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目覚めと出会い

「なんだ……これ……」


だだっ広い平原のど真ん中に一人の青年が座り込んでいた

年齢は20過ぎ

身長170程度で体型は平均的

特徴のない短い黒髪

顔は悪くないんだろうが特に身嗜みに気をつけている様にも見えずパッとしない

そんな今一つ物足りない青年は頭を抱えていた


「なんで僕はこんな所に……?」


呟いた彼はズキズキと痛む頭を抑えて顔をしかめる

なにかを思い出そうとするも、記憶にモヤがかかっていて、すぐに思い出せたのは


「名前は……ヒロ……?」


名前と


「音楽家……?そうだ、歌手を目指してたんだ」


夢だった


ふと、手元を見ると見慣れた楽器が横たわっていた

何故さっきまで気付かなかったんだろうかと思いつつも、それを手に取った

それは少し薄汚れたアコースティックギターだった


「僕の楽器だ……間違いない」


ハッキリと思い出せた

それはヒロとともに夢を追いかけた相棒だった

おもむろに音を鳴らしてみる


「良好だな」


特に壊れた様子もない

一音鳴らすごとに懐かしい感覚が身体を巡る


「不思議だな……記憶は無いのに身体はしっかり覚えているもんだ」


ずっとしかめていた顔が少し柔らかくなった

おもむろに深呼吸をする

ゆっくりと息を吸い、深く吐き出す

草木の香りが全身に広がった様に感じる

あぁ、僕はこんな広大な自然の中に居たのか……

周りの景色を眺める余裕も出てきた

ヒロにとって、音楽は大きな心の支えだった


そのまま彼は演奏を始める

記憶には無いが身体が覚えている曲を

誰に聴かせるわけでもなく

ただ純粋に音を奏でる為に



◇ ◇ ◇ ◇



(今日は最高の洗濯日和ね)


洗いたての衣服の入ったカゴを抱えた女性は空を見上げながらそう思った

空まで登った太陽はギラギラと強く輝いていたが、時折心地の良い風が吹いており、暑苦しいと言うほどではなかった

女性は洗濯紐の前でカゴを下ろすと、肩にかかる金髪をかき分け、一息ついた

170強ある身長にスラっとした体型、長い足

少しウェーブのかかった髪は透き通る様な金色をしている

翠色の目はまるで作り物の様に美しく、老若男女問わず一目で魅了してしまうだろう

そんな彼女の、女性にしては少し高めの身長に合わせられた洗濯紐に丁寧に衣服をかけていく


ふと、聴いたことのない音が微かに聞こえたのを感じる


(なんだろう……この音……)


何故か、その音楽の事が気になって仕方がない

普段なら気にも留めない程度の微かな音

しかし、彼女はまるで誘われる様に、音の聞こえる方へ近づいていくのであった


気付けば目の前に見知らぬ楽器を演奏する青年の姿があった

ふと青年は演奏を中断し、少し警戒しながら彼女の方をまっすぐと見る

近づいて来た彼女に気が付いたのだろう


「あなたは……?」


青年は彼女の目を見つめながら呟く様にそう言った


(私は……)


彼女は口をパクパクとさせてハッとする

すぐに懐から紙とペンを取り出し、文字を書く

そしてそれを青年に見せた


[私はアリアと申します、向こうに小さく見える家に住んでいる者です]


紙にはそう書いてあった



◇ ◇ ◇ ◇



アリアと名乗る女性に差し出された紙を見てヒロは頭を悩ませていた

そこに書かれている文字が読めない……のでは無く


「私はアリアと申します、向こうに小さく見える家に住んでいる者です……そう書いてます?」


読めてしまうのだ


ヒロの全く知らない言語であるにも関わらず


そんな事情など知らないであろうアリアは、キョトンとした顔で自分の書いた文字を改めて確認する

そして縦に首を振って見せた


「ありがとうございます。僕は、ヒロと言います」


右手を差し出して、握手を求めた

アリアはニッコリと微笑み、それに応じた

握手を終えると、アリアは再び文字を書き出す

手慣れた様子で文章を書き終えると、それをヒロに手渡す

一瞬躊躇った様にも見えたが、ヒロは気にすることはなかった

紙にはこう書いてある


[初対面で不躾ですが、先程の演奏をもう一度聴かせて頂いてもよろしいでしょうか?]


ヒロは鼓動が高鳴るのを感じた

自分の音楽が誰かに求められる事に、感動を、興奮を覚えていた


「僕の演奏で良ければ、是非聴いて行って下さい」


考える間も無くそう答えていた

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