華街の占者(10)
露は物思いに耽っていた。
近頃、城内が騒がしい。
隣国の姫君の滞在から毎日、何かしらの騒ぎが起きている気がする。
もっとも、原因のほとんどに瀬が関わっているのが実情だった。
主に訓練での扱きという名の八つ当たりが挙げられる。今では奴の周りはツンドラ地帯。侍従や侍女は近づくことさえ出来ない。その結果、各方面からクレームやら嘆願が引っ切り無しに舞い込んでくる。
執務室の机の上に溜まり続ける書類―――の大半を占める嘆願書に頭痛を覚えた。
―――俺にどうしろと…?
露はそもそもの原因となった隣国、茜の国王からの書状を思い浮かべた。
茜国は滝国の南に位置する。
国土は滝国と比べるとさほど大きくはないが、鉱物といった資源が豊富な滝国に対し、加工や細工技術が優れた茜国とは良い関係が続いていた。
そんな中、茜国の第三王女の滞在が決まった。
茜国王には四人の王女がいるのみで世継ぎとなる王子はいない。しかも、この四人の王女は正妃の子ではなく、側妃の子であった。
おそらく、第一王女の夫となる人物が王位を継ぐのだろう。
そう、思っていたのだが。
判断するにはまだ早いのかもしれない。
茜国王の書状には気になることが書かれていた。
「―――どうして、こう厄介事ばかり舞い込むんだが…」
瀬についての嘆願書を読みながら、ぼやいた。
正直、嘆願書を読む意味はあるのだろうか。瀬の不機嫌はまだ続く。少なくとも王女が帰国し、椎が王女の傍付きの役目を終えない限りは終わらない。
つまりは嘆願してもきりがない訳で―――
「嘆願書…放置してもいいよな」
「何を仰いますか」
小さく呟いた言葉を聞かれたらしい。
執務室に音もなく入ってきた少年が呆れた声で返事をした。
「していいはずだ。それより、一言声をかけてから入室しろ、藍」
「それは失礼しました。―――それより」
藍は表面上はにこやかに装いながら、書類の束を机の上に置いた。
「―――これは…?」
―――嫌な予感がひしひしと…
「新たな嘆願書です」
侍従兼護衛である少年、藍は満面の笑みで返答した。
―――頭痛がしてきた…
露は新たな嘆願書の山を見て、ため息を零した。
王様は苦労性。