第20話:色々とごめんなさい
その後、ルーカス隊長1人でテレウスさんを迎えに行き、私はすぐに帰宅する事になった。
「私も行かなくて良いんですか?」
「ああ、陛下の許可が頂ければ良かったから」
「けどテレウスさんが捕まったの、半分は私のせいみたいなものですし、ちゃんと謝りたいです」
「それはまた後日でいい」
「けど…」
「サーイェは良くても、テレウスが良くない場合もある」
「あ‥そっか」
私のせいで理不尽に捕まっちゃったからね。
「テレウスの普段の行いもあるから何とも言えんが、向こうも複雑だろう?」
「そうですね」
「明日か明後日には会えると思うから、それまで大人しくしていろ」
「はい」
「ん。…あと」
「何ですか?」
「今度話したい事がある」
ルーカス隊長の放つ空気が少し引き締まった。
「何か…重要な話ですか?」
「ああ、極秘」
「極秘!?」
…今回の事でまた何か起きたのかな?
不安にしていると、ルーカス隊長が口元を緩めると、私のほっぺたをむにむにした。またか!!
「そう不安がるな。捕って食ったりはしない」
「はひ…」
「フッ」
もうほっぺた引っ張られた時点で悪いようにされている気もしたが、ルーカス隊長なりの気遣いだと思ってスルーした。
「じゃあ今日はゆっくり休め。明日は普通に仕事あるから」
「はい、お疲れ様でした」
「ん」
ルーカス隊長は歩きながらひらひらと手を振って去っていった。
大変な事にならないといいな…。
家に帰ると、やたらめったら心配するラヴィーナに出迎えられ、風呂に入るとそそくさと自室に行った。
ラヴィーナの心配ぶりがすごい。どうやら無理をしていると思われているらしい。
気疲れはしたけど、あんまり身体は疲れてないんだよね。レイのおまじない効果だと思う。
だけど基本的だらけるのが好きな私は、ベッドに寝転がった。
今回の事は一応一件落着かな?許したいけど許せない状況は未だに変わらないけど、少しずつ変わるといいな。
それにしてもレイ、ちゃんと一言言ってよ!お母さんは何気にショックだったんだからね!!
レイとご飯とか食べたり喋ったり、何の変哲も無い事をして癒されたかった。
あの子の癒やし効果は素晴らしいよ。動物セラピーならぬ妖精セラピー。
あー、けど今回はレイが成長してたなぁ。出会ってから約半年位経つけど、物凄い成長速度だと思う。気分的に久し振りに会った親戚の子供みたいな感じ。…ちょっと違うか?
美人さんで格好いいんだよなぁ。外人男性モデルみたいだった。長髪だし。だけどレイは神々しい浮き世離れした美しさがあって、笑うと愛嬌があって可愛い。それに意外と体つきがしっかりしていた。脱ぐとスゴいんですってなりそう。
…ちゃっかり体つきまでチェックしている何て恥ずかしいな。けどあれだけ抱きつかれてたら誰でも気付くよ!
それにしても今思うと、私はとてつもなく贅沢な事をしていたんじゃないのか?
あんな美人に甘えたり抱き締られたりとか、普通じゃ有り得ない。トリップ効果半端ないね!
それも私自身の魅力じゃないって思ってるけど、レイだとそうでもそうじゃなくても私を好きって言ってくれた。
「レイ…会いたいな」
そう呟いても出てきてくれる訳もなく、私の呟きは寂しく宙に消えていった。私は溜め息を吐いてごろんと寝返りを打った。
レイを頼りにしちゃいけないんだ。そう決めて森から出て来たんだから、腹括んなきゃ!
音楽を聴いて元気を出そうと、ベッドサイドの引き出しを開けて、奥の方に隠しておいたMP3プレーヤーを出そうと思ったら…そこにMP3プレーヤーがなかった。
「えっ?!!」
しかも一緒に置いておいたケータイもない!!!
