第3話:作戦の結果
「………………そんな感じです」
「ん、おつかれ」
黒鷲騎士団に戻ってきたので、私はルーカス隊長の所に報告へ向かった。
「反応薄いですね」
「全部想定範囲内だ。狙い通りだから問題無い」
「ガイシス団長が怒ることもですか?」
「ん」
すごいなー‥て、ちょっと待て。
「じゃあガイシス団長が怒るって分かっていてこの作戦を考えたんですか?」
「ん」
ルーカス隊長は悪びれるわけもなく返事をした。なんかわざと怒らせたみたいで、ひどくないか?
そんな私の気持ちを察したのか、ルーカス隊長は軽く溜め息を吐いた。
「この作戦は、ガイシスがいなくては成功出来ていない」
「そうですけど…」
「大体ガイシスに作戦の事を予め伝えれば、失敗する可能性が高い」
「何でですか?」
「嘘と演技が下手」
「あー…」
うん、否定できないな。性格が真っ直ぐだから、嘘吐こうとすると違和感が出まくる。
前にロイス副団長のサプライズ誕生パーティーをしようとした時、ガイシス団長の対応が余りに不自然で、途中で気付かれてしまったっていう…。まぁロイス副団長は優しいから、気付かないふりして最後まで付き合ってくれたんだけどね。ガイシス団長は最後まで隠し切れていると思ってた。もう、みんなの視線が優しかったよ…。
「ガイシスが完全に騙されていれば、サーイェの演技が多少下手でも説得力が出る。それに、この事は後でガイシスにきちんと説明するつもりだ。トリスに敵意を持たれても困るし、理由が理に叶っていれば、大抵許す」
「へぇ、よく分かりますね?」
「付き合い長いから」
「ふーん」
まぁ問題ないならいいか。私は深く考えるのをやめ、報告を終えると家に帰った。
次の日。黒騎士団の訓練所へ行くと、やたらみんなから優しい視線を受けた。何なんだろうと不思議に思っていると、マーリンドに声を掛けられた。
「よぉ!サーイェ!」
「マーリンド、おはよう」
「おい、サーイェ!オレ、絶対トリスに勝つからな!」
「はぁ?どしたの急に?」
「昨日トリスにイジメられたって聞いたぞ」
「別にイジメられてないし。それどこ情報?」
「誰かは知らないが、オレに教えてくれた奴は白騎士から聞いたらしい」
「…………」
ということは、昨日のあれを見てた誰かが流したのか。
「それで怒ったガイシスがトリスに宣戦布告して帰って行ったって聞いた」
「えぇっ!?」
何故!?宣戦布告って…
『…トリス。今度の試合、楽しみにしている』
…あれか。私は思わずおでこに手を当てた。
「あれは私のためじゃなくて、その前にトリス副団長に宣戦布告されてたから、ガイシス団長がそれに応えただけだよ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
「ふーん。まあ別にどっちだっていいけど、お前の仇はオレが取ってやるよ!」
「どうしてそうなるの?」
「んなもん、サーイェが大切だからに決まってるからだろ」
「私が大切?」
言っている意味が分からなくて、私は眉を寄せマーリンドを見上げた。
「お前は仲間だ。仲間を侮辱されて黙っていられるかよ」
「……けど私、そんなに気にしてないよ」
「お前が良くてもオレは嫌だ」
「…ガイシス団長も同じ事言ってた」
「それがオレらの団長だ。頼もしいだろ?」
「…うん」
すっごい頼もしいよ。マーリンドが誇らしげに明るく笑うので、私もつられて頬が緩んだ。
「それにトリスは強いからな。早く戦いてぇ!」
「ほんとはそっちがメインじゃないの?」
「それもあるけど、何か目的があると燃えるだろ?」
「まあそうだけど、私を巻き込まないでよね」
「ほんと釣れないな、お前。こういうときは『私のために戦ってくれてどうもありがとう!マーリンド大好き!』くらい言えよ」
「何そのジョーク?面白いね」
「お前そういう所、ほんっと可愛くないな!」
鼻で笑う私に、マーリンドは私の頭をホールドすると、頭をぐしゃぐしゃにして帽子を奪った。
「ちょっと返してよ!」
「やだね!」
「大体さ、私が急にそんな事言ったら気持ち悪いと思わない!?」
「別にー。むしろ素直で可愛いし、面白い」
「私は面白くなくてもいいの!」
「帽子返して欲しけりゃ言ってみろよ」
「脅迫か!」
マーリンドはニヤニヤしながら私の前で帽子をぶらぶらさせ、取ろうとすると高く帽子を上げて、手が届かないようにした。このガキがぁ!!
