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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第三章
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第7話:武術大会開始!

 次の日からは仕事が終わったら筋トレ&掃除生活が始まった。筋トレはそんなに好きじゃなかったけど、他の人に比べて体力の無い私にはちょうど良かったと思う。それに筋肉大好きなラムちゃんの監督の下で美しく筋肉をつける方法で筋トレしてるから、ムッキムキにはなってない。寧ろ前よりも身体が締まってきて感謝カンゲキ雨嵐ですわ。

 そしてそれを私以上に喜ぶのがラムちゃん。自分が他人の身体を美しく作り上げてる事に快感を覚えるそうだ。だから毎日ラムちゃんにはスタイルチェックを受けています。最初は恥ずかしかったけど、ラムちゃんはおねえだからいやらしい目で見てこないし、真面目に身体を見てくれるのであんまり気にしなくなった。


 就業後の掃除は、なんだかんだで皆が手伝ってくれたので楽しかった。だから私はお礼として魔法でパフォーマンスしたり、居残りで訓練してる人達に水などを持っていったり細やかな恩返しをした。そのおかげで仲間意識が強くなり、騎士団の結束力も強くなって良いことづくめだった。

 結局罰則なのに全然罰則になってないので、トリス副団長様々というか、ざまぁというか…。


 それからルーカス隊長に頼んで仕事の時間に勉強の時間も組み込ませてもらった。自分の身を守るにはやっぱり知識が必要だと思う。事情を知ってるルーカス隊長は快諾してくれたけど、その代わりにマッサージという仕事も増えた。いいんですけどね。

 そして自主的だけど、外にいる時は出来るだけ隊長達にはあまり近付かないようにした。やっぱりどこで見られているか分からないからね。テレウスさんの時の事を思い出しますな。ははは。

 その事に関してガイシス団長やロイス副団長は何も言わなかったけど、私が三番隊隊長室にいる時に度々訪れてくれるようになった。マーリンドなんかは暇な時はしょっちゅう来る。仕事しろ。




 そんな日々は目まぐるしく過ぎ、とうとう白黒騎士団武術大会が始まった。

 これはオラリオス最大の闘技場であるマリークロニケ・コロシアムで、国内外問わずどんな人でも観に来られる大会。

 白黒両騎士団のトップの高い戦闘力を見せつける事で国民に安心感を与え、他国には牽制の意味もある。

 オラリオスは大国だから騎士のレベルが高く、戦いの見応えがあるのはもちろん、騎士団のトップって無駄に面が整ってるから国内外問わず女性ファンも多いらしい。そりゃそうだ。時々強さと顔面偏差値が比例するんじゃないかと思う。泣けるね。

 そして国外からもお客が来る訳だから経済効果がありまさに外貨の稼ぎ時。みんな金落としていってくれー。


 今回の私の仕事は各騎士団への連絡係。多くの人が観戦に来るので当然いつもより厳重な警備が必要で、普段は城の警備を主な仕事としている緑亀騎士団との連携も必要なのだ。隊長などの限られた人達は携帯用の通石を持っているからお互いに連絡がとれるけど、ほとんどの騎士は持っていない。

 それに今回は黒鷲騎士団団長、四番隊隊長、白蛇騎士団副団長が試合で不在の為、余計に連携が取り辛い。だから私みたいな下っ端が連絡係をするのです。はい。

 ただ、私一人だと信用されないされないとか、小さいからどこにいるか分からなくなるとか、挙げ句の果てに誘拐されてしまうかも等とまるで親みたいな理由から、同じ三番隊の隊のマークさんと一緒だ。

 このマークさんは身長170㎝後半の丸眼鏡さん。顔は可もなく不可もなく、何処にでもいそうであんまり印象に残らないような人。ぶっちゃけ地味で目立たない。

 性格も穏やかでお喋りでもなければ無口という訳でもない。もう本当に平均的な人。最高じゃないか!こういう人が直属の上司なら良かった!!!そんな事を心底思いつつ、私はマークさんと雑談しながら城内を歩いていた。


