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BANG BANG!!  作者: ホタル
10/11

朝の来訪者

大変遅くなってすみません!!今回は短めです。

※後半追加しました。

 カチャカチャ。

 ガチャッ、ガッガッガッ、ズッ。


 ――現在時刻、よく分からず。とりあえず、陽の差し込み具合から考えて朝だと思う。

 やさぐれながらスープを音を立てて飲み、魚をナイフで切るものの、上手く切れなくてお皿にぶつかること数回。優雅にあたしの前で食事を続けていた王子様は、にっこり笑った。

「ミワコ、まるで獣みたいな食べ方だね」

「余計な御世話です!!」

 言っておくけど、一般的純日本人なあたしでも、テーブルマナーくらいちょっとは分かる。ラルディアさんレベルとまではいかなくても、スープや食器は音を立てない方が良いってことは分かってる。だから今現在、あんまり品の良いとは言えない食べ方をしてるのは。

「大体なんであたしの部屋で一緒に朝食取ってるんですかっ!!王族ならこんな一般人と一緒に食事取らないで下さいよっ!!」

 ――目の前の人への、ささやかな抗議な訳で。

 きー!!と机をばんばん叩きたくなったけれど、万が一それで汁物を床やテーブルクロスに零したら勿体ないから、我慢した。


 ラルディアさんと同衾した(らしい)と言うだけでも精神ダメージ半端ないのに、「部屋に戻るね」とメイドさん達が来た時に出て行ったはずの人が何故今、一緒に食事を取っているのか!!一人の食事は好きじゃないけど、あんたとも一緒に取りたくないんじゃい!!


 一通り暴れて肩で息するあたしに、ラルディアさんはにこにこ笑ったまま。非常に面白そうに観察されているのは、どういうことか。何を言ってもどこ吹く風、と言った男に何を言っても無意味だろう。それが分かって、やっと罵倒の言葉を呑みこんで食事を続けた。まだお魚半分、雑炊のようなもの半分(久々のお米に泣いた)、サラダも残っているあたしに比べ、すでにラルディアさんは食後のお茶を飲んでいる。これ以上馬鹿にされるのも癪なので、今度は最初から丁寧にナイフを使っていく。

「あ、今日はこれから宰相閣下と面会だから」

 ―ガチャン!!

 ……はずが、ラルディアさんの一言でナイフをお皿の上に取り落とした。柄の部分も丸ごとソースにどっぷり浸かってしまっている。メイドさんは何も言わずナイフをお皿から出し、新しいナイフを出してくれました。……あ、すみませんありがとうございます。……じゃなくてぇ!!

「さささ宰相って、あの、国の偉い人だよね!?」

「まぁ、簡単に言えば国王の次に偉い人間かな」

 確かに分かりやすい説明!!だけど、問題はそこじゃなくて!!

「え、え、え、何で!?昨日面会したじゃん!!」

「宰相閣下はお身体があまり丈夫じゃなくて、昨日も風邪で寝込まれていたんだ。だから別枠でミワコに挨拶したい、って」

 そんな気遣いいらないんだけどぉぉぉ!!

 今日は眠気はないからまともな受け答え出来るかもしれないけど、所詮あたしは社会に出てない高二のお子ちゃま、敬語もマナーもはっきり言ってなってない。そういう挨拶とかは昨日限りだと思ってたから頑張ろうと行った訳だし、今日まで頑張れないって!!という訴えをラルディアさんにしようと、口を開いた時。

 ―コンコン

「~~~」

 ……ノックの音と共に、ずどんとお腹にくる重低音が、あたしの耳に届く。そしてあたしの返事を待たずに、ドアはガチャリと開かれた。ちょ、それノックの意味ないよね!?

 ノックの主の行動が分かっていたのか、メイドさん達は目配せを交わし、あたしの朝食の残りをてきぱきと片していく。えええ、激しくもったいないんだけど!!あたしまだ全然食べるよ!?米一粒には八百万の神が宿ってるんだって、確実にその雑炊米五十粒は残っているから食べさせてぷりーず!!

 けれどそのまま、あたしの残した朝食はワゴンに乗せられ、がらがらと運ばれる。そしてそのワゴンと入れ違いにやって来たのは、――あたしより頭二個分はおおきな人だった。

 鷹のようなへーゼルの瞳、金色の髪を後ろで一つに縛り、口髭をたっぷり蓄えている。真っ黒なフロックコートはそのがっしりした体つきをひと際強調させ、皺が深いけれど整った顔立ち。若い頃は相当もてたに違いない。あの重低音の持ち主だと言われたら、心から納得できる。素直にそう思える人だった。

 完全に威圧されてしまっているあたしに、軽く頭だけで一礼。慌てて立ち上がり、あたしもお辞儀する。そんなあたしをちらりと見ると、その人はラルディアさんに向かって何か話しかけた。気付けばラルディアさんも立ち上がって礼をしていて、その人に笑顔で頷く。昨日と同じように、何事か呟きながら指輪をなぞる。すると風が、吹き抜けて。

