帝都のミアナ2
エンデパン選帝侯の襲撃はミアナが一番早く治癒術師の暮らす区域に報せを運んでくることになったが、宮廷内の噂話や、皇帝や皇族の近くで見聞きされた話は仕事から上がった治癒術師たちが運んでくる。
パメラの葬儀の日取りと場所も、治癒術師たちが運んできた話でミアナは知った。
その日、皇帝の持ち物である証を身に着けたミアナはフードの付いた外套を手に宮廷を出た。目指すはパメラの葬儀がおこなわれる寺院。
宮廷を出てしばらくは治癒術師という身分で自分を守りながら、目的の寺院が見えたあたりで外套を羽織り、フードを目深にかぶる。
治癒術師は皇帝の持ち物だ。それを表す白地に青い縁取りの服を着た者に対する犯罪は皇帝に対する犯罪だと帝都では見なされる。簡単に言ってしまえば、皇帝のグラスを壊した者がいた場合、言い訳は許されずに処刑されてしまう。たかがグラスと思われるが、皇帝本人やその家族のとりなしがない限り、それが法律だ。
治癒術師は治癒術師としてわかりやすいように専用の服をいつもまとっている為、彼らを治癒術師だと気付かずに害したなどと言い訳はできない。それ故に、治癒術師は安全に気を遣わなくてもよかった。
ちなみに治癒術師が犯罪を起こしたりしても、本人も処罰を受けるので、皇帝の権力を笠に着て好き放題はできない。
ミアナがパメラの葬儀に来たのは、あれから心境の変化が起きたからだ。女治癒術師が言ったように、ミアナは自分の計画の為に愛人が必要になり、手っ取り早く紹介してもらえたのが治癒術師のいない選帝侯のメウルニだった。自分のことしか考えていないその計画の為に、パメラは死ぬ原因となった里帰りにまで追い込まれた。
襲撃も、それが原因でパメラが頭を打ったことも、ミアナが計画を立てたわけでも、おこなったわけでもないが、ミアナが愛人の紹介などを皇帝の側近に頼まなければ起きなかった出来事だった。
メウルニは最愛の妻を亡くし、幼いアウルムは母親を亡くした。
二人から大切な人を奪ってしまった。
自分のせいで取り返しのつかない出来事を引き起こしてしまった。メウルニとアウルムには詫びても詫びきれない。
謝ることなど、彼らは望んでいないだろう。今は死ぬ原因を作ったミアナの顔も見たくないだろう。
だから、ミアナは一人、遠くからパメラの葬儀に立ち会う。選帝侯夫人の葬儀にフードをかぶった不審人物は参列することは許されていない。目深にかぶったフードは自分の顔がわからないようにするだけでなく、視界が狭くなってそのままではメウルニの顔も目に入らない。
愛するメウルニの顔を見ない。それがミアナが自分に課した罰。
それに帝都でおこなわれている葬儀には、パメラの両親も駆け付けているだろう。彼らの神経も逆なでしたくない。
今、ミアナができることは、自分のせいで死なせてしまったパメラの冥福をこうして遠くから祈ることだけだ。
たとえそれが自己満足にすぎないとしても。
治癒術師たちは噂好き。
自由に街に降りることはできても、逃亡した先で治癒術師だとバレると強制送還されるので、居住区域で噂話に花を咲かせています。
女治癒術師は選帝侯一族以外には愛人になれませんが、夫婦になる場合は夫が帝都勤務か宮廷勤め(強制)になります。夫が従者をしている治癒術師なら、選帝侯の地域にくっついて行くことはできます。