「初めてのは鎧はどう?」

「うーん、少し動きにくくて特に頭が落ち着きません」

「そうだろうね」


 篭った声で返事をする私に、マークさんはくすくすと笑った。

 そう、なんと私はついに鎧デビューを果たしたのだ!…とはいっても戦う訳ではなく、顔を隠すためなんだけどね。私の存在は世間に公表されてはいるものの、顔はまだ知られておらず、噂程度でしか知られてないので、世間の認知度は低い。だから私が普通に仕事をすれば魔者と勘違いされたりと騒ぎになりかねないので、仕事を円滑に運ぶ為に今回は鎧を着て姿を隠しております。他の騎士も今日は全員鎧は装着してる。


 今の私の格好は、頭はシンプルなフルフェイスのアーメットを被り、身体は動きやすいブリガンダイン。ただ鎧に慣れていない私はブリガンダインでも動きにくいし、急ごしらえのアーメットはサイズの合っていないのでよく揺れる。やっぱり鎧はちゃんと自分に合ったものじゃないと駄目だな。


「この鎧はいつ買ったの?」

「買ったのではなく全部ヒヨ‥ックート副隊長のお古です。昔に練習用に使っていて倉庫に眠っていた物をお借りしました」

「へえ、だから装飾が無くてシンプルなんだな」

「はい。訓練に装飾は必要ないと、ベラクラース様が安くて丈夫で動きやすいものを選んでくれたんだそうです」

「…その鎧欲しいな」

「あげません」


 さすがベルクラース様。安物の中古が一気にブランド物になったよ。


「けどせっかくならサーイェも新しい物を選んで貰えば良かったんじゃないか?」

「いやー、私は滅多に鎧は着ませんし、新しい鎧だと自分のサイズにしっかり合わせないといけないので、出来上がるまで時間が掛かるじゃないですか」

「確かに」

「今回だけなので間に合わせの物で良いんです。それにベルクラース様に『鎧は騎士の誇り。急いで捨てるような物を作るより自分に合う物をしっかり選べ』って言われたんです。しかも必要な時は一緒に見立ててくれるって…!!!」

「いいなぁ!羨ましい!」

「えへへ…」


 思い出すだけでにやけてる。いまアーメット被ってて良かった。マークさんは羨望の眼差しで私をみながらも、話題を変えた。


「サーイェはいつも隊長達と一緒にいるから、今日は少し寂しいんじゃないか?」

「そんな事ありませんよ」

「サーイェは大人だね」

「…皆さんは私を子ども扱いし過ぎです」

「みんなサーイェの事が可愛いんだよ」

「紳士さん達の中の紅一点だったらそうなってしまうのは仕方ないです。いつも良くして貰ってありがとうございます」

「いやいや、僕なんか何もしてないよ」


 ぺこりと頭を下げると、マークさんが謙遜してるのがなんだか微笑ましかった。そこでマークさんはゴホンっと咳を吐くと、少し声のボリュームを抑えて私に尋ねた。


「…あのさ、ちよっと聞きにくい事なんだけどいいかな?」

「なんですか?」


 マークさんは声のボリュームを落とした。


「サーイェはさ、騎士団の隊長達の事を好きになったりしないの?」

「はい?」


 いきなり恋バナ?マークさんからそんな話題が上がるなんて意外だな。


「どうしたんですか?急に」

「だって隊長達って全員強いし格好良くて、女性達にも人気なんだよ?」

「そうですね」

「そんな人達といつも一緒にいて可愛がられていたら、サーイェも誰か好きになるんじゃないかなぁと思って…」

「ならないですねー」


 ははは、とどうでもよく笑うと、マークさんは目を丸くした。


「どうして?」

「上司ですから。それに先程言ったように私が皆さんに良くしてもらっているのは私が女の子で、子どもだからだと思います。それに皆さんの私に対する『可愛い』は、マスコットとかに対するそれと同じではないでしょうか?」

「けどやっぱりサーイェも女の子だし、誰か好きになってもおかしくないかなぁと思って」

「ならないですよ。皆さんは仕事の仲間ですし、私にとってはお兄ちゃんみたいなものです。マークさんだっていくら一緒にいるからって妹を恋愛対象に見る事はないですよね?」