何で!?どうして!!?
私は慌てて戸棚や引き出し、ベッドの下など洗面所など、室内を隈無く探したが、その二つは見つからなかった。
「どうしよう…」
私は力無く床に座り込んだ。何で?何で無いの?もしかして盗まれたとか?けど一体誰が?ラヴィーナは部屋に入れる。だけどもしそうだとしたら、素直なラヴィーナは私を見たら必ず挙動不審になると思う。
陛下はこの間ぶっ飛ばしてから来てないし、ザビーも私が部屋に居る間にしか滞在していなし、盗る理由もない。他に誰が…
『今度話したい事がある』
あ れ か 。
うっそマジで!!?何でルーカス隊長が?!いつ!?
…私が失踪した時に勝手に部屋に入ったとしか考えられない。だけどそんな変な態度してなかった…ああ、あの人は参謀だよ。あの人の嘘を見破れない自信は100%ある。
「う~‥そ~‥で~‥しょ~…?」
信じたくなくて嘘でしょ?しか出てこない。もう億が一の可能性を信じるしかない。ほら!アリ●ッティが持ってったとかさ!!うん!………まぁ今、気にしてもなるようにしかならん!!
私は現実逃避を決め込み、無理やり寝た。
次の日、私はげんなりしながら一番隊隊長室へ向かった。一応一昨日と昨日はサボリになるので、ガイシス団長に謝りに行かなくてはならない。ちなみに朝には各隊長達は一番隊隊長室に集合するらしい。
罰を受けて貰うって言ってたけど、何させられるんだろう?
…それよりも、MP3とケータイですよ!!もしかしたらそこで暴露されてしまうかもしれない。
あ゛ー、ここ連日ストレス掛かりすぎじゃないか?そろそろ胃に穴が開くかハゲ散らかすかも。けどこっちだったら白魔法の回復で毛根も再生するのかなぁ?じゃあきっとハゲはいないね!リア●プは売れないしアデ●ンスも商売あがったりだな!あははは!あはははは…はぁ、また現実逃避してしまったヨ。
テンション低く歩いていると、他の騎士達から先日の件で慰めと労りの声をもらった。ほんと有り難い。これからは周りの事を考えて行動しなきゃね。
そのためにも今の問題をちゃんと解決しなくちゃ!
私は気合いを入れ直すと、背筋ちゃんと伸ばして歩いた。
団長室前まで来ると、深呼吸してからドアをノックした。
「おはようございます。サーイェです」
「あぁ、どうぞ」
失礼しますとドアを開けると、ルーカス隊長以外は全員揃っていた。
「おはよう」
「おはようサーイェ」
挨拶をしてくれたのはガイシス団長とロイス副団長。
「調子はどう?」
「大丈夫です」
「そっか、なら良かった」
「昨日、一昨日は迷惑を掛けてすみませんでした」
私が頭を下げると、頭をぽんぽんとされ、頭を撫でられた。この手はガイシス団長だな。
「サーイェ、頭上げろ」
「…はい」
頭を上げると、予想通りガイシス団長だった。
「俺達は別に構わないが、他の騎士、特に三番隊の奴らに言ってくれ」
「はい」
「それからルーカスにもな」
「…はい」
「あいつにしては珍しく、睡眠も取らずに仕事をしていたし、今日も午前中は出勤しているぞ」
「奇跡だよね」
「だな」
へぇ、そうなんだ。それはすごい。
クスクスとロイス副団長とガイシス団長が笑う中、マーリンドは少し離れた所でむっつりと難しそうな顔をしていた。
そういえば私、マーリンドに手を伸ばされた時に、オズに襲われたときの事をフラッシュバックしてマーリンドの手を思いっ切り叩いてしまった。ちゃんと、謝らなきゃ…。
「…あの、マーリンドも迷惑掛けてごめん」
「………」
「手も叩いちゃってごめんね。ちょっとびっくりしちゃって…」
