3日目③
よろしくお願いします。
「おい陽、優弥君が教えてくれねえんだけど!」
「ああ、天然だからな。仕方ない。」
ギャップ萌えについての優弥と俊の話が終わったらしかった。
自分で振っておいてなんだが、優弥は計算でうさぎの可愛らしいスタンプを使っているわけでもなければ、わざと普段はひょろくみせて、体育だけ強くなってるわけではない。
それに、俊はいろいろと自分の性格などがバレすぎていて、ギャップ萌えは今更無理だろ。
穂乃香がスマホを見ていたが顔を上げた。
「じゃあ、話も終わったところで、そろそろ失礼するね。」
「それじゃあ。」
穂乃香と優弥が教室を出ていった。
「ほんとによかったな、陽。中学の時みたいになんのかと思った。」
二人が見えなくなったタイミングで俊は俺にそう言った。
「あの時は、正反対で俺をあいつらが避けてたからな。」
俺と幼馴染は幼稚園からの付き合いだ。
しかし、中学に入ってからあいつらはなぜか俺を避けだした。
「まあ、ある意味そのおかげで俺たちしゃべるようになったのかもだけど。」
俊の言葉にうなずいた。
中学二年の時、幼馴染はまだ俺を避けていた。そのとき、同クラスになったこいつは俺に話しかけてくれたのだ。俺が幼馴染と仲が良いままだったら、俊とここまで仲良くなろうとはしなかったかもしれない。
「いずれにしても、教室ではこの話止めようぜ。変な空気になりそ。」
こういう思い出話は恥ずかしいものなのだ。せめて二人の時に話してほしい。というか、別に話さなくていいと思う。別れの時かよ。
「ごめんごめん、でも俺は陽ちゃんが陽だからっていうだけじゃなくて…。いいや。あんまり避けてやるなよ。」
「俺をちゃん付けするお前を避けてえわ。」
「わああ、ごめんごめん!やめてえ!俺、生きていけなああい!」
くしゃっとした俊の顔を無視する。女々しいかよ。お前は本当にモテたいのか?頼りがいがないんだけど。
話しながら弁当箱を片付けてると、箸が一膳余った。
「あれ?これ優弥君のじゃね?」
「だろうな。」
シンプルなデザインのものだった。穂乃香はもう少しかわいいデザインのものも持ってくるはずだ。
「俺、届けてくるわ。」
「ほーい。」
俊の返事を聞いてから箸を掴んで教室を出た。
◇ ◆ ◇
「あ、しまった…。」
優弥が声を上げる。
「ごめん、穂乃香。陽のクラスに箸を忘れたみたいだ。」
優弥は弁当袋を持ち上げて見せた。
「そっか、じゃあ先に行ってるね。」
穂乃香は教室に戻っていき、優弥は引き返した。
「あ、陽。」
ちょうど陽が教室を出たタイミングで会う。
教室前は邪魔ということで、三組と4組の間にある階段のところまで移動した。
「優弥が忘れるなんて珍しいな。」
「片付けはバタバタしてたからね。」
優弥が箸を袋に片しているところで、そういえばと思い出す。
「あのさ、朝言ってた料理で腕のをやっちまったってのは結局ウソなわけ?」
優弥は俺に対して、腕の大けがは料理のせいだと言っていた。
「うん、ウソだよ。だけど、本当の怪我の理由は話せない。」
「秘密なんだな、それだけ分かればいい。」
秘密として隠されるだけでなく、秘密をごまかすためにウソをつかれてしまっては信じていいものが分からなくなってしまう。
「…陽には、僕たちへの秘密はある?」
ドキリと胸が大きくなった気がした。
どこで美来のことを、いや、そこまででなくても秘密があることを察せられたのだろうか。
「ああ、だけど…。」
言えない。と続けようとした。これは俺と美来だけの秘密だ。約束してしまっている。
「言わないでいい。君の僕たちへの秘密は隠しくれて構わないよ。」
ホッとする。けど、同時に思った。こいつは何が言いたいんだ。
「穂乃香はこうは言わないだろうけど…、もうごまかしたりはしないから、それは秘密かを聞かないでくれ。
あまりにも聞かれたら、秘密を秘密にできなくなりそうだ。」
なるほど、確かにそうだ。
NOということができなければ、秘密かどうかの質問をいくつも重ねていけば、おのずと答えを絞っていけそうだった。
「確かにそうだよな、俺が悪かった。」
今日の俺は聞きたがり過ぎた。
「いいんだ、それじゃあ。」
優弥の返答を聞いてから俺は自分の教室へ帰った。
--ブーッ、ブーッ…
陽が教室に帰ったタイミングで優弥のスマホのバイブが鳴った。
急いで空き教室まで行き、電話をとる。
「遅くなってしまい申し訳ございません。」
優弥は険しい顔で、電話の相手の話を聞いていた。
「はい…、はい…、承知しました。終わり次第、すぐに帰宅いたします。」
電話先が切ったことを確認してから、優弥もスマホの電源を切った。
「やっぱり優弥にも電話が来たんだね。」
優弥が教室に駆け込んだころには、すでに穂乃香はいた。
「うん、お察しのとおりの所からだよ。」
「だろうね。」
穂乃香はそう言ってから椅子に座った。
「せっかく陽と仲直りできてすごくうれしかったのに。タイミング悪すぎだよ…。」
「まあ、わかってたことじゃないか。」
「今、そういうガチレスいらないの。」
優弥のガチレスを穂乃香がばっさり切り捨てる。
「そういえば、箸は取りに行けた?」
しかし、そこまで怒ってるわけでもなかったようで、穂乃香は優弥に軽く聞いてきた。
「ああ、大丈夫だったよ。あと、陽に聞いたんだ。」
ピクリと穂乃香が反応する。
「何を…?」
幾分か気温が下がった気がした。
「陽には秘密があるかだよ。」
「先に聞いてあげる、陽は何て答えた?」
穂乃香の怒気を優弥は軽く流していた。
「秘密はあるって。でも、その秘密が何かは聞いていない。」
優弥の返答に穂乃香は鼻で笑っていた。
「でしょうね。ねえ、秘密を明かされたらどうするつもりだったの。」
「それはたらればじゃないか。穂乃香の言っていることはすべてたらればだ。」
劣勢を悟ったのか、穂乃香が優弥から視線を外した。
「それより、電話のことを考えよっか。」
「ああ、そうだね。」
優弥は特にとがめることはなかった。
ありがとうございました。
【悲報】番外編として入れたかったエピソードが、第二部が終わらなければ書けないことに気づく。
気が向けば、代わりエピソードを3日目終了後にでも入れるかも…。いや、完結してからがいいかしら…。