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BANG BANG!!  作者: ホタル
9/11

願いごと一つ

「……ん」

 重たい瞼が陽の光にノックされる。薄く開いた向こう側は、眩しくて、だけど何処か温かい。起きなきゃいけない!!って強制されて目覚めた朝は嫌だけど、自然と目が覚めた朝はすごく気分が良い。今日は運良く、そんな日だから。

 腕を動かすと、さらさらと肩に掛かっていた髪がシーツに滑り落ちた。柔らかく、つるつるした感触。そっと頬を撫でる温もりが、優しくて。目を、開ける。

「……」

 目覚めてすぐは、まだぼんやりしてしまう。眠くないのに、まだ嫌だとベッドにしがみついてしまう。今日もそんな風に、ぎゅ、と目の前の抱き枕に抱き付いた。

 ……ううん。抱き枕にしちゃ、固いなぁ。頬ずりしてみても、全然気持ち良くない。むっとして、その抱き枕を力一杯、押し返す。けれど何故か、抱き枕はあたしの腕の中に戻って来てしまう。いや、違うな。あたしが、抱き締められてるのか。

 ――抱き締められる?


「……!!」


 がっと目を開く。目の前には、真っ白くぺったんこな胸。あたしじゃない。そりゃBカップですがこんなぺったんこじゃない。そしてこんな美白でもない。恐る恐る視線をあげると、ごつごつした肩から伸びた二本の腕が、あたしに巻き付いていた。片方は背中に、片方は腰に、しっかりぴったり密着している。更に喉仏、ちょっと髭の伸びた顎、高い鼻、澄み切った青い瞳、ふわふわの栗色の髪。少しだけ上にある顔は、あたしとばっちり目を合わせた。目が、合った。

 そして、――ラルディアさんは優雅に、どこか妖艶に、微笑む。

「おはようミワコ。君の髪くすぐったいから、あまり動かないでくれない?」

 肩下まであるあたしの黒髪をちょいっと摘み、笑った。……あ、はい、すみません。そうだよね、素っ裸の肌の上を髪が滑るとくすぐったいよね。気持ち分かるわー。


「じゃなぁぁぁぁい!!」


 布団を剥いで、起き上がる。身体に回っていた腕は簡単に外れた。にやにやと笑う男は、枕を抱き締めベッドにうつ伏せになり、中腰のあたしを上目遣いに見つめた。モデルが雑誌とかでやってるよね、こういうポーズ。ナルシストにしか見えないんだけど、イケ面なので似合うのは認めましょう。ただし、イケ面に限る、の典型例。って今はそんな場合ではなーーーーい!!

「ちょっ、なっ、へっ、ごっ」

「『ちょっと、何でここにいるの変態、強姦魔』ってところ?」

「何で分かるの!!逆に怖いよ!!」

 自分の格好を確認。服は着てる。すっかすかの胸を強調するようなふりふりミニの黒ワンピース。このワンピース、明らかにカップルが夜いちゃいちゃするための格好ですよね!?(ちなみにラルディアさんの格好は上半身素っ裸で、黒いズボンを腰パンしている。何故上半身を着ていない!!)

 あたしの叫びを聞いて、ラルディアさんはくすりと笑い、肩を竦めた。

「ミワコは顔に出るからね。安心して、手は出していないよ。成人前の子に手を出すほど鬼畜じゃないから」

 ……喜べない。手を出されたいかと言えば否!!だけど、女としての魅力を全否定されている気がするよ。まぁ、こんなイケ面があたしなんかに手を出す訳ないよな。そこを心配するのがまず自意識過剰でしたかね、すみません。ていうか。

「成人前?」

「違うのかい?」

「ううん、合ってるよ」

 そうか、こっちにも成人って考えはあったのか。それにしても二十歳前の子には手を出さないとか、ラルディアさん色気垂れ流しな美形の割にお堅い考えなのね。ちゃんとしてる、と言うべきか。日本よりもこの国は貞操観念が強いのか。

 小さく欠伸をして枕に顔を埋める彼を横目で見つつ、身体にシーツを巻き付けて芋虫状態になる。寒くはないけど、流石に未婚の女の子が素肌晒すのは良くないと思います!!眠気もさっぱり吹っ飛んだし、さっさと起きたいんだけど一応の保護者(で、いいんだろうか)をベッドに残すのもどうかと思うんだよね。とりあえず、目の前の人の腕を軽く揺すった。

「ね、ラルディアさん、起きて。色々聞きたいことあるんだけど」

「昨日の謁見のこと?」

「はい」

 何だかな。ラルディアさんて、心を読めるんじゃないか、ってくらいあたしの言いたいことを先回りしてくれる。それはちょっと気色悪い感覚だけど、異世界では何となく、楽だったりもするんだよね。今もこうやって、考え込むあたしを見るその瞳。深くて、読めない。

 するり、と彼の手があたしの頬に伸びる。それを条件反射のごとく避けて、じりじりと距離を取り壁にぺったり張り付いた。そんなあたしに、ラルディアさんはしばらく黙った後にんまり笑う。……エロい。

「ミワコ、随分な態度じゃない?昨日はあんなに甘えてきて可愛かったのに」

「誰がいつあんたに甘えたかっ!!」

「甘えていたよ?一緒に寝たのだって、ミワコが僕の服を離さなかったせいだし」

 ――嘘だ!!絶対嘘だ!!

 恩知らずかもしれないけれど、ラルディアさんの言うことに絶対頷きたくない。そんなあたしの心を読んだみたいに、「君は寝てたから分からないかもしれないけれど」と微笑む。その言葉に確信を持って否定出来ないのがにーくーいーーーー!!

