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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
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第8話:私の思いと大切なもの

 あーさっぱり。レイの魔法のおかげで無事水浴びが出来たわ。湖の水は月明かりに照らされ淡く反射して綺麗だったし、広かったから泳いじゃった。やっぱり広いと泳ぎたくなるね。調子に乗って潜水もしちゃいました。レイの出してくれた石鹸も泡がすごくきめ細かく泡が立ったのですごくスッキリした。もうベタベタどころかツルツルだよ!布も肌触りが良く、吸水性も良かったので拭いていてすごく気持ちよかった。やっぱりレイは便利だなぁ。

 私はレイからもらった町娘Aの服を着ると、今まで着ていた服と下着を洗濯をした。雑巾の如くぎゅーっと絞ると、皺を伸ばして丁寧にタオルの中に包んだ。ノーパン、ノーブラは嫌だけど致し方ない。このままずっと同じ下着を穿くのは・・ねぇ?入念にタオルに包んだから明日までには乾くよ。それ位このタオルはすごいものだと私は信じてる…!!

 レイはちゃんと私の言う事を聞いて、反対側の林まで行ってくれた。少し遠いけど、発光しているからどこにいるかすぐに分かる。

 木の側にぽつーんと座るレイは、まだ難しい顔をして考えていた。…真面目だなこの子。素直で真面目で優しくて純粋なんて良い子の鏡だよ!


「レーイー」

『・・・・』


 返事がない。私はしゃがみこんでレイを覗き込むと、レイはなんだか答えが分からないのが悔しいのか、眉間にシワが寄っていた。そんな顔がなんだかおかしかったので思わずクスッと笑ってしまった。まったくこの子は…


「眉間にシワ寄せてると、せっかくの美人さんが台無しだぞ~?」

『………』


 実際レイは眉間に皺があっても美人だけどね。


「レイは一生懸命考えてるけど、いま頑張らなくてもそのうち分かるって」


 ね?っと頭を撫でるがレイの顔は晴れない。いつもなら喜ぶのになぁー。ワシワシと撫でられていたレイは、淋しそうに私を見つめてきた。なんか男性なのに加護欲が沸くよ。


『沙恵は、私の事を好きじゃないの?』

「は?」



 何言ってんだこの子は。


『沙恵は私のことを特別に好きじゃないって言った』


 あー、それですか。レイはまた寂しそうに俯いてしまった。うーん…


「確かに特別な好きじゃないけど、レイの事は好きだよ」

『ホント?』

「うん、大好き」


 その言葉で安心したのか、レイはようやくぱぁっと笑顔になった。うん、気分によって発光具合が違うのね。さっきまではベッドスタンド並だったのに、今は蛍光灯になってるよ。最高潮はLED位に光るのかな?それとも太陽か?それは目が死ぬな。


「じゃあオルガに戻ろう?」

『うん』


 レイは嬉しそうに私の手を取り立ち上がると、一瞬でオルガまで連れて行ってくれた。

 水浴びから帰って来ると、もう森は真っ暗になっていた。初めて来た時には気づかなかったけど、周りには木々という大自然が広がり、澄み切った夜空には星たちが瞬いている。きっとここに来なければ一生見ることのなかった景色だよね。


 そう、昨日まで自分が暮らしていた世界の事を考えると、夢のように感じる。ここにいる事が夢なのか、向こうにいた事が夢なのか分からなくなる。

 だけどその答えはいくら考えても出ないと思う。夢だろうが幻だろうが脳が現実だと思ったら現実になるんだよ。だから私は今見えて、感じることを現実だと思う。

 信じられなくても、それを受け止めて生きていかなくちゃ。


 私はオルガの側にとすっと凭れると、隣りにレイが座った。レイはやっぱり明るくて温かいな。オルガの側だとよりヒーリング効果がある。気持ち良い。だけど…


「…ねぇ、レイ」

『ん?』

「私、明日ここを出て行くね」


 レイは多分前から私の心の声が聴こえていたから知っていただろうけど、私が直接言葉に出して伝えた事が悲しいのか、彼の発する光りが少し小さくなった。


『どうして沙恵はここを出たいの?ずっとここに居ればいい』

「うん、そうだね。だけど私はここを出て行くよ」

『どうして?』


 レイの視線が痛い。だけど私はそのまま続けた。


「私はこの世界で生きていくって決めたから」

『ここでも生きていけるよ』

「ううん、ここだと私は生きてない。生かされている(・・・・・・・)の」

『………』

「食べ物にしても、お風呂にしても、寝る場所にしても、全部レイが与えてくれたものなの。それが迷惑なわけじゃない。むしろありがたいと思ってる。だけど私はレイが居なかったら何もできない。それが嫌なの」