「確かに…」

「それと同じです」

「じゃあ年の近いマーリンド隊長は?よくいるよね?」

「あれはマーリンドが勝手に構ってくるんですよ。彼はお兄ちゃんと言うよりやんちゃな弟か男友達って感じが強いですね」

「ふーん…」


 くすりと笑いながら答えると、マークさんは少し納得がいかないご様子。少し考えると、探るような視線を私に向け尋ねてきた。


「もし、マーリンド隊長がサーイェの事好きだと言ったら?」

「え?」

「いくら兄妹のようだと思っていても実際は兄妹じゃないし、兄妹だとしてもマーリンド隊長のサーイェの所へ訪れる頻度は高いと思うよ」

「そうですけど…」

「サーイェが好きじゃなくても、マーリンド隊長がサーイェの事を好きだと思っていたとしたらどうする?」

「どうするって…」


 そんなの全力で無視するに決まってる!王子様に見初められて結婚とか、ファンタジー恋愛小説の王道じゃないか!その過程の中に貴族とかの陰謀とか貴族嬢の嫉妬の嵐とかあるんでしょ?一番面倒臭いわ!!ていうかなんでマークさんはそんな詳しく私の恋愛事情を知りたがるんだ!意外と面倒臭い人だな!!

 そう言ってやりたいがそんな事言えるはずもなく、言いあぐねていると、目的地に辿り着き、連絡を終えると立派な鎧を着たマーリンドが見えた。


「噂をすれば、だね」

「そうですね」


 ニヤっとしながらマークさんが私を見た。いやいや、特に何もありせんからね。

 私達に気が付いたマーリンドは片手を上げて話しかけてきた。


「よお!」

「おつかれ、マーリンド」

「試合の方は順調ですか?」

「おう!初戦は一発K.O.だ」

「おー!すごーい!」

「おめでとうございます」

「ま、これくらい当然だ」


 そうは言いつつも嬉しそうにしているマーリンド。隠さなくてもいいのに。


「つーか、懐かしいもん着てるなぁ」

「あぁ、これ?」


 私が鎧の事を指すと、マーリンドはカンカン!とアーメットをノックした。


「ちょっとやめてよ」

「これヒヨックートが着てたやつじゃね?」

「いつのかは知らないけどヒヨのお古だよ。よく分かったね」

「あいつとはよく訓練したからな。それにあいつこの鎧気に入ってたし」

「ベルクラース様が選んでくれたから?」

「ああ。あいつも口にはしねぇがベルクラースの事大好きだからな」

「分かるー!けっこう顔に出てるよね!」

「ああ」


 ベルクラース様の思い出を語ってる時のヒヨの顔と言ったら目ぇキラキラさせて可愛いのなんのって!犬だったら尻尾を高速で振ってたね。めちゃくちゃ頭撫でたかったけど我慢した私は偉い。


「それで次の試合はいつなの?」

「13時。だからその前に飯食おうと思って」

「そうなんだ。なら城門付近に出店が出てるみたいだからそっちに行ってみたら?」

「そのつもりだ」

「そう。まだ時間あるとは言え、試合に遅刻しちゃ駄目だよ?」

「分かってるよ」

「じゃあ私達は仕事「おら、行くぞ」

「は?」


 マーリンドは私が言い終わらないうちに私の手を取って引っ張って歩いた。


「ちょっと待ってよ!どこ行くの!?」

「飯」

「私まだ仕事があるから1人で行きなよ!」

「そんなのこいつに任せておけばいいだろ」

「いやいや、よくないから」

「いいよ、サーイェ。行ってきて」

「マークさんまで!?」

「連絡係は僕1人でも出来るから」

「けど…」

「それに元から僕はサーイェのおも‥保護者係みたいなものだから」


 いま絶対お守りって言おうとしたよ!しかもマークさんは何が楽しいのかにやにやしてるし…気分悪い!


