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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第三章
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第6話:馬の耳に念仏すら唱えられない

 ようやく訓練場に戻ってくると、険しい顔をして白騎士と話していトリス副団長は私の方を見た。そして目を丸くすると、アドニス団長には目もくれず、大股で私の方へ向かってきた。や、やばい!急いで謝らねば!!


「遅くなって大変申し訳ありません!資料はこちらになります!」


 怒られるより先に頭を下げて資料を差し出したがそれは無意味に終わった。


「貴様…今までどこに行っていた!貴様のせいで黒鷲騎士団の資料無しで会議を進行せざる負えなかったのだぞ!」

「すみません…」

「まあまあトリス、落ち着いて。顔が怖いよ?」

「落ち着けるか!今回はベルクラース様もいらっしゃったのだぞ!」


 宥めるアドニス団長に噛み付くようにトリス副団長は怒った。


「申し訳ありません。第二会議室に向かったのですが迷ってしまい、なかなかたどり着くことが出来ませんでした」

「第二会議室?何故そんな所にいたんだ」

「え?だって最初にこちらに来たらトリス副団長は第二会議室にいらっしゃると聞いたのでそちらに向かったのですが…」

「俺はそんな所には行ってなどいない!」

「えぇっ?!!」

「貴様は行き先も覚えていなかったのか!?」

「いや、だから最初にここまで来たのですが、白騎士の方が「白騎士に罪を擦り付けるとは言語道断だ!!」

「けど本当なん「言訳無用!罰として反省文と二週間筋肉トレーニングと終業後全訓練所の掃除を命ずる!」

「そんな!」


 それこそ冤罪なんですけど!反省文とか今時ある?!筋トレ嫌い!それに残業なんて嫌だよ!

 思わず顔を歪ませると、トリス副団長は更に顔を歪ませた。


「なんだその顔は…」

「いえ、別に…」

「トリス、迷子になってただけなんだからそんなにキツイ罰じゃなくてもいいだろう?」


 異様な睨み合いをしていると、アドニス団長が助け舟を出してくれた。


「甘やかすな!それに大体いくら迷ったからと言っても、会議室の反対側であるローザン庭園に行くわけがないだろう!」

「だけどどうせルーカスが居たから会議は無事終えることは出来たんだろう?」

「そうだが…」

「だったらいいじゃないか」

「そういう問題ではない!」


 そこからアドニス団長とトリス副団長がいつものように二人でごちゃごちゃ言い争ってた。

 だって言われた通りに行ったらたどり着いちゃったんだもん。まぁどんなこと言ってもトリス副団長は話を聞いてはくれないんだろうけどね。昔のザビーみたいだな。ほんとこういうの相手にするの疲れるわ。

 苛立ちと面倒臭さが溜まった私は、文句と溜息飲み込むと頭を下げて謝った。


「本当にすみませんでした。謹んで罰則は受けます。この事をルーカス隊長にもお詫びと報告しなければならないので、私はこれで失礼させて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」


 一息も吐かずにそう言うと、珍しく空気を読んだトリス副団長は少したじろいだ。


「あ、ああ。そうしろ」

「有難うございます。では失礼致します」

「あ、サーイェ!」

「…何ですか?」

「本当にいいの?」

「はい。理由はどうであれ、ミスした自分が悪いので」

「けど…」

「申し訳ありませんが急いでますので」

「あ、うん…ごめんね」

「いえ、失礼します」


 アドニス団長が申し訳無さそうに謝ってくれたが、私はさっさとこの場を離れた。するとまた後ろで二人がごちゃごちゃ言ってるのが聞こえた。

 アドニス団長が私を庇おうとしてくれるのは有り難いけど、今の私にはそれすら煩わしかった。…八つ当たりなのかな?自分の子供っぽいともとれる行動に呆れ、人知れず溜息を着くと、沈んだ気持ちで三番隊隊長室に戻った。







「只今戻りました」

「ん」


 戻ると珍しくルーカス隊長はデスクに座り、仕事をしていた。


「随分遅かったな」

「…すみませんでした」

「ま、会議は無事終わったからいいけど、何かあったのか?」


 資料を届ける事も出来ず、剰え大遅刻をした事に対し怒られることを覚悟していたけど、あまりにもいつもの反応過ぎて思わず目を丸くした。


「…怒らないんですか?」

「何で?」

「何でって…私、ちゃんと仕事出来なかったんですよ?」

「確かにそうだが、理由も明確じゃないのに怒っても仕方がないだろう」

「…………」


 さっきは話も聞かずに一方的に怒られて苛立ちと自己嫌悪に陥っていたが、ちゃんと話を聞いて貰えることが嬉しかった。だけどそれを素直に表情に出せない私は、俯いて口を真一文字にした。


「それで、何があった?」

「実はですね…」


 私は俯いていた顔を上げ、重い口を開けて事の経緯を説明した。




「なるほど。それでしょげてたのか」

「…別にしょげてないです」

「フッ」

「…………」


 くそぅ、鼻で笑いやがって! 余裕な態度のルーカス隊長にイラってきたが、私はそれを飲み込んだ。


「とりあえず、もうトリス副団長のことはいいんです。私が気になるのは、私に道を教えてくれた白騎士の方です。彼は確かにトリス副団長は第二会議室にいると言っていたんです。だけどトリス副団長はそんな所には行ってないと言っていました。それはつまり、単純に考えてどちらかが嘘を吐いているという事ですよね?」

