兄様は今日も大変〜お友達ができました。
ジャンル再設定の際、久しぶりに読み直したらなんか楽しくなって衝動的に書きました。兄の影薄し!
「さや、今日一緒に王城へ来てくれないかい?」
一緒に朝餉を食べていた兄様がふと思い出したように言いました。
なんだかお顔が渋い顔になってますが苦いお野菜なんて入ってませんよ?どうしたのでしょう?
「今日ですか?急ですね?」
キョトンとした顔をすれば、兄様の顔がパッと輝きます。
「そうだよね。急だよね?こんな急に呼ばれたってさやだって困るよね?先方には断って」
「いえ、特に差し迫った用も無いですしそれは構わないんですが」
怒涛のように喋りだした兄様を慌てて遮ります。
だって王城です。お出かけです。
学齢にも達して無い身では余程の用事でも無い限りなかなか外出させてもらえないんです。
おうちの敷地はそこそこ広いので退屈はしませんが、やっぱり外に行けるのは特別な感じがして楽しいのです。
急な申し出だからって、そのチャンスをみすみす逃す手はありません。
と、輝いた兄様のお顔がまた暗くなっちゃいました。どうやら、兄様は今回のお誘いに乗り気では無いようです。
「………兄様は私とお出かけは嫌なんでしょうか?」
導き出された答えに思わずしょんぼりと肩が落ちます。
行きたいけど。
すごく行きたいけど、こんなに兄様が嫌な顔をするなら、やっぱり行かないのが正解ですよね………。
俯いてしまった顔を上げて、「やっぱり行きません」と言おうとした時、当然ぎゅっと抱きしめられました。
じんわりにじみ出てきた涙で揺らいでいた世界が押し付けられた温かなもので塞がって何も見えなくなりました。
「あぁ、そんな顔しないで。さやとお出かけしたくないんじゃないんだよ!そんなの当然じゃないか!ただ、今回呼び出された場所が気にくわないというか……」
いつの間にか兄様に抱っこされてぎゅうぎゅうに抱き締められていました。
嬉しいけど……ちょっと苦しいです。
もぞもぞも動いてどうにか兄様の腕の中から顔を上げれば、困り顔の兄様が見えました。
「私はどこに呼ばれているんですか?」
「………それはね」
綺麗な芝生の上に幾つものテーブルセットが置かれ、同じ年頃の男の子や女の子がたくさんいます。
なんとご招待されていたのは第4王子様主催のお茶会でした。
私の3つ上の方で、年が少し離れている為今まで参加したことはありませんでした。
今回の急な参加は予定していたご令嬢が急病の為席が空いたのと、先日お会いした第1王子様が私の事を何気なく話題に出した為だそうです。
王族のご招待を簡単に断る事は出来ず、ただ、本当に急なお話だったので「用意ができません」とかろうじて断れるかな?って感じだったみたいです。
まぁ、今まで何度か同世代の子と遊んだ事はありますが、こんな風に大規模のお茶会は初めてですから緊張はしますけど……頑張ります。
せっかくのお声がかりですし、兄様の恥になるような事はしません。
頑張りますって胸を張って宣言したのですが、兄様どころか執事やメイド達にまで心配されてしまいました。
そんなに頼りないですかねぇ?
自分ではしっかり者のつもりだったのですが……。
で、メイド達によそいきのドレスにリボンで可愛らしく髪を整えて貰って、兄様に手を引かれて王城へとやってきたのです。
子供達が緊張しないようにという事で会場の入り口で兄様と別れ、会場のメイドさんに導かれて席に着いたのですが………。
うん。乗り遅れた感が半端ありませんね。
既に何回か開催されているお茶会らしく、皆さん顔見知りで派閥もできている模様です。
私が案内されたのは欠席したご令嬢の席だったので「何この子?」な視線が痛いです。
結果、さりげなく会話から爪弾きにされてます。
前回までのお茶会の話をされたって話題に入れるわけがありません。
第4王子様の素晴らしさを語り合うにも噂でしか知らない方ですしね……。
うん、これ、さりげなく無いですね。あからさま過ぎて笑えてきます。が、ここは我慢です。ここで笑ったらグレイゾーンから完璧に敵認定ですからね。
結果、半笑いの微妙な表情でお茶をすすっているわけですが。
そうこうしているうちに、本日の主役の登場です。
侍従らしき男の子と二人連れでやってきた王子様は同テーブルのご令嬢達が語っていた通り、きらきらしい美少年でした。
この間お会いした第1王子のミニチュア版という感じですね。
最初は各テーブルを王子様が回って歓談。その後は自由に動いていいフリータイムの様です。
たいてい、王子様主導でみんなでゲームするみたいです。
1テーブル5分ほどでサクサクと進む王子様の姿をみんながジッと見つめています。
まぁ、男女合わせてテーブル10台以上ありますしね。そんなに時間割けませんよね。
しかしご令嬢の皆さん、なんだか目が爛々として怖いのですが。
前にうちの猫が枝にとまってる小鳥を見てた時の目にソックリです。
これはもしかして王子様の婚約者や将来の側近探しの場でもあるのでしょうか?
