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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
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第7話:お母さんの教育

 私は湖のほとりに戻ると、手と顔を洗った。匂いが残ってまたレイに舐められるのは嫌だからね。最初は嫌だと思ったけど、なんかもういいや。だってレイは純粋に甘いから舐めてただけだし、ワンコに舐められたようなもんだと思ったら気にすることはない。

 そう、大型ワンコで見た目は大人、中身は子どもという逆●ナン君症候群だからね。だけどそれが日常茶飯事になるのは嫌だ。私は元からワンコやニャンコにぺろぺろされるのは好きじゃない。


 さて、と立ち上がると、私は荷物を探した。バッグにハンカチが入ってたはず。あと財布とかケータイとかティッシュとかmp3とか色々。

 …そういえばレイは最初に居たところから移動したって言ってたけど、もしかしてそこに置いてあるのかな?そんな事を考えているとレイが戻ってきた。ちゃんと分かったかな?


『分かんなかった』

「そっか」

『でももうしない』

「ホント?」

『うん、しない。だって沙恵が怒るし、悲しむから』

「…そうだね」


 子どもってこうやってお母さんのいう事を聞くようになるよね。お母さんに怒られるから知らない人についていかない、みたいな。それが躾だよね。まぁ分かってくれるならそれでいいや。レイは不安そうに私を見つめた。すごいキュンとくる顔だな!


『沙恵、もう怒ってない?』

「うん、怒ってないよ」

『もう悲しくない?』

「うん、悲しくない」


 レイの表情が明るくなってきた。微笑みの神、復活だな。いいこいいこと頭を撫で撫でしてあげたら、一瞬驚いたみたいだけどすぐに笑顔になった。うん、レイが笑顔だと私も嬉しいよ。

 あ、そうそう…。


「ねぇレイ、私のバッグ知らない?」

『ばっぐ?』

「うん。私が最初にこの世界に来たとき、荷物を持ってたと思うんだけど…」


 レイは首を傾けて私を見ながら考えると、思い出したのか首を戻した。


『あった』

「なら良かった!それどこにある?」

『【オルガ】の傍にある』

「オルガ?」


 なんだそりゃ?


『最初に沙恵が来た時に、傍にあった大きな樹』


 ‥リバースしたことしか覚えてないよ。


「…あんまり覚えてないなー。とりあえずそこまで案内してくれない?」

『うん』


 レイは頷くと、私の手を取って森の奥へ連れて行ってくれた。お外を歩く時はちゃんと手を繋ぎなさいってことを分かっていてくれてお母さん嬉しいよ。





 ……遠いな。けっこう歩いてるんじゃないか?時計無いから分かんないけど、1時間は絶対歩いた。太い木の根が生えているでこぼこ道(?)をしばらく歩いていくと、さすがに息が上がてきた。頑張れ私!


『大丈夫?』

「うん、大丈夫だよ…」

『だけど沙恵、疲れている』


 私の前を歩いていたレイは振り返ると心配してくれた。やっぱり優しい子だね。


「けどもう少し頑張るよ」

『分かった』


 再びレイは歩き始めたので、私もそれに続いて歩き始めた。‥‥が!


「うわぁ!!!」


 私の履いていたミュールのヒールが折れた!


『沙恵!』


 こけそうになった私をレイが引っ張ってくれたので、何とかこける事は免れた。ありがたやありがたや。

 だけどこのミュール気に入ってたのになぁ‥。ていうかミュールだと歩きにくいな。やっぱりヒールってオシャレなだけで実用性はないよね。まぁ森の中をヒールで歩く馬鹿はいないか。私はその馬鹿の一人だけど。


「っ‥!!」


 なんか痛いと思ったら、やっぱり少し足を捻ったか。レイは私を引き寄せると、心配そうに見つめてきた。至近距離で見るとレイってより美しいよね。こういう時は『可愛い』より『美しい』んだよ。心配そうな顔をしている美人って女性でも惹かれると思う。


