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俺とあいつの秘密の七日間  作者: シソ熊
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2日目③

よろしくお願いします。


最近、花粉がなくなってきてうれしいです。

先月はよく、なんで泣いてるの!?と言われたものだった。

「何なんだ、あいつら…。」

俺はさっき見たものを信じられずにいながら山を登り進める。


「あ、約束守ってくれたんだ!」

俺が昨日と同じ場所に行けば、美来がいた。


「まあ、やることもねえからな。」

そう言えば美来はふふっと笑った。


「どうしたんだ?」

「そんなつもりないんだろうけど、言い方がまるでツンデレだよ。」

悪戯っぽい顔を浮かべる美来に対してバツが悪くなるのを感じながら、「そんなわけないだろ。」と言った。



そういえば、と思い出す。

昨日雅さんがこの山にはお宝があると言っていた。

せっかくだしと聞いてみることにする。


「なあ、この山にある城に宝があるーって聞いたんだけど、美来さん何か知ってる?」

別に欲しいというわけではないが、お宝という響きはワクワクさせられる。

それに、一度は見てみたいという願望もあった。


「宝…?知らないよ。城にだって、奥までは行かないんだ、私は。」

首をかしげながら言う美来。申し訳なさそうだが、もともと、出所が雅さんだし、きっと噂の範疇でしかないので、罪悪感を感じる必要はない。


その旨を伝えようとすると、美来が何かひらめいたようだった。

「そうだ!タマさんに聞いてみるよ!」

「タマさん…、ああ、昨日言ってた人か。」


タマさんについて詳しく知らないが、悪い人ではないのだろう。

聞くのが楽しみだとにこにこ笑っていた美来だったが、急に表情を暗くする。


「あ…、でも、教えてくれないかも。」

「そうなのか?」


昨日わずかに聞いただけではあるが、タマさんという人は、なかなか親切そうなイメージだった。

宝が悪いものだったら確かに教えないかもしれない。しかし、聞く前からそのように判断するぐらいだ。

何かほかに理由があるように感じた。


「私、あと、えっと…。なんでもないや。」


言いにくそうな表情だった。



聞いてもいいのだろうか。


会って二日目で問いただすのはどうなんだとも思う。

しかし、幽霊にもかかわらず明るい美来が暗い表情であること。そして、それがきっとタマさんでなく美来自身に原因があるであろうこと。

だから聞きたいとも思う。

聞かなければ、美来の中には、彼女が暗くなる原因は根付いたままだろう。


なぜ、美来にここまで思うかは考えようとは思わない。もしかしたら、幼馴染から新たに仲良い対象を作りたいのかもしれない。

クラスメイトの俊や幽霊の美来を代わりにしようと思っているのか。



そのように考えそうになってしまったからこそ、思考を振り払い、話を戻した。


「聞かせてよ。」

それ以上に何を言えばいいかわからなかった。

自分はずいぶんとコミュ障らしい。


「私、あと六日で四十九日なの…。」

死後がどうなのかはわからない。

だからたぶん、俺が今、衝撃を受けているのは、美来の重い表情からだ。


「四十九日を迎えるまでに成仏するのが一般的。

それができなきゃ、地縛霊とかになっちゃうかもだし…。


成仏は未練をなくしてできるもの。でも、私、自分の未練がわからない。」


涙をぽろぽろとこぼし始めた。


思わず手を伸ばすが、美来に触れることは叶わない。

本来、霊感のない俺が美来を見れることだけですごいんだ。それなら、そこから美来に触れることまでできたら、俺に霊感はあったはずだ。


俺の戸惑う手が、美来の涙を止めさせてしまったらしい。

無理ある笑顔を浮かべる美来は、少しずつ涙を引かせていく。


「まあ、このまま幽霊でもいいかなって思ってるんだ!だって、幽霊ってすっごい自由だし。日がな一日、歌を歌ってのんびり過ごして。たまに、私としゃべれる人とお話しできれば十分だよ!

ほら、成仏したらどうなるかわからないから不安だし!」


だからとても、俺は美来にむかついた。


「なんでだよ…。」


「へっ?」


慰めの言葉を見つけることができない俺を責めるでもなく、無理した表情はまるで悲劇のヒロインだ。

美来はある意味、確かに悲劇のヒロインかもしれない。

しかし、見てて気分のいいものではない。


「なんでそんなに、明るくいようとすんだよ!」


「だって、楽しくいたいじゃない…?」


小さい声は、わずかに俺に反論しようとしているようで、その実、美来自身の負の思いを知らず知らずのうちに認めているようだった。


「自由な幽霊さんのわりに、てめえの心情は自由じゃねえのかよ?」

最悪だ。


なぜ、出会って二日目の、死んでしまい、俺以外にはタマさんしか頼る人がいない同い年の少女を責めているのだろうか。


やっぱり聞かない方がよかったのかもしれない。



「私さ、意外かもしれないけれど、基本的に割り切るタイプなんだ。


私が死んじゃったことはもう戻らない仕方がない事。なのに、死に関連することで今の気持ちが嫌な気分に引っ張られたらもったいないでしょ。


だから、明るくいたいって思うよ。」


美来の目が俺の目を捉える。


「ねえ、私を幽霊だって思っているよね。」

当然だ。美来は幽霊だ。


「その通りだよ、私は幽霊。でも、前は生きてる人間だったし、今も人間の幽霊というだけで、私はずっと人間だよ。」

ぐしゃぐしゃの美来の顔が、俺の頭は真っ白になるしかない。


「私は幽霊として生きなきゃいけないわけじゃない。人間として、明るく楽しくありたいんだ、成仏できるその日まで!」


だからこそ、真っ白になってしまった頭に、美来の言葉はすっと入ってきた。

いつもの笑顔に戻った美来に、幽霊であるのに明るい疑問でなく、相手が楽しそうなことへの安心を感じた。


「あ、そういえばさ!」

パンッと美来は手を叩いた。


「陽くん、ポケベルっていつのか知ってる?」


重い空気を完全に払拭するためかもしれないが、あまりにも話の内容が変わったことについていけず、戸惑うしかない。

それを美来は察知して、美来は恥ずかしそうな表情をした。


「あ、ああごめんね。実はね、昨日タマさんと陽くんに会ったことを話したんだけれど、タマさんが最後に人と話した時は、その人はポケベルを使ってたんだって。それで、ポケベルっていつのだったかなって気になっちゃって。」


昨日タマと話したことについて大雑把にまとめた内容を聞いた合点がいった。しかし、生憎俺自身も知らなかったため、インターネットで調べると告げた。


「あ、さすがに山じゃあネットは繋がんねえか。」


残念ながら動かなかった。


「明日、調べたのを教えてやるよ。それでもいいか?」

今から山を下りて調べてから再び山を登ってくるという方法もあるが、さすがに面倒だった。


「あっ…。ふふ、うん!」

少し間抜けな顔をしてから笑う。


「陽くん、約束ね!」

そう言って、美来は手を出し掛け、ひっこめた。


だから俺は

「ああ、破ったら針千本飲んでやるさ。」

そう言って、にやりと笑って見せた。




ありがとうございました。

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