 ぐぬぬ、と顔を歪めるとラルディアさんはちょっぴり笑い、上半身を起こす。朝日を浴びて、綺麗に筋肉の付いた滑らかな肌は眩しく煌めいた。眩しくてちょっと目を逸らした隙に、ラルディアさんはこっちに向かって身を乗り出してくる。シーツを掴んでいたあたしの手をぎゅっと握り、鼻がくっつきそうな至近距離で瞳を合わせた。逆光のせいで、その瞳はいつもよりずっとずっと、深い色。澄み切った水色は、深い青へと色を変える。


 逃げようとしても。

 後ろは壁で、

 手を掴まれてて、

 ……あれ、あたし絶体絶命?


 固まるあたしの目の前で、彼は唇をゆっくり歪める。艶めいたその笑みに、思わず全身に鳥肌がぞーっと一気に立ってしまった。

「ミワコ。僕に言うことは、ない?」

「……い、いうこと?」

 彼の言葉を恐る恐る繰り返すとそう、と甘い瞳で頷かれる。どうしてだろう。ラルディアさんが格好いい顔する度に冷や汗が止まらないよぉぉぉ。

「昨日、君、謁見中眠かったんだろう?陛下達の前で大臣の話中に寝て、まぁ普通だったら許されないことでしょう?」

「……はい」

 分かっておりますとも。就活はまだだけど、面接で社長の前で、取締役達の前で爆睡するようなもんだよ。絶対落とされるよ、その状況。こっちが例え賓客としての立場だったとしても、許されることじゃあない。だから眠気我慢したのに!!頑張ったのに!!

 半泣きでラルディアさんを見つめれば、にこにこと無邪気な微笑み。寒くなって、握られていないもう片方の手でシーツを固く身体に巻き付けた。

「その後始末、誰がやったと思う?」

「……」

「寝てしまった君を上手くフォローして、部屋まで運んで、寝巻きに着替えさせるようメイドに指示して、って誰がやったと思う?」

 ――分かってるよ、あたしだって。

 倒れこんじゃったあたしの身体に何の痛みもないのは、誰かが助けてくれたからで。それは多分、その時近くにいた人で。

 あたしが今、こんな風にまだふかふかのベッドで寝れているのは、誰かがあたしのフォローをちゃんと正確にしてくれたからで。王様王妃様と大臣に進言できるのは、ある程度の身分がある人で。

 今ちゃんとベッドにいて、服を着替えてるのは、誰かが連れて来てくれて、着替えさせてくれたからで。彼の言葉が真実ならば、メイドさんが着替えさせてくれたらしいけど。王城でメイドさんにそんなこと指示出来るのは、身分が高い人で。

 だからつまり、指し示す答えは。

「…………ラルディアさんです」

「うん、正解」

 渋々小さな、本当に小さな声で言うと、瞬時に笑顔と一緒に返事が聞こえた。この地獄耳めがっ!!ぎっと睨むと、ラルディアさんは目を細める。それだけで、笑顔は非常に怖いものになった。ぴくり、と震えるとあやすように爪で指を撫でられる。

「ミワコ。僕に言うこと、あるでしょう?」

 ……さっきと違って、もう確定系だよおーい。遠い目になりそうなあたしの指先に、ぐっとラルディアさんの爪が食い込む。痛みは感じないけれど、現実逃避を止められたのはすぐ分かった。

 仕方なく、目を合わせる。ラルディアさんの眼は、きらきらと何かを期待して、光を放っていた。あたしは彼の後ろの窓の外、眩しい朝日を見つめて、吐き出したいため息を我慢した。

「……ありがとう、ございます。ごめんなさい……」

 謝罪と感謝を告げることは、やぶさかではない。でも何か、釈然としないものがある。それはラルディアさんに言わされた感が強いからだけど。

 だけどラルディアさんの瞳はまだ輝きを失わない。そこまで空気を読めない訳でも読まない訳でもないあたしには、分かってしまう。彼が言いたいことが。『それだけ?』と存分に瞳で語っていることが。

 ……日本人の謙虚さって、美徳だよね。謝罪と感謝で大抵の人は満足するし、満足しなくても、いちいちそれ以上を求めないし。帰りたい!!今、猛烈に日本に帰りたい!!無理だと分かっていながら、心で叫ぶことくらいは許されている、と信じたい。ていうか信じています、はい。

 すう、っと息を吸い込み、その瞳を見据える。透き通った青の瞳は、あたしの顔を見てその先が分かったのか、楽しそうに揺れた。

「……あたしに出来ることなら、恩返し、いつでもしますぅ~…………」

 語尾が無駄に伸びてしまったのは、内心全然思っていないことの証。けれどもラルディアさんはそれには気付かないのか、気付いていてスルーしたのか。(絶対後者)いつも通り、にっこり笑ってあたしの手をやっと解放した。そしてそのまま、するりと艶めかしい動きで頬を撫でられる。背筋にぞくりと悪寒が走ったのは、間違っても嬉しいからじゃない。

「今の言葉、忘れないでね?ミワコ」

 ――微笑んだこの男が、ドドドドSだと、改めて理解してしまったからだ。


 願いが一つ、叶うのなら。

 とりあえず、ハワイへの修学旅行を諦めてもいいから、この国へ来たことを、ラルディアさんに出会ったことをなかったことにしたい、と思うのです――。(何で寝たんだあたしの馬鹿!!)

お待たせいたしました!!初めてのお手伝い編、プロローグです。

若干二人の間に齟齬が生まれていますが、分かりますでしょうか?(笑)


いまさらですが、お気に入り登録・閲覧ありがとうございます。ゆるーいコメディですがよろしくお願いいたします。


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