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俺とあいつの秘密の七日間  作者: シソ熊
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3日目⑤

よろしくお願いします。

タマさんから聞けた宝の話というのは単純に興味がわく。

そもそも、宝という言葉自体、ワクワクさせられるものではないか。



「あ、でもね、陽くんには申し訳ないんだけど、タマさんも分からなかったみたい。」

「ああ、別にいいよ。興味本位だし。」


むしろ、わざわざ聞いてくれただけで俺は感謝すべきだし、ましてやタマさんが知らないことも美来が宝の情報を得られなかったことも二人に責任はないのだ。


「そう?本当にごめんね。」

それでも、美来は眉を下げていた。

こういう時どうすればいいのか俺は知らない。


「いや、聞いた理由も大したことねえし。ほら、宝って響きだけでワクワクすんじゃん?そんだけだから。」


「ああ、確かに、それはちょっとわかるかも。」

漫画では、何かしらの宝を集めることや探すことはテンプレだ。

それも、宝っていうのにロマンがあるからだと思う。


「ガキの頃とかさ、めっちゃ下らねえもん宝にしてなかった?」

「うんうん!かわいいピンとかシールとか。あと、使った後のチケットとかも缶に入れて、宝箱だ―って言ってたよ。」

「チケット?」

女の子はピンとかシールなのか。

俺はセミの抜け殻が入っていた。いったいどうするつもりだったか知らないが、昔はとっておきたかったんだからしようがない。


「うん、歌のコンサートの。私が、歌を好きになったのもそれがきっかけなの。

お母さんに無理やり連れていかれたんだけど、それがすっごく素敵で!私もこんな風に歌えたらって憧れちゃったんだ。」


「ああ、わかる。憧れるとやってみたくなんだよな。」

そうそう、と頷いていた。


高校生になると、今からではきっとできないだろうという諦念が先に来る。でも、幼稚園だったり小学生の頃は、いい意味で現実を知らなかった。今から始めれば何でもできる気がしたのだ。


「なんか、現実知っちまったから、ここまでなりたいーとは今更思わねえけど、いろいろやってみたいとは思うかも。」

プロになりたいとは思わねえけど、フルマラソンに出てみたいとか、大食いチャレンジしてみたいとか、そのくらいのことはやってみたいかもしれない。


「そっか、私は…。私は、歌のコンテストに出たかったな。」

「歌の、コンテスト…。」

そもそも、存在を知らないけれど、それ以上にやりたいことがあったのかと驚いた。


いや、当たり前かもしれない。ゲームをしたいとかマンガ読みたいとか、何かやりたいっていうのは大抵あるはずだ。


しかし、美来はまるで、山の上でめいいっぱい楽しんでいるように俺には見えていた。山の上でのんびり暮らす生活に満足していると思っていた。だから、美来にもやりたいことがあったという事実を見れなかったんだろう。


「コンテストに出たかったのか?」

「うん、みんなの前で歌いたかったなって。ううん、それだけじゃない。クラスの合唱コンクールだって練習はしたけれど、本番は迎えないまま死んじゃったし、友達と約束したちょっと高いパンケーキだって食べに行けなかった。」

まるで、水がコップからあふれるように、美来の"本当はやりたかったこと"が飛び出してくる。

しかし、例えば宇宙飛行士になるとかみたいに、実現不可能な物はない。

生きていれば可能なことばかりだった。


未練がわからないから成仏できないと、以前美来は言っていた。


「やりたかったこと、あったんだな。」

これだけでは、まるでひどく、相手を考慮しない言い方だ。


美来の目にも涙はたまっていた。

「当り前じゃない!私だって…、私だってもっと生きて…、生きていろんな事やりたかったよ!!」


死んでしまったことは割り切っていると、以前美来は言っていた。

「もっと、生きたかったのか。」

「死にたい人間なんて、いるわけないじゃない!生きたかった…、生きたかったよ。」


美来の言葉は少しずつ小さくなっていく。

「私、死んじゃったこと、認めれてなかったんだ…。」


人間は生き返ることなんてできない。


「死んじゃって、もう生きていろんなことをできない…。そんな事実を、私、見たくなかったのかもしれない。

それで、私、死んだことを割り切ったふりをして、平気なふりをしていただけなのかな。」


涙はとうとう、美来の頬を伝い、落ちていく。

しかし、その涙が山の草を濡らすことはなく、美来はただ浮いているだけ。俺にも、山にも、何にも干渉できない。

美来の涙をぬぐえないと知ってるから、俺は手を伸ばさなかった。


何もできないのに、手を伸ばしていったい何になるんだろう。

俺はもう、現実を知ってしまったのだ。幼稚園や小学生の時の全能感なんぞ、もうどこにもない。


「平気なふりが、多分、今までのお前を守ったんだよ。


死んで、ただ一人なんだ。自分で自分の気持ちを守ろうとして当然だろ。やっぱ、お前、すごいよ。美来。」

「へ…?」

急に美来の顔が赤くなる。


「あ?どうした?」

「あ、いや、ごめんなさい!急に、呼び捨てで驚いただけ!」


…俺はここで毎日やらかしていないだろうか。


「あ、わり…。」

「いやいや、全然悪くないよ!そもそも、最初に私、自分のことを美来って呼んでいいって言ってるもん!」


呼び捨てはハードルが高かったものの心の中では紹介された通り美来と呼んでいたせいで、さん付けしないままポロッと出てきてしまった。


そもそも、穂乃香や優弥、俊など、俺は周囲の人を大抵呼び捨てで呼んでいるからというのもある。


「周りのやつら、たいてい呼び捨てで呼んでるから、その癖が出ちまった。」

「あ、ああ、あああ、うん。そうなんだね。うん、まあ、それならこれからは呼び捨てで呼んでよ。」

「ああ。わかった。」


俺のやらかしによる心情は散々だが、重い空気が払しょくされた。

美来自身も泣いた跡があるくらいだった。


「なあ、あんた、何したん?」

だから、急に低い声でそう言われたことに心底驚く。


「美来をなんで泣かせたんって、聞いとんのやけど。」

いつの間にか、俺たちがいつも会う広場、そこに新たな女性がいたのだ。



ありがとうございました。


幼稚園くらいに戻りたい…。ブランコで遊んでも白い目を向けられなかったあの頃に。


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