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私は、エインズワース公爵家の令嬢アンナ。5歳です。8人姉妹の4番目です。お父様とお母様は仲良しですし、男の子が欲しいらしいですので、兄弟はもう少し増える予定です。もちろん、お父様も、お母様も、女の子の私達姉妹のことも、とても大切にしてくださっています。ありがたいことです。
お父様は宰相様ですので、とてもお忙しい方なのですが、どうにかこうにか、家族団欒の時間も作って下さいます。たまには喧嘩もしますが、姉妹仲も良好です。
富と権力に恵まれた上に、愛情溢れる家族にも恵まれ、この上なく幸せです。
さて、本日はお城で、第一王子のシャルル様の婚約者候補が集まるお茶会が開催されます。残念ながら、私はお留守番です。
シャルル様は10歳でいらっしゃいますので、我がエインズワース公爵家からは、シャルル様と同じ年の、一番上のソニアお姉様が出席されます。我が家には次女のロジーヌお姉様や3女のラシェルお姉様がいらっしゃいますので、私のような年少者の4女の出る幕は無いのです。
ソニアお姉様は、朝から準備で忙しそうです。私たち、妹'sは、お姉様の準備のお手伝いで大忙しです。ソニアお姉様の御髪を綺麗に整えたり、お化粧を施したりして差し上げる予定でしたのに、なぜか、メイド頭のジョアンナに、姉妹揃ってつまみ出されてしまいました。
「ソニアお姉様のお手伝いをしたかっただけですのに、メイド風情が邪魔をするなんて生意気だわ。主家の娘に逆らうとは良い度胸です。目に物見せてくれましょう。」
一番お転婆な次女ロジーヌお姉様の指揮の元、妹'sは、ジョアンナが苦手とする虫を庭で採取することになりました。私達8人姉妹、いえ、お茶会の準備でお忙しいソニアお姉様を除く7人姉妹の総力をあげれば、大量の虫を集めることができるはずです。集めた虫をジョアンナに見せ付けて、怖がらせてやるのです。頑張りますよ!
私も、とても張り切ったのですが、ロジーヌお姉様に、7女ジュリーと8女ジュディアの双子の子守を仰せつかってしまいました。双子だって、最初は、虫集めに参戦していました。ただ、双子はまだ1歳で、よちよち歩きができるようになったばかり。何の障害も無い場所でもこけてしまったり、捕らえた虫を口に入れようとしたり。とても、この子たちだけで、野放しにはしておけません。
右手で7女ジュリーと、左手で8女ジュディアと手を繋ぎ、お庭の散策です。他の妹'sは、着々と虫を集めております。
1時間ほど虫を採取した私達は、ソニアお姉様の部屋の窓の下に集合しました。小さな箱の中には、色鮮やかな毛虫が100匹ほど蠢いております。
「これだけいれば、ジョアンナを驚かせるには十分だわ。みんなで行くと、ジョアンナにバレテしまうわ。突撃隊は、私と、ラシェルで行くわ。あなた達は、隠れていてね」
突撃隊は、ロジーヌお姉様と3女のラシェルお姉様に決まりました。私達は、窓の影から様子を見守ります。
メイド頭のジョアンナは、かがみこんでソニア姉様のドレスを整えています。ロジーヌお姉様と、ラシェルお姉様が、背後からこっそりと忍び寄ります。
ソニア姉様も、他のメイド達も、当然気づいておりますが、何も申しません。妹'sとジョアンナの攻防はいつものことですから、みんな慣れています。
私達だって、そんなに大それたことをするつもりは無いんです。ちょっと、小箱の中の毛虫を見せて、ジョアンナの驚く顔が見たいだけ。それで、ソニアお姉様のお茶会の準備から私達を追い払った事は許してあげるつもりでした。
でも、なんというか、誰が悪いわけではないと思うんですが、間の悪いことってあるんですよね。
姉妹の中で一番おっちょこちょいのラシェルお姉様が、つまづいてこけてしまったんです。
宙を舞う小箱。ぶちまけられる100匹の毛虫達。ソニアお姉様と、ロジーヌお姉様、ラシェルお姉様の顔に、首に、腕に、毛虫達が張り付きました。
「きゃーーっ」
あっという間に、お姉様方の真っ白な肌が真っ赤になってしまいました。あの毛虫たち、鮮やかで綺麗だなぁ、と思っていたら、毒虫だったようです。