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メウルニの治癒術師  作者: Ash
本編
4/16

4

「地崩れだー!!」

「襲撃だー!!」


 護衛たちの言葉は一貫していなくて、馬車の中では何が起こったのかわからない。

 不審者に気付いた護衛が遠距離からの攻撃でそれ以上警告できなかった為に、メウルニは魔法を唱えるのが遅れた。

 たかが一呼吸。されど一呼吸。


 メウルニは急いで馬車の周りを魔法で覆ったが、押し寄せる土砂の速さには間に合わず、馬車が横転した。馬車には外からの攻撃に対する魔法がかけられていても、それは風の魔法や火の魔法、直接攻撃だけだ。土砂などの物質を伴った場合はそれを止めなければ、どうしようもない。


「パメラ!!」


 メウルニは横倒しになる馬車の座席から放り出されそうになった妻に手を伸ばす。たった一歩の距離を移動する間にパメラの頭が床になった馬車の壁に当たった。それでも構わずにつかんだ妻の身体をアウルムごと引き寄せて抱き込む。その反動でパメラの頭が人形のように大きく揺れた。

 妻を抱きしめたメウルニの身体が横から馬車の壁に叩き付けられる。


「ぐっ!!」


 パメラと同じように扉側の席に座っていたミアナは席から投げ出されながらそれを見ていた。悲しいと感じる暇もなく、馬車の壁に頭から叩きつけられる。


「っ――!!」


 馬車はその後もしばらく揺れていて、最初の衝撃で肋骨が折れた痛みを耐えながら、メウルニは必死で妻子を抱き締めて少しでも自分の身体でかばっている。

 馬車の内側にかけられた魔法は乗客の乗り心地を良くする為のもので、横転した時に怪我を軽減させるものではなかった。

 この状態で軽傷だと言えるのは、治癒術師であるミアナくらいだろう。治癒術師の白い服には怪我が軽減するように防御魔法が込められている。それに一緒にいる皇族や選帝侯の怪我を間髪入れずに治療する為に頭をぶつけたくらいでは死なないように頭部に付けている髪飾りや額飾りにもまた防御魔法が込められていた。

 魔法具のおかげでなんとかひどい打ち身ですんだミアナは、不安定に左右に揺れている馬車の壁を慎重な足取りでメウルニに近寄る。一歩足を出すごとに身体中が軋むように痛い。

 それでもメウルニの治療をしようと思う気持ちは揺るがなかった。それが恋情からだったのか、治癒術師としての教育の結果だったのかはミアナにもわからない。

 ただ、メウルニを助けなければいけないと思っていた。


「メウルニ様!」

「パ、メ・・・に・・・」


 ミアナは痛みで意識が朦朧としているメウルニの頭に手を当て、治癒の力を発動した。心地良い波動が身体の中で生まれる感じが痛む身体を忘れさせる。

 冷静になったミアナは馬車の外の音も聞こえるようになった。馬車を横転させたものから逃れられた護衛の何人かは襲撃者と戦闘しているのだろう。声や武器同士の当たる金属音が聞こえる。


(外のことは護衛たちに任せるしかない。今は選帝侯を治癒しないと)


 ミアナは戦闘には長けていない。治癒術師の男ならまだ学園で武術の授業を受けているので戦うことができたが、治癒の力を持つ一族の女は選帝侯たちの為にだけ子どもを産むことを求められているのだ。学園の治癒術師が受ける授業も女性だけは武術の授業を免除されて、男が好む女性の話し方や立ち振る舞いの授業が割り当てられていた。

 その授業の恩恵も、愛人を押し付けられて子どもだけは生まさせられるメウルニには何の効果もなかった。


 施術しながら、メウルニの腕の中にいるパメラとアウルムの状態にも目が行く。二人とも外傷は見た感じではなかった。

 パメラは頭を打っていた。アウルムは両親に守られてどこも打っていないようだが、無事かどうかはわからない。


「パメラを、先に・・・」


 治癒の力が効いたのか、メウルニがはっきりと話し出す。


「いいえ。メウルニ様が先です」

「命令だ・・・。パメラを先にしろ・・・」

「駄目です。メウルニ様のほうが大切な身です」


 治癒の手ごたえはあるが、それでも身体の内部はまだ治りきっていない。打ち身程度ならメウルニの命令も聞けるが、治療の遅れで骨の変形が起こる骨折以上の怪我の場合は治癒術師が罰せられる。治癒術師の仕事は皇帝と選帝侯の身体を安全に保つことが義務なのだ。一緒にいる皇帝や選帝侯を死なせでもしたら生きたまま墓に埋められる。


「パメラより大切なものがあるか!」

「メウルニ様の御身は選帝侯。皇帝の次に大切な身です」

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