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第二話

「あーき、突然呼び出して…どうしたん?」


「……うう、いずみん…もう聞いて聞いて!!

ずっとずっと話したくて話したくてなーっ!!」


スタバで待ち合わせをしていると、後ろから現れた友達に私は声を掛ける。


一週間前に嵐山の千光寺へと行った話しを永遠とSNSで自慢していたのだが、辛抱堪らずいずみんこと佐渡(さと)(いずみ)を呼び出したのだ。


十月も半ばで、少し肌寒くなって来た。

相変わらずのジーンズにパーカーを着こなしたいずみんは目の前の席に腰掛けると「ほんで?」と首を傾げた。


「あんなあんな!明日、嵐山行こう!!」


「めっちゃ急やな?」


キャラメルマキアートを飲みつつ「まあ、暇やから良いけど」といつも通りに無気力に賛成してくれた。

いずみんは高校の時からの友達なのだが、双方いつ仲良くなったのかと言われると首を傾げてしまう。

しかし気の使わなくても良い数少ない友人として、私達は良く会っている。

基本的に遊ぶと言って集まっても、いつもそこいらを回って夕方に近付くと解散すると言う生産性の無い休日を過ごすので、行きたい場所があれば私が勝手にいずみんを引っ張りまわすのが常だ。

もう四人程、私がたまに連絡を取って連れまわす友人がいるのだが…その子達の話しは追々嵐山に引っ張り込む予定として置いておこう。


「そう言えば嵐山って行った事無いかも」


「私も最近まであんまり行った事無かったんやけど、前に行ってみて「これは良い場所やな」って思って!!」


「それはツイッターで見てたけど…山の中なんやろ?」


「うん!駅から渡月橋まで行ったら、あとは山に沿って真っ直ぐ川を上ります」


「ボートで?」


「ううん、歩き。あんな、白いおっきい鳥とかカモとか!!

あと紅葉の時期に来たらすごい綺麗ねんて、向こうの人が言うててん!!

めっちゃ気になるし、いずみんも一緒に行こ!?」


「ああ、うん。じゃあ明日、時間とかどうする?」


「えっとー」


携帯でアクセスを調べつつ、翌朝九時に梅田の駅で待ち合わせと言う事になった。

その後はいつものようにスタバでお茶を飲みつつ適当に時間をつぶして、ゲームセンターに寄って明日のお菓子を調達して帰った。


今度行く時は虎屋の羊羹を買って行くと言う約束だったので、いずみんにLINEで「明日買い物あるから、途中ちょっとお店寄る」と伝えておく。



朝。


私はリュックに携帯の充電器と時計、そして暇になったら時間をつぶすようにゲームと二冊の文庫本、そして昨日ゲットして来たお菓子とお菓子とお菓子とお菓子と、最後にイヤホンを入れた。

この間行った時は初めてだったのと勝手が分からなかったからゲーム出して良いのか、小説読んでも良いのか分からなかったけど…まあ、外で読む分には大丈夫だろうと言う事で持って行くとする。


「…ちょっと早いけど行こうかな」


どうせいずみん遅刻するだろうし。

私は予定の十五分前に家を出た。


JRの今宮駅から十五分で大阪駅に到着だ、改札を出て阪急乗り場に向かう途中に携帯を見ると「ごめん、遅れる」と入っていたので「ゆっくりで良いよ」と返信しておいた。

朝の八時半は通勤で急ぐお兄さんお姉さんで溢れていて、それはJRも阪急も同じだ。

おそらくいずみんは朝御飯をゆっくり食べて来るだろうし、私は高校を卒業してからは食べない習慣が出来てしまっていたのだが…今から電車に乗る訳で、向こうで気持ち悪くなったりしたらせっかくの気分が台無しになる。