「こいつもこう言ってるんだし、飯行こうぜ」

「行かない」

「はぁ?」


 私は断るとマーリンドの手を振り払った。するとマーリンドは不服そうに私を睨んだ。


「何でだよ?」

「何でも」

「言わなきゃわかんねぇだろ」

「…だって一般の人だっているじゃん」

「だから何だよ」

「私がいるって分かったら、皆を混乱させちゃうかもしれないでしょ?」


 それにマークさんみたいに勘違いされるのも嫌だし。特に御令嬢方ね!心の中でそう言うとマーリンドは大袈裟なくらい大きい溜息を吐いた。


「お前なぁ、自意識過剰過ぎだろ」

「そんなことないよ」

「何の為の鎧だよ。着てたらお前だってわかんねぇだろうが」

「だけど分かる人は分かるよ。万が一って事もあるじゃん」

「万が一だの億が一だの考えてたら何にも出来ねぇだろ。おら、行くぞ」

「いーやーだー!」


 腕を取られ引き摺られる私は、散歩を嫌がる犬のように抵抗した。マークさんも微笑ましそうに見てないで止めて下さいよ!


「強情だな!」

「嫌なものは嫌なんですー!」

「チッ!たく…」

「うわぁ!」


 苛立ったマーリンドがぐいっと私を強く引っ張ると、私と正面から向き合った。


「オレが守ってやるよ!」

「え!?」


 声を荒げて宣誓をするマーリンドに、私は思わず目を丸くした。


「誤解されたらちゃんと説明するし、お前を傷付ける奴がいたらぶっ飛ばしてやる!!」

「…………」

「だからお前は黙ってオレについて来い!!」


 真っ直ぐで強い意思を宿した視線と言葉は私に突き刺さり、私の心臓は一気に心拍数を上げた。なんだこのプロポーズみたいな台詞は!!!アーメット被っててほんっっとに良かった!きっと今の私の顔は恥ずかしいくらいに真っ赤だと思う。顔がすごく熱い…。

 そしてはっと気がついた。私達が今いるのはマリークロニケ・コロシアムから少し離れた場所。しかしここには少なからず一般人はいるし人も多い。こんなプロポーズ紛いの台詞を吐かれればあらぬ誤解を招く。全く余計な事を!!!


「こん‥の馬鹿ッ!!!」


 一気に頭が回転してすぐにパンクした私は思いっきりマーリンドに蹴りを入れると、怯んだ所で距離をとった。


「痛ってぇ!!何すんだよ!!」

「そうやってすぐ誤解されるような事言わないでよ!恥ずかしい!!!」

「あぁ?!!何を誤解すんだよ!?」」

「色々だよ!」

「だから「そこまでだ」…痛って!」

「ロイス副団長!」


 いつの間にやら颯爽とロイス副団長が現れ、マーリンドの頭を殴った。ガンッ!とした小気味良い音が鳴ったが、ロイス副団長は拳は痛くないのか?そんな事を考えつつも私は身の安全の為ロイス副団長の背後に駆け寄った。


「何すんだよロイス!」

「お前こそ何やってるんだ。嫌がる女性にこんな振る舞いをして」


 普段穏やかなロイス副団長の目が鋭くなった。久しぶりの御怒りモード…!周りを一瞥すると、蜘蛛の子を散らすように人が居なくなった。すごい!


「…何って、飯誘っただけだ」

「はたから観たら強引に連れ去ろうとしているとしか思えない。しかも公衆の面前でそんな告白紛いの事を言われたらサーイェが怒るに決まっているだろう?」

「別に告白じゃねえだろ」

「お前がそうは思っても周りは違う。お前の安直な行動でサーイェを危険に晒す事になるんだぞ」

「…………」

「それは騎士団においても同じだ。いくらお前が強くてもあまりにも勝手な振る舞いをすれば統率が取れなければ勝てない戦いもある。無理強いをするな」

「…………」


 …返事無し。反省しているのか拗ねているのか分からない。ロイス副団長が溜息を吐くと、マーリンドの元へ歩み寄り耳許で小声で何かを囁いた。するとマーリンドは目を見開き、青い顔をして勢い良く謝って来た。


「悪かったサーイェ!!」

「へ?」

「オレ、お前に城下の食べ物とか様子を見させてやりたかっただけなんだ!お前、一回も城の外に出た事無いだろ?だから今日だったら鎧も被ってるから大丈夫だろうって思ったから連れて行こうと思ったんだ…」

「そっか…」

「悪かった!だからオレを嫌いにはなるな!」

「いや、別に嫌いにはならないけどさ…」

「ほんとか!?」

「あー‥うん、まぁ…」

「取り消し無しだからな!!」

「うん…」


 あわあわと必死になって謝る姿がいつの日かのオズを思い出す。ロイス副団長は一体何を言ったのだろう?

