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俺とあいつの秘密の七日間  作者: シソ熊
10/16

3日目①

よろしくお願いします。

遅い時間に申し訳ないです…。

「はよ。」

母さんに挨拶をしてから、急いで準備をする。


約束の時間まで余裕で時間はあるのだが遅れてしまったでは、どこぞの穂乃香様になんていわれるかわかったもんじゃない。


「急いでるわねえ。ふふ。お弁当忘れちゃだめよ。」

今日も今日とて、母さんは見透かしたように笑っていた。


「ああ、あんがと。」

「あらあら。行ってらっしゃい。」


今日の小さな決心に浮かれていたせいか、柄にもない礼を言ってしまった。

母さんは一瞬驚いていたものの、その後はいつも通りに声を掛けてくれたのが助かった。これが俊とかだったら「そんなあ。急にデレちゃってえ!」とでも言いそうだ。


「もういたのかよ。わり。」

約束のY字路へと行けば穂乃香と優弥はもういた。


「いいよいいよ。時間に自信がなくて早めに来ていただけだから。おはよ、陽!」

「はよ、穂乃香。」

確かに、昨日と同じ時間と言われても細かい時間に対しては自信は持てない。早めに来ておくものだろう。

つい、昨日はほかの気持ちが先行していて、約束自体は適当なものをしてしまったが時間指定をした方がかえって良かったかもしれない。


「おはよう、陽。時間もそこまでは余裕ないし行こうか。」

「まじわりい、俺が遅かったな。はよ、優弥。」

優弥がそう言ったところで、俺たちは歩き始めた。


決心のことばかり考えて、うまい話題が思いつかない。

しかし、ここで急に今まで無視して悪かったと謝るのもいいのだろうか。


いや、これは俺が一歩踏み出せないことへの言い訳かもしれない。


「あ、陽。今日も一緒にお昼をしても大丈夫かな?」

穂乃香が話題を提供してくれたことに感謝だった。


「ああ、だけど、俊が来たら断らねえからな。」

幼馴染とまた、少しうまくいくようになったからと言って、俊のことはもういいというクズみたいなことはしたくない。


もしかしたら気を使ってこないかもしれないが、それ以上に、俺に気を回してきてくれるんだろうとも思ってしまう。

俺があいつに何かしてやったわけでもないのに、あいつは俺と幼馴染を気にかけて、俺のフォローをしようとしてくれるのだ。

…それ以上に、女の子たちを追いかけていなくなるが。まあ。


「もちろん、彼と陽子さんの仲に割って入ろうとは思わないよ。」

「いいよー。いつもは田中君と食べてるんでしょ?私達と食べるために断らせるのも悪いもん。」

ならいいや、と頷く。



言うなら今だろうか。

昼休みに教室で言うのも言いにくい。

放課後は美来との約束がある。

それならば必然的に、朝の内に言うしかないのだ。


「あのさ。」

俺の声色が少し硬いことに気づいたのか、二人は俺のほうを向いて、からかいもしなかった。


「悪かった。避けたりとか、してさ。」

謝ることができた。


それは、思っていたより気分が楽になることだった。

だからこそ、謝罪というのは穂乃香や優弥のためでなく俺自身のための行為のように感じる。

いや、事実、そうなのだろう。



「別にいーんだよ!そんなこと!」

穂乃香はあっけからんとそう言って見せた。


ほっと顔が緩んだのがわかる。


「ただ、もし陽が言えるなら、ワケは知りたいかも。」

続く言葉に、また顔がこわばったんだが。



言ってしまっていいのだろうか。秘密があるように感じたと。

だけど、これを言ってどうなるんだ。俺の足は止まってしまった。


秘密があると思ったからだと言えば、その秘密を明かさない限り仲を戻すつもりはないと言っているみたいだ。

美来の言葉を思い出す。


俺は秘密にされたことそのものが嫌だったんじゃない。

「秘密が原因で、俺を置いていくお前たちが嫌だった。」


俺はあほじゃないか。急に言われてもわからないだろ。


「私たちが、陽を置いていく…?」

「秘密が原因で、僕たちが陽を置いていくということ?」


やっぱりこの言い方では伝わらない。しかし、一度言った言葉は戻らない。


「穂乃香も優弥も、なんか俺に隠してるんじゃねえか?