『大丈夫?』

「うーん‥大丈夫だけど、このまま歩き続けるのはちょっとキツイかな」


 うん、困った。このままじゃ夕飯は食べれないな。私は苦笑いするとレイはしょんぼりした。うー、そんな顔しないでよぉ~‥。


「ちょっと足が痛いだけですぐに治るよ」

『足が痛いの?』

「うん、ちょっとね」


 まぁ痛いけど死にはしないさ。骨折れたわけではないんだし。そんなレイはまだ心配そうに私の足を見ていたが、急に私の前に座り込み左足を持ち上げた。


「いっ!!」

『やっぱり痛い』

「そ、そう痛いから!!だから離してっ!!!」

『嫌』


 何でまたこんなところで反抗期ぃい!!足を上げられると痛いのもあるけど、スカートだからヤバいんだよ!パンツ見えちゃうよ!!レイのお目汚しになるから!!!

 だけどレイは気にせずに私の足を自分の方へ引き寄せた。


「‥っ!!れい~…!」


 痛いんだってば!!私は涙目でレイを睨んでいるが、レイは聞こえているであろう私の文句をまた全部無視して、左足に掌を近づけると、淡く光る白い光りを当てた。なんだか温かい…。あ、もう痛くない。

 あぁ、もしかして…


「魔法?」

『うん』


 おぉ‥魔法初体験。これはゲームじゃなくてアニメみたいな感じの回復の仕方だなー。ゲームだったら一気に光りとかがピュン!って来て回復する感じがする。まぁバトル中に早く回復してくれないと困るんだけどね。回復魔法の詠唱途中に敵に攻撃されて倒されるとムカつく。

 レイは微笑むと私の足を優しくそっと置き、その場に立ち上がった。出来れば最初も優しく持ってほしかったな!



『痛くしてごめん』

「ううん、いいよもう気にしなくて。レイのおかげで足治ったし。ありがとね」


 ニッコリ笑うとレイもニッコリ笑ってくれた。…眩しいぜ。


『私が沙恵を運ぶ』

「へ?・・ぅわっ」


 レイは私の返事を待たずに私を持ち上げた。こういうときはお姫様抱っこが普通だろうが、残念ながら赤ちゃん抱っこだ。どうせ私は小さいですよー。にしても視線が高いなぁ。


『沙恵?』

「あ、ごめんごめん。ありがたいけど私、重いから運んでたらレイがきつくなっちゃうでしょ?だからいいよ」

『平気。昨日も私が沙恵を運んだ』

「…そうでしたね」


 一体この細い身体のどこにそんな体力があるんだろうね?ふぅ、と私は力を抜くとレイにお願いすることにした。


「じゃあよろしくお願いします」

『うん。沙恵、ちゃんと摑まって』

「はい」


 大人しくレイの言う事を聞いて服を握ると…一瞬で樹の目の前に来た。おい!!これも魔法か!!!私の努力とミュール返せ!!!



 …落ち着け、落ち着くんだ私。


「・・どういうことなのレイ?ちゃんと説明して?」


 私は怒りを抑えて満面の笑顔でレイに聞いた。目が笑ってないのは言うまでも無いよ。レイは不思議そうな顔をして首を傾げた。


『オルガの傍に移動した』

「うん、それは分かるよ。…どうして最初からこれをしてくれなかったのかなぁ?」


 もう少し我慢して私、この子に悪気はないから…!!


『沙恵が案内してって言ったから案内した』


 …私のせいかぁああ!!なにこのやり場の無い怒りと疲労感!すごくト●コ行進曲 - オワタ\(^o^)/が歌いたいよ!!


『歌うの?』

「…歌いません」


 そんなキラキラと期待した目をされても困ります。こんな子の前では歌えません。


「‥もういいや。レイありがと。降ろしてくれる?」

『うん』



 よっこいせとレイから降りると、私は左足を引き摺りながら樹に近づいた。よし、バッグ確保。とりあえずバッグが手に入って安心して余裕が出来たので樹を見上げた。


「それにしてもでっかいなぁー…」


 がっしりと太い根は地面に力強く根付いていて、丈夫そうな幹はとても固く、ぼこぼことしている。上へと伸びる枝も大きく広がり、青々しい緑の葉を沢山生やしている。下から見るとブロッコリーみたい。

 その葉は日に当たり輝いているが、日の光りを遮っているので樹の麓には日陰が出来て涼しいし、雨宿りが出来そう。

 とにかく生命力がみなぎっているので、この樹の側はすごく心地良い。


 日の光りを浴びてキラキラしているレイが微笑みながら近づいてきた。うん、この樹があるから余計神聖さが出てるね。麗しい。


「この樹がオルガ?」

『うん』

「なんか、すごく力強くて心地良い樹だよね。私好きだよ」


 微笑みながらレイを見ると、レイも嬉しそうに微笑んでいた。やっぱり勝てないや!