 ちらりとロイス副団長を見上げると、何も言わずに苦笑していた。…なーんて言えばいいんでしょうね?


「えーと…気持ちは有難いけどさ、やっぱり私は外に行けないよ。だから気持ちだけ受け取っておくね。誘ってくれてありがとう」

「おう…」

「けどさ、外に行って何か持ち帰られる食べ物あったらそれ買って来てよ。そしたら許す!」

「サーイェ…」


 アーメットで見えないだろうけど笑顔で言うと、マーリンドにみるみる笑顔が戻ってきた。


「おう!大量に買って来てやるよ!」

「お願いしますー」

「じゃあな!」


 さっきの汐らしさは何処へやら、マーリンドは元気良く駆け出して行き、私はそれを手をひらひらと振って見送った。


「…嫌な思いさせてごめん。あいつ、考えるより先に行動してしまうんだ」

「え?いやいや!マーリンドに悪気はないし、それこそロイス副団長は悪くないですよ!助けて頂き有難うございました!」


 慌てて頭を下げると、ロイス副団長が優しく微笑んだ。それにしても今日のロイス副団長は一段とかっこいいな。鎧効果半端ないっす。じっと見つめていると、ロイス副団長が首を傾げた。


「どうしたの?」

「鎧姿がかっこいいなーって思ったんです」

「そう?ありがとう」


 ロイス団長は自分の着ている鎧に目を向けると微笑んだ。ロイス副団長が着ているのは、黒鷲騎士団二番隊隊長専用のデザインが施された特別な鎧。隊長の鎧は他の騎士と違い装飾も細かく色んな魔法が組み込まれているらしい。黒鷲と名前がつくだけに鎧の色は黒く鈍く光っていて独特の重みが出ていてかっこいい。そして後ろに着いている赤いマントには黒鷲とオラリオスの国旗が描かれていた。


「マーリンドみたいに頭は被らないんですか?」

「ああ、俺は戦いに行くわけじゃないから。今回は形式的に着ているだけさ」

「そうなんですか…」

「ああ。それに出そうと思えば出せるし」


 そういうとロイス副団長は掌を上に向けると、手が輝きだし一瞬で兜が現れてそれを被った。


「おぉ!」

「ね?」


 茶目っ気のあるウインクをすると、ロイス副団長は再び兜を外すとまた消した。兜を被った姿もカッコいいけどそれ以上に甘くかっこいい顔が出ているのと、滅多に見ない鎧効果も合いまっていつも以上に輝いて見える。遠くからだけどそれに見惚れているご婦人方はちらほらいる。…さーて、そろそろ行こうかな。


「それでは私はそろそろ仕事に戻りたいと思います」

「サーイェはこの後どうするの?」

「私はこの後、サード・ウォールにいる白騎士の方に昼休憩と交代の呼びかけと、アドニス団長の指示を仰ぎます」

「そっか。サード・ウォールは貴族もちらほらいると思うから気を付けてね」

「はい。心配してくれてありがとうございます」


 見えてないと思うが笑顔でお礼を言うと、ロイス副団長も微笑み返して仕事にもどった。うーん、爽やか。なんだかすごく癒されたわ。気分もすっきりした所で、マークさんと一緒に仕事へ戻ろうと思ったが、そこにマークさんはいなかった。


「あれ?マークさん?」


 どこ行っちゃったんだろう?迷子かな?それとも私達のやり取りが長いから先に行っちゃったのかな?