「ああ」

「だけどあのクソ真面目なトリス副団長は会議に私の資料が必要だったのに、わざわざ私を城内に迷わせる必要はないかと思います、つまり… 」

「白騎士が嘘を吐いている可能性がある」


 察しのいいルーカス隊長は、私がいう前に答え、私は黙って頷いた。

 ルーカス隊長は顎に手を当てると、机の引き出しから鍵を取り出し、私にひょいっと投げたので私はそれをキャッチした。


「これは?」

「そこの書類棚の奥の方に城内の地図がある。取ってきてくれ」

「分かりました」


  私は書類棚に向かうと地図を探した。…あ、あったあった。前に書類整理をしたので見つけるのは簡単だった。それを手に取りルーカス隊長に渡すと、ルーカス隊長はそれを机の上に広げた。


「白騎士に教えてもらった道順は覚えているか?」

「はい、一応」

「教えてくれ」

「えっと、私が白騎士の方に教えてもらった道順は、第三門から城内に入って右に曲がり、3つ目の角を左に曲がって暫くしたら大きな十字路に出るからそこを右に曲がって行けば階段があるから上に上がって…」

「もういい」

「あ、はい」


ルーカス隊長は私の言葉を遮ると、軽く溜め息を吐いた。


「サーイェは出発する時は何処にいた?」

「白騎士の加護隊ブレッシング隊長室です」


 加護隊ブレッシングとはトリス副団長が隊長を務める補助魔法をメインとして戦う隊の事。アドニス団長が隊長を務める回復メインで戦う隊は恩寵隊グレースと呼ばれている。白蛇騎士団はこの二つしかないので数字ではなく名前で呼ばれている。これは略称で正式名称ではない。黒鷲騎士団の各隊にも正式名称があるけどここでは割愛させてもらいます。はい。



「そこからだと第一門から入った方が近いし、お前の言う順路だと、明らかに居住区の方に向かっている」

「…え?そうなんですか?」

「ん」


  道理で着くわけないじゃないか!


「実は最初に居住区の方に行きかけたんですが、緑騎士に止められて引き返したんです。そこで緑騎士の方に道を教えてもらったんですが、途中で侍女のような方に話しかけられて道を教えてくれたんです。それは緑騎士の方と言っている事が違ったのですが、歩き出した時にじっと観られていたので、侍女の方の言う通りに進んで行ったんです。そしたら牢屋近くまで来たので道を引き返して歩いていたらまた迷ってしまい、色々な方に尋ねてみましたが振られてました。そしてようやく親切な侍女の方に出会ったので道を教えて貰ったら、庭園の方に出ていたんです…」

「なるほど。つまりお前は教えられた通りに歩いただけなんだな?」

「はい。けど私、迷子の達人なので本当に合ってるかはちょっと自信ないです」

「その事はもう最初の時点で間違っているので気にする必要はない」

「はい…」


 とは言われてもやっぱり少しは気にするよ。

 説明を聞き終えたルーカル隊長はふぅ、と吐息を吐くと、自身が座っている椅子に身を預けた。


「白騎士の顔は覚えているか?」

「いえ、甲冑を着ていたので顔は分かりませんでした。ただ特別な装飾はなかったと思うので、普通の白騎士だとは思います」

「あまり先入観を持たない方がいい。お前に絡んできた貴族嬢を考えれば、金を出せばいくらでも用意出来る」

「なるほど…」

「お前に絡んできた貴族嬢はどんな奴だ?」

「えーと、ヒスティア様と大変ふくやかで眩しい黄色の髪の方と、大変スレンダーて明るい青の髪をした方達です」

「なるほど…。ヒスティア嬢とデップ嬢とモエンナ嬢か」

「ぶふっ!!!」

「何だ?」

「い、いえ!あの、確認したいんですけど黄色の方がデップで、青い方がモエンナですよね?」

「ああ」


 ダメだ…!!お腹痛い!!!

 なんて駄目なデップ!お母さんが知ったら衝撃受けるね!!!モエンナって名前も悪意しか感じないんだけど!!!

