華街の占者(2)
滝国の若き王、露は執務室で膨大の書類に埋もれながら日々の職務に追われていた。
そんな中、一つの知らせが彼の下にやってきた。
―――将軍が帰還された。
侍従からもたらされた知らせに、仕事の手を止める。
「へえ、ようやく帰ってきたか。それで?あの子も一緒か?」
彼が長い休暇を取ったのは半年前のこと。
本当であれば、あの子がいなくなった時にすぐにでも捜しに行きたかったのだろう。
けれども、彼の立場では難しい話でもあった。
帰ってきたということは、あの子を見つけたのだろう。
でなければ、帰ってくるはずがない。
そう分かった上で、侍従に確認をとる。
「はい。椎さまもお戻りになりました」
返ってきた返事は思ったとおりの言葉だった。
「―――そう。捕まっちゃったんだね、椎…」
逃げ出した、小鳥は籠の中―――
―――――
ようやく取り戻した。
彼は、その事実に歓喜した。
椎は今、自分の腕の中にいる。
半年振りに戻った、己の部屋に入り、意識を失った椎を寝台の上に下ろす。
椎の短い黒髪がシーツに散る。
彼は寝台に腰掛け、椎の黒髪を撫でた。悪戯な手は、髪だけに止まらず、椎の頬、唇へと触れる。
その感触をもって、今、此処に椎がいることを実感していた。
「―――髪、切っちゃったんだね…」
記憶にある、彼女の髪は腰の辺りまで伸びていた。
しかし、今は肩よりも短くなっていた。
自分から逃げるために、切ったのだろう。
そのことに苛つく。
けれども。
見つけ出した。
掴まえた。
だからこそ。
「もう、逃がさないよ…椎」
彼―――滝国将軍、瀬は少女を見下ろし、呟いた。