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華街の占者  作者:
11/12

華街の占者(11)

―――もう、1ヶ月になるんだな


椎は客室を片付けながら、ぼんやりと思った。

杏の侍女として出向することになって1カ月。椎にとっても、楽しい職場だった。


それなのに。

楽しいと思っているのも本当。

だけれど、淋しいと訴えるココロ。



王女付きとなって1ヶ月。

それは露と瀬の傍を離れて一月(ひとつき)になるということ。

こんなに二人の(そば)から離れたのは初めてだった。彼らの傍がわたしにとって安心できる場所だったから。



だからだろうか。

楽しいはずなのに、何かが物足りない。



不安定なココロを持て余し、ため息をつく。

こんなココロ、持ってはいけない。


『―――彼らの役に立ちたい』


あの時心に決めたこと。



―――でも、()のわたしは彼らの役に立てているのだろうか?


今のわたしはしがない侍女。彼らの傍にあるには、あまりにも不十分な身分であるのは分かっていた。

でも、彼らが変わらずにいてくれたから。

だから、甘えてた。

こうして、彼らの傍から離れてみて、一月(ひとつき)前の自分がどんなに別待遇であったかに気付いた。

本当だったら、傍にいることすらできないはず。


―――どうしたら、彼らの傍にいることが許されるのだろう?


悩んでも、相応(ふさわ)しい答えは出てこない。

でも、答が出ない限り、彼らの傍には戻れない。


再び、ため息をつく。頭を左右に振りかぶり、沈む思考を追い払う。


「今は杏さまに尽くすのみよね」


思いを新たにし、部屋の片づけへと戻った。





     ―――――



―――バタンッ


「椎ー!!」


「杏さま?」


杏は部屋の扉を乱暴に開け閉めし、椎に抱き付いてきた。

椎はそのとき、手に雑巾を持っていたため抱き返すことも離れることもできない。


「―――あの男~」

「えっと…杏さま?」


なにやら誰かに対し、怒っている様子。しばらく抱きついたまま、その誰かに対し怒りの言葉を呟いていたが、気がすんだのか椎から離れる。


「ただいま、椎。いきなり抱きついてごめんなさいね。ちょっと嫌なことがあってね…」


そう、言いながらも『嫌なこと』と言ったとき、杏の目に剣呑な光が宿っていた。


「いえ、気になさらないでください」



杏のただならぬ空気に怯えつつも、にこやかに返事を返した。


「ほんとうにごめんなさいね。そういえば、もう少ししたら建国祭があるんですってね」


杏はソファに腰掛け、椎は杏のためにお茶を用意し始めた。

お茶を用意しながら、杏の疑問に答える。


「そういえば、あと2週間したら建国祭ですね。城下ではいろいろな催しが開かれるんですよ」

「楽しみね」


杏は淹れてもらったお茶を飲みながら、にんまりと笑った。

その笑みは子供が悪戯を考えたときのそれに似ていて。


椎は嫌な予感を覚えたのだった。




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