1日目①
よろしくお願いします。
生暖かい目で、見守ってくださいまし。
ところで、タグってどんなのつければいいのだろう。
休み時間のうるさい教室。この空気感がわりと好きだ。しかし、昼休みとは限られた時間である。俺は、パンと弁当を一人で食べていた。
「おい、陽。ボッチ飯してねえで、俺も混ぜろよ。」
「はいはい、俊は勝手に食ってろ」
「あいかわらずのツンデレさんめ」
俺は松本陽。高校1年の帰宅部。運動は好きなんだが、一つの競技に没頭するタイプではないため、運動部には入らなかった。今、俺の前の席から勝手に椅子を拝借して食べ始めたのは田中俊。名前の期待とは裏腹にバレー部所属だ。
「お前さあ、最近、あの二人とつるんでねえよな。」
まあ、俺のことが好きだから仕方ないかあ。などふざけたこととともに、俊は言った。
「そうだな、ミジンコサイズの好意はあるわ。それに、あいつらの話すんなよ。」
あいつら…、俺の幼馴染とは最近気まずく、あまり話したくない。男と女、一人ずついるけれど、性別なんて関係なく、昔は仲も良かった。
「えー、だって気になるじゃん?あの二人、ミステリアスだし。」
「お前と正反対にな。」
「やっだー、さすが陽ちゃん!俺のこと知りつくしちゃってぇ。てぇれぇるぅー!」
本当に、俺の幼馴染たちはミステリアスだ。
「ちょ…、陽さんスルーしないでっ。ところでさ…」
俺があいつらから離れたのはそれが理由。二人はいつも、俺に何かを隠していた。
何を隠しているかは知らない。問い詰めたが、俺の考えすぎだ、だとか、過剰に詮索する男は嫌われるよ、など言われた。三人でいるのに、いつも壁を感じて苦しい。だから、俺はあいつらが嫌いだ。
「陽さんや、話聞いてる?」
「聞いてなかった、わりい」
どうやら、思考に没頭して、俊の話を聞いていなかったらしい。
「はあ、俊さん傷ついちゃうわあ。ま、いいんだけど。」
いいのかよ。
「それより、次の時間、体育ジャン?しかも、バレー!活躍して、俊さんまたモテちゃいそう。」
「またモテちゃいそう、つうのは、一度でもモテたことのあるやつが使うもんだ。」
お前は、彼女いない歴=年齢だろうが。そんな意味を込めて、あきれた目をしながら言った。
うるせえ、こっちだって、好きで彼女いない歴=年齢を更新しているわけじゃねえんだ…。と、騒いだり落ち込んだりしているのを、全力で無視する。
教室の注目が少し集まっていて、地味に恥ずかしい。もうコイツと飯を食うのやめるか。そんな、するつもりもないことを、俊のテンションがもとに戻るまで考えていた。
「つうか、3組と合同だっけ?」
「そうそう、陽の幼馴染の男のほうがいるクラスとだよ。」
「ぜってえ、ぶっ潰す。」
だいぶ俺の顔面が怖かったらしい。俊は、顔を青くして、ヒエッとつぶやいた。そんな頼りなさそうだからモテないんだよ。
◇ ◆ ◇
俊が待ち望んでいた体育の授業の時間になった。
「じゃあ、二人組作って、パス練しろー」
体育教師の山崎先生がそう言ってから、俺は俊とペアを組んだ。
「まさか、女の子と別なんてっ」
体育館は、真ん中をネットで区切っており、片面で男子がバレー、もう片面で女子がバスケをしている。グラウンドと体育館で別、というわけではないから、マシだと思うんだが。
「先週、山崎先生が言ってただろ。第一、女子にスパイクでもぶち当てるつもりか。」
んなことしたら、モテるどころか、最低男の称号まっしぐらだ。俊は頼りなさそうな割に、スパイクなどの攻撃が主な、ウイングスパイカーとかいうポジションだから、かなり痛いはずだ。
「…確かに。俺はシンシテキだからな。そんなことできねえや。仕方ねえ、かっこよくスパイク決めて、女の子にこっちを見てもらうしかないな」
「ま、バレー部はスパイクもジャンプサーブも禁止だけどな。」
これもさっき、山崎先生が言ってただろうが。
「山崎先生のいじわるぅ!」
「おい、そんな叫ぶと…」
「そうかそうか、田中。そんなに授業後に先生と片付けがしたいか!いやあ、優しい生徒がいてうれしいなあ!」
「いや、そんなこと言ってな…」
「田中、優しい男ってモテるぞ。」
「ばっちり任せてよ!」
そうやって、山崎先生の口車に安易にのせられるやつがモテるのだろうか、いや、モテるまい。
というか、せめて女子に聞こえてない場所でそういうこと話せよ。「わあ、田中君またやってるーww」とか言われてるぞ。
「はーい、今から、試合しろー。」
山﨑先生の指示とともに、コートに入る。
「陽…。」
かけられた声を無視した。
「陽、無視することないんじゃない?」
「…なんだよ、優弥。」
目の端で、俺の幼馴染、加藤優弥を捉えた。
「特に用事はなかったんだけど…、ほら、最近さ、全然会わなくなったし、話しかけたくもなるじゃないか。」
傍から見たら、声を掛けてくれる幼馴染に突っ掛かる嫌味なやつだな…。とも思うのだが
「ああそうかよ。今から試合だから、バリッバリの敵愾心で満ちてたわ。ちょっとATフィールド張るから近寄らない方がいいんじゃね。」
それだけ言って背を向けた。そう、これから試合なのだから、話している時間なんてありはしない。そんな言い訳を、心の中でした。
やっぱり俺にとっては、こいつの隣は、もう息苦しいのだ。
◇ ◆ ◇
