表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

3  エミリーの逆襲

 ユーリは机の上のチョコレートを眺めて、どうやってグレゴリウスに渡したら良いのか思い悩んでいた。


「すぐに謝ったら良かったのだけど……明日は地方の孤児院の巡回に行くから駄目よね。そうだ、帰ってきたら、その足で会いに行こう!」


 ユーリの友だちの令嬢達も昨年のローラン王国との戦争が終わり、婚約ラッシュになっていた。その熱々な恋愛話を聞いているうちに、グレゴリウスとつまらない事で喧嘩などしないようにしようと反省したユーリだった。


「あのお嬢様? エミリー嬢が訪ねて来られていますが、どう致しましょう?」


 子どもの頃から面倒をみてくれている侍女のメアリーがお伺いをたてる。他の令嬢とは違いエミリーとはあまり仲が良くないのは、メアリーも知っているから怪訝に思っているのだ。


「エミリー様が?」


 皇太子妃になりたいと野心を燃やしていたエミリーには、グレゴリウスと婚約した件で腹を立てられて、一方的に絶交を宣言されたのだ。


「一体、何の用かしら?」


「さぁ? でも凄い鼻息でしたわ。ユーリ様、帰って頂きましょうか?」


 機嫌の悪そうなエミリーと会いたいとは思わないが、それでも居留守を使う気にはならない。


「良いわ。もしかしたら絶交宣言を取り消すつもりなのかもしれないし……まぁ、絶交されたままでも困らないのだけど……」


 エミリーの母親が遠縁に当たるので仕方なく付き合っていたが、ユーリは苦手にしていた。


「なら、お断りすればよろしいのでは?」


 皇太子妃になるユーリお嬢様に絶交宣言をするような令嬢を近づけても良いものだろうかと、メアリーは心配する。


「何となく、少しだけ引け目を感じるのよねぇ。だから会うわ!」


 グレゴリウスに猛烈アタックされていた頃、ユーリは皇太子妃なんて向いていないというだけで、頭から拒否していた。その時に、エミリーを後押しするような言動をとった覚えがあるのだ。


 応接室に入った途端、エミリーが高飛車な態度で要求を突きつけた。


「ねぇ、ユーリ様! 私にも玉の輿に乗れるチョコレートを下さい!」


 スクッと応接室の椅子から立ち上がったエミリーに凄まれて、ユーリは何処でどう間違った噂が流れてしまったのかと汗をハンカチで拭く。突然の要求に驚いたユーリだったが、玉の輿チョコレートを渡せと凄まれても、そんな物は無いのだ。


「エミリー様、玉の輿に乗れるチョコレートではなくて、セント・ウルヌスデーをお祝いするチョコレートですのよ」


「まぁ、そんな嘘を仰るだなんて! マーガレット様達には玉の輿のチョコレートをあげたのに、私には下さらないのですか? あんなにグレゴリウス皇太子殿下には興味がないと仰っておられたくせに……」


 キッと睨まれて、ユーリはタジタジになる。確かに、自分の気持ちが分からなかった頃に『グレゴリウス皇太子殿下には興味がない』と言った記憶がある。


「それは……」


「エリザベス様はグランバード伯爵家の嫡男と婚約なさったのよ。それにマーガレット様も素敵な婚約者がいらっしゃるわ」


 確かに、エリザベスなどは自分の家より格上の婚約者をゲットしていたが、それは本人が美人な上に賢くて性格も良いからだ。目の前のエミリーも綺麗と言えば綺麗なのだが、気難しそうな表情が台無しにしている。


「さぁ、玉の輿チョコレートを下さいませ!」


 相変わらず高飛車なエミリーに、抵抗する気力を無くしたユーリは、小さなハート型のチョコレートを差し出した。


「これで私も玉の輿だわ!」


 目的を達したらこんなところに用はないと去っていくエミリーの後ろ姿に、ユーリは溜息をつく。あの性格をなおさないと、タレーラン伯爵家の財産目当ての男しかと結婚できそうにない。


「どこで、どう間違ったのかしら……グレゴリウス様にチョコレートをあげて、喧嘩をしてごめんなさいと謝ろうと思っただけなのに……」


 仲の良いユングフラウの令嬢に『セント・ウルヌスデーにチョコレートを渡したら、相思相愛になれるのよ』と作ったハート型のチョコレートを配って回ったのだが、何処を間違ったのか『玉の輿チョコレート』になっている。


 確かに地方貴族のフォン・フォレストの娘であるユーリが皇太子妃になるのだから、玉の輿と言えば玉の輿だ。


「世間からは玉の輿だと羨ましく思われているのね。グレゴリウス様を愛してはいるけど……皇太子妃にはなりたくは無いのに……」


 一番楽しい婚約時期なのに、このところユーリはマリッジブルーになっている。そんな時はゆっくりと過ごして、精神的に落ち着くべきなのに、ユーリは国務省の仕事も辞めたくなかったし、皇太子妃としての教育も受けなくてはいけないので、どんどんとドツボにはまっていっていた。


 今回の騒動で、自分が世間から玉の輿だと羨ましがられているのだと思い知らされて、ユーリはいっぱいいっぱいになってしまう。普段なら、こんな時は騎竜のイルスに慰めて貰うのだが、子竜を得るために発情期に良い遺伝子を持つ竜と交尾するだけの竜に恋のお悩み相談は不向きだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