マーリンドの脇腹を突っつこうとしたら、マーリンドは帽子を被って、空いた手で私の腕を掴んで動けないようにした。
私の足掻きが無駄になり、マーリンドはさらにその笑みを深くした。ムカつく!
「『私のために戦ってくれてありがとう!』これでいいでしょ!?」
「『マーリンド大好き!』が抜けてるぞ」
「絶対言わない!」
「強情だな」
「強情で結構!…あ!ヒヨ!!」
私は偶然通りすがったヒヨを見つけると、私は大きな手を振りながら呼んだ。それに気が付いたヒヨは、急いで私の元へ駆けつけた。
「さ、サーイェ!どうしてこんな所でマーリンドに抱きついてるんですか!?」
「はぁ?」
ヒヨは何を言ってんだ?そう思って自分の状態を確認すると、端から見れば私が思いっきりマーリンドに抱きついているように見える。
マーリンドを見上げると、マーリンドはもう口が裂けるんじゃないかってくらい、思いっ切りにやついた。
「オレのこと大好きだもんなー!」
「馬鹿じゃないの?ヒヨ!」
「はっはい!」
「とりあえずマーリンドから帽子を取り返して!」
「分かりました!」
ヒヨは急いで帽子を取ろうとしたが、あっさり避けられ、捕まっている私はその勢いでふらふらした。負けるか!
私は踏ん張り、しっかりマーリンドを掴んで動きを止めようとしたが…
「甘い!」
「うわっ!」
マーリンドはくるりと一回転をして、意図も容易く私のバランスを崩した。あー、もう!!
ムカついた私は、その遠心力を利用してマーリンドを押してバランスを崩させた。
「おりゃっ!」
「うぉっ!」
「ヒヨ!今だ!!」
「はい!」
ヒヨはマーリンドがバランスを崩した瞬間、私の帽子を奪うことに成功した。
「取りました!」
「ナイス!ヒヨ!!」
「あーっクソ!!」
私は地面に倒れないように、そのままマーリンドを押し倒し、下敷きにした。
「うっ!」
「んぐっ!」
無事、着地!マーリンドが上手い具合に下敷きにしてコケたので、私はそんなに汚れず、怪我をせずに済んだ。
「へへ‥私の勝ちー」
「クソー、負けたー」
別に勝負じゃないけどね。私は無事帽子を取り返した事に優越感を感じていた。下敷きになってるマーリンドにも悪いし、とっとと退こうと立ち上がろうとしたら…
「何この腕?」
「何って?」
「離してよ。起き上がれないじゃん」
「やーだーね!オレを押し倒した責任とれよ!」
「はぁ?」
訳が分からなくて盛大に聞き返すと、マーリンドがくっくっと笑い、それに合わせて私の体も揺れて。
「女に押し倒されたら、有り難く頂くもんだろ?」
「思考回路がアドニス団長と同レベルだね。ヒヨ、マーリンドの顔、踏んでいいよ」
「えぇっ?!僕がですか!?」
「えげつないな!」
「じゃあ離してよ」
「えー、やだ」
マーリンドは負けた腹いせか、なかなか私を離さなかった。
「…いい加減にしないと怒るよ?」
「そうです!ガイシス団長に言いつけますよ!」
「いや、こういう時はロイス副団長に言った方がいいよ」
「そ、そうですか?」
「うん。マーリンドもそう思うでしょ?」
「…………」
私は口を歪めてマーリンドの顔を見上げると、マーリンドは嫌っそうな顔をした。
私がマーリンドにちょっかい出されていると、ガイシス団長は遊んでると思って全然叱ってくれない。この間も私がマーリンドに振り回されていても、『2人は今日も仲がいいなぁ』で終わった。しかしロイス副団長はそういうのを見ると、しっかり叱ってくれる。背筋伸ばして30分の説教を喰らわされてるマーリンドにはちょっとウケた。もうみんなのオカンだよ!