試合終了のホイッスルが鳴り、25-19で俺たちが勝ってから、コートを出た。
優弥に向けてニヤリと笑うと、目が合ってしまった。こちらへ向かってくる様子が見え、本当にしまったと思う。
「はいはい、こっちの負けだよ。嫌味な笑い方をするようになったね。」
「やかましいわ。元々だよ。」
あきれ顔の優弥だが、どこかうれしそうにも見えるのが、なんとも言い難かった。このまま普通に話すこともできるのだろうけど、それを実践できるほど、俺は大人じゃあない。こんなときの救世主である俊はどこ行ったんだよ。ばれないように探してみる。
「なあなあ、俺のプレー見てた?見てた?加藤のやつが打ったスパイクをばっちりブロックしたの見てくれた?…えっ?加藤が打つのは見たけど、俺のブロックは見てない??いや、それはたぶん違うプレーの時だわ…。え、じゃあ俺のスーパープレーは見てないってこと…?」
俊は隣コートの女子連中の所にいた。顔は悪くない(良いとも言っていない)んだが、如何せん、モテたいオーラがにじみ出すぎている。あれじゃあ、女子もなびかないだろうに。第一やかましいわ。うん、他人のフリしよう。
「…ねえ、聞いてた?陽。」
また、俺は聞いてなかったらしい。相手が相手だからって、悪癖なのは間違いない。
「わりい」
「はあ…。ちなみに言っておくと、君が田中君のことを見ていたのは気づいているからね。彼、何しているんだろうね。」
まじかよ。どうやらバレていたようだ。というか、耳が悪いのだろうか。俊の言ってることを聞けば、察せられるだろうに。いや、呆れてそう言って見せただけかもしれないが。
「まあな。んで、なんかあんのかよ。」
「何か?」
「…いや、聞いてた?っつうから…。」
バツが悪くなりフェードアウトしてしまった俺をクスクスと笑うのが腹が立つ。
「また、三人で今日、帰らない?一緒にさ。しばらく、君はいなかったじゃないか。」
ふざけんなよ。
「…マジねえわ、それ。」
いつも、急に用事ができたとか言って、下校中に、俺を置いてどこかに行っちまうのはお前らじゃあないか。急に二人で目を合わせて、それだけで何か通じ合ってた。そして、ごめん、陽。と言うのだ。何が三人だ。いつも、二人と一人だったよ、俺たちは。
幼馴染をギロリとにらみ、俺は立ち去った。
「…はあ、今日は行けると思ったんだけれど…。また穂乃香にどやされるな、これは。」
ぼそりとつぶやかれたその言葉は、俺には聞こえていない、聞くつもりなんかないのだ。
◇ ◆ ◇
下校時刻になり、リュックに荷物を詰めていく。
「じゃあ、俺は部活あるから。また明日ー!」
ニカッと俊は笑い、走っていった。廊下は走るなよ。また、生徒指導の先生にどやされるぞ。
帰りの準備も済み、いざ帰ろうという時にちらりと珍しく窓を見た自分をほめてやりたい。校門には優弥と仁王立ちでいる幼馴染・遠藤穂乃香がいた。
「逃がさない、とでも言いたげだな。」
一緒には帰りたくない。仁王立ちなんかして待っているやつのもとに行けば、延々と小言を言われるに決まっている。それに…、どうせあいつらはまた、途中で俺を置いていくのだ。何か急に、用事を作って。
廊下側の窓を見れば、裏山があった。
「山越えまでして帰るつもりはねえけど、時間つぶしに行くか…。」
校舎内にいる方が楽だが、その場合、片方が待ち伏せをして、もう片方が俺を探し始める可能性がある。それに、行ったことのない裏山に対して、単純に興味もあった。
◇ ◆ ◇
俺の学校の裏山の頂上にはもともと城があったらしい。だから、城北高校なんていう高校もこの街にはあるのだが、裏山の反対側にあるので、城北高校については良く知らない。まあ、そんな話はどうでもよくって、この城はいわゆる、いわくつきなのだ。なんでも、その昔はずいぶんと繁栄していたらしい。それが、急に一族みんな死んじまって、城も廃れちまったんだとか。だから、もう城自体は一部しか残っていなんだとか。と、なぜすべて伝聞系なのかというと、全部、優弥が言っていたことだからだ。
「——————らえ。——————この———」
「ん?なんだ。」
歌声が聞こえた。素人だからよくわからないが、うまいと思う。興味がわいて、歌声が聞こえる方へ行ってみる。
そこには、俺と同じくらいの年齢に見える少女がいた。
「——————もとに…。」
「歌、うまいんだな。」
どうやら終わったようなので、茂みから出て話しかけることにした。何だが、どっかの俊になった気がしなくもなかったが、このまま隠れて見続けるよりは100倍いいに違いない。
そう、これはナンパなんぞではないのである。
「ありがとう、歌うのは好きなんだ。まだ、満足のいく出来ではないのだけれどね。」
へへっと笑っていた。まだ距離がずいぶんあったので、彼女に近寄ると、向こうも近づいてきたのだが、何か違和感があった。
「ねえねえ、なんていうの?名前」
「俺は松本陽。えっと、お前の名前は?」
ちいさく首をかしげる彼女を見つめる。
と、そこで俺は違和感に気づいた。
「私は安田美来。最近、幽霊になった、もともと高校一年生だよ。」
彼女はわずかに、地面から浮いていたのだ。
これが、俺・松本陽とこいつ・安田美来の秘密の一週間の始まりである。
ありがとうございました。