表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華街の占者  作者:
7/12

華街の占者(7)

未来を視るチカラ。

その力に異変が出始めたのは3年ほど前からだった。

正確には出始めたのではなく、『気付いたのは』だろう。かつて、明瞭に視えた未来。自分が望んだ通りに視ることができた。

それが今では視えたとしても曖昧で不確かなもの。

過去や今を視る力はそのままで、どうしてか未来を視る力だけが衰えた。


きっと、罰が当たったんだと思った。


この力で沢山の命を奪ってきた。

直接、人を殺めたことはないにせよ、この力が戦において重要な意味を持つことは分かりきったこと。本来であれば、未来を(たが)えることは許されない。

それでも、この国のために、あの二人のために未来を変えることに躊躇(ためら)いはなかった。


―――罪深いと分かっていても、未来を視ることをやめなかった。できなかった。




でも、そのことが彼を傷つけることになるなんて思ってもみなかった。


―――はじめて、この力を憎いと思った。もう、彼の傍にいれない…そう、思った。



だから、彼から逃げた。

すべてを置いて。何もかも捨ててきた。

()の代わりに傷つき、昏睡する彼のそばにいるのが辛くて、耐えられなかった。



本当はただ、それだけだったのだ。






     ―――――




すべての始まりは、一年半前。

隣国から来た姫君が城に滞在したことから始まった。




「―――あなたが、露王の『懐刀』?」


姫君への歓迎の宴の席、麗しの姫君は椎を見ながら聞いてきた。

姫君の態度はなにやら友好的ではないような気がした。

その目が、声が、自分を快く思ってないことを(あらわ)にしていた。


―――もうすこし、隠したほうがいいんじゃないでしょうか?


そんなことを思いつつ、どう返事をしたらよいか迷う。

『懐刀』。その存在は公とはされていないこと。

たとえ、戦が終わった今においても、それは変わらない。


その秘め事について、答えることはできないし、したくない。

そう思い、


「なんのことでしょう?」


淡い笑みを浮かべながら、否定した。

その椎の返答に、姫君は意外そうに目を見開いた。


「…ちゃんと笑えるのね。」

「はい?」


小さく呟いた言葉を聞き取れず、首を傾げる。

姫君は今まで浮かべていた表情―――不機嫌そうな顔を止め、鮮やかに微笑んだ。


「改めて、(せん)国第三王女の(きょう)よ。よろしく」



―――その笑みはとっても魅力的で、思わず見惚れてしまうほどでした。



「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」

「あ…椎と申します、王女様」

「…」


姫君は眉を顰めた。

なにか、失礼なことを言っただろうか。内心慌てながら、姫君を伺う。


「杏って呼んで」

「え…っと、杏さま?」

「ええ。滞在の間よろしくね、椎」


杏は嬉しそうに笑う。

その様子に椎もつられて微笑み、


「はい。よろしくお願いいたします、杏さま」


言葉を返した。







今、思えば。


その出会いは必然。

そして、すべての始まり。


この国と、隣国を巻き込む『出来事』への序奏だったのだ。













過去編突入です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