「――昨日は失礼した。私は宰相のヘルマン・アードラーだ」

 今度は日本語で、耳に届く。多分、これは言葉が通じるようにしている魔法なんだろうな。毎回ラルディアさんにやってもらわなきゃいけないなんて、随分非効率な魔法だと思う。なんて現実的なことも考えつつ、とりあえず目の前の人をどうにかしなきゃならない。予想通りと言うか何と言うか、やっぱりこちらのナイスミドルが宰相様らしい。まさか朝食の時間帯に押しかけて来るような人だとは思っていなかったけれど、来たならもう腹くくるっきゃあない。

「葛木美和子です。よろしくお願いします」

 もう一度、腰から曲げて深いお辞儀。マナーなんて分からないなら、若さ故の勢いで行こうじゃないか!!視界の端、にやりとラルディアさんが笑うのを見ながら、顔を上げた。ていうか、上を向いた。

 この人が目の前に立つだけで、周りの景色が見えなくなるような、そんな人。あたしをじっと見下ろす鋭い眼光に、とりあえずへらりと愛想笑いをしてみる。その瞬間。

 ―ギンッ!!

 ……鋭さを増した瞳は、もしや、敵意、なんだろうか。


* * *


 あたしと宰相さんのピリピリした空気に気付いていないようなラルディアさんが、「女性の部屋で話し込むのもなんですから、僕の執務室で話しませんか?」と提案した。宰相さんが頷くと、指ぱっちんで一昨日の部屋に飛んだあたし達。現在、ふかふかのソファにはあたしとラルディアさんが並んで座り、目の前には宰相さんが偉そうに足を組んで座っている図。メイドさんがお茶を用意する音以外、何も聞こえない。何て静かなんだ。

 ちなみに、今日のあたしの格好はベージュの半袖ミディワンピース。パフスリーブかつ胸の下に黒いリボンが結ばれた、クラシックなデザイン。ただこの間から思ってたんだけど、この国の衣裳ってシンプルなの多いよなぁ。この服だって、裾にレースを縫い込めば一気に可愛くなるのに。と、ぼんやり考えていたら。

「――ミワコ殿は、何の知識をお持ちなのか」

「……へ?」

 いきなり宰相さんに口を開かれて、一瞬反応出来なかった。ぽっかり間抜けに口を開けたあたしを見て、宰相さんは大きく頭を振ってため息を吐く。……むかつくね、うん。

「教養がない人間は、耳も遠いと言いますな。……いえ、別にミワコ殿がそうと言う訳ではありませんが」

 ……嘘つけぇぇぇ!!あんたあからさまにそういう意味を込めて今言ったでしょうぅぅぅ!!

 鼻で笑いながらあたしを見つめる宰相さんからは、ひしひしと意地の悪さが窺える。ラルディアさんも意地が悪いが、それよりもっと、悪意のある感じ。初対面のはずのおじさんに喧嘩を売られる筋合いはないはずなんですけど、ね!!

 ぎんっと宰相(もうさん付けなんかしてやるか!!)を睨むと、奴は眉間に皺を寄せた。品のない娘だ、とでも思っているに違いない。

「失礼、ミワコ殿の国では年上の初対面の人間を睨むと言う習慣でもあるのかな。我が歴史あるセルディアでは礼儀正しく和やかな挨拶がまず行われるものだが。いやはや、異文化交流とは底が深い」

 想像以上に失礼な返しで来たなおっさん!!

 ――しかし、なめないでもらおうか。宰相が働いてるのは王城、ってことは出会う若い娘は貴族令嬢ばかりに違いない。そんな可憐な人々は、嫌みを言われたら落ち込むか涙するか、とにかく儚い返しをするんだろう。あたしは、違う。ど根性一般女子高生。ラルディアさんにはやられがちだけど、本来あたしは図太い方。嫌みを言われて、そのまま泣き寝入りするとは思うなよ。

 宰相に向かって、にーっこり笑う。訝しげに眉を上げる奴に向かって、首を傾げながら。


「……いえ、日本でも目上の尊敬できる方には最大限の礼儀を尽くしますよぉ。尊敬できる、相手には」


 妙に間延びした口調で、最後の言葉を強調して言う。最大限むかつくように計算しながら言った言葉は効果抜群だったらしい。その瞬間、ピシリと空気が固まった。見る見るうちに真っ赤になる整った顔を、ざまあみろ、と心の中で舌を出す。怒りでぷるぷる震える奴をじっと見守ると。

「――ラルディア殿下っ!!」

 大きな叫び声。その大きさに、部屋がびりびり震える。びっくりして、少しだけソファから腰を浮かせてしまったけれど、もう一度座り直す。何だいきなり、驚かすな、と宰相を睨む。だけど奴はあたしに目もくれず、ラルディアさんを睨んでいた。

「三月など待たず、この小娘を返してしまいましょう!!どうせ失敗でしょう!!」

「落ち着いてください、宰相閣下」

「いいえ待てません!!こんな小娘に馬鹿にされて、どうして我慢出来ますか!!」

 意外と早く化けの皮が剥がれたな、と思う。慇懃に嫌みを言うのはやめて、堂々と激昂する姿の方がまだ相手にするのが楽。そしてラルディアさん、微妙に口の端ひくひくしてますよ。あたしも大概ですが、怒ってる人見て笑いを堪えてるあなたはやっぱり人間としてどうかと思います……。

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