重なり繋ぐ一人言
ある学校の教室で放課後二人の生徒がポーカーをしていた。
「なぁ、リョウ?」
「何?コウ」
「最近さ、思うんだ!世界っていくつあるんだろうな…」
「唐突に何言い出すんだよ!世界は1つだろ?」
リョウはそう言って自分の手札を見せる。
手札はジャックの3カード。
「負けそうだからってまた変な事言い出すなよな…」
コウはたまに不思議な事を言い出し
不思議な事に対してコウなりの答えをリョウに伝える事が
二人の間ではよくある出来事となっており
リョウは呆れながらもその答えに納得する自分がいる事に
不思議な葛藤を毎回抱く。
「ジャックの3カード!?マジかー…でも俺の勝ち!!」
コウは誇りながら手札を見せる。
出てきた手札はジョーカーを含めたキングの4カード。
「まじで!!お前ポーカー弱いのにどうした?」
リョウは普段2人でやってる時はほとんど勝っており
コウがジョーカーを持って勝つ事がほとんど無いため
驚きを隠せなかった。
「いやー運が良かっただけだよ!
それよりさっきの話聞いてた?」
コウはポーカーで勝った事よりも
話の続きをしたくて質問をリョウにする。
「聞いてたよ
世界はいくつあるかって話だろ?
さっき俺が1つって答えたやんか」
リョウは負けた事に悔しがりながらもトランプを整え
コウの質問に答える。
「いやさ、最近 異世界物とかSF物の本を読んでてさ
思ったんだ!世界は厳密にはこの世界は幾つもの世界が
重なって出来てるんじゃないかって」
「何言い出すんだよ!悟りでも開いたから
俺に説法するつもりかよ‼」
「まぁ、聞けよ!基本的に人間は自分の世界を
持っているだろ?パーティカルスペースってやつをさ!!」
「それを言うならパーソナルスペースな!
あれだろ?人それぞれもつ他人が近づかれると
嫌な気分になる距離ってやつだっけ?」
「そう!それ!パーソナルスペース!
心ってある意味自分の世界だろ?
その世界が人と接する事で広がるから感情が生まれて
変な期待したり偏見を持ったりするから
そのスペースが生まれるわけよ!」
「まぁ、元々の生活環境によって変わると思うけどな!
で何?人それぞれの世界が重なって今の世界があるって
言いたいん?」
「良く分かったな!流石リョウ!!」
「誉められても嬉しくないけどな…
まぁ、世界が1つじゃないって言いたいのはなんとなく
分かったけどそれで何?」
「まぁ、聞けよ!相棒!」
「相棒って読んだことないだろ!?気持ち悪いな」
「俺も自分で言ってて違和感あったから相棒呼びやめるわ!
でだ!その世界って正常だと思うか?」
「どうした急に!?その世界ってこの現実の世界の事?
それとも人それぞれの世界の事か?」
「どっちもだよ!だってこの世界が正常ならイジメや
多数決の偽善なんてあるわけないだろ?」
「多数決の偽善って何だよ?まぁ、どこか抜けてるとは
思っているけどよ」
「多数決の偽善ってのはな!簡単にいうとそのままだ!
例えるとある事件が起こり学級裁判が始まった
犯人候補は話し合いの中で二人決まり
多数決で決まって一人が犯人になりました
しかし本当の犯人は他にいてのんのんと過ごしてます
多数決で犯人になった人は本当の犯人を主張しても
誰も聞いてくれなかった
他の人達も本当の犯人が誰か分かっていましたが
多数決で決まった人の事を犯人だと決めつけました」
「その時点でおかしい気がするけどな!
犯人が違うって分かってんだろ?」
「そう!分かってる!けど皆が決めた事だから自分だけの
責任じゃない!今さら言ったって他の人から糾弾される
それが怖くて間違っててもそれが善であると思い
生活を行う!そしてだんだん美化?されて犯人が
本当の犯人だったと思い込んでいく
自身の認知が歪んで自己防衛により正当化される
そんな世の中なんだから仕方ないって思う人が多数いて
この世界が正常だって言えるのか?」
「まぁ、落ち着けよ!俺もそれが正常とは思わないよ
けどそれがこの世界のルールだろ?
理解はしても納得はしない!そういう理不尽や不条理な事が
当たり前に起こってる世界だから異端児には
なりたくないって人が多数いる
この世界に正解を求めてはいけない
妥当に過ごして誰かに寄生して生きていく
若しくは自分に価値があると信じて生きていく
まぁ、その考えが正常なのか異常なのか良くわからんけどな」
そう言ってリョウは教室の時計を見て帰る時間だと思い、
カバンに手を伸ばす。
「結局は正常か異常かは分からんがこの世界は間違ってるとは
思ってるよ
自分が正しいと思って行動した結果が他者からは
認められず孤立していく
今の俺たちみたいにな!」
リョウは自分のカバンを持ち上げながら答える。
「もう帰ろうぜ!早くしないと先生から怒られるぜ!」
「そうだな!この話は帰りながら続けるか!
下駄箱に遅れたほうがジュースおごりな!」
コウは自分のカバンを持ち先に教室から走って出る。
「ちょっと待てよ!罰ゲームはやめようぜ!
あと帰りは違う話をしようや!ゲームの話とかよ!」
リョウは慌ててコウに追い付こうとして息切らしながら話す。
リョウがコウに追い付いた時には周囲が夕暮れで
オレンジ色に囲まれていた。