帝都のミアナ4
無事、娘を出産したミアナは、生まれてきた子どもの性別に安堵した。
娘ならメウルニに渡す必要がない。七歳で宮廷内の学校に通うことになる治癒の力を持つ一族の娘は、父親が選帝侯の一族でも皇帝の持ち物になる。その為、治癒術師は子どもの父親と特別な絆がない限り、念願の我が子を連れて帝都に帰る。
ミアナもそれを狙っていた。
しかし、そう、うまくすぐに娘が生まれることは少なく、息子が生まれてしまった場合は娘が生まれるまで選帝侯一族の愛人でい続ける。治癒術師にとって、帝都には連れ帰られない子どもが選帝侯たちが欲しがっている選帝侯の持ち物である治癒術師だ。
あの襲撃から数か月。生まれてきたのが息子だったら、愛人をクビにしたメウルニに渡さなければいけないが、娘ならミアナの手元で育てられる。
その幸運が嬉しかった。
やっと生まれてきた我が子と引き離されることもなく、メウルニと顔を合わせる必要もない。
ミアナはメウルニが怖かった。
パメラを殺したのはお前だと罵られるのが怖かった。
パメラの代わりにお前が死ねばよかったんだと言われるのが怖かった。
自分の罪は自覚している。
それでも、面と向かって責められるのは嫌だった。
子どもが生まれるまで、恋人であるジャンルカが傍にいて、ただ元気な子どもを産むことだけに集中することで、罪悪感に苛まれないようにしてきた。
それがようやく実を結び、ミアナは娘を穏やかな気持ちで見ることができる。
娘の名前はパメラ。
娘と引き換えに死んでしまった女性の名前。
ミアナが子どもを産む為に利用した男の妻の名前。
愚かにもミアナが心惹かれてしまった相手の妻の名前。
治癒術師として生まれていたのなら、誰の反対もなくメウルニの恋人でいることができる。妻になるのは大変だろうが、他の選帝侯に忠誠を誓う家の娘よりは楽だろう。
せめて名前だけででも、その幸運を与えたかった。
愛する人と共にいることを、それに他の女が分け入る隙がない幸運を。
メウルニの妻だったパメラにはなかった幸運を。
娘にパメラの名前を付けたからといって、ミアナの罪悪感は消えたりはしない。
しかし、パメラと同じ名前を持つ娘の幸せを祈る気持ちが、ミアナの心に平穏を与えてくれる。
そして、決断した。
自分が死に追いやってしまった女性と同じ名前の娘を幸せにすることで、メウルニの妻を死なせた罪を償おうと。
それはただの自己満足かもしれないが、罪悪感を抱え、贖罪の日々に何の罪もない子どもを巻き込むわけにはいかなかった。
ミアナの罪の証である子どもであっても、娘には何の罪もない。罪があるのはミアナのほうだ。
罪のない娘に罪を押し付けるのは間違っているし、娘が他の子のように生きていけないのはもっとおかしい。
自分の罪は消えることはなくても、そのせいで娘に肩身が狭い思いをさせるのは間違っている。
二人のパメラ。
一人はミアナが死に追いやってしまった女性。もう一人はミアナの罪で生まれてきた娘。
死なせた命と産んだ命。
二つを同等に考えて、生きている命を幸せにすることがミアナの贖罪。
生まれ変わりなどではなくても、娘のパメラには今度こそは幸せになってもらいたい。不幸だったパメラの分も幸せになってもらいたい。
とても心地の良い秋の日。ミアナが娘を産んで一週間だった日だった。
ミアナはジャンルカの提案を受け入れ、彼と共に娘を育てることを告げた。