 私が肩を震わせていると、 ルーカス隊長は頭に疑問符を浮かべながらも、机に右肘を着いて手に顎を乗せた。


「全員、中の上流貴族だが、ヒスティア嬢の父上は最近裁判長になられた方だ。逆らうと裁判沙汰になるかもしれない」

「職権乱用じゃないですか」

「そうだな。しかし法には王でも干渉出来ない部分があるから手を出しにくい」

「そうなんですか?」

「ああ。…ま、最近彼女達の干渉が多いから騎士団としても迷惑を蒙っているので、ベルクラース様に申したてをすれば多少は彼女達との接触は減らせる可能性がある」

「ほんとですか?じゃあ早速ベルクラース様に…」

「あくまで可能性の話だ。ヒスティア嬢の父であるヒーディ侯爵も我が強いから話を聞かない可能性もあるから、大きな問題が起きてないうちに無闇矢鱈に刺激しない方がいい」

「どうしようもない親子ですね」

「蛙の子は蛙というのは強ち間違いではないのかもな」

「ですね…」


 迷子になっただけなら良かったのに、どんどん事が大きくなってきてめんどくさいなー…。

 私は大きな溜め息とともに肩を落とした。


「とりあえず、仕事に支障が来たさないよう頑張ります」

「ん。何かあったらすぐに言え」

「…分かりました。あと、今日の仕事って書類作成だけだと思うんですが、それって急ぎの仕事でしょうか?」

「一応締め切りは今日」

「そうですか…じゃあ今日の夜に隊長室を使いたいんですけどいいでしょうか?」

「構わないが、何かあったのか?」

「…遅刻した罰として、トリス副団長に書類整理した後にしばらくの間、筋トレと終業後に全訓練場の清掃を命じられました」

「今回は冤罪だし、罰則を取り消すよう言ってやろうか?」


 なんと!それすっごいしてほしい!

 大変素敵なお誘いに私は目を輝かせた。だけど…。



「大変有難いですけど大丈夫です」

「いいのか?」

「はい」


 予想外の言葉だったのか、ルーカス隊長は目を丸くした。


「理由はどうあれちゃんと仕事出来なかったのは自分のせいでもありますし、トリス副団長に負けたくないんです」

「……」

「 それに真面目にやってればトリス副団長の考え方も少し変わるかもしてないですしね!」


 うん、そうだ。きっとちょっとは変わる!…とか思ってないとやってられない!

 1人で勝手に納得してると、ルーカス隊長がくすりと笑った。


「分かった好きに使っていい」

「有難うございます」

「ん」


 私は頭を下げると、自分の机に着くと手早く書類整理を始めた。







 私が書類整理をしている間にルーカス隊長は部屋を出ていき、しばらくしてから私も筋トレをするために第四訓練所へ向かった。すると、普段トレーニング道具が大量に置いてある倉庫内の物がひっくり返されたように外に運びこまれていた。


「おー、サーイェ!おつかれさん!」

「お疲れ様です、タリマさん。一体何があったんですか?」

「ん?ああ、掃除だよ掃除」

「掃除?どんなに汚くても筋トレを続けるほど筋トレ好きの皆さんが掃除をするなんて、何か変なものでも食べましたか?」

「言うなぁ、サーイェ」


 四番隊のタリマさんは、一つ重さ50kgはあるダンベルを軽々と両手に持ちながら大らかに笑った。


「実はなさっき…」

「サーイェ」


 突然後ろから低いオネエ声が私の名前を呼んだ。


「この声は…!!」


 思わず興奮して後ろを振り返ると、ワイン色のシックなモヒカンショートをした筋肉質な男性がパチンと星が飛びそうなくらい素敵なウインクをした。


「うふ。お久しぶりね、サーイェ」

「ラムちゃーん!!!」


 私は叫びながらラムちゃんのすぐ側まで駆け寄ると、両手を広げたラムちゃんは私を高い高いして抱きしめて頬をすりすりした。


「相変わらずちっちゃくて可愛いわねー!」

「ラムちゃんは珍しくほっぺがちくちくするね」

「しょうがないでしょ〜!出張帰りなんだから!」


 ラムちゃんはきー!と言いながら私のほっぺを捻ったが、かなり手加減されてるので全然痛くなかった。



 この人はラムアス・ドレ・ヴィスタ。四番隊副隊長で通称ラムちゃん。

 見た目は人間年齢で20代後半から30代前半でガイシス団長並みの190cm越えしたしなやかな美しい筋肉を持ったマッチョ体型のオネエ。

 何でそんな事知ってるかって?いつも筋トレしてる時はその美ボディを惜しげも無く晒してるからですよ!だから私は切れてる切れてるー!って必ず一回はラムちゃんの筋肉を褒めてる。顔も濃くて男らしいけど、親しみやすくておちゃめ。

 初めて会った時は外見見て萎縮しちゃってたけど、可愛い物好きなラムちゃんの許容範囲に運良く入った私はラムちゃん呼びが許された。これで貴族出身ていうから更にびっくり。

 そしてラムちゃんは一ヶ月くらい前から出張で城をあけていたのだ。



「そろそろ降ろしてー」

「はいはい」


 仕方ないわねぇという様な態度なのに、ラムちゃんはそっと私を下に降ろしてくれた。


「ありがと」

「どういたしまして」

「いつ帰って来たの?」

「今日の午後2時頃よ」

「今日帰ってきたのに疲れてないの?」

「筋トレしない方が気になって気が休まらないわよ!」


 さすが筋肉マニア…。これからキ●肉マンって呼ぼうかな。


「それより!さっき久し振りにベルクラース様にお会いしたのよ!」

「おー!良かったね!!」

「本当よぉ!もぉ〜相変わらず素敵だわぁ〜!!」


 ラムちゃんはベルクラース様に会えた事をハートが飛び散るほどに喜んでいる。

 ベルクラース様はとにかく騎士にモテモテなのだ!実力はもちろん、礼節を弁え何事にも真面目な姿勢と、男らしい外見が正に騎士の鏡なのだ!さすが私のアイドルです!ベルクラース様!!

