1日目③M
よろしくお願いします。
しばらくはこのくらいの時間帯に投稿することになりそうです。
いい加減、積みゲーを進めたいな…。
「ほら、暗くなったんやし、そろそろ帰ってき。」
陽くんが帰った後、茂みの中からタマさんが出てきた。
今日は迎えが遅かったな。
私は安田未来。元・高校一年生。交通事故によって幽霊少女になって、今はある山に住み着いている。
「タマさんありがとう。でも、今日は遅かったね。今日は、生きている人が来たんだよ。いい人だったから、タマさんもおしゃべりできればよかったのにね。」
私はそんなことをいいながら、タマさんの元まで走り?滑り?寄った。タマさんは私の頭をなでてくれて、その後、一緒に城の跡地まで行く。別に私は寝る必要があるわけでもないから、どこにいようが構わないんだけれど、夜はタマさんと過ごすのが当たり前になりつつあるから、別にいいかなって思ってる。
「そうなん、楽しかったみたいやし、良かったなあ。」
わずかに微笑んでいるタマさんなんだけれど、その表情には硬さがあった。
でも、私はそれをあえて無視する。
「うん!それにね、明日も来てくれるって言っていたの。良ければタマさんも一緒におしゃべりする?」
「いや、うちはいいわ。」
タマさんからバッサリと拒絶を受けた。どうやら、今日は無視をさせてくれないみたいだ。
「それより美来、後7日で四十九日迎えるんで、あんた。さっさと死者の国に行かな。四十九日迎えれば、次の生を得られるんやし。逆を言えば、そんな未練がましく現世にとどまっとったら、いつまでも死者のまんまなんよ?」
そうなのだ。私には、時間がない。今日を含めて、あと7日で私は四十九日を迎える。タマさんも、四十九日を超えてから死者の国に行った場合はどうなるかわからないらしい。だからこそ、私がきちんと"来世"を得られるように、心配してくれている。
「あはは、私はタマさんみたいに、ずっと現世にいよっかな。」
それをタマさんが望んでないことはわかっているよ。
でも、どうすれば死者の国に行けるかわからない。そもそも、皆が経験することなんだから、必須科目で授業をするべきなんだ。タマさんも知らないだろう。幽霊とは何かとか、私たちを強制的に除霊する力を持った人間がいること、それに歌。タマさんはいろんなことを教えてくれたけれど、死者の国への行き方は、その中になかった。
死んだらどうなるかは、生きてる間わからなかった。今は、四十九日を過ぎちゃったらどうなるかわからない。地縛霊にでもなるのかな。
“わからない”は怖いけど、それとおんなじくらい、他にも怖いことがあるから。
「もう…、アホな子がおるわ。」
呆れた表情で、でも、仕方がない子とでもいうように、また私の頭をなでてくれた。
「ほんで?どんな話したん?」
「えっとねー、スマホの無料ゲームの話でね?」
「またスマホ!うちが前、人と話せたときにはポケベルとか言いよったんに!」
「数字で暗号送るんだっけ?それ、もうすっごく前の話だよ!」
たまに、それこそ陽くんみたいな人がいるらしい。幽霊に友好的で、おしゃべりができる人。そういう人とまれにあったとき、タマさんはおしゃべりして、今の時代について教えてもらっているんだとか。
ていうか、ポケベルって何年前のものだっけ。明日、陽くんが来たら聞いてみよう。
「陽くん…、来てくれるかな。」
「ん?どうしたん。」
「なんでもないよ!」
私が現世にとどまることに難色を示すタマさんだ。陽くんに私が興味を示せばいい顔をしないだろう。
だから私は黙っておくことにした。
ところで、私は幽霊で、睡眠は娯楽みたいなものなんだけれど、幽霊になって日が浅いからか、意外と寝ている。今日も、タマさんとのおしゃべりを、眠くなるまで続けた。
◇ ◆ ◇
タマは喋り続けていた相手の目がとろんとして、とうとう寝てしまったことを確かめる。美来をなでてから、そっと離れた。
長い時を感じる。タマが人であったころの時代は着物を着ていたが、先ほどまで隣にいた少女は洋服というものを着ている。遠方の人とも、文でのやりとりではなくなり、"あぷり"というものを使えば一瞬なのだから。
「どれだけ時間が過ぎたんやろ。うちはいつまで…」
タマにとって、美来というのは大切な存在だ。
タマや美来と話せる人間は二種類に分けることができる。
片方は、何の力もなく、ただ話せる無害な者。
もう片方は、祓う力を持つ者。
いずれにせよ、滅多にいないし、人間の生は短いもの。
話せる人を見付けたと思えば死んでゆき、そして死者の国へ行ってしまう。
昔、ポケベルとやらを教えてくれた青年だって、すぐに会わなくなってしまったのだし。
「にしても、懐かれたなあ。」
ある日、まるで何かに惹かれでもしたかのように、美来はタマの元へやってきた。
自分が死者であることを受け入れてはいたそうだが、同時にどうすればいいのかわからないようである彼女に様々なことを教えた。
「———この身、この祈りを捧げませう。」
タマが美来に教えた歌を口ずさみながら、城跡地を進んでいく。
「ふふふ、美来はまだへたくそやからなあ。」
美来の綺麗な歌声と、歌詞をよくわかっていないために起こるぎこちなさがあまりにも合っていないことを思い出し、タマは思わず笑ってしまった。
「まあ、口頭で教えただけやし、仕方ないんやけど。」
この城には、筆も墨もないのだし。
最近は、"しゃーぺん"なるものができたらしいが、ずいぶん頼りなさそうなものだった。たった一本の棒で、墨も使わず文字を書くなど、どのようなカラクリなのだろうか。
「歌、しっかり歌えるようになってほしいなあ。」
まだ、自分が生きていたころ、死んでしまう前はよく歌っていたものだった。
城の一番奥地までたどり着いた。
タマが美来に教えていないことは、案外たくさんある。
城の中に入らせたことがないのが、最たる例だ。
四十九日できちんと死者の国へ行くためにも、過剰に現世に興味を持ってほしくない。
そのような想いゆえ。
しかし、
「ずっと、現世に…なあ。」
美来がいてくれることは喜ばしい。
だから、死者の国に行くには、未練を解消する必要がある。
にも拘わらず、タマは美来の未練を見つけて解消しようとはしていない。
自分がしている矛盾に目を背ける。
他にも、タマが美来に教えていないことはたくさんあるのだが…、きっと教える日は来ないのだろう。
ザリッと小さな音を立てて、タマは座り込んだ。
「ほんと、汚く穢れてるわあ…。」
そんなタマの小さい呟きを拾うモノはどこにもいなかった。
ありがとうございました。