第四話
「初めましてー、俺海!恭介とは大学からの親友でぇー」
「海と恭介のお目付け役の清太、よろしくね秋乃ちゃん」
「あ、はい…よろしく」
なんだかんだと言われるまま連れて行かれるままに、四条河原町まで歩いて来てしまった。
清太君のひと声で喫茶店に入ると言う事になったのだが、そこは何と有名な紅茶メーカーが出店しているところで、店に入った瞬間感動で清太君にお礼を言った。
「清太君ここ、来てみたかったところで…ありがとう!!」
「女の子はオシャレなカフェとか好きでしょ?
何頼む?お兄さんが好きなの奢ってあげるよ?」
向かいに座った清太君が大仏様に見えて来る。
うわー、うわーと声を漏らしていると「俺の時より懐くの早くない?」と不貞腐れた様子の恭介君が隣でそう呟いた。
「それに清太君って…俺もまだ名前呼んでもらった事無いのにさ…」
「あー、恭介が拗ねたー」
「秋乃ちゃん、面倒臭いと思うんだけど呼んでやってくれない?
こいつこの間から秋乃ちゃんの事ばっかりでさー。
今日だって海が鴨川行きたいって言ったら目が輝いたりして」
「うぃよ、余計な事言うんじゃねえよ、清太!!」
慌てたようにメニューを縦に振る恭介くんに、私は「ごめんね恭介君」と苦笑する。
「会えた事自体にも驚いたし、なんかいっぱいおったから…」
「いや…秋乃ちゃんが悪いんじゃなくて…」
「はいはいリア充は放って置くとして…何頼むー?
俺的にはー、このプレミアムドームがおすすめ!!
紅茶は何が好き?コーヒーとかも良いけど、せっかくここ来たんだから紅茶だよな!!」
「ここ、実は結構前から気になってたとこで…ウバクオリティーシーズンが気になってた」
「あ、それ分かるー。それ頼もう。
お前らはー?何でも良かったら俺適当に頼むけどー」
てんやわんやと小さな喧嘩を繰り返しつつ、なんとかウエイターさんに注文を終える。
窓の外を見るとすっかり夕日が傾いている。
大阪駅に帰るのに一時間あれば良いから、少しゆっくり話してみようかなとそわそわしていると、海くんに呼ばれて振り向いた。
「秋乃ちゃん、今日は何してたの?
あの嵐山のお寺じゃなくて清水辺りに一人って…よっぽど京都好きなんだね?」
「もちろん京都は好きだけど…今日はお爺ちゃんのお墓参りで来て…千光寺はなんて言うか癒しの場所って言いうか…」
言いつつ、看板犬の豆柴スミレちゃんを思い出してにやけるのを我慢する。
「お墓って近いの?」
「うん、清水寺の本当にすぐ近くだよ」
「そうなんだ…清水寺には行った?今日人多かったでしょ、紅葉の見頃だし」
そう言って苦笑した恭介君に首を振って「それがお墓参りの道順的に素通りしちゃって」と笑う。
あの人ごみに一人で行ったら迷子になりかねないしと付け加えると、海君と清太君が顔を見合わせて首を傾げた。
「そう言えば11月から清水寺、ライトアップ始まるんじゃなかったっけ?」
「そう言えばそうだったな、駅に張り紙してたし」
小声で言う二人の会話は聞き取れなくて、私と恭介君はまた違う話題で盛り上がる。
「俺昨日千光寺行ったんだけど、良いの撮れたよ」
「わあ、写真?…千光寺って言うか、スミレちゃんのオンパレード!!可愛い!!」
見せられた写真のほぼすべてがスミレちゃんで、私は大変癒された。
さっきまで脳内で妄想するだけに留めていただけに私のスミレちゃん愛は膨らむ。
「あー…くりくりの黒目、ふわふわの体毛…大人しくて懐っこいスミレちゃん可愛い」
「良かったら送るよ、LINE教えて」
「うん!!」
喜んでバーコード読み取りの画面を開くと、恭介君は笑顔で私に送ってくれる写真を厳選し始めた。
眠っているスミレちゃんの写真、欠伸をしてるスミレちゃんの写真、毛づくろいを邪魔されて牙を剥いている写真…何をしていても可愛い!!!
