったことが敗因だ。
「カール、そこを退いて。」
「だだだダイちゃん、儂とあっちで茶を飲もう!ね?ね?」
「退いて。」
グイっと押しのけられた。
「・・・・。」 ←汗だらだらのカール。
「まあまあまあ!なんて良い子なの!」
・・・・・ぶっすー。
逃げようとしたが無駄だった。
超不貞腐れた顔つきのカールフェンリルがデイモンの隣でお座りする。
足元を崩し、ふてくされた感情を表現している。
「ダイアナさん!まずはタッチとマッサージなんだぜ!」
「優しくなでなでしてあげてね!」
「じいじがリラックスするまでブラシはなしですよ!」
ジジ&マリーとエマが楽しそうにアドバイスする。
—————— ええ、めんどくさ・・・。
「ダイアナさん、いきなりブラシされると、とっても痛いの。」
「じいちゃんに優しくしてあげてほしいんだぜ~。」
—————— エマちゃんが見てるわ。仕方ないわね・・・。
なでなで。なでなで。なでなで。
—————— こんなものね、さて。
ダイアナがブラシを取る。
「まだですよ、ダイちゃん!じいじが眠くなるまで、なでなでしないと!」
—————— ええ、めんどくさ・・・。
エマたちのアドバイスをスルーしようとしたらエマとジジ&マリーが泣きそうになった。
なでなで。なでなで。なでなで。めんどくさー。
なでなで。なでなで。なでなで。めんどくさー。
なでなで。なでなで。なでなで。めんどくさー。
「ダイアナさん、そろそろいいんじゃないかしら?」
「まずは表面を優しくなんだぜ!」
カールが不良お座りからゴロンになり、目を細めていた。
「ダイちゃん、このミストをどうぞ。まずは背中からです、シュっとして表面だけ優しくブラシをして、段々深くブラシすると痛くないみたいです。」
—————— ええ、めんどくさ・・・。
「どうぞ!」
エマが期待する顔で見つめてくる。
シュッ!ガリガリガリ!
「ぐっ!うううー。」
いきなり強めにいったらカールが苦しそうに呻いた。
「あ!」
「ああっ!」
「じいじ!」
ジジ&マリーとエマが優しくしてね!と、お願いしてくる。
—————— やりづらあ・・・。
エマ特製のミストをシュっとしてはブラッシ、ブラッシ、・・・シュっとしてはブラッシ、ブラッシ。エマたちのアドバイス通りにブラッシングを進める。
隣のデイモンはすでに全身が艶々のフサフサだ。
ちらりとカールを見るとカールも舌チョロさせて幸せそうだ。
しかし終わらない。
ダブルコートの巨大なモフモフだし、ブラッシングを始める前のマッサージに時間をとられ疲れた。
早く終わらせたいが、このペースではまだまだ終わらない。カールを見ると舌チョロでうっとりしている。
—————— 大丈夫そうね。お腹はさっと終わらせましょう。
ガリ!グイッ!バリッ!
「ギャン!」
ドカッ!
カールの足がダイアナの顔面にめり込んだ。
お腹の毛皮をほぐさずに思いっきりいったことが原因だ。
「ダイアナさん!」
「じいちゃん!」
「ヒール!」
エマがダイアナの顔面に治癒魔法を掛ける。
「ちょっとカール!」
涙目のダイアナがカールを睨む。
「おじいさま!」
「ヒール!エクストラヒール!じいじ!」
カールに怒るダイアナを無視し、ダモエマとジジ&マリーがカールに寄り添う。
ごっそりと腹毛を抜かれ、ピクピクと痙攣していたカールの呼吸が安定してきた。
「おじいさま・・。」
「じいじ、痛みはありますか?」
「・・・もう大丈夫じゃあ・・・・。」
お腹にブラシ形のハゲを作ったカールが大丈夫と答えるが、ダモエマとジジ&マリーは心配そうだ。
「あ、あの・・カール・・・。」
「ダイちゃん、ごめんね。ダイちゃんを蹴ってしまったのじゃあ・・・わし・・・わしっ・・・・。」
偶然とはいえ、はじめてダイアナに暴力?をふるってしまったカールが自分の行動にショックを受けていた。
「ダイちゃん、まだ痛いですか?」
「いいの、私は大丈夫よ。ありがとうエマちゃん。」
心配顔のエマに答える。
「ごめんなさいカール、私が悪かったの。ごめんなさい・・・。」
ダイアナの目にも涙。
「!」
ダイアナの涙に焦るカールフェンリル。
ペロペロペロ!
焦って起き上がりダイアナの涙を舐めとる愛犬・・・ではなくカールフェンリル。
カールのお腹ハゲ事件から当分の間、ダイアナのブラッシングが優しく丁寧になった。(しかし段々と雑に戻った・・。)