しかもいずみんなんて、ほとんど私が引っ張って来たようなものなのに私の勝手でそんな事許される訳が無い。

一つ頷くと、阪急乗り場手前にある成城石井でおにぎりとお茶を買っていずみんが来るまでに食べ終えておく。

食後のお茶を飲んでいると、ふらりと人波からいずみんが出て来たので駆け寄り、切符売り場に向かう。


「嵐山で良いの?」


「うん、途中桂って駅で乗り換えで…そこから三駅、一番前の車両に乗ってたら目の前に山が見えてテンション上がる!!」


「へー」


適当な相槌で流されつつ、私達は一番乗り場へと向かい、ちょうど滑り込んで来た特急へと乗った。

そこから三十分と少しで桂の駅に到着した。

一回目に乗った時より時間が早く感じるのは楽しみに感じているからだろうか。


「それで、何を買いに行くん?」


「へ?」


桂の駅で嵐山へと向かう電車を待っていると、いずみんから問い掛けが来て首を傾げる。


「昨日の夜、LINE入ってたやん」


「……ハッ!!やばい、虎屋の羊羹!!!」


「忘れてたと…」


呆れの表情で溜め息を吐かれ、私は慌てて虎屋の羊羹が買えるお店を検索した。


「今日の朝までは覚えてたのにぃ!!

うわああ、いずみんごめんんん!!!」


「別に良いって、それでこそいつものあきやし」


「うおおおお、ほんますんません!!!」


涙目で携帯を握りしめていると、後ろでくすっと笑う声がして振り返った。


「あー…ごめんなさい」


「あれっ、なんか見た事ある気が…」


「前は切符、ありがとう」


そう言ってひょこっと首を下げる男の人は笑って私達に近付いて来ると「虎屋なら四条通に店舗があるよ、もうちょっとしたら開店するし」と教えてくれた。


「ちなみに一番乗り場で、十分くらい」


「あっ、ありがとうございます!!」


聞くだけ聞いて頭を下げると、私はいずみんを引っ張ってさっきまで居た一番乗り場の方へと地下階段を駆け降りて電車へと走り込む。


「うへぇ…間に合った…」


「今の誰、知り合い?」


「え?あー…」


一度会った事あるだけ、と答えると「へえー」と興味が無さそうに視線を反らされた。

…知り合いと言えば知り合いになるんだろうけど、まさかまた会うとも思ってなかったし…と言うより、タイミングが合ってまた会えただけで知ってるとも言えないような?


「…あき?」


「ああ、ごめんごめん、次の駅やな」


曖昧に微笑んで私は頷いた。


…桂の駅に居たと言う事は、残りの三つの駅のどこかに用があるんだろうか?

もしかしてまた千光寺で会ったりしたりするんじゃ…なんて、小説の読み過ぎだなと心の奥に追いやった。


今日は前に出会った素敵な秘密基地をいずみんに自慢する為に来たんだから。


深呼吸をすると、私はいずみんを伴って電車を降りた。


無事にお土産も買い終わって、私達はようやくの思いで嵐山の駅へと辿り着いた。

前に来た時とは違って今日は晴天だ、気温もちょうど良いくらいで…もう時期に紅葉の季節だからか、少し人は多いかもしれない。


「いずみん、こっちこっち!!」


「はしゃぎ過ぎやろ…」


「なんかこう…来たー!!って感じせん?

