mess ep2
僕は怪物であり、怪物もまた僕である。7歳にして僕は、僕自身をそう認識した。怪物を抱えた僕にとって生きることは、地獄でしかなかった。
傷がある程度ふさがってきたので病室が変わることになった。傷がふさがってきたとはいっても、まだ歩けるような状態ではない。
僕は数人、人がいる病室の窓際に運ばれた。僕の隣のベッドには白い女の子がいた。その子は天使のように白くて、彫刻のように無機質で美しかった。女の子と目が合うが、そらされた。
「こんにちは」
挨拶の言葉をなげかける。
「こんにたゃ...こ、こんにちは」
女の子が挨拶を返そうとして噛む。女の子は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「君みたいな人でも噛んだりするんだね」
こんなに白い子でも感情があるんだな、と僕は思った。
女の子は口を開いた。
「名前はなんていうの?」
名前を聞かれたので三田雄一郎、と答えようとした。でもやめた。この子には、本当の名前で呼んでほしい、と何故かそう思った。
「わからない、僕には記憶がないんだ。」
もしかすると、ほんとうは、僕は存在していないのかもしれない。だから本当の親も、名前も、わからないのか。僕の名前を呼んでほしいのに名前がわからない。
女の子は気まずそうな顔をしていた。僕はすかさず切り返す。
「君は?」
「え?」
「君の名前が知りたい。」
「私は黒川墨花。親がつけてくれた名前なの。名前はくろいのに私はしろいなんて不思議でしょ?ふふっ」
黒川墨花という名前らしい。彼女の本当の名前を知ることができたと思うとなぜか、気分がよくなった。それと同時に僕の中に住みついている怪物が蠢く。
「墨花、素敵な名前だね」
反芻するように口に出す。墨花は照れるように顔を伏せた。墨花はベッドからおりた。そして僕に近づき手を握ってこう言った。
「記憶がないなら、これから新しくつくればいいわ。わたし、あなたと友だちになりたい」
僕の顔を覗くように言った。ぼんやりとしていた墨花の顔が鮮明に映る。墨花のその言葉がはっきりと聞こえた。
墨花、君になら怪物と呼ばれてもいい。
7歳の怪物は初めて恋をした。