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BANG BANG!!  作者: ホタル
6/11

遅すぎた到着

 ごろーん。

「……」

 ごろごろーん。

「…………」

 ごろごろごろろーん。

「………………」

 ――カーテンの隙間から差し込むのは、まぎれも無く朝日。無駄に広いベッドの上でそれを眺めながら、あたしはひたすら転がってみた。

 だって、だって。

「眠れないぃぃ」

 昨夜、ラルディアさんに部屋へ送ってもらい、その後真っ直ぐベッドに入ったのだ。絶対夢見れちゃうくらい良い眠りが訪れるに違いないと、確信していた。

 ……なのに何故か、目は爛々と冴えていく。身体は疲れてぐったりしているのに、目だけはいくら閉じても眠気が訪れない。眠れない夜、時計の音がやたら耳についてしまったりしない?あたしは完全にその状況だった。風で揺れる枝の音や、窓の揺れる音、些細な物音が目を瞑っても耳について、気になって眠れない。寝たいのに、眠れない。一晩中起きっぱなしの脳が寝不足で痛むのに、眠気は来ない。ただでさえ前日はハワイで時差ボケとか、友達と夜更かしイベントがあったから、下手すると二日分徹夜だ。

「……うぅぅぅ」

 寝たい。寝たいよぉ。寝るのってこんな難しかったの?半泣きになってシーツにしがみつくけれど、ふかふかの感触はやっぱり眠気を与えてくれなかった。

 枕が変わらないと寝れないとか、異世界に吹っ飛んで不眠症になったとか、そんな繊細な性格ではない。間違いなく。食欲はばりばりあったしね!!

 またも無意味に転がってみても、時間ばかり過ぎて行く。仕方ないのでのろのろ起き上がって、洗面室に向かった。この部屋はホテルと一緒で、トイレや洗面所、お風呂場など部屋についている。強いて言うなら、お風呂だけで四畳くらいの広さがあることだ。……これが普段は使っていない客室の一室だと(以下略)。

 とりあえず洗面室の鏡を覗き込むと、そこに映っている自分の顔はひっどいものだった。隈がくっきり、お肌は昨日磨かれたおかげでツヤツヤしてるけど、おでこにひとつニキビを発見してしまった。……睡眠って大事なんだな。

 大きくため息を吐いて洗面室に入ると、入口のドアがノックされる。慌ててドアを開けてみると。

「あ、おはようございます」

「~~~~~、~~~」

「え、ちょ、ま」

 美人メイドさん三人組が部屋に入って来る。目を白黒させるあたしを無視して、一人はベッドの方へ、一人はカーテンを開けて部屋の掃除、もう一人はあたしの腕をがっしり掴んで洗面所に連れ去られた。

「え、え、な、何?」

「~~、~~~」

「ちょ、ひぇぇっ」

 ぺらぺらと何かを言われている、でも全然分からない。ラルディアさんとばっかり話しているから忘れてたけど、そう言えば言葉、通じないんだよね……!!身ぶり手ぶりで伝えてみようにも、こっちの世界とは大分ボディランゲージも違うみたい。あたふたするあたしを放って、メイドさんはあたしの着ていたワンピースのボタンを手早く外し、さっさと下着姿にされてしまう。せせせセクハラじゃないですか!?いや、同じ女でもあたしみたいな寸胴体型見ても全く楽しくないだろうけどね!!お仕事だからだとは分かっているけどね!!

 これ以上何をされるか、と身体を抱き締めて隅っこに逃げるあたしに、メイドさんはクールに持っていたものを差し出す。見覚えのある色味。ていうか、これ?

「あたしの、制服?」

 トリップした時にあたしが着ていた、高校の制服。昨日無理矢理脱がされてどこに行ったかと思ったけど、どうやら洗ってくれたらしい。受け取ると柔軟剤で洗濯したみたいに柔らかくなっていた。

 ぺこり、ととりあえず頭を下げてみる。メイドさんは何の反応もせず、制服を指差し、あたしを指差した。……異世界交流って難しいなぁ。自分の伝えたいことも、相手の言いたいことも、全く通じてない気がするよ。

 とりあえず分からないポーズを三種類ほど。首を傾げたり、肩を竦めたり、眉間に皺をよせてみたり。最後のは通じたみたいで、もう一度制服とあたしを指差す。ついでに、何かを肩にかける仕草をしてくれた。……肩に、かける。羽織るって、こと?

