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MESS  作者: 矢樹雨 泉盃
3/3

mess ep2

僕は怪物であり、怪物もまた僕である。7歳にして僕は、僕自身をそう認識した。怪物を抱えた僕にとって生きることは、地獄でしかなかった。



傷がある程度ふさがってきたので病室が変わることになった。傷がふさがってきたとはいっても、まだ歩けるような状態ではない。

僕は数人、人がいる病室の窓際に運ばれた。僕の隣のベッドには白い女の子がいた。その子は天使のように白くて、彫刻のように無機質で美しかった。女の子と目が合うが、そらされた。


「こんにちは」


挨拶の言葉をなげかける。


「こんにたゃ...こ、こんにちは」


女の子が挨拶を返そうとして噛む。女の子は恥ずかしそうに顔を伏せた。


「君みたいな人でも噛んだりするんだね」


こんなに白い子でも感情があるんだな、と僕は思った。

女の子は口を開いた。


「名前はなんていうの?」


名前を聞かれたので三田雄一郎、と答えようとした。でもやめた。この子には、本当の名前で呼んでほしい、と何故かそう思った。


「わからない、僕には記憶がないんだ。」


もしかすると、ほんとうは、僕は存在していないのかもしれない。だから本当の親も、名前も、わからないのか。僕の名前を呼んでほしいのに名前がわからない。

女の子は気まずそうな顔をしていた。僕はすかさず切り返す。


「君は?」


「え?」


「君の名前が知りたい。」


「私は黒川墨花(くろかわ すみか)。親がつけてくれた名前なの。名前はくろいのに私はしろいなんて不思議でしょ?ふふっ」


黒川墨花という名前らしい。彼女の本当の名前を知ることができたと思うとなぜか、気分がよくなった。それと同時に僕の中に住みついている怪物が(うごめ)く。


「墨花、素敵な名前だね」


反芻(はんすう)するように口に出す。墨花は照れるように顔を伏せた。墨花はベッドからおりた。そして僕に近づき手を握ってこう言った。


「記憶がないなら、これから新しくつくればいいわ。わたし、あなたと友だちになりたい」


僕の顔を覗くように言った。ぼんやりとしていた墨花の顔が鮮明に映る。墨花のその言葉がはっきりと聞こえた。


墨花、君になら怪物と呼ばれてもいい。


7歳の怪物(ぼく)は初めて恋をした。


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