 そしてラムちゃんもベルクラース様好きの一人なのだ!ただ…


「現役引退してからも服の上からでも分かる隆々とした肉体!もう生身を想像しただけで鼻血出ちゃいそう…」


 ちょっとベクトルが違う。


「ティッシュいる?」

「大丈夫、まだ出てないわ」

「そう」


 いつもの様にティッシュを差し出したが、どうやら自重出来た様だ。


「どこで会ったの?」

「会議よ」

「……へぇ」


 私が敬愛してやまないアイドルの名前を聞いて上がっていたテンションが、会議という単語のせいで一気に叩き落とされた。


「あ!サーイェ資料持ってくるの忘れたでしょ!?」

「…はい」

「トリスがカンカンに怒ってたわよ〜」

「でしたねー…」

「あら?もう会ったの?」

「さっきしこたま怒られましたよ。だからここにいるの」

「どういう事?」

「忘れた罰としてしばらく筋トレと全訓練所の掃除を命じられたのですよ….」

「あら〜御愁傷様!」


 ラムちゃん、顔が笑ってるよ…。


「そういう事なら喜んで協力するわよ〜!」

「それはどうも…」

「筋トレはもちろん、どうやらアタシが居ない間に…すっから部屋が汚くなったみてぇだしよお!なあ!!てめぇら!!!」

「ひっ!!!」


 突然の男モードに入ったラムちゃんの怒号に、訓練所にいた四番隊員は怯えた。


「道具は汚れたまんまにすんじゃねぇったいつもいってんだろうがッ‼特に鏡は汚すんじゃねぇ!!!」

「も、申し訳ありません!!!」

「この機会だ。てめぇら、徹底的に掃除しやがれ」

「は、はいぃッ!!!」


 地を這う様な声で命令されると、隊員達の片付けするスピードが猛烈に上がった。


「ラムちゃん男前になってるよ」

「あら、嫌だわ」

「ラムちゃんっていつも男モードだったらモテモテだよね」


 男前だし逞しいし顔もギリシャ人みたいにほりが深くて濃い。筋肉も美しいからc●lvin kleinのモデルにいそう。


「そうかしら?」

「うん。惚れちゃう」

「やぁだ〜照れるじゃな〜い!」

「うぉっふ!」

「あ、ごめんね〜」


 ラムちゃんは身体をくねくねさせながら私を押すので私はちょっと飛ばされた。


「けど女の子らしいラムちゃんも好きだよ」

「まぁ!可愛い事いうじゃなぁ〜い!今から掃除しながら出来るトレーニング教えてあ・げ・る☆」

「うわぁー…有難いなぁー…」


 ラムちゃんのトレーニングはきっついんだよね。前に一日やったら次の日寝返りが出来なくなるくらい身体中が痛くなってた。

 ラムちゃんはバチコーン!と綺麗なウインクを私に投げ飛ばしてきた。


「それじゃあ早速始めるわよん!」

「お手柔らかに頼みますー…」





 その後私はラムちゃんの素晴らしい「ながら筋トレ」の指導を受けた。重いものを運ぶのはもちろん、床拭き、洗濯、何もかもに組み込まれた筋トレは地獄のようだった。ちなみにこの筋トレは第四訓練所にいる四番隊員全員強制参加。なんかごめん。だけどお互いを励まし合いみんなと協力して日、なんとか日の暮れる頃には無事に掃除を終える事が出来た。