 近くにいた黒騎士の方にマークさんの事を尋ねたけど知らないと言うし、時間もなくなってきたので私は仕方なく1人でサード・ウォールへ向かった。







 サード・ウォールにいる白騎士への呼びかけも終えたのでアドニス団長の元へ報告しようと歩いていると、アドニス団長が綺麗なドレスを着た女性2人と話していた。あれはペリーシェ様か?

 後ろ姿からして一人はペリーシェ様だと思うけど、もうひとりは誰だろう?ペリーシェ様より身長が高くてスラリとしたスタイルで、青い華やかなドレスを着て優雅な雰囲気を醸し出す様子に私は声を掛けづらく、遠くからその様子を眺めているとアドニス団長が私の存在に気が付いた。


「…もしかしてサーイェかい?」


 確認しながらも警戒したような声音に私は少し戸惑ったが、今の私の格好を思えば仕方が無いと思い返事をした。


「はい、そうです」

「まぁ?サーイェ?」


 振り向いた貴婦人の顔を見ると、その人はやっぱりペリーシェ様だった。ペリーシェ様は足早に私の側に寄ると、私のアーメットの顔の部分を開けて微笑んだ。


「サーイェ!」


 私と目が合うと、ペリーシェ様は私の両手を両手で包んだ。


「お久しぶりですわ!」

「あ、お久しぶりです、ペリーシェ様」


 ペリーシェ様の勢いに押され、びっくりしながらも笑顔で返事を返すと、まるで花が咲くような笑顔をペリーシェ様が返してくれた。漫画だったら絶対咲いてるよ。癒されるわー。


「ペリーシェ、いきなり駆け寄ってアーメットを外すなんてはしたないぞ」


 アドニス団長は少し呆れた様にペリーシェ様を嗜めた。


「うふふ、ごめんなさい。サーイェに会えて嬉しかったものですから」

「まったく…」


 ペリーシェ様は嗜められたのに反省の色もなく嬉しそうに微笑んだ。


「今日は鎧を着けていらっしゃるので、誰だか分かりませんでしたわ」

「すみません…」

「謝らないで。とても素敵ですわ」

「ありがとうございます…」

「僕としては、サーイェの可愛い顔が隠れてしまうのが残念だけど」


 わざとらしいため息がきこえるけどそんなの眼中にはない。なんだこのふんわりキラキラオーラは!妖精だ!妖精がいる!!

 素敵な笑顔を向けられ照れていると、もう1人の女性とアドニス団長が私の元へやってきた。


「この方が、サーイェ・アマーノゥですか?」


 花の妖精第二弾!外見年齢16歳くらいのさくらんぼ色の髪を後ろの高い位置で大きなお団子に纏めた美少女がいた。髪の毛は艶のあるストレート姫カット。大人しい印象の藍色の瞳に泣きぼくろが可愛らしさを際立たせている。


「ああ、キルーシャ。紹介が遅れたね。こちらの愛らしい女の子は黒鷲騎士団三番隊隊長補佐のサーイェ・アマーノゥだよ」

「お初にお目にかかります。サーイェ・アマーノウと申します」


 紹介された私は胸に手を当て頭を下げた。


「はじめまして。私はキルーシャ・フォン・フローリアと申します」


 頭を上げると、キルーシャ様はスカートを両手で軽く摘み、軽く膝を曲げた。たったそれだけの動作なのに優雅さを称えていて十分な気品があり私は見惚れた。



「彼女はペリーシェの妹で、僕の幼馴染さ」

「そうなんですか…」


 どうりでお美しい…。しばし見蕩れていると、キルーシャ様が口角を少し上げた。


「噂は予々、御二人から聞いております」

「そうなのですか?」

「はい。御話通り、可愛らしい方です」

「そのような事は…」

「そんな事あるよ、サーイェ」


 出たよアドニススマイル。胡散臭い。小さく微笑んでいるキルーシャ様は綺麗だった。

 ペルーシャ様が花の妖精なら、キルーシャ様は月の妖精の様だと思った。

 ペルーシャ様はよく微笑い、華やかで柔らかな雰囲気で穏やかな気持ちにさせる人。対照的にキルーシャ様は笑顔が少ないけど静かな雰囲気で落ち着いた気持ちにさせる人。まるで綺麗なお人形のようだ。