「ったく、しょーがねぇーな」
「全然しょうがなくないし」
マーリンドは嫌そうな顔をして、よっ!と身体を起こすと、私を放した。私は文句を言いながら立ち上がろうとすると、ヒヨが手を差し出した。
「ありがとう」
「いえ」
ヒヨの手を取って立ち上がると、ヒヨは私に帽子に渡し、失礼します、と言って、私のコートの裾や、足下に付いた砂を丁寧に払ってくれた。な…なんて出来た子なんだ!!
私が感動していると、砂を払い終えたヒヨは満足そうに微笑んだ。
「もういいですよ」
か‥可愛い!!ヒヨの周りがキラキラしてる!王家の●章もびっくりだよ!!!
笑うと特にラヴィーナに似ているので抱きつきたくなる。抱きつきたい願望をぐっと抑えて、満面の笑顔でお礼を言った。
「私のために取ってくれてありがとね!ヒヨ大好き!」
「えぇっ!?あ、あの…」
ヒヨは頬を赤らめて慌てていた。もうかーわーいー!ヒヨって王道のかわいこちゃんだよね!ラヴィーナも最初は照れまくってたけど、今は私が笑いかけたり抱きつくと、笑顔で応えてくれる。もう俺の嫁は最高っすよ!
そんな事を考えてへらへらしていると、マーリンドの不服そうな声が聞こえた。
「お前わざと言ってるだろ?」
「別にー。普通にヒヨの事は大好きだよ」
「だ、大好きだなんて…!」
「何でヒヨックートがよくてオレがダメなんだよ?」
「当然の結果でしょ」
「ズルい!」
「ズルくない!!言っておくけど、この事はロイス副団長に言い付けるからね!」
「おいちょっと待て!!」
マーリンドは私を呼び止めたが、私はそれを完全無視して、文字通り飛んでロイス副団長の元へと向かった。
そしてちくられたマーリンドは、ロイス副団長の笑顔の説教を受けて、しばらく隊長室に篭る事となった。ざまぁ!!
その後、一人で訓練をしたりしていると、他の騎士達からも似たような事を言われたりしたので、私は一々それを説明しないといけなくて、非常に面倒臭かった。そして面倒事の原因になったガイシス団長にその事を伝えたが…
「けど、俺がトリスとの試合を楽しみにしているのは確かだし、周りの事はあまり気にしなくていいんじゃないか?」
際ですか…。本人は全然気にしていないようだし、一々説明するのに疲れた私も、それを放置する事にした。
それが、更なる面倒を起こす事とは知らずに…。
黒白騎士団武術試合まであと二週間。どちらの騎士団も以前より訓練のやる気が上がってきた。最近では定時より早く来て自主トレしたり、遅くまで居残る人もいる。ご苦労様です。
出る予定の無い私は、そんなみんなをマネージャー宜しくサポートしている。仕事の時間外だけどさ、汗水垂らして頑張ってる人が居るのに帰るのは忍びないし、みんなの練習試合を見ているのも面白い。
特に、普段は滅多にお目に掛かれない隊長格の練習試合が見られるのはこの時間帯だけなので、実は結構楽しんでいる。いや、『いた』かな。
何故かというと、楽しみにしているのは私だけではなく…。
「見て!ガイシス様よ!」
「今日のお相手はマーリンド様ね」
「ああ…どちらを応援いたしましょうか…。どちらにもせよ負けて戴きたくないわ」
「そうですわね…。私はマーリンド様を応援致しますわ」
「では、私はガイシス様を」
「私には選べませんわ!」
じゃあ選ぶな。
……とまぁ、こんな感じに外部の見物客、特にお嬢様方も来られるようになった訳でして、ちょっと訓練所がうるさゴホッ!いや、騒がしゲフンッ!!えっと、賑わっている訳でして…落ち着いた雰囲気の好きな私からしたら若干居心地が悪いです。
ちなみにお嬢様方は見学は、訓練を邪魔しないこと、怪我をしても自己責任を前提に見学にしています。訓練所の敷地内はラインで区切られているので、騎士でなければ理由が無ければ入ることは出来ない。
だけどこれから練習試合が行われるので、騎士の私も邪魔にならないよう後ろに下がらなければならず、5m位後ろにお嬢様方がいます。ちなみに私は木を背にして立っているから、お嬢様方の視界には入ってないと思う。そして私の隣ではテレウスさんが一緒に試合を観戦していた。
{五月蝿い奴らだな}
{ちょっとテレウスさん!!言っちゃ駄目です!}
私の隣に居るテレウスさんは顔を歪ませ毒吐いた。
{ふん!どうせ聴いてないし理解していない}
{そうとは限らないじゃないですか!}
{ミリスト訛りのランリング語を理解出来るオラリオス人がいるとは思えない}
{そうなんですか?}
{ああ。だから僕は何でお前が僕の言ってることが理解出来ているのか分からない}
やっべ!墓穴!!