「ようやく…終わった…」

「どうもおつかれさま!」

「お疲れ様でしたー…」


 はあ〜、と私はくたくたになりながら床に座り込むと、疲れなんか感じさせるどころか元気いっぱいのラムちゃんがご機嫌で私の元へやってきた。


「サーイェのお掛けでスッカリ綺麗になったわ〜!ありがと!チュッ!」

「どういたしましてー…」


 特に有難くもないほっぺにちゅーを貰うと、私はふらふらと立ち上がり、頑張って洗って絞った洗濯物の元へ向かった。


「それをどうするの?」

「んー、乾かすんだよー」

「今日明日干しておけば乾くわよ」

「けどいま天気良くないし、部屋干しは臭くなるからあんまりしない方がいいかとー」

「どうやって乾かすの?」

「脱水しますー」


 疲れ切った私は間伸びした声を出しながら、洗濯物を宙に浮かせた。


「一応気を付けるけど、もしかしたら水が飛ぶかもしれないから下がった方がいいよー」

「分かったわ」


 ラムちゃんは私の忠告通り後ろに下がり、そしてラムちゃんから忠告を受けた隊員達も、洗濯物から距離を置いた。


「では乾かしますー」


 脱水脱水ー。私は洗濯機をイメージして、洗濯物を円形の空間に閉じ込め、ものすごい勢いで洗濯物の水気を飛ばした。

 一応円の周りを一段階大きな円で包んでいるので水は遠くへ飛ばないようにしてある。けど万が一にも飛ぶかもしれないから一応ね。


 次は乾燥ー。水気の飛んだ所で今度は乾燥機をイメージして円形の中に熱風を掛けてを送りこみ、しばらくぐるぐると回った洗濯物は、すっかり温かくなって無事乾燥を終えた。


「はい、終了ー。これどこ置けばいいー?」

「…え、あ!じゃあさっき掃除して綺麗になった場所に置いて頂戴!」

「了解ー」


 ふわふわと洗濯物を床に置くと、歓声が聴こえた。


「すげぇなサーイェ!」

「風圧で水を飛ばすたぁ考えたな!!」

「しっかり乾燥されてるから暖かい!」


 各々が興奮しながら感想を言ってきたので、私は思惑通り事が進んだ事に満足した。


「楽しんでもらえましたか?」

「あぁ!すげぇよ!」

「なら良かったです。皆さん疲れてますからね。疲れが気にならなくなるようなパフォーマンスがしたかったんです」

「サーイェ…」

「私がしなければいけない事なのに、皆さん手伝ってくれて有難うございました!御礼には程及びませんが、楽しんで頂けたなら幸いです!」


 ぺこりと頭を下げて御礼を言うと、周りの隊員に揉みくちゃにされた。


「気にしなくていいんだよ!」

「そうだ!ラムアス副隊長が帰ってきた時点で掃除は決まってたしたな!」

「それならそれでいいのですが…!!」

 

 私の意見を聞かずにみんなが頭を撫でたり抱き締めてきた。普段なら避けるが、疲れて力の出ない私はフラフラとそれに振り回された。みなさん、汗くさ…!

 しかしそこで男らしい怒号と逞しい腕が私を救出してくれた。


「てめぇらみてぇなむさ苦しい奴らが女の子に寄ってたかって暑苦しいんだよッ!!」

「「「「す、すみませんッ!!!」」」」


急に大人しくなった隊員達は、急いで私から距離をとった。


「大丈夫?」

「うん、ラムちゃんありがとー」

「いいのよぉ、こちらこそありがとね。とっても助かったわ」


 ラムちゃんが私を抱き上げながら優しく私の頭をよしよしと撫で、照れ臭さで自然と頬が緩んだ。


「やっぱり可愛いぃ〜!」

「ラムちゃんも暑苦しいぞー?」


 ハハハと乾いた笑いをしていると、周りも自然と笑い出した。


「じゃあラムちゃん、私、他の所も掃除しなくちゃいけないからもう行くよ」

「あらぁ、もう少しゆっくりしてから行けばいいじゃない」

「そうしたいのは山々だけど、仕事も残ってるから早く終わらせたいんだ」

「けど…」

「今度は魔法メインで掃除するからそんなに大変じゃないよ」

「…そう、なら頑張ってね!」

「うん!ありがと!じゃあ皆さんもお邪魔しましたー」


 そう言って手を降りながら去って行くと、隊員さん達は手をひり返して見送ってくれた。

 疲れていたけど、心が温かくなって疲れが少し吹っ飛んで行ったように感じた。






 急いでいる私は、魔法を使って身体を軽くして文字通り飛ぶように走って第二訓練所へ向かった。

 掃除する事を伝えるためにロイス副団長の所へ行くが、私の要件はあっさり断られた。


「有難いけど、第二訓練所の掃除はいいよ」

「え?けど、その、トリス副団長に言われてますし…」

「ここを使うのは主に二番隊員で、綺麗好きが多いから滅多に汚れないんだよね」

「なるほど…」


 まあ確かにいつも綺麗だとは思いましたけども。じゃあどうしようかな、と考えていると、ロイス副団長は苦笑しながら肩を潜めた。


「忙しい所を来てくれてありがとう」

「いえ。仕事ですし、自分が悪いですから…」

「失敗する事は誰にでもあるよ。それに叱りているうちが花さ」

「そう、ですね…」

「疲れてるみたいだし、お茶でも飲んで休憩しないか?」


 優しく微笑むロイス副団長は大変有難い提案をしてくれたが、私はに申し訳なさを感じながら泣くなく断った。


「ごめんなさい。まだ第一・第三訓練所の掃除も残ってますし、その後もまた仕事が残っているので、また機会にお願いしてもいいでしょうか?」


 うぅ!私だってロイス副団長の神のお茶が飲みたいよ‼


「ああ、もちろんいいよ」

「本当に申し訳ないです」

「いいよいいよ。それじゃあ掃除頑張って」

「はい、失礼します」


 私は一礼すると、静かに隊長室のドアを閉めた。掃除というお手伝いに来たのに、逆に励まされて終わるという有難い展開だ。 応援してもらったんだから頑張ろう!

 気合を入れると、私はまた飛ぶ様にして第一訓練所へ向かった。

 しかし、第一訓練所ではちょうど掃除が終わった所だった。…何で今日はみんな掃除してるの?