それはいいけどよ、いいんだけどよ。秘密があるのは仕方がねえけど、それは急に俺の前からいなくならねえといけないものなのか。」


俺にだって美来と会っている秘密がある。

全てを明かしあわないといけないとは思わない。

ただ、空かされない秘密がある限り幼馴染、いや、友人関係が成り立たないレベルで急にいなくなられるのは叶わない。


「なあ、お前らはどうなんだよ。」

優弥の腕をガッと掴んだ。


「いつっ!」

「え、あ、どうした?悪い。」


それほど力強くつかんだつもりはなかった。

なにより、優弥は今なお痛がって顔をしかめている。


優弥の手をつかみなおしてから袖をまくった。


「なあ…、このやけどなんだよ?」

腕には大きなやけどが広がっていた。


「料理で…。」

「秘密だよ。」

優弥の言葉を穂乃香はさえぎった。


「ごめんね、陽。確かに、私たちは前、陽を避けていた。今も陽に秘密があるよ。」

「いいのかい、穂乃香。」

落ち着いたらしく、しかめ面が戻った優弥に対して穂乃香はうなずいた。


「そうか、なら僕からも。悪かったよ、陽。昔、避けてしまったこと。僕たちを昔助けてくれたのに、そんな君をないがしろにしたこと。」

「はっ?助けたことなんて…。」

全く身に覚えがなかった。


避けられた覚えならある。中学生のころ、穂乃香と優弥は俺から離れた。

しかし、そこで俺は何もしなかった。あの時はガキだったから、馬鹿みてえにこいつらから離れようとしなかっただけだった。


「助けられたよ、陽は自覚ないかもだけど。」

くすくすと穂乃香は笑っていた。


「でも、そんなようだからこそ、僕たちの秘密は言えない。僕たちの秘密を君に明かしたい、楽になりたい。」

「でも、私たちの秘密は、永遠に秘密であるべきものなの。」

楽になりたくなるような思い秘密で、明かされるべきでない永遠に秘密であるべきもの。


そう言われることは、一見突き放されたように見えて正直に話してくれた喜びがあった。


「それならそれでいんじゃね。」


何も言われないまま離れていくより何倍もいい。


「ありがと、陽。」

穂乃香のほっとした表情を俺と優弥で見てから、「さて。」と優弥はつぶやく。


「あと10分で始業だし走っていかなきゃ間に合わなそうだね。」

「え、わ、ほんとだ!」

ギリ遅刻して怒られるまで、あと12分。


先生に怒られてしまっても、秘密が秘密のままであっても、俺はたぶん幸福だ。


ありがとうございました。


登場人物

松本陽(まつもとよう)

1年4組

進学校に通っており、1,2組が普通科で3~6組が進学科。

口はあまりよくないが、本質的には悪人でないため、ある程度付き合っていれば仲良くなれる。


幼馴染と和解ができた。


田中俊たなかしゅん)

1年4組 バレー部

モテたがりだが、実はファッションなのでは?といううわさがある。

頭は馬鹿だが、意外に鋭い一面あり。


陽に対してよく気を使ってくれている。


加藤優弥(かとうゆうや)

1年3組 帰宅部

陽の幼馴染その1。

苦労症の一面がある。


陽には言えない秘密があるらしい。



遠藤穂乃香えんどうほのか

1年3組 文芸部

陽の幼馴染その2。

小悪魔な一面がある。


陽には永遠に秘密にしたい秘密があるらしい。


安田美来やすだみく

城北高校一年だった幽霊少女。

歌が好きでタマによく教えてもらっている。


天然な一面が垣間見えている。四十九日ももうすぐらしい。


山崎(やまざき)先生

体育教師。

太陽神になれる日を目指している。たぶんなれない。


お調子者の俊はなんだかんだ手伝ってくれるので気に入っている。


みやび

近くの大学の大学生。

薬学部所属で、調合の腕は確かだが、料理は壊滅的。


最近少しだけ料理がうまくなったらしい。


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