{…何ででしょうね?}
{僕が知るわけ無いだろう!}
{そうですよね‥私も知りたいです…}
{…………}
静かにそう言うと、イライラしていたテレウスさんは静かになり、それ以上は追求しなかった。これはこれで気まずい…。
「マーリンド様が来られたわ!」
「剣を持たれているお姿が凛々しくて素敵ですわ!」
「あら、ガイシス様だってあの大刀を握られているお姿は雄々しくて見惚れてしまいますわ」
「やはりどちらも選べませんわ…」
{じゃあ選ぶな}
{ハハ…}
私と同じツッコミしないでよ。私達の胸中を露知らず、お嬢様方はこれから戦う2人を見て、テンションが上がっていた。
イライラしているテレウスさんと一緒に、マーリンド達が試合の準備をしているのを見ていると、ガイシス団長と目が合い、私ににっと笑顔を見せた。
「まぁっ!ガイシス様が私に笑顔を…!!」
「いえ、私達よっ!」
「…決めました!私、ガイシス様の応援をしますわ!」
{笑ってもいいか?}
{お好きにどうぞ…}
私たちの後ろ(と言っても5mは離れているけど)できゃーきゃーはしゃぐお嬢様方に思わず私が乾いた笑いを漏らしていると、マーリンドも私達に気が付き、手を振った。
「まぁあっ!マーリンド様は手を振って下さっているわ!!」
「こんな事初めて…」
「もう私、どちらも選べませんわ!」
{幸せな奴等だな}
{温かく見守ってあげましょう}
私は苦笑しながら、彼女達に見えないように小さく手を振ると、マーリンドは剣をブンブンッと振り、離れた場所にいるガイシス団長に向けた。
「おいガイシス!手加減すんなよ!!」
「それはお前次第だ!」
「おっしゃ…じゃあ出させてやるよ!!」
離れた距離からお互い大声で声を掛け合うと、マーリンドは一気に距離を詰めた。
「おりゃっ!!」
最初に剣を振るったのはマーリンド。正面から斬り掛かったが、ガイシス団長が後ろへ避けると、すぐに切り返してガイシス団長の懐へ飛び込んだ。
{さすがマーリンド隊長、相変わらず鋭い攻撃}
{ですねー}
マーリンドはロングソードの二刀流で近距離スピードタイプ。素早い動きでがんがん攻めていくのが、マーリンドにぴったりだと思う。動きが早いので避けられてもすぐの攻撃に移り、距離を詰められると結構きつい。今もマーリンドが押している。
{けど、それに負けていないガイシス団長もすごいですよね}
{うん}
ガイシス団長はタイミングを見計らってマーリンドの攻撃を弾くと、力強く剣を振るってマーリンドを後退させた。剣を振るった勢いで、魔法を使ってないはずなのに風圧が出る。
ガイシス団長は中距離バランスタイプ。だけどパワーもすごく強い。マーリンドよりも断っ然強い。それなのにバランスタイプっていうのは、全ての技術のレベルが高いってわけです。
1・5m程ある重そうなバスタードソードを、ガイシス団長は重さを感じさせないほど安々と振り回す。勿論マーリンドの方が動きは早いけど、一度相手のバランスを崩したら、その後ガイシス団長は重い一撃を喰らわせる事が出来る。
ガイシス団長は絶妙なバランスで攻守を切り替え、徐々にマーリンドを押していく。
「マーリンド様が押されていますわ!」
「頑張って下さいマーリンド様!」
「けれどガイシス様も負けていただきたくないわ!!」
{それじゃ勝負がつかない}
{どっちも頑張れって事ですよ}
何を言っても不機嫌なテレウスさんはふん、と鼻を鳴らした。
{お前はどっちを応援しているんだ?}
{一応最初はどっちも応援してましたけど、途中からはマーリンドですね}
{何故?}
{負けそうだから}