さて、やっとこのテーブルにもいらっしゃいました。
我先にとご挨拶する令嬢達の声が賑やかです。
それににこやかな笑顔で丁寧に返していく王子様。その年で既にロイヤルスマイルを会得してるなんて素晴らしいですね!
表情筋が凄く鍛えられそうです。
ちなみに私もお言葉を賜りましたよ。
「初めまして、さや嬢。可愛らしいリボンですね。今日は仲良くしてくださいね」
……多分次回には本日病欠の令嬢が復活するのでもうお会いすることも無いかと思いますが……。あ、だから「今日は」なんですかね?
と、いうか、お姉さま達の目が怖いので構わないで放っておいてくださって結構ですよ〜。
どうにか「初めまして」のご挨拶は出来ましたが、笑顔が引きつってたのは大目にみてください。
そうして始まりましたゲームタイム。
本日は「かくれんぼ」だったのですが。
「あなた、突然やってきてショーン様にお言葉をかけてもらうなんて図々しいのよ」
「マリア様、本当にお病気なの?貴女が何かしたのではなくって?」
「イヤね〜卑しいわ〜」
はい。
お姉さまに囲まれて攻撃されております。
と、いうか言いがかりも甚だしいですね。
こんな事で傷つくほど繊細では無いので良いんですけど、これ、気弱なご令嬢ならトラウマになるのでは無いでしょうか?
こんな風に絡まれることまで見越していたのなら、兄様の過剰にも感じた心配も分かるというものです。
まぁ、テーブルに着いていた時点でこの状況は想像済みですので、さほど動揺はありません。
想像よりもちょっと激しいですけど、燃料投下の瞬間に立ち会いましたしね。
えぇ、こんなものでしょう。
燃料投下。
それは間違いなく王子様のお言葉と態度ですね。
名前呼びも装飾を褒めるのも、まぁ、礼儀の範囲内でしょう。他の令嬢への一言もそんな感じでしたしね。
ただ最後の「仲良くしてください」
アレはアウトです。
何気無い言葉ですが、個人に向けるには好意のベクトルが向きすぎです。
現に過剰反応したお姉様方大暴走。
「かくれんぼ」で人目が無いことも暴走した結果ですかね?
と、いうか。
「………性格悪」
「なんですって?!」
思わずぼそりと漏れた言葉にお姉様方が敏感に反応しました。が。
「あ、失礼いたしました。つい心の声が。お姉様方に言ったのでは無いので気を悪くされないでください。お詫びにもう2度とこの様な会には顔を出さないとお約束いたしますわ」
ニッコリ笑顔で膝を折ります。
優雅に見える様、ゆっくりとした仕草で。
状況にそぐわない私の態度に、お姉様方はキョトンとしております。
まぁ、泣かしてやろうと意気込んでいた相手が、怯えもせずにこんな態度では毒気も抜かれますよね。
「………そ、それなら良いのよ。身の程を弁えて大人しくしてらっしゃることね!」
捨台詞とともに去っていくお姉様方を見送った後、ため息をついてその場にストンと座り込みました。
生垣の陰ですが足元は芝生で覆われてますし、ドレスが汚れることも無いでしょう。
「………そこで覗き見をしている悪趣味な王子様、ソロソロ出ていらしてはどうですか?」
「………気付いてたのか」
そのまま、独り言の様な声で呟けば、ガサリと背後の茂みが揺れ王子様とどこかバツの悪そうな侍従さんの姿。
バツが悪そうな分、侍従さんには好感が持てますね。
薄笑いの王子様にはちっともトキメキませんが。
と、いうかやっぱり覗き見してたんですね。
悪趣味にもほどがあります。
位置的にも私の背後の茂みあたりからだろうとは思いましたけど、本当に出てくるとは……。
だいたい、おかしいと思ったのです。
そう回数は多く無いとはいえ、小規模の茶会には参加したことがあるので、当然、知り合いの令嬢の姿だって会場にはあったのです。
それなのに、有無を言わせず病欠の令嬢の席に着かせ孤立させられたこと。
挨拶回りの王子様のさりげなく他よりも親しげな言葉。
そもそも、会場入りの時間もズレて教えられていた可能性があります。
私が着いた時には、他の方は皆さん集まってましたからね。
