華街の占者(12)
今、この時期に隣国へと赴いたのは賭けだった。
ごく僅かの側近たちだけを連れ、この国を訪問した。表向きは友好のため。けれども、本当の目的は唯一つ。
己の望みを叶えるため。
そのために自身の未来を差し出してもかまわない。
あの日から、そのためだけに生きてきたのだから。すべてはあの人のために―――
さあ、舞台は整った。
―――――
建国祭。
年に一度、国最大の祭りは春の訪れを告げる国花『フィジク』の開花から一月後と決まっていた。
国花『フィジク』はこの国特有の花であり、春になると一斉に開花する。そのため、春を告げる花と呼ばれていた。
建国祭は『フィジク』の開花一ヶ月後としたのは、建国が戦乱の最中だったため『いつ』だったのか定かではないこと、戦乱の世が終わったのが冬の終わりだったことに由来する。
『フィジク』の花は二月ほど咲き誇り、そして一斉に散る。
建国祭は花の盛りの時期に行われるため、人々は建国祭を『花祭り』とも呼んでいた。
建国祭は三日間に渡って行われる。
本祭とされるのは三日目。三日目には王城が公開され、祭の最後には王城のテラスから王が祭の終わりを告げる。
そのため、テラス前の広場は人で埋め尽くされる。
去年までであれば、テラスに続く部屋でその様子を見ていた。では、今年はどこで見ることになるのだろうか。
ああ、でもその前に。
この状況をどうしたらいいのだろう。
椎は後悔していた。
周りを見渡すと、祭に浮かれた人々。真横を見ると、楽しそうな杏さま。
―――どうして、止められなかったのだろう。
でも、どんな言葉でも王女は止められなかった気がする。
せめてと、同行だけはさせてもらうことにしたけれど、内心は焦りと後悔でいっぱいだった。
いくら、王女の護衛である騎士が二人同行しているとはいえ、一国の王女に何かあったらと思うと心配の種は尽きない。
どうにかして、早々と城に戻るようにしないと―――
建国祭三日目。
城内が公開されるということは、反対に城外へ出ることも容易であるということ。
滝国の客人であるはずの茜国の王女、杏は周りの目を掻い潜り、祭に賑わう城下へと足を運んでいた。