即答すると、テレウスさんは呆れた顔をした。
{…お前少し失礼だな}
{まぁそうかもしれませんが、弱い方が頑張って逆転する姿って、感動しません?}
{そうかもしれないが、僕は強い方のガイシス団長を応援する。勝つのはカッコいい}
{そうですね。それもアリです}
後ろで賑やかに応援する中、私達は静かに試合を見守った。
しばらくマーリンドは粘っていたが、疲れてきたのか遂にバランスを崩され、地面に倒れた。そしてガイシス団長は素早く喉元に剣の切っ先を向けて、勝負がついた。
「俺の勝ち、だな」
にっ、とガイシス団長が笑うと、マーリンドはすごく悔しそうに顔を歪めた。
「くっそー!!また負けた!」
「はは!だけど前より技にキレがあり、パワーも上がったな」
ガイシス団長は爽やかに笑い、マーリンドに手を差し出した。マーリンドは口をへの字にしながらも、ガイシス団長の手を取り、立ち上がった。
「けど負けは負けだ」
「そんなに焦るな。お前は着実に強くなっている」
「…………」
「よく頑張ったな」
ガイシス団長はくしゃくしゃとマーリンドの頭を撫で、照れたマーリンドはすぐさまその手を叩いた。
「ガキ扱いすんな!!」
「まだガキだろ?」
「うっせぇ!!!」
マーリンドが怒っているのに対して、ガイシス団長は楽しそうに笑っていた。
{なんか微笑ましいですねー}
{お前が言うな}
私の正直な気持ちを言ったら、テレウスさんに呆れられてしまった。その後ろではお嬢様方はうっとりと二人を見つめていた。
「あぁ、マーリンド様が負けてしまわれましたわ」
「仕方ありませんわ。ガイシス様は黒騎士最強の御方ですもの。簡単には勝てませんわ」
「けれどいつかマーリンド様がガイシス様に勝てる日が来るといいですわね」
「そうですわね。それにしても、あの様にお二人がじゃれ合っているのは微笑ましいですわ…」
「ええ、全く…」
{…………}
{お前と頭が同レベルらしいな}
{そういうこと言わないで下さいよ!}
すっごい前言撤回したくなってきた!!
{それより、今日は二人に飲み物やタオルを持って行かないのか?}
{あー‥今日はちょっとお嬢様方がいるのでやめておこうかと…}
{確かに…。それが賢明だな}
{だから悪いんですけど、テレウスさん、二人にこれ、持って行って「おい!サーイェ!早く水持って来いよ!!」………}
{…遅かったようだけど、どうする?}
マーリンドが大声で私を呼ぶので、後ろにいるお嬢様方は、こそこそと話始めた。うーん、内容は聞こえないけど嫌な感じだ。面倒事になりそうなので、私はテレウスさんに押し付けた。
{…私、お腹痛いので先に帰りますって伝えておいて下さい}
{えー…}
{今度ルーカス隊長とお茶会をセッティングしてあげますよ!}
{…しょうがないな。これ借しだからな!}
{ありがとうございます!}
{ちゃんとセッティングしろよ!ぜっ、絶対だからな!}
「おい!早く来いよ!」
「イまイキます!」
ではお願いしますと私はテレウスさんに頭を下げると、テレウスさんは急いで二人の元へ水とタオルを持って行った。
ルーカス隊長、悪いけど私のためにテレウスさんに付き合ってやって下さい。
伏字&元ネタ解説
・王●の紋章―原作:細川智栄子。現代と古代、エジプトを舞台とする3000年の時を経た恋と壮大な歴史ロマンの物語。少女マンガであるから恋愛が主たるテーマで、古代にタイムスリップした現代の少女キャロルと古代エジプト(新王国時代)のファラオ・メンフィスの恋愛大スペクタクルである。昔からの少女漫画のため、絵柄がめちゃくちゃキラキラしてる。