すっごい安心すると同時にわっくわくしてさ、なんかこう…ぐわって感じ」


「擬音語ばっかじゃ伝わりマセン」


すぐ後ろを歩くいずみんに「ひっどー」と呟きながらも、私は羊羹片手に足取りは軽い。

あっと言う間に渡月橋が現れて指を差し「ど?」と首を傾げると「橋やな」とにべもない。

でも確かに「これが文化財…!」「なんて素敵なんだ!」とならない辺り、いずみんと思考回路や感動する部分が似ているのかもしれないと思わなくも無い。

橋よりも私は自然に感動する。

千光寺に行って、余った時間を清水寺辺りを回るのに使うのも良いかもしれない。

さすがに朝からやって来てずっと居る訳じゃないしね。


「いずみん、こっち」


「はいはい」


適当な相槌と歩幅に微笑むと、私は初めに見た看板の前までやって来て「これこれ」とほくそ笑む。


「前来た時、これ見て千光寺の方に行こうと思ってん」


「怪しいやろ、よう行こうと思ったな!」


「ほんまに!でもめっちゃ気にならん?絶景って書いてんねんで?」


「あー…まあ、確かに」


笑ったいずみんに「そやろー!」と返しながら、私は桂川を上って行く。

天気が良いだけで人の数は大幅に変わるらしい。

ボート乗り場にはカップルや旅行客がたくさん居て、川の上をいくつものボートが浮かんでいた。


前は叫び合うおじさんの声だけが聞こえていたので、なんとなくさらに気分が上がって行くように感じた。


ボート乗り場を過ぎるとすぐの左側には山から流れて来ている小さな滝があって、もう少し進むと大きく曲がった道になる。

するとどんどんと辺りの騒がしさとかが無くなって、しんとした中で鳥のさえずりが聞こえて来る。

都会のド真ん中じゃ中々味わう事の出来ない緑の癒しに、私はにこにこと微笑んだ。


「良いやろ」


「良いな…」


ゆっくりと帰って来た返事に頷いて、徐々に急になった坂道を上りつつ上を見た。

真夏に来たらさすがに暑いだろうな…冬過ぎても京都だから大阪よりも寒いだろうな。

今の時期にここに来れて良かったな。

無言で並んで歩いていると、あの砂場へと出た。

川なのに砂…私からすればどこから来たんだこの砂はって言いたい。

川と言えば岩、海と言えば砂だと思ってたのに…どうも一概にそうとは言えないみたいだ。


「どーする?降りてみる?」


「ん?別に」


「んじゃ行こか」


淡白なのも相変わらずだ。

私達は右手に旅館を確認しつつ、少し怪しい小道を歩いた。

真っ直ぐ続く道の正面は玄関と言うか門が閉まっていて通れない、向かうのは左手に伸びる階段だ。


「はい、杖」


「どうやって使うん?」


「さあ?ご自由にって書いてたから使ってみよかなーって」


そう言って先に進むと、いずみんも後ろに続く。

道なりに門を抜け、大きな大木を横切り、今日も開いていない小屋を抜け、文字が刻まれている大岩を横切り、少し危ない足元の石段を登り、丸太ベンチに少し腰掛け休憩し、もう数歩進むと見えて来たカラフルな旗に頬が緩む。


「いずみん、あとちょっと」


「あ、そ…」


思った以上に体力のあるいずみんに負けじと、私も歩くスピードを速めた。

正直結構キツいけど…あの旗が見えればもうゴールはすぐそこにあると分かったからこそ頑張って歩いた。


横に大きく突き出た木に気を付けながら、お地蔵さまに手を合わせて「お邪魔します」と声を掛け、門を潜ると…鐘突き場が現れた。


「いっずみん!こっち!!」


虎屋の羊羹の入った紙袋を振り回しながら最後の石段を駆け上がる。


「と、う、ちゃーっく!!こんにちはー!!」


「……ちはー」


中庭…と言えば良いんだろうか?

その中央に置いてある赤い布が敷かれた長椅子の上に、この間来た時の作務衣のおじさんが居た。

すると、驚いたように立ち上がって「また来たんかー」と言われた。


「また来るって言ったもん!はいこれ、お土産の虎屋の羊羹」


「気使わんでええ言うたやろ」


「良いねん、良いところ来れたなと思ってたし…絶対また来るつもりやしー」


にひひと笑うと「離れ入っとき」と微笑んだ。


「お茶入れたるわ」


「やった!ありがとー!」


なんとなくいずみんを紹介出来ずだったけれど、まあ帰ってきたら話せばいっかと勝手に決めると離れの方へと向かった。


「うん?」


「こんにちは」


離れに入ると、さっき桂で助けてくれたお兄さんが窓側に置いてあるベンチに腰掛けていた。

私達に気付くとにこりと笑って手を上げた。


「あ…さっきはありがとうございました、おかげでお土産買えました!」


「どういたしまして、先週も来てたよね?ここ、気に入ったの?」


イントネーションからして東京の人かな。

私は一度だけいずみんに振り向いて、あんまり人と話さないいずみんの代わりに男の人へと向き直った。


「はい、先週来た時に雰囲気が気に入って!」


「確かにここの雰囲気は良いよね、なんて言うか…自分のペースで寛げるって言うか」


「なんか秘密基地みたいでめっちゃ好き!!」


そうそうと相槌を打つのと、作務衣のおじさんが私達を呼ぶのは同時で、くるりと振り向くと離れの前にいたおじさんが「こっちこっち、離れで飲み食いあかんかったわ」と言って私達を呼んだ。