だけど、連れて来てくれた兄様が遅刻するなんてありえません。
つまり、誰かが画策して私の印象を悪くするために動いていたとしか思えないのです。
まさか、王子様自らとは思いませんでしたが。
「女の争いは面白かったですか?」
座り込み、背を向けたままぼそりとつぶやきます。
チラリと横目で伺えば、相変わらずの薄笑い。
そうですが、楽しいですか。
初めての会場で緊張している年下の女の子を孤立させ、あまつさえ攻撃されやすい様に周りを誘導して……。
困り顔の侍従さん。
悪趣味な主人に付き合わされてご苦労様です。その年で胃痛持ちになってないと良いですね。良い人そうだから、もうなってるかな?一緒に楽しめるくらい性格悪かったらよかったんでしょうけど。
さて、もう1つだけ確認。
「………私以外にも同じ様なことをされているんですか?」
聞きたかったのは初犯かそうで無いのか。
「さぁ、どうかな?」
ニヤリと笑う意地の悪い笑顔。
はい、アウト〜。
私はスクッと立ち上がるとクルリと振り返りました。
そして、その勢いのまま鳩尾めがけて拳を振り抜きます。
身長差もあって綺麗に入りました。
まさかの予想もしなかった暴挙に身構える暇もなかったのでしょう。
王子様は崩れ落ちて悶絶しております。
侍従さんはあまりのことに身動きも出来ず呆然としていますね。
ぽかんとした顔がちょっとかわいいです。
私が初犯の「いたずら」ならスルーして、兄様経由で注意してもらおうと思ったんですけどね。
他にも被害者がいるというなら、話は別です。
お姉様方、私をここに連れ込む様子がやけに手慣れてましたからね。初めてでは無いだろうとは思いましたけど。
もう一度いいますが、気弱な令嬢ならお茶会にトラウマ持っちゃう怖さなんですよ?複数に囲まれて悪口を浴びせられる行為っていうのは。
それを、敢えてその状況を作り、それを見て面白がってるなんて言語道断。
完全に「主犯は王子様」のいじめ現場でしょう、これ。
「………お、ま……。こんな……許されると……」
苦しそうに呻きながらも何か言ってますね。
というか、まだしゃべる余裕があるんですね。
やっぱり8歳児では力が足りませんね。
「許されますよ?決まってるでしょう?悪意を持って令嬢を陥れたのですから。王妃様に御報告して叱っていただきます」
「なっ?!」
驚いた顔していますが、こんな事してバレたら咎められないと思っていたんですか?
「王妃様は女性に優しく無い殿方は大嫌いですもの。叱られないわけ無いでしょう?手を挙げたのも、王妃様なら教育的指導とむしろ私が褒めていただけるでしょうね」
実はお母様と王妃様、ご友人なんですよね。
なんでもご結婚前にお忍びで町歩きを楽しんでいた王妃様のピンチをお母様が救ったのがご縁とか。
身分差が大きすぎて表立って仲良くするといろいろ面倒(←母様談。王妃様涙目でしたが)、との事で公式には中々お会いできないし、会っても親しい顔はしないそうです。
その分、お忍びで我が家に訪ねてこられるので、私も面識があるのです。
あくまで非公式のお忍びなので、ご存知なのは陛下とその側近くらいでしょうけどね。
仲良しのお友達と会うのにもコッソリしなくてはいけないなんて、大人っていろいろ面倒ですよね。
先程とは逆に座り込んだ王子様を私が見おろす構図ですね。
痛みのために涙目で見上げてくる瞳としっかりと目を合わせニッコリと微笑んでみせます。
何故か顔色がさらに悪くなりましたが、どうしたのでしょうね。
「はい。ショーンの負けだね。趣味の悪い遊びはもう止めて、潔く母上に叱られてくることだね」
凍った空気を溶かしたのは朗らかな声でした。
そして、振り向く前にヒョイッと後ろから抱き上げられます。なんかデジャブですね。
片腕に乗せられる様にして抱き上げたのは予想通りの第一王子様でした。
「………弟がすまなかったね。きちんと躾直しておくから、許してくれないかな?自分よりも小さな子にやられて、本人もダメージ大みたいだし、ね」
少し眉を下げての憂い顔ですが、目の奥が笑ってますよ?
