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9  イリスは思い出したけど……

『ユーリ!』


 絆の竜騎士を見つけたイリスは町の宿屋を目指して一直線に舞い降りる。普段なら羽根で人や物を吹き飛ばさないように着地する時は気を使うのだが、今はそんな事に構っていられない。


 ローズ一座の馬たちはいななき、舞台に改装された荷馬車は風に揺られる。


「何事だ?」髭もじゃのローズ団長は、折角の舞台装置が滅茶苦茶だと腹を立てた。他の団員は、目の前に舞い降りた巨大な竜に怯えながらも『何故? こんな田舎町に竜が竜騎士も乗せずにやってきたのだ?』と疑問で一杯だった。


 ユーリは、竜を遠巻きにしている群衆をかき分けて『イリス!』と駆け寄った。


『ユーリ!』


 嬉しそうにイリスは咆える。やっと絆の竜騎士に再会できたのだ。しかし、周りの人達は怯えて馬車の影や、宿屋に逃げ込んだ。


『どうして私を置いていったのさぁ。心配したんだよ!』


 責められてユーリの記憶は混乱する。


『ええっと……イリス、なのよね? 何故、私はあなたの名前を知っているのかしら? それに愛情を感じるの』


『えっ? ユーリは私と絆を結んだ竜騎士なんだよ。私はユーリと一緒の時を過ごすんだ! 覚えてないの?』


『絆の竜騎士?』ユーリは頭ががんがんする。とても大事なことも忘れていそうだ。


『ユーリ! 思い出して!』


 イリスの金色の瞳を見ていると、両親の死、フォン・フォレストのお祖母様の屋敷に引き取られたこと、庭にイリスが舞い降りて絆を結んだこと、竜騎士の学校リューデンハイムの日々、そして喧嘩ばかりしていた金色の瞳の少年。


『そうだわ! 私はユーリ・フォン・フォレスト。あなたは私の騎竜イリスね!』


 騎竜の魔力で頭痛は消え去ったが、両親の死を受け入れて、ユーリは涙を流す。


『お父さんもお母さんも何年も前に亡くなったのね』


 ユーリが泣き虫なのはイリスは慣れている。絆の竜騎士と一緒にいると、ハッピーな気分になる。


「なぁ、ユーリ……その大きな竜をどけてくれないかい? 今夜の巡業の準備をしなきゃいけないんだ」


 ローズ団長の頭をアタンダが小突く。


「あんた、劇のことよりユーリが竜騎士だって事はどうするのさぁ」


「えっ、ユーリは竜騎士なのか?」


「当たり前じゃないの! この子が竜騎士じゃなければ、この竜は何故ここにいるのよ!」


 ユーリは、自分が竜騎士であること、目の前のイリスと絆を結んだことは思い出していた。


「ええ、私はどうやら竜騎士みたいです。あと、名前はユーリ・フォン・フォレストです。でも、未だ重大な事を思い出してないようなの……」


 イリスはユーリを見つけた安堵で、ポォッとする。必死で行方を捜しているグレゴリウスやジークフリートに報告するなんて、幸せボケしたイリスは考えもしなかった。


「まぁ、記憶はおいおい戻るだろう。それより、今夜の劇なんだけど、出てくれないかな? チラシを配った時に、若い女の子が出るなら観に来るって連中が多かったんだ。あんたが出ないとブーイングがおこりそうでさぁ」


 ユーリは、助けてくれた団長の頼みごとに応えることにする。


「今晩の劇にはでます。でも、ラブシーンは困るんです」


「えっ、ラブシーンは駄目なのか? まぁ、良いや。竜騎士が劇に出てくれるだけで宣伝になるし」


「話が決まったなら、そこの竜をどけておくれ。邪魔で仕方ないよ」


 イリスに宿屋の裏に移動してもらい、着地の影響を受けて吹き飛ばされた大道具や小道具を荷馬車の舞台に配置し直す。


 かがり火が宿屋の前を明るく照らし、舞台からランタンが広場に向かって吊るされると陽気な雰囲気になる。


「もうちょっと化粧しよう」


 アマンダに化粧をして貰いながら、ユーリは金色の瞳の少年のことばかり考えていた。


『グレゴリウス……』



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