「……あ、もしかして、これ着ればいいの、かな?」

 シャツを取り出し、肩に羽織ってみる。するとこっくり頷かれた。なるほどね。OK、と指で丸を作る。通じてないかもしれないから、とりあえず普通にいつも通りの順序で制服を着てみることにした。

 何だ、今日王様と王妃様と面会、とか言うからもしかしてドレスとか着せられるのかな、って思ったけど。つまりは異世界の格好で挨拶して、異世界人だってことをはっきり分かってもらう訳ね。

 薄い青の長袖シャツに白い袖なしセーター。赤と白、青のストライプネクタイ。スカートは灰色に白のタータンチェック。紺ソもちゃんとあったので履いた。ローファーがないのが勿体ないけど、十分だろう。うちの学校は私立じゃないのに制服が可愛い。そこら辺は多分、あたしが今いる学科が原因だろう。個人的には白って汚れやすいからあんま好きじゃないんだけど、綺麗に使えば卒業後、マニアに良い値段で売れるらしい。その時のため、非常に大事に着ている。

 洗面所から出て、着替え終わりました、と指で示してもう一度丸を作ってみる。メイドさんは頷き、部屋の奥を示す。素直について行くと。

「おおお」

 さっきまで何もなかった場所にはテーブルとイスがセッティングされ、真っ白なテーブルクロスの上には色とりどりの花が飾られている。でも、あたしの目を引いたのは美味しそうなご飯だった。真っ白なナンのようなパンに、きらきら光る黄金色のものは蜂蜜かな?あとは緑色の野菜の上にはチーズみたいなのが降りかけてあって、あとは白い液体が大皿一杯に。

 寝不足で胃が重たい気がしなくもないけど、出されたものは食べなくちゃあ女が廃ります。

 とりあえず、蜂蜜らしきものの匂いを嗅いでみる。……うん、まごうことなき蜂蜜だよ。舐めてみても完璧そんな味。ちょっと懐かしい味に感動するが、これは多分パンにかければいいのかな?かさかさの粉っぽいパンに蜂蜜をかけると、しっとりしてパンに馴染んで美味しかった。サラダはよく見ると半熟卵が乗っていた。シーザーサラダみたいな。ドレッシングがしつこくなく、非常に美味しい。白い液体は牛乳風味。多分、スープなんだと思う。クリームも入ってるんだろう、まろやかでおかわりしたくなる味だ。

 全体的に重たくない食事だったからか、ぺろりと平らげてしまった。パンとか四枚あるから絶対残すと思ったんだけどなぁ。あたしのお皿が空になるのを見届け、メイドさん達はフルーツの盛り合わせを出してくれた。こちらも完食。形林檎なのにさ、歯ごたえさくらんぼで味ミカンとか色々慣れないものもあるけど、全体的にすごくいい味のものばかり。余は満足じゃ、と腹を撫でて和もうと思ったら、ドアを開けて、メイドさんの一人があたしを促す。

 ん?もう出発なのかな。歯、磨いてないけどいいのかなぁ。個人的に歯ブラシくらい返してほしい。こっちの歯ブラシ、本当にブラシっぽいんだもん。非常に使い辛い大きさ。

 とりあえず言葉が通じないのは分かっているから、メイドさんに素直についていき、歩く。

 歩く、けれども。

「まだかいっ!!」

 思わず叫ぶと、隣のメイドさんが困ったような顔をした。う、何かこの人やたら可愛いなぁ。ふわふわの金髪に、紫の瞳。とっても可愛い顔なのに、スタイルはぼん・きゅ・きゅと抜群だ。うらやましいなぁ!!自分より数センチ高いところにある瞳を、じっとり眺めてしまった。

 必要以上にガン見して変態扱いされる前に……と、前を向く。時計もないから今何時かも分からないけど、腹ごなしの散歩には十分な時間。二十分は経った気がするな。けれどメイドさんはクールに歩き続け、それからまたいくつかの角を曲がったところで。

「……あ」

 ――今までの扉と、明らかに違う造り。大きく宝石がはめ込まれたそれを見て、ぱっと分かった。きっと、これが王様と王妃様がいるに違いない。

 でも、あたしが声を上げたのは扉だけじゃなくて。

「おはよう、ミワコ」

 きらきら輝く笑みのラルディアさんが扉の前にいたからだ。

 昨日と同じような長いローブ。だけどサリーのように、半分の肩は出ている。そちら側には白いストールを巻いて、下には黒い長袖。服の生地から言って、昨日の数倍高そうな格好。うっかり踏みつければ狙撃されそうな値段だよ、これ絶対。