この至近距離ではバレバレです。
「………や、です。だって、分かってて私に声がかかる様にしたでしょう?」
予想を口にすれば、困り顔のママ少し首を傾げられました。
「………確証は無かったんだけどね。子供たちの集まりに僕が首を突っ込むのも無粋だし。ただ、様子がおかしかったから、何かあるんだろうなぁって」
……そうですね。第一王子が出てきたら大事になりますものね。
そうなると、子供のいたずらですまされなくなるわけで、第4王子という立場上、いろいろと面倒なことも……。
涙目のまま座り込んでいる王子様をジッと見つめて、ふぅ、と大きなため息をひとつ。
「………ベリーのケーキ、美味しいのが食べたいです。さっきは食べるどころでは無かったですから」
「ストロベリーティーもつけよう」
ニッコリと笑顔が返ってきました。
嬉しそうな顔にほっこりしますが、また面倒に巻き込まれてもなんなので、釘は刺してお
きましょう。
「後、私を巻き込んだこと、兄様からお説教されるのは確実なので、覚悟していてくださいね?」
「………はい」
一気に顔色が悪くなりましたね。
怖いですよね……兄様のお説教。
私も母様の説教の次に怖いです。ちなみに父様は私に甘々なので怖くありません。
「………ショーン様」
抱っこされたままその場を立ち去りかけて、ふと思いついて降ろしてもらいました。
ショックのあまり座り込んだままの王子様の前に座り込み、しっかりと目を合わせます。
「他にも傷つけた方がいらっしゃるのなら、しっかりと謝罪されてください。体が傷つくより、心の傷の方が痛い事もあるのです。
あなたの何気無い行動ひとつで振り回される人が居るのはもうご存知でしょう?
自分の力を自覚して、しっかりと考えてください。その力が良き方向へと生かされることを臣下として願います」
そうして立ち上がりしっかりと臣下の礼をとると、今度こそ背を向けて歩き出しました。
その後、第一王子様の執務室で美味しいケーキを頂いたり、その横で駆けつけてことの顛末を聞いた兄様が冷笑を浮かべ王子様をどこかへ連れて行ったり、お茶を飲み終わる頃げっそりした王子様と共に戻ってきた兄様と一緒に家に戻ったりしたのですが………。
「さや嬢、本当に申し訳なかった。私は末子として甘やかされて、王族としての自覚が足りなかったのだ。今後、2度と同じ事は繰り返さないと誓うから、どうか私が再び道を踏み外さない様に側で見ていてくれないか?」
3日後、お忍びで我が家を訪ねてきた第4王子のショーン様に膝まづいて謝罪を受けているのですが、どうしてでしょう。
そして、後半が若干謝罪とは違うものになっている様なのですが……気のせいですかね?
そして同じ部屋のバルコニーの方ではお母様と王妃様がお茶をしているのですが、チラチラこっちを見てるのバレてますからね?
王妃様、どの方向に説教したらこうなったんですか?
確かに謝罪しに行けとは言いましたけど、私はそれに含まれてませんよ?
だって傷ついてないですし。どちらかというと(肉体的に)傷つけたのこっちですからね。
ソファーに座った私よりも若干低い位置から見上げる瞳が不安に潤んでいます。
意地悪王子がいつからワンコに路線変更したんですか?
ヘタレた耳と尻尾の幻が見えます。
「………ダメ………だろうか……」
紅顔の美少年の泣きそうな顔って、ダイレクトに心臓抉ってくるんですね。知りませんでした。
相手は私よりも年上ですけどね!
「………お友だちになら、大丈夫ですよ?」
自意識過剰かな?とも思いますが、一応釘は刺しておきます。
我が家の爵位だと第4王子ならぎりぎりお相手としてつとまっちゃうんですもの。王族の一員とかそんな面倒な立場ゴメンです。
私の将来の夢は官吏になって兄様のお手伝いですから。
「あぁ!もちろんだ。ありがとう」
途端にパァっと輝く様な笑顔を浮かべて立ち上がったショーン様が、嬉しそうに手を握りしめてきました。
と、いうわけで。
お茶会に行ったら年上のお友達が出来ました。
読んでくださり、ありがとうございました。
甘やかされてちょっと悪ぶりたいお年頃の第4王子様(笑)
今後は反省して真面目にやりつつ、お友達ポジからの下克上を狙うのでしょう。
ちなみに人種世界観は西洋文化。ただ、さやちゃんのお家は東洋から流れてきて手柄を立て爵位を得たお家なのでちょっと和風です。
新参者と冷たい目で見られたりもしますがみんな優秀で実力でのし上がり、周りに認めさせてる感じ。
まぁ、どっちにしろふんわり世界観ですが(笑)