 同じ姉妹なのにこんなに雰囲気が違うものなんだな…。妙に感心していると、ペリーシェ様に声を掛けられた。


「私たちは武術大会を観に来たのですが、サーイェはどうしたのですか?」

「私はアドニス団長への報告に来ました」

「何だい?」

「セカンド、サード・ウォール内の騎士の昼交代の確認を終了しました。今回は前回よりも観客が多く、昼食に入る観客が増え各入り口の混雑が見込まれるので黒騎士が交通整備と警備の強化に向かいました。その分サード・ウォール付近の警備が少し薄くなるので白蛇騎士団にフォローをお願いします。以上です」

「了解。報告どうもご苦労様」

「よく出来ましたね、サーイェ」

「…………」


 なんだろう、ペリーシェ様のは幼児に対する『おつかい出来たの?すごいわねー!』…ってやつに似ている。そこまで子供じゃないんですけどね!


「次の指示をお願いします」

「んー、サーイェもそろそろ休憩だよね?」

「はい」

「じゃあもう休憩に入っていいよ」

「いいのですか?」

「うん、他の連絡係に頼むから」

「分かりました」

「では私たちと一緒に武術大会を観戦いたしませんか?」

「あー‥実は先約がありまして…」


 そう!実は今回はラヴィーナと一緒に観戦するのだ!

 家でラヴィーナと一緒に武術大会観たいねーって話をしてたら、次の日ベルクラース様が武術大会の特別招待券を2枚くれた。しかも最前列!!!この大会は基本チケットなしで見られるけど、一応チケット席を設けていて、お金を払えばそこで座って見ることが出来る。このチケットはものすごい競争率なので、ダフ屋みたいなのが出来て後に高値で売買されているのが常みたい。すごいねー。

 残念ながらチケットをくれたベルクラース様とは一緒に観戦することが出来ないけど、ラヴィーナと一緒に観られるだけで十分幸せ!だからいくら妖精にお誘いされても我が嫁と一緒に見に行くと固く心に誓っているので首を縦に降ることは出来ない。特にこちらに来て初めてのイベント事なので楽しみで仕方がない。あぁ、思い出すだけでニヤける…。


「あら?ずいぶん嬉しそうですわね?もしかしてお付き合いされている方でもおられるのですか?」

「まさか!違います!」

「そうだよペリーシェ。僕たちがいるんだからそんな輩いるわけないだろ?」

「それもそうですわね」


 うふふ、あははと笑ってるお二人には何故か声が掛けにくかった。あ、キルーシャ様までやんわり笑ってらっしゃる…。


「で、誰なんだい?」


 アドニス団長…ちょっと目が笑ってないです。


「…友達です」

「友達って言うと?」

「一緒に暮らしているラヴィーナです」

「ああ!ヒヨックートの可愛らしい妹だね!一度会ったことがあるんだけど、彼女はとても奥ゆかしくて守ってあげたくなるような天使だった。また会いたいな…」

「…………」


 全力で拒否します。ていうか阻止します。


「サーイェ?」

「なんでもないです。あの、そろそろ約束の時間になるのでここら辺で失礼してもよろしいでしょうか?」

「ああ、そうか。引き止めて悪かったね」

「いえ」

「今回は残念ですが、次は一緒にお茶でも飲みましょう?」

「ぜひ喜んで」

「ありがとう。では武術大会、楽しんで下さい」

「はい、有難うございます。それでは失礼します」


 私は感謝を述べると一礼した。頭を上げた時、ちらりとキルーシャ様と目があったが、顔は笑ってるけど何を考えているのかよく分からなかった。…とても静かな方だし綺麗すぎるからかな?ほんとにお人形さんみたいだし。


「ご機嫌よう」


 別れの言葉を告げられ、私は再び軽く一礼すると元来た道を戻りラヴィーナを迎えに一度家に戻った。




 一応元ネタ解説


・感謝カンゲキ雨嵐-某有名アイドルグループの4thシングル。



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