 レイがオルガを見上げたので私も見上げた。


『オルガはこの世界の【メージ】の源』

「明治?」

『メージはこの世界の生命力。魔法の媒体。メージがなくなると、この世界は死ぬ』

「え、それ大変じゃん!」


 私のボケをシカトして説明するだけの価値はあるよ!静かに話すレイを見ると、どこか遠くを見ているようだった。


「じゃあ魔法を沢山使ったらメージ無くなっちゃうんじゃないの?」

『魔法を使っても使われたメージはまた還元されるからメージは無くならない』

「そっか、だからここは神聖樹海って呼ばれているんだね」

『うん』


 世界を支える樹。なんか聖●伝説みたいだな!さすが異世界、ファンタジーだね!もう不思議なことにはこれしか言えないよ!!



「ふぅ」


 私は疲れたのでオルガの側で休むことにした。あーやっぱり心地いいわ。けど私こんな神聖な樹の下で何してんだよ。世界の生命力を生み出す樹の側でゲロ吐くとか最悪だな!

 あーその事によって汚いメージが出来たらごめんなさい。


『そんな事は無い』

「え?」

『オルガは沙恵の嘔吐物を養分として吸収して浄化するから汚いメージは出来ない』

「…そうですか」


 つまり私のゲロはオルガの肥料になった訳ね。馬糞や牛糞とかと同じもんか。まぁ害が無いならいいや。それにしてもの心地いいから眠くなってくるな…。動きたくないや。


『沙恵、ここで休むの?』

「うん、今日はここで休ませてもらうよ。あ、けど食べ物無いからあそこに戻らなきゃダメか…」

『私が取ってくる』

「ほんと?ありがとね」

『うん』


 さすがレイ。優しくて良い子だ。不純物いっぱいの私の心の癒しだ。


『じゃあ行ってくる』

「いってらっしゃーい」


 そう言ってレイの背中に手を振るとレイは消えた。ホント便利な機能だな!

 だけど私はもう疲れたよパト●ッシュ・・。私はおやすみ3秒で眠りについた。





『‥恵、沙恵』

「…ん‥」


 レイが帰ってきたのか。うー‥っと唸りつつ私は伸びをすると、目を開いた。

 …やっぱりレイが至近距離で見てるよ。何となくそんな気はしてたから良いんけどね。もうレイの行動には慣れちゃった。


『沙恵、いっぱい採ってきた』

「うわー‥ホントいっぱいだねぇー…」

『うん』


 レイの指差した方をみると、さっきの果物が山盛り積まれていた。ほんと、山盛り。公園のジャングルジムくらいの高さまで積んであるよ。


『沙恵』

「ん?」

『いっぱい採ってきた』

「うん」


 …なんかね、すっごい期待いっぱいのキラキラした笑顔で私を見てくるんだよ。


『採ってきた』


 褒めてほしいのね…。あなたどれだけワンコなんだぁ!そこが可愛すぎる!!!


「‥たくさん採ってきてくれてありがとね。レイはいい子だね」


 私は高速で『よーしよしよしよしよし!』ってしたいのを堪えて、優しく何度もレイの頭を撫でてあげた。そんな事したらレイの頭が禿げちゃうもんね。レイは満足げに私に擦り寄ってきた。