『私は沙恵が望むのならずっと居る』

「ううん、だめ。それが生かされているって事だから」



 もう嫌なんだ。甘えてしまうのも、心配をかけるのも、頼ってしまうのも、助けてもらうのも。

 発作が起きた時、私のことを心配してくれるのは有り難いけど心狭い。友達とも仲良くしたいけど、こんな気持ち悪いもの見せたくない。体調が悪くて動けないときは他人に全てをやってもらって申し訳ない。私が倒れるせいで…今までたくさんの人に迷惑を掛けてきた。いつもそれがすごく嫌だった。今までの私も、ずっと生かされていた。だけど今ここで私は独りだ。誰も頼る人がいない。

 だからこそ今、自分の力で生きたいと思った。


 そんな事を考えていたら自然と涙が頬を伝った。あぁ、本当は辛かったのか。瞼を閉じると、目に溜まっていた涙が全部流れた。私は弱いな。

 暖かな温もりが優しく頬を包み込んだ。レイか…。瞼を開くと、真っ直ぐ私を見つめるレイが私の涙を指で拭っていた。透き通ったトパーズの瞳が、私を真摯に見つめている。きっと私の思っていたことは全部伝わったと思う。


『森を出るのは危ないけど、それでも行くの?』

「うん‥もう今しかないと思うから」

『…分かった。私は沙恵に付いてはいかない』

「うん」

『沙恵が外で暮らすのなら、私もここに居る必要は無い』


 そういえば色んなところに住んでるって言ってたね。迷惑掛けてごめん…


『迷惑じゃない』

「ありがとう」

『うん』

「ふふ、これじゃいつもと立場が逆だね」

『うん』


 レイが優しく笑って頭を撫でてくれたから、私も自然に笑えることできた。

 私は力を抜いてオルガに凭れていたけど、レイはそのまま撫で続け、そのうち私の濡れた髪を梳き始めた。

 何だかほわほわと温かいから何だぁ?と思ってレイの方を見ると、レイの手が淡く薄黄色に光っていて、それの手で私の髪を梳いていた。彼が髪を梳くごとに私の髪を乾いていった。…もしかしてこの手はドライヤー状態なのか?


『ドライヤー?』

「ん、あぁ。私の世界の髪を乾かす道具だよ」

『うん、今は沙恵の髪を乾かしている』

「ありがとね」

『うん』


 レイが梳くごとに私の髪はさらさらと乾いていく。ドライヤーよりも髪に優しいかも。もしかしてレイの髪が美しくサラサラな理由はこれなのかもしれないね。髪を梳きながらレイは掌の上で躍る私の髪をじっと見ていた。


「どうしたの?」

『沙恵の髪の毛は綺麗。赤い』


 なんだか美しい髪の毛の持ち主に言われると照れるなぁ。


「けどこれ染めた色だから、その内黒い毛が生えてくるよ」

『染める?』

「うん」

『どうして染めたの?』

「うーん、黒の髪じゃなくなったら、何か変わるんじゃないかなって思って」

『変わった?』

「あんまり変わんなかった。けど、私はこの色が好きだからいいんだ」

『そう』


 髪の毛の色を変えれば何が変わるんじゃないかって期待してたけど、結局何も変わらなかった。だけど今更黒に戻すのも嫌なんだよね。初めて染めた時からずっと赤だったから、黒に戻すと逆に落ち着かない。まぁ、慣れだよね。


『髪の毛がくるくるして可愛い』

「あーこれは天然パーマだから仕方ないよ」

『天然パーマ?』

「うん、生まれつきこの髪はくるくるしてるんだよ」


 よく『パーマかけてるんだね』なんて言われるけど、自前だっていうとみんな驚くんだよ。それくらいクルクルしてるのさ。レイは私の髪を手に取ったり放したりして楽しそうに遊んでいる。


『可愛い』

「私はレイのサラサラで真っ直ぐな髪が羨ましいよ」


 レイは不思議そうに自分の髪を手にとってジーっと見ると、私に視線を戻した。


『いる?』

「いらないよ!!」


 この子の場合本気で髪の毛をぶち抜きそうで怖いわ!せっかくの美しい髪が勿体無い!!


『そうなの?』

「そうなの!」


 レイが笑い始めたので、私もつられて笑ってしまった。初めて会った時はこんな風なるとは思っていなかった。何せ私の第一印象は最悪だったしね。だけど今、レイとの何気ない会話ですごく心が穏やかさを感じる。レイ、本当にありがとう。





『これは何?』


 レイは髪を梳き続け、耳の近くを梳いていると私のピアスを見つけた。


「ん、これはピアス。アクセサリーだよ」

『どうやって付いているの?』

「耳に穴開けてつけるの」

『痛くないの?』

「最初は痛かったけど、もう痛くないよ」

『そう』


 私は左耳に付いているピアスに触れた。私はいま右に2つ、左に3つの計5つのピアスをしている。大学に通う前に、好きな事をしようと思って耳にピアスを開けた。本当は3つにしようかと思ったけど、あいつとお揃いにするのは何だか癪だし、偶数は良くないぞーってあいつが言ってたから5つにした。ふん、参ったか!