 あまり好きじゃない人だけど、ここへ来てやっと話が出来る人に何だかほっとして、「おはよう」を返そうとした瞬間。

「……っ」

 がくり、と身体中に走る倦怠感。歩いて疲れたのかと思ったけど、絶対にそれだけじゃない。だって、――瞼が、尋常じゃなく重い。今にも落ちてしまいそうな瞼を叱咤するけれども、頭にかかった靄は晴れない。ふら、とバランスが取れなくて壁にぶつかりそうになったあたしの肩を、ラルディアさんがそっと抱き寄せた。

「ミワコ、どうしたんだい?大丈夫?」

「……だ、大丈夫、です……」

 ――言えない。今更眠気が来てしまったなんて、絶対に言えない。あくびをしそうになる口元を必死に押さえて、彼を押しのけ、壁に寄り掛かる。あたしの態度を不思議そうに見つめながら、素直に手を離してくれる彼。だけど、すぐに手が繋がれた。

「……何ですか」

「歩き辛そうだから、手を引いてあげようかと思ってね」

「……結構です」

 口を開くのすら、重たい。立ったままでいいから、このまま寝たいと思ってしまった。気を抜いたら膝から崩れ落ちそう。正しく会話出来ているのか、自信がない。

 ラルディアさんは「まぁまぁ」とあたしの手をしっかり握って、扉の両脇に立っている人達に、右耳の三連のピアスを示す。二人は頷いてゆっくり扉を押した。ギギギ、と重たい音を立て、開いていく。その先は王道な赤い絨毯がずーっと続き、何段か高い壇になっているところにカーテンが引いてある。でも多分、そこに王様と王妃様がいるんだろう。

 壁に寄りかかったままのあたしの手を引いて、ラルディアさんは歩き出す。ゆったりした歩みはあたしに合わせてくれてるんだろうけれど、心地良い揺れに眠気が強くなるだけだった。ふらり、ふらりと赤い絨毯を歩くあたし達の両側には、ラルディアさんと同じくローブを着た人が半分くらい、後は甲冑姿だったりフロックコートの人も何人か。昨日ラルディアさんが「百人くらい」と言っていたけれど、明らかにそれ以上、いると思う。……いや、これは眠くて焦点が定まっていないせいか?

 ラルディアさんが一歩進み、その足に合わせてもう一歩。まるで結婚式のバージンロードでの歩き方みたいなそれは、見た目通り、全然移動出来ない。けれど遅々とした歩みはちゃんと進んでいたみたいで、気付けば目の前に壇が迫っていた。ラルディアさんがゆっくり腰を曲げるのを、ぼぅっと見つめる。

「――大変お待たせいたしまして、申し訳ございません。国王陛下、王妃殿下。今回、異世界から召喚されたのはこちらの女性でございます」

 ……何か、変なの。きりっと真面目な顔で前を見るラルディアさんはかなり格好いい。だけどその言葉遣いに首を傾げてしまう。ラルディアさんって第二王子なんでしょ?てことは王様と王妃様の子供、だよね。何でこんなかしこまった話し方するんだろう。ていうかそう言えば、第一王子様にはまだ会ってない。ちらりと周りをみてみるけれど、ラルディアさんと同じ栗色の髪は見当たらなかった。

 呆けたままのあたしの手に、ぎゅっと痛みが走る。慌てて隣を見ると、ラルディアさんがあたしを見ている。小声で「ミワコ、出身国、どこだっけ?」と問いかけてくる。

「日本、だよ」

「ニホン、ていうことは、君、チキュウから来たのか」

「……うん、そお」

 眠いから、段々と話し方がゆるくなってくる。今は王様と王妃様の前だけど、……まぁ、いいか。あたしの言葉通じるの、今はラルディアさんだけなんだし。ぼんやりと頷くと、頭を撫でられ、そのまま前に倒される。……お辞儀すれば、いいのかな?

「カツラギミワコ様、チキュウ――しかもニホンの来訪者でございます」

 うわぁ、ラルディアさんがあたしのこと様付けしてるよ。でも、そっか。一応あたし賓客扱いされてるんだもん。滞在中は国がお世話してくれるから、国賓レベルになるのか。なんて思ってたあたしの耳に、周りの貴族さん方のざわめきは耳に入らず。真っ赤な絨毯と、頭をぽんぽん、と撫でる感覚が。

 ……妙に手慣れているためか、気持ち良すぎて眠気がピークに達しているのを、自覚した。

長くなったので、対面編二話に分けることにしました。次回が本編チック。

ちなみに題名は「眠気」のことです(笑)

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