 たまたますぐ近くにガイシス団長が居たのが目に入ったので、私はその事を訪ねに行った。


「ガイシス団長、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ」

「あの、第一訓練所の掃除に来たんですけど…」

「ああ、それなんだが見ての通りもう終わったんだ。わざわざ来てくれてありがとな」

「いえ、そんな…。私何もしてませんから」

「ハハ、そうだな」

「あの、ガイシス団長」

「何だ?」

「どうして今日に限って掃除してるんですか?」

「ん?あ、あぁ。今日はその…そう、掃除の日なんだ!」

「掃除の日?今までありませんでしたよね?」

「そうだが、あー、自分達が使う場所だから自分で掃除するのはいい事だと思ってな!」


 不自然にハハハと笑うガイシス団長は明らかに怪しかった。絶対何か隠してるよ。


「確かにそうですね。どうして急にそんな事思ったんですか?」

「いや、まあ、何だ。そんな事思う日もあるさ!」

「けど…」

「サーイェもそんな事気にするな!疲れてないか?なんだったら団長室で休憩しよう!」


 無理矢理話を逸らして私に休憩を勧めるなんて、明らかに気を使っている。


「ガイシス団長…何を隠してるんですか?」

「隠すだなんてそんな…な、何も隠してないさ」

「……………」


 あーもーはっきりしないな。こうなったらビッチにでも何でもなってやる!!!根が真面目で素直なガイシス団長の事だ。私の様な大根役者でも多分騙せるはず!!

 私はわざとらしく眉を寄せて悲しい表情を作るとガイシス団長を見つめた。


「ガイシス団長…私、そんなに頼りにならないですか?」

「そんな事はない!」

「けど、そんな風に隠し事されたら…私、傷付きます」

「いや、だから、あの…」


 私は小さく寂しそうな声でしょんぼりしながら俯いた。


「けど、仕方ないですよね。今日だって資料を渡すだけの簡単な仕事なのに失敗しちゃうし、ガイシス団長に信頼されなくても当たり前…「それは違う」


 私が鬱陶しくネガティブ発言をしていると、力強い声で否定された。そしてガイシス団長は私の肩を掴み視線の高さを合わせた。

 強い視線が真っ直ぐ私を見つめられ、何だか居た堪れなくなった私は視線を逸らした。


「サーイェ、俺を見ろ」

「…………」

「サーイェ」


 あのですね!イケメンと真っ直ぐ見つめ合うのって私にはハードル高過ぎなんです!!

 しかし絶対に目を逸らすのを許してくれなさそうなので、渋々私は視線を向けた。



「少し失敗した位で、俺は仲間を嫌いになんてならない」

「……………」

「それともサーイェ俺の言う事も信頼出来ないのか?」

「それは無いです!絶対!」

「なら俺を信じろ」


 なんて強くて真っ直ぐな言葉なんだろう。こんな人を騙そうとした罪悪感と、そんな言葉を言われ慣れていない私の目が多少潤んでしまっても許して欲しい。


「分かったか?」

「…はい」

「よし!いい子だ」


 にかっと笑い、ガイシス団長はいつもの様にぽんぽんとしてからくしゃりと私の頭を撫でた。

 ガイシス団長に頭を撫でられるのは久し振りな感じがする。その感覚と真っ直ぐな言葉で感慨に浸っていると、ガイシス団長は立ち上がり、大きく息を吐いた。


「ほんとは言うなって言われてたけど、ここまで不安にさせてしまうなら仕方ない…」


 お!ついに言うか!私はキラリと目を輝かせて次の言葉を待った。


「実はな…」








「ルーカス隊長ッ!!」

「んぁ?」


 私は少し息を切らせながら隊長室へ入ると、長い足を投げ出して、ソファに寝転がりながら雑誌を読む我が隊長がいた。


「あのっ有難うございました!」

「何が?」


 そう言いつつ興味が無いのか、ルーカス隊長は雑誌をぺらりと捲った。


「訓練場の件、ルーカス隊長が各訓練場に行って皆さんに掃除を促してくれたんですよね!?」

「…偶々外回りを仕事があったからサーイェが掃除にくる事を伝えただけ」

「けど助かりました!有難うございます!」

「ん。何だったら体で払ってくれてもいいぞ」

「じゃあ今からお茶淹れてお菓子も持ってきますね!」

「…ん」


 少し残念そうに聞こえたが、私は嬉々としてお茶を入れた。

 それを用意してから早速仕事に取り掛かろうと書類に目を通すと…なんとそれが既に終わっていた。


「ルーカス隊長…」

「ん?」

「書類が…全部出来てます…」

「良かったな」

「もしかしてこれをやってくれたんですか?」

「さあ?妖精の仕業じゃないか?」

「…じゃあ妖精には感謝の気持ちでいっぱいです!有難うございました!」


 笑顔でお礼を言うと、返事は聞こえなかったがルーカス隊長は口角を綺麗に上げた。

 これからルーカス隊長に足向けて眠れないね!一緒に寝る気は無いけど!