 ペットに服や高価な食事や別荘を買い与える人達の気持ちが良く分かったよ。

 お昼寝から起きたらもう夕方になっていたので、今日はここで過ごす事にした。だって心地良いし。私は果物をもぐもぐ食べ始めたけど、レイは一つも食べなかった。


「どうして食べないの?」

『お腹は空かないから』


 何で‥て聞こうと思ったけど、やめた。多分『何でだろう?』って返ってくるから。

 レイにはレイの事情があるんだろう。深くつっこんじゃダメだ。


「じゃあ悪いけど私だけ食べさせてもらうね」

『うん』


 なんかレイが嬉しそうに私の食べっぷりを見ていたが、私は気にせずに食べ続けた。





「ふぇ~」


 お腹いっぱいだ。ここの果物は美味しいからついつい食べ過ぎてしまう。瑞々しいから果汁もこぼれてくるしね。レイがうずうずしてるけど私は知らんよ。けどべたべたする。手ぇ洗いたい。ていうか風呂に入りたい。こんなところに風呂なんか無いだろうなぁー‥。うーん、湖にでも入らせてもらうか。


『湖に行くの?』

「うん、体洗いたいんだけどいいかな?」

『うん』


 喋らなくても伝わるって便利だ。そんな訳で最初の湖に来たわけですが…私タオル持ってないや。それに着替えもないじゃん。嫌だよこんなべとべとの服をまた着るの。


「うーん、レイ」

『ん?』

「レイって着替えの服持ってる?」

『着替え?』

「うん、他の服」

『無い』

「ですよねー」


 だってレイって「汚れって何ですか?」ってくらいキレイだし。ふむ、どうしたものか。


『沙恵は、他の服が欲しいの?』

「え、うん欲しいけど・・あるの?」

『今は無い。だけど沙恵が欲しいなら出す』


 おぉ、すごいな。さすが異世界。どうせだったらシャネウィグの服を着たほうがいいか。これから森の外に出るとしたらそっちの方が怪しまれずにすむ。


「じゃあシャネウィグの一般家庭の女の子が着る動きやすい服にしてくれないかな」

『分かった』


 そう言うとレイは両手を肩幅くらいまで広げると、その間が光り始めポンッ!て感じに服が出てきた。そしてふわー、とレイの腕の上に降りてきた。おぉー、これなら金いらないじゃん。


『はい』


 レイは微笑んで私に服を渡してくれた。それは中世のヨーロッパ風の服で、緑をベースにした町娘Aみたいな服だった。これなら目立たずに普通の生活が出来るはず!派手で綺麗で可愛いドレスは嫌なんだ。動きにくい上に機能性がない。もうミュールの件でこりごりだ。


「レイ、あと身体を拭く布と石鹸も出せないかな?」

『出せる』


 また手を広げるとポンッ!て布と石鹸が出てきた。石鹸も清潔感のあるフローラルな香りがするし、布も身体を拭くには勿体無いほど滑らかな生地だった。よし!!細かいことは知らないがこれで身体を洗える!


「ありがとね!じゃあ行ってくるよ」

『うん』


 私が湖の側にある気に向かおうとしたら…やっぱりついてきましたよ、このワンコ。はぁ…。


「レイ」

『ん?』

「私は一人でお風呂に入りたいからあっちで待ってて」


 私はこことは反対側の林を指した。あそこからなら見えないはずだ。


『嫌』

「なんで?!」

『沙恵と一緒に居たいから』


 …なんて健気な子なんでしょう!爽やかに悪意のない笑顔で言われたら何も言えない・・訳が無い!!!やっぱり男女としてこれは大切だよね。


「レイ、果物の時も言ったよね?」

『特別な好き?』

「そう、お風呂・・水浴びの時もそれと一緒で、特別な好きな人じゃないと裸を見ちゃいけないの」

『そうなの?』

「うん、そうなの」

『私の好きはまだ特別じゃないの?』

「まだだね。それに私の好きも特別な好きじゃないから」


 まぁ間違っちゃいないよね。私のレイに対する『好き』は子どもやワンコに対する好きだから母性本能みたいなものさ。レイは少し悲しそうに俯くと、湖から離れていった。

 すまんね。よく考えておくれ、ワンコよ。私はここでフラグを立てるつもりはないのだよ。


ネタ解説


・トル●行進曲 - オワタ\(^o^)/-オワタPのVOCALOID作品。

・聖剣●説-スクエ●のアクションRPG。

・パ●ラッシュ-フランダースの犬に出てくる犬。



いつもながらのずさんな解説ですみませんorz


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