華街の占者(6)
「―――おかえり、椎」
呆然と寝台に座り込んでいた椎は涙が滲む顔を声の方へと向けた。
そこには滝国王、露が立っていた。
王は涙を零す椎に歩み寄り、
「おかえり」
椎の頭を撫でながら、その言葉を繰り返した。
「―――露…さま」
何故、どうして。
聞きたいことはたくさんあるのに言葉にして出すことは出来なかった。
ただ、このコトだけは聞いておかなくてはと思った。
「瀬さまは…?」
私をココに連れ戻したヒト。
私がココを離れたかった理由。
その理由をこの人は知っているはずなのに。
連れ戻されることが分かっていたなら、どうしてあの日、私を行かせたのだろう…
「瀬は溜まった仕事を捌いているところ。半年分だし、しばらくは忙しいだろうね」
王は苦笑いを浮かべて、問いに答えた。
「ちなみに此処は瀬の自室だよ」
続けて、聞かされた事実に椎は言葉を失う。
「そして、そのアンクレットは君をこの城へ繋ぎ止めるもの」
「…」
椎は絶望に顔色を青褪める。
「瀬はもう、君を放すつもりはないみたいだ」
露は今にも倒れそうな様子の椎を見つめながら、一年前のことを思い出す。
あの日、この子を黙って見送ったのは、これ以上やつの傍にいたら壊れそうだったから。
あのままにしていたら、間違いなく、椎は心を壊していた。
そう判断して、椎を行かせた。瀬が椎を探しに行くのを遅らせた。
正直、瀬が椎を半年で見つけるとは思わなかった。
椎の様子を見ていると早かったようだ。
まだ、椎の心は脆いように思う。
でも、つかまってしまったのならば。
2人にとって最善の結果に収まればいい。
ただ、それだけを願った。