「じゃあ気分がいので出血大サービスしちゃいます!」

「何だ?」


 私はサササっとソファの後ろへ向かうとルーカス隊長に起き上がって貰った。


「失礼しますー」


 ルーカス隊長の肩に手を置いた。


「揉んでくれるのか?」

「はい。けっこう私得意なんです」

「へぇ」


 早速手に力をいれたんだが、なかなかにルーカス隊長の肩は硬かった。



「ルーカス隊長、すごく硬いですね」

「最近やってないし」

「こんなに硬いの初めてです」

「じゃあしっかりやってくれ」

「はい!」


 私は気合を入れると、感謝の気持ちを込めて一生懸命肩を揉んだ。


「気持ちいいですか?」

「ん…まあな」

「どこら辺がいいとかありますか?」

「もうちょっと下から」

「こう、ですか?」

「ん、あぁ、いいぞ」

「指も使って」

「はい」

「そこは少し優しく」

「分かりました」

「なかなか上手いな」

「えへへ、光栄です」


 ルーカス隊長の肩も解れ始め、気持ちいいと言われて満足感が湧いて来た。だから少し手が疲れてきたのを我慢していたが、ルーカス隊長にはそれがお見通しだった。


「疲れてきたのか?」

「いえ、大丈夫です」

「やめてもいいぞ」

「いえ、やらせて下さい!」

「けど辛いなら…」

「やりたいんです!」

「…ならいいけど」


御礼をするという強い意思が、私に使命感を与えていた。


「疲れたなら言え」

「有難うございます」


 ルーカス隊長の気遣いにまた感謝しながら一生懸命に揉んでいると、ルーカス隊長の気持ち良さそうなリラックスした艶やかな声が聞こえる。

 やっぱりルーカス隊長の声ってエロいよね。ただのマッサージなのにやらしいことをしているみたいだ。余計な事を考えながら揉んでいると、私の顔の前に大きめのスコーンの生クリーム添えが運ばれてきた。


「なんですか?」

「頑張ってるからご褒美」

「そんなご褒美なんていいですよ!私がやりたくてやってるんですから!」

「ほら口開けて」

「けどこんな大きいの入りませんよ!」

「入る入る」

「ちょっ!」


 ルーカス隊長は無理矢理私の口にスコーンを入れてきた。


「んぐっ!」

「溢すなよ」

「んんっ」


 溢すなってあんたが無理矢理いれたんでしょうが!

 ルーカス隊長は楽しそうにニヤニヤしていたが、私は意地で口に押し込んで無理矢理飲み込んだので少し噎せた。


「けほっ!こほっ!」

「よく飲みこめたな」

「だってもったいないじゃないですか!」

「美味かったか?」

「まぁ美味しかった「お、お前達は一体何をしてるんだっ!!!」

「はい?」

「馬鹿っ!トリス!!」



 私がルーカス隊長に文句を言っていると、怒声と共に勢いよくドアが開いた。そこには顔を真っ赤にして仁王立ちしているトリス副団長とやっちまった顔のマーリンドがいた。


「こんな夜中に2人で何をしているんだ‼」

「何って、マッサージですけど」

「マッサージだと?!う、嘘を吐くな!」

「吐いてませんって」

「なら口の周りに付いてる物はなんだ!」

「え?」


何か付いてたっけ?


「白いの付いてるぞ」

「え」


 ルーカス隊長に指摘され口元を触ってみるとクリームが取れた。さっきのスコーンには結構多めにクリームが付いていたから私の口の周りに付いてしまったようだ。

 指に付いたのをペロリと舐めると、トリス副団長はもっと顔も真っ赤にさせた。


「舐めるな汚らしい!!!」

「えぇ?!」


何でそこまで怒るのさ!理不尽な怒りに混乱していると、肩を震わせながらルーカス隊長が私の口元に手を伸ばした。


「まだ付いてる」

「え、ほんとですか?」

「ん」


ルーカス隊長は私の口周りに付いたクリームを指で拭うと私に差し出してきた。


「な、なんですか?」

「舐めろ」

「嫌ですよ!!そこにティッシュあるからそれで拭いて下さい!」


 そう言ったのにルーカス隊長はそれをぺろりと舐めた。


「ちょっとやめて下さいよ!恥ずかしい!」

「オレも飲んでもらうのは嬉しいけど流石に自分のは舐めたくねぇな…いや、他人も嫌だけど」

「はぁ?」


 私が怒っていると、ドン引きした顔でマーリンドが見当違いな事を言ってきた。何でクリーム舐めただけでドン引きされなきゃいけないのさ!訳が分からないよ!あー喉渇く!!


「ルーカス隊長、あれ下さい」

「あれ?」


私は黙ってテーブルの上に置いてある紅茶を指した。するとルーカス隊長はコップにちょろっと紅茶を淹れて渡してきた。


「…ケチですね」

「足りないか?」

「足りないです。もっと欲しいです」

「じゃあ可愛くおねだりして」

「それは嫌です」


 即答で答えたがルーカス隊長の手は動く事がなかったので、私は仕方なく嫌味ったらしく敬語で頼んだ。


「スコーン食べて喉がカラカラになり剰え口にクリームを汚らしく付けていた哀れな部下に、貴重なお茶を分けて下さい。お願いします」

「可愛くないな。12点」

「低い!それに可愛いこぶる必要ないです!」

「…おい、ちょっと待て。いま何と言った?」

「え?」


しょうがないな、という風にルーカス隊長から紅茶を受け取ると、ぽつりと静かにトリス副団長は尋ねてきた。何だ急に?