「秋乃ちゃん、目がハートだけどなに見てんのよ恭介ー」
「千光寺、前に行っただろ?そこの看板犬のスミレ」
そう言って、恭介君はスミレちゃんの写真を表示しながら海君と清太君に携帯を手渡す。
「ほうほう…」
清太君が恭介君の携帯に携帯をかざすので首を傾げていると、何をされたのか分かったのか恭介君が「あっ」と短く叫んで携帯を取り上げた。
海君と目線が合うとニヤリと微笑まれた。
「秋乃ちゃん、今度京都来た時は俺達にも連絡くれる?良ければ案内するし、おすすめの抹茶製品とか教えるよ?」
「抹茶…っ」
やっぱり目の前に居る清太君は大仏様だ。
私は両手を組んで清太君に「お願いします」と笑った。
「えっ、ちょま…」
「俺それに付いて行くーっ!!」
「げ…海お前まで…!?」
青ざめて行く恭介君に首を傾げていると「俺も京都の事好きだから色々案内出来るしっ!!」と力強く叫ぶ。
「…お客様、店内ではお静かにお願いいたします」
にこりと注文したケーキと共にやって来たお姉さんは、それだけ言うと去って行った。
可愛い制服だな…似合うな、美人さんだなと感動しながら、私達は少しだけ声のトーンを落として話した。
…あれから二時間くらい話しただろうか。
空はもう暗くなっている。それでも六時前…楽しい時間はあっと言う間だな。
プレミアムドームは気付けば食べ終わっていて、正直あと二つは入る気がする。
紅茶も期待していた以上に美味しかったし、恭介君達も甘いもの大好きみたいで「美味い美味い」と笑顔を見せていた。
腕時計を見つつ、清太君が「秋乃ちゃん、帰りの電車の時間とか平気?」と聞いて来たので「一時間と少しあれば帰れるよ」と答える。
「そっか、大阪だもんね」
「そう寂しそうな顔すんなよ恭介ええ~!
安心しろ、大阪なら俺もそうだし!安全確実に送って行ってやっから!!」
「お前だから心配なんだよ!!」
舌打ちをした恭介君に「まあまあ」と苦笑しながら、もう帰る時間なのかと少しだけ落ち込んだ。
昼前に来て、河原町からスタートしたお散歩は思いの外幸運に恵まれて恭介君と再会、さらには美味しいケーキも食べられた素敵な時間になった。
それにスミレちゃんの写真も恭介君から貰ったし、清太君と海君と言うお友達も出来た。
良い日だったなと締めくくりつつ、河原町の駅まで送ってくれると言う三人とまたお話ししながら店を出た。
一階にあったザクロのケーキを家へのお土産に買って行って、それを持ちながらまた来ようと心に決める。
「ここから大阪…って言うか梅田駅までは五十分くらいだな」
「海君ってずっと大阪から京都に通ってるんですか?」
「ん?まあ家の事色々あるしな。
秋乃ちゃん、俺の事普通に海って呼んでくれていぞ?あと同い年だし敬語無しで良いし」
「じゃあ海、私の事も秋乃で良いよ!」
にっこりと微笑むと、海も嬉しそうに笑う。
「じゃあ僕も清太で良いよ、秋乃。
同い年って感じが全然しないのが面白いけど」
「俺の事も名前で呼んでね、秋乃ちゃん」
ムッとした恭介君と、それを面白そうに笑って見ている清太に私は首を傾げた。
「…あれ?海、清太…恭介君」
「なんで俺だけ君付け?」
「なんやろ…初めましての時に君付けで呼んだからかな?」
苦笑すると隣から「あー、分かる分かる、あるよなそう言うの!」と海が頷いて「ドンマイ、恭介君…ぷっ」と笑いを堪えられてない清太。
私は内心混乱しつつ「ごめんな」と苦笑した。
「まあ、なんか特別っぽいから仕方ないけど諦める」
「なるべく頑張って言えるようになれたらいいな」
「ちょ…秋乃ちゃんが諦めたらそこで試合終了なんだけど?」
焦る恭介君が面白くて、改札に近付いて来るのがもったいない。
定期の海が先に改札を潜って、私も切符を潜らせて改札を出る。
「じゃあ秋乃ちゃん、また京都来る時はLINE飛ばしてね!
色んなところ案内するから!!あと海に余計な事言われたら殴っていいからね、俺と清太が許可するし!!」
「僕もおすすめのお店LINEするからね」
「お前らは秋乃の親かよ!!俺が帰る時はいつも上で帰りやがるくせに!!」
「うん、また来るねー!ばいばーい!!」
ぶんぶんと手を振りながら、私と海は人混みに紛れる。
河原町からどうにか席を確保して色んな事を海と話した。
今日なんで恭介君達が河原町に来ていたのか、嵐山には恭介君が好きな場所がたくさんあって連れ回されていたとか、紅葉や桜の時期は人が多いけれど穴場があって、そこだと人は少ないっから良く集まっているだとか。
結局海は地下鉄で、私はJRだったのでそこでお別れになってしまったけれど、また京都に行く時はLINEしろとの事なので私はそのまま海と別れた。
友達とばいばいする時は、また次があるから不思議と寂しくない。
「…これは進展、だと受け取って良いよな。
帰りゆいの家寄ってザクロのケーキでお礼しよ」
次に京都に行く時はあの三人に連絡してからにしよう。
新しい楽しみが増えて、私は笑顔で帰路についた。