2日目⑥M
よろしくお願いします。
今回、美来サイド・Mです。
今日も陽くんが帰ってすこししてから、タマさんは迎えに来てくれた。
「あ、タマさん!今日も遅かったね。」
「まあね。ほら、はよ来よ。」
タマさんと一緒に城へと向かった。
タマさんに今日も歌を教えてもらう。書くものがないから口頭でしかない。
言葉が少し古いから歌詞の理解が難しい。でも、タマさんに歌を教えてもらえる時間は私にとって大好きな時間だ。
「慈しみの心は満ち満ちて…」
のびのびとしたタマさんの声はとてもきれいだった。
「ねえねえ、タマさんはこの歌を熱心に教えてくれるけれど、思い入れのある歌なの?」
そうやなあ、と少しタマさんは悩んでいた。
「どうやろうなあ。習い事やったから。」
今の子で言うピアノを習わされるみたいなものだろうか。
いずれにせよ、歌に対して少し冷めていたことは意外だった。
でも、習い事をしていたくらいなら、生きていたころはお金持ちな方だったのかな。
そんな風に考えていた所で、そう言えばと思い出す。
「ねえ、タマさん。実は今日ね、ここにお宝があるって噂を聞いたんだけれどタマさんは何か知ってる?」
私に現世への興味を持たせないために教えてくれないかもしれない。
でも陽くんと約束したし、これは私の未練ではないんだし…、そのような気持からタマさんに聞きたかった。
ただ、タマさんは返答すらしてくれない。
「タマさん?教えてくれない…かな?」
聞こえていなかったのかな。何も反応しないタマさんにもう一度聞いてみる。
「それ、どこで知ったん?」
「…へっ?」
いつの間にかこちらを振り向いたタマさんが、少し冷たい気がした。
「その、今日も来てくれた男の子に言われたんだけれど、えっと、その人もよく知ってるわけじゃなかったみたいだから。あの、ごめんなさい。」
びっくりした。
いつも私にやさしい、私を甘やかしてくれているタマさんとは思えなかった。
「そうなんや。驚かしたんやったらごめんね。やけど、うちもそれをよく知ってるわけではないわ。
ただ、気をつけよな。そういう噂を信じて宝を探しに来た人がきっかけで住処を追われる者たちもおったんやから。」
財宝話というのは噂であっても、噂だからこそ危険らしかった。
噂が原因で人が集まる。
霊たちは住処を荒らされるために防衛する。
それを心霊現象として人々は騒ぐ。
霊を祓うための者たちが集まり、住処を追われたり祓われる。
このようなことも起こりうるらしい。
「私達って、祓われたらどうなるの?」
「ちゃんとは知らんなあ。美来やって、死んだらどうなるかは死ぬまでわからんかったやろ?」
確かにそうだ。天国や地獄があるのかすら、いまだにわからない。いずれにせよ、霊にとって祓われるのは人間にとって殺されるようなものじゃないか。
だからこそ避けたい道には違いないとも思う。
「今度会ったら否定しときよ。ほんとにあるかが問題なんやなくて、この山に住んでる者たちを守るために、何もないふりをせんといけんのよ。幽霊も、なんもね。」
「うん、わかったよ。」
陽くんには悪いけど、タマさんも知らなかったって言って、これは終わりにしてもらおう。
そこで、タマさんを改めて見る。
「あれ?タマさんの目って意外と色素が少ないんだね。」
茶色の瞳が、私を映していた。
◇ ◆ ◇
タマは美来が寝た後にまた移動を始める。
城の奥まで行けば、大きな水晶があった。
「どこから知ったんやろ。」
宝と呼べるようなものはもうこれしかない。
長い年月で城はボロボロになり、価値が出そうなものはこれくらいだ。
「宝、ねえ。」
ただ山で長い時を過ごすタマにとって、タカラなどどうでもいい事。
昔はたくさんの人の家があった城下を見る。
「今日は何があったんやろ。」
美来は今日も楽しそうだった。歌を歌い、美来を訪ねる男を待ち、話す。
一方タマにとっても、今日は不思議と心躍る日だった。
昨日は美来とともにいた男を警戒して遅めに迎えになったが、今日はずいぶんと機嫌がよかったからこそ迎えが遅くなってしまっただけだ。
「---捧げませう。ふふ。」
歌が楽しい。そう思ったのは、いつからだったか。
昔は習い事として、必須事項でしかなかった。義務感で歌わなければならないもので、歌うということに反発心を感じたことも少なくない。
今は歌は歌でしかない。それだけで心が軽やかになり、習い事という義務から趣味という毎日を彩るものへとなる。さらに、美来が楽しく歌う姿を見れば、一層こちらも楽しくなった。
「なんかしらんけど、最近少しずつ楽しくなっちょるな。」
つまらない毎日のために、美来の成仏を引き留めていた。
「美来も、成仏できるかもな。」
「そしてうちだけになるんや。」
いい加減彼女の成仏を手伝わないことをやめてしまおうか。
大きな水晶は、そんな彼女を映すことはなく、ただそこにあった。
◇ ◆ ◇
某所にて。
「本日は心配いたしました。主様。」
男の声は言葉とは裏腹に、淡々としたものだった。
「必要はない。たいそう弱い者どもだった。」
こちらの者も淡々とした物言いだが、温かみを感じるものだ。
「そうですね、あれでは一般人。警戒しておりましたが、我々はより自由に動いても問題ないでしょう。」
男は自慢げな表情で頷く。
「さすがは主様!」
「お強いですね、我々も安心できまする。」
「主様、万歳!!」
主様と呼ばれる者は、小さくうなずいてからそばの男を手招きした。
そして小さく耳打ちする。
「石守を訪ねなさい。我々の元へと来ずとも、こちらの文を渡すように。」
男は文を受け取った後、細くも丁寧な文字で書かれたそれを手に退出した。
ありがとうございました。
遅くなり申し訳ございません。また…、忘れておりました…。
22時を過ぎていたら念を送ってください…。