「可愛いこぶる必要ないです?」

「その前だ!」

「低い?」

「馬鹿者!もっと前だ!!」

「スコーン食べて喉がカラカラになり、剰え口にクリームを汚らしく付けて「それだ!!!」


トリス副団長は叫ぶ様に大声で私の言葉を遮った。もうなんなのさ!

相手にするのが面倒臭く感じながらお茶を口にしていると、マーリンドは首を傾げていた。


「サーイェさー、」

「何?」

「お前●●●してたんじゃねぇの?」

「ぶふっ?!!」

「マーリンド!!お、お前ッ!!!」

「クッ!!」



 マーリンドの衝撃的な発言に私は驚きで吹き出し、トリス副団長は怒り、ルーカス隊長は笑いの意味で吹き出した。

 そしてルーカス隊長が紅茶を吹き出して更に汚くなった私にティッシュを渡してくれたので有難く拝した。


「お前ほんっと汚ねぇなー」

「誰のせいだ誰の!!ていうか何でそうなるの!!?」

「えー?だってさっきの会話だけから察するに、出血大サービスとか硬いとか気持ちいいとかヤりたいとか言ってたら、サーイェがルーカスの●●●を●●●て、ルーカスが●●●●だから●●が溢れないように●●●を●●●して「アホかッ!!!!!」

「だって口周りも白かったら完全に●●●したかと思うじゃねーか!」

「あんた頭沸いてんの?!」

「クッ…!ハハハッ!!」

「笑わないで下さいよルーカス隊長!!」


 ルーカス隊長が珍しく声を上げて笑っていると思ったら下ネタで爆笑するなんて酷いわ!!…てかちょっと待て。


「もしかしてルーカス隊長、狙ってましたか?」

「何が?」

「…………」


 私がじと目で睨みつけると、ルーカス隊長はニヒルに笑った。これは絶対わざとだ!人の気配に敏感なルーカス隊長が気付かない訳ないもん!じゃあ善意でやったのに知らない間にいやらしい方向に誘導されるなんて…裏切られた気分だ!!!


「信っじられない…」


 私は大きく溜め息を吐くと、おでこに手を当てた。すると後ろから手が伸びてきて私の腰に絡まった。


「ま、俺は実際にヤってもいいけどな」

「誰がするか!!」


 艶やかな声と視線を向けられて、身の危険を感じた私は思いっきりベシッ!とルーカス隊長の腕を叩くと、そこから離れた。


「なんだよつまんねぇーな」

「つまんなくないわ!!!」

「せっかく混ぜてもらおうと思ってタイミング見計らってたのによ、トリスが無理矢理入っていくからばれちまったじゃねぇか」

「そういう問題じゃないだろ!!」

「そうだよそういう問題じゃない!!!」


 私とトリス副団長の気持ちが初めて一致した瞬間だった。

 一瞬仲間意識が芽生えたが、ルーカス隊長の余計な一言にそんな気持ちは吹き飛ばされた。


「だけど俺たちの会話を聞いて怒鳴り込んできたって事は、トリスも俺たちがヤってると思ったんだろ?」

「な!!?!」

「……………」


 私は冷ややかな視線をトリス副団長団長へと向けた。


「…もしかしてトリス副団長もそんな事してると思ったんですか?」

「そ、そんな訳ないだろうっ!!!」

「そう出なきゃ怒鳴って入る訳ねぇだろ」

「黙れ!!紛らわしい事をしている貴様らが悪いのだろう!!!」

「勝手に勘違いしてたのはトリスだろ?俺はただマッサージを受けていただけ」

「ぐっ!」

「ははは!トリス顔真っ赤!!」

「黙れマーリンド!」


 トリス副団長ってむっつりだったんだね。微妙な心境でそれを見守っていると、痺れを切らしたトリス副団長は怒鳴って無理矢理会話を終わらせた。


「とにかく!!今後仕事中に如何わしい真似をしたら容赦せんぞ!!」

「だからしてな「俺は帰る!!!」


 トリス副団長は人の話を聞かずに怒鳴ると、勝手に帰って行った。嵐が去るとはこういう事を言うんだろうね。


「やっぱり如何わしい事考えてたんだな」

「そうですね」

「それよりあいつは何しに来たんだ?」

「さぁ?マーリンド知らない?」

「知らね」

「そう。ところでマーリンドは何の用なの?」

「ん?ああ。明日休みだからサーイェと一緒に飯食おうと思って」

「悪いけど私は明日休みじゃないし、私は家で暖かい食事が待ってるから行かないよ」

「だから一緒に食おうって言ってんじゃん」

「…つまりマーリンドがうちに来るわけね」

「おう!」

「そういうのもっと先に言ってよ。ラヴィーナもご飯の支度を頼まなくちゃいけないのに…」

「もう連絡いれてあるぞ!」

「既に決定事項だったの?」

「おう!」


 何故こいつはこんなにもフリーダムなんだ!!あ、王子だからか。

 私は溜め息を吐いて帰る支度をした。今日は何だか久し振りに草臥れたよ…。







一応伏字&元ネタ解説


・キン肉●ンー原作:ゆでたま●。同作品に出てくる主人公のキン肉スグルの愛称。

・calvi● kleinー世界的ファッションブランド。


 その他の大量の伏せ字は一定の年齢を迎えると分かります。

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