ああ、ダメだったのかと腑に落ちて、私はいずみんと一緒に一度離れを出る。


「俺はここに居るよ、お茶が終わったら少し話そう」


「はい!」


小さく手を振りながら中庭に行くと、そこには二切れの羊羹とお抹茶が点ててあって、私はおじさんを見る。


「お土産やで?」


「わしは後でもらう、先食え」


「…んじゃっ、遠慮なく…いただきまーす!」


「いただきます」


二人で手を合わせて羊羹に楊枝を差す。

やっぱり美味しいなー、幸せだなーと思いながら雑談。

どうやら作務衣を着ているこのおじさんはここの和尚さんとかでは無く、お手伝いさんらしい。

おじさん改め安村さん。

忙しい和尚さんに代わってここの修繕や接客をしているらしい。

そして実はここに入って来た時から気になっていた存在にゆっくりゆっくりと近付いて行きながら、私はいずみんを放置して手を差し出した。


「はは、初めまして…宮本秋乃と言いますぅ…」


「あき、顔へンやで」


酷いいずみんのツッコミをスルーしながら、私は黄金色の毛並みの柴犬を撫でる。

ふんふん鼻を鳴らしながら真っ黒なおめめで見上げられ、可愛すぎて構い倒す。


「スミレって言うんや」


「スミレちゃんかー、可愛いなー」


わしわしと頭を撫でながら愛でてると、スミレちゃんは尻尾をぶんぶん振りながら私の手を甘噛みする。

可愛すぎて離れられない…。

私は未だゆっくりと羊羹を食べているいずみんに心の中で「ごめん」と謝って、ひたすらにスミレちゃんに構いまくった。


飽きるほど撫でまくっていると、いつの間にか食べ終わったいずみんが離れに引っ込んで行くのが見え、すれ違いでさっきのお兄さんが離れを出て来た。

きょろきょろと首を振って何をしてるんだろうかと眺めていると、私と目が合って苦笑する。


それに首を傾げつつ見守ってると、同じくスミレちゃんの前まで来て「待ってるって言ったのに」と言ってスミレちゃんの喉元をかく。


「あ。そう言えば言われてた…」


「スミレ可愛いもんな、離れられなくなる気持ちはすっげー分かるけど」


そう言って笑うと、携帯を取り出してスミレちゃんをぱしゃり。


「あれ、あのおっきなカメラは無いんですか?」


「今日はちょっとした散歩だから、そこまで大掛かりな物は持って来なかったんだ」


「散歩?」


「そう、散歩」


目を細めながら気持ち良さそうにしているスミレちゃんを見て和みつつ「近いんですか?」と聞いてみる。


「近いっちゃ近いよ、そっちは大阪?ちょっと遠いんじゃないの?」


「まあ…家から一時間と少しです、隣ですしそこまで遠くは…どうして大阪だとばれたんすか」


「イントネーション?俺大阪に友達居るし」


くすくす笑うお兄さんは「俺、神崎恭介」と簡単に自己紹介をした。


「宮本秋乃です」


「中学生?」


「んぐっ」


私の笑顔は引き攣った。


…ああそうさ、普通に見ればそうだろう。

私はれっきとした成人であるし、お酒だって飲めればたばこだって吸える。絶対吸わないけど。


「二十二、です」


「え、うそ…ごめんごめん!てっきり中学生くらいだと思ってた」


本気で申し訳なさそうにされて、どんどん悲しくなってくる。

しかしこれは数多くの人に言われ続けて来た事だ、今更だ。


「平日の昼に堂々と学校サボって来るって…さすがに無いですよ」


「そっか…いや、うん…ごめんごめん」


「良いですけど…お兄さんは?大学生ですか?」


「うん、大学四年」


「…って事は、同い年?」


首を傾げると「そうなるかな」と笑った。


一般的な大学生よりは少し…整っているのかも知れない。

周りに比べる音お子友達とかが居ないから分からないけど。


「……うわっ、そろそろ帰らねえと…バイト遅れる!」


いきなり立ち上がったのでスミレちゃんが驚いて吠える。

それをなだめながら、心の中で「もう帰るんや」と少しだけ寂しいと感じた事に首を振る。


「次いつ来るとかある?」


「へ?私ですか?」


「そ。二回目があったら三回目の偶然が起きるかもしれないだろ?」


にっと笑うと「次会ったら、連絡先教えてよ、LINEで良いから」と言って、最後にスミレちゃんを撫でると去って行った。

大急ぎで残りの荷物を担いで離れから出て来た神崎さんに「紅葉が綺麗な時に来ます」とだけ叫ぶ。

それににっこりと微笑んで、神崎さんは今度こそ千光寺を去って行った。



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