 レイはそのまま髪を梳き続け、うなじの辺りまで梳いてくれた。おー首がほわほわしてきもちー。項の髪を持ち上げた時に、今度は私の首に掛かっているネックレスを見つけた。


『首に掛かっているのは何?』

「これはネックレス。これもアクセサリーなの」

『どうして着けているの?』

「大切な友達からもらったからだよ」

『大切?』

「うん」


 私は首の部分の服を少し引っ張り、服の中に隠れていたネックレスを手に取ると、奈由のことを思い出した。懐かしいな、もう4年も経つのか…。




 私が初めて発作が起こした時、奈由もその場に居合わせていた。だけど私の発作の異常さにショック受け、一緒に病院には来なかったみたい。私も後から聞いた話だけど、全身が大きく痙攣して白目を向き、口から泡を吹いていたらしい。そりゃいきなり友達がそんな風に倒れたらびびるよね。私も奈由がいきなりそんな風に倒れたらショック受けるよ。


 入院してから数日経つと、奈由は花を持ってお見舞いに来てくれた。


「沙恵…」

「あぁ、奈由。いらっしゃい」


 私は笑顔で迎えたけれど、奈由が私と視線を合わせようとせず気まずそうに入ってくるから、私は苦笑してしまった。


「私、急に発作が起きたみたいだね」

「うん‥」


 うーん、暗いな…。



「なんか気持ち悪いもの見せてゴメンね?」

「沙恵…」

「私もあんなの奈由に見せるつもり無かったんだけどさ、なんか勝手に起きちゃって…ごめん」


 私は努めて明るく振舞っていたけど、だんだん声が掠れて目頭が熱くなってきたので思わず俯いてしまった。暗い雰囲気を変えたかったのに、これじゃあ意味無いじゃん!あー、泣くな私!!


「沙恵は悪くない!!!」


 奈由はいきなり大きな声を出したので顔を上げると、奈由は目を潤ませて必死に自分の気持ちを打ち明けてくれた。


「沙恵は悪くない!悪いのは私だもん!!」

「……」

「…私、怖かった。いきなり沙恵が倒れるから、沙恵が死んじゃうんじゃないかと思った。沙恵の発作は仕方ないことなのに、その様子が怖くて、動けなくて、何も‥できなくて…!!」

「奈由…」

「何も出来なくて‥ごめんなさい…!」


 奈由は俯くと嗚咽を漏らし、ボロボロと涙を落とした。その様子に、私も涙が零れた。


「奈由は何も悪くないよ。私がいきなり倒れたりしなければ、奈由に怖い思いをさせずにすんだのに…。心配掛けて、ごめんね…」

「だから沙恵は悪くないのー!!」

「だけど‥」

「悪くない!!!」

「…プッ」

「沙恵!!」

「アハハハ!ごめんごめん」


 どっちが悪い、悪くないだなんて責任の押し付け‥受け合いをしているのがおかしくて、思わず笑ってしまった。奈由もだんだん落ち着いてきたのか、二人で一緒に笑い始めた。

 さっきまでの暗い雰囲気なんかもうなかった。一頻り笑うと、奈由は思い出したように鞄の中から小さな箱を取り出して、私にくれた。


「はい、これ」

「何?これ」

「入院祝い」

「入院『見舞い』ね」

「あ、そうか!」

「まったく…祝ってどうすんの」

「えへへ。まぁ開けてみてよ!」

「うん」


 楽しそうに言うから何なんだろう?と思いながら箱を開けると、クリスタルのネックレスが入っていた。クリスタルの大きさは8cmくらいで、八角形が下に広がっていき一番太い部分がそれぞれダイヤ型に削られ、そこから下に尖っていた。横から見ると、少し変わった形のひし形にも見える。それを手に取ってみると、クリスタルの中で光りが反射して綺麗だった。


「クリスタルのネックレス?」

「うん!沙恵が早く元気になるように願いを込めて」


 奈由は元気に答えると、私のベッドにぼすんっと座った。


「クリスタルにはオールマイティなパワーがあるんだって!願望や恋愛成就、邪気払いとかね。だから私は沙恵の身体が早く良くなりますようにってお願いしておいたの。ちょっと大きいけど、大きいほうが良く効きそうでしょ?」


 ふふっと少し照れくさそうに笑う奈由に、私は涙が零れそうになった。


「‥ありがとね。大切にするよ」

「うん!私だと思って可愛がってね!!」

「自分で言うなよ」



 そんな風に泣いたり笑ったりして、今まで奈由と穏やかな時を過ごしていた。

 今ではもう会えないかもしれないけど、このネックレスを持っているとどんなに遠く離れていても、奈由と繋がっているような気がする。だからこれは、私を支えてくれる大切なお守り。


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