華街の占者
新興国の一つ、滝国。
若き王が興した国である、滝国の外れにある華街『霞』には一人の占者がいるという。
その占者は失せモノを見つけてくれる―――そう。物であっても者であっても。
ときには先の相を視ることもあるという。
その噂を聞いて、訪ねてくる人間は後を絶たない。
けれども、その占者に会うことは叶わない。
その存在を疑っても街の華達は揃って占者は存在すると云う。
―――何故ならば、占者は華達だけにその力を見せているのだから…
―――――
華街には必ず花の名が入っている。辺境の『霞』であっても、その因習は変わらない。
現の世とは一線を画した、この街の昼はどこか他と違っている。夜になれば、浮世と化す街は、昼の時間とあってはどこか沈んでいるかのよう。
その街の人気の少ない通りを一人の少年が歩いていた。
立ち並ぶ建物の一つから女が飛び出てきた。
「―――椎!ちょうどよかった!姐さんが視てほしいって言ってるんだけど、今いいかい?」
「いま、用事を頼まれてるところだから、その後なら大丈夫だよ」
「いつぐらいになる?」
「一刻後には行けると思うよ」
「分かった!姐さんにはそう伝えておくよ。よろしくね」
「うん。じゃあ、また後で」
少年―――椎はふわりと笑い、その場を後にした。
椎がこの辺境の華街に流れ着いたのは一年前。
ある日、突然現れた椎を拾ってくれたのは、一人の妓女だった。
『華』と揶揄される妓女たちの世界で暮らすようになり、しばらく経ってから恩返しの意味で妓女たちを占うようになった。
よく当たると評判になり、噂を聞いてやってくる人間が出始めたが、椎は妓女以外を視ることはなかった。
占いも客が来る前、昼に行っている。
これ以上、噂が広がるのは避けたいところでもあった。
―――――
約束していた、占いを終えて店を出ると外はすでに陽が沈む頃になっていた。
ちらほらと客が姿を見せ始める頃。
普段であれば、とっくに家に戻っている時間でもあった。
「早く帰らないと…」
少しばかり焦りの色を滲ませて足早に店を立ち去る。
街の外れ、あと少しで我が家というところまで来たとき、背後から聞き覚えのある美声がした。
「みつけた」
その声はこの場所では聞くはずのない声のはずだった。
恐る恐る振り返り、声の主の姿を確認すると、逃げ切ったはずの、ココにいるはずのない人物
が立っていた。
椎は恐怖で顔を蒼白にした。
「やっと、みつけた」
彼は口元に笑みを浮かべながら、椎に近づく。
金縛りにあったかのように、動かせずにいる椎を腕に抱きこみ、
「―――迎えに来たよ、椎」
―――さあ、帰ろう?
2人の足元に光る陣が浮かび、2人は『霞』から消えうせた。