「お前ばかり悪くねぇよ」
マーリンド私を真っ直ぐ見つめて、はっきりと答えた。そしてそのまま沈黙。
…えー、マーリンドがいつも明るいだけに、真面目な顔して黙られると非常に気まずいです。
マーリンドは決まり悪そうに頭を掻いた。
「…悪かった」
「え?」
「オズ兄」
「あ‥うん」
「オレも、お前を怖がらせた」
ああ、だからマーリンドはいつもより遠くにいるのか。いつもだと、私が来るとすぐに側で笑い掛けてくれる。それが無いのは少し、ううん、結構寂しい。
「マーリンドは悪く無いよ」
「けど、兄弟だし」
「そうだけど、だからと言って私はマーリンドの事、嫌いになったりしないよ」
「…ほんとか?」
「うん」
オズはオズ、マーリンドはマーリンド。確かに兄弟だけど、どっちかが悪いことをしたらどちらも同罪扱いは間違っていると思う。まあ、無責任な親とかはむかつくけど、マーリンドの場合は兄をちゃんと思って私に謝ってるから、むしろ好感が持てる。
私はマーリンドの前までいき、ちゃんと顔を見てお礼を言った。
「心配してくれて、ありがとね」
仲直り(?)の印として私が笑顔で手を差し出すと、少し不安そうにしていたマーリンドが目を見張り、そして顔には徐々に明るくなってきた。
「…おう!」
マーリンドはへへ、と少し照れ臭そうに、だが明るく笑いながら私の手を強く握り替えした。そんなマーリンドを見てると、私も気持ちも軽くなった。
「けどな、やっぱり兄のした事は弟であるオレもちゃんとけじめを付けなきゃいけねぇと思う」
マーリンドってこういう所は律儀だよね。
「だからお前の代わりにオズ兄殴っておいたやった」
「えぇっ!?殴ったの?!」
「おう」
じゃあ謁見した時に陛下の顔にあった大きな痣は、マーリンドが殴った痕だったのか!
確認の為ガイシス団長とロイス副団長を見ると、2人とも苦笑した。
「サーイェが失踪した理由を聞いた直後に、物凄い剣幕で陛下の元へ行き、顔に思いっきり拳を、な…」
「ほんと冷や冷やしたよ…。あれがマーリンドじゃなかったら確実に牢獄行きだった」
「うわ…」
マーリンドは腕を組み、ふんっ!と鼻を鳴らした。
「言っておくけど、オレは後悔してないからな」
「キミのお兄さんは一応王様だよ?」
「だから何だよ?王だろうが1人の魔人で俺の兄貴だ。悪いことしたら怒って当たり前だろ」
「おぉ…珍しくマーリンドが正論を…」
「オレがいつもバカみたいに言うなよ!」
このやろう!と、いつものように私の頭をホールドすると頭をグリグリした。
「バカにしてないよ!カッコいいこと言ったなって思ったんだよ!」
「あ?なんだ惚れたか?」
「惚れねぇよ!!」
「うぐぁ!」
私はマーリンドの脇腹を強く指で突っついて反撃した。そして怯んでいる間に首を抜いてそそくさとガイシス団長の後ろへ避難した。
「てめぇ‥」
「自業自得ですー」
ガイシス団長の後ろから顔を覗かせ、舌を出した。
「カッコいいこと言って怒るのはいいけどさ、殴るのは良くないよ」
「何だよお前のために殴ってやったのに!」
「頼んでないし。責任転嫁やめてよね」
「……」
つんと冷たく言うと、マーリンドはむっつりと黙った。
「だけど、今回はありがとね。ちょっとだけスッキリした」
「…おう」
「今度からは私の為とか言って殴んないで。殴りたい時は自分で殴るから」
」
「は?」
私がへへへと笑うと、ぽかんとしていたマーリンドも笑顔になった。
「その時はオレも交ぜろよな!」
「いや、だめでしょ」
「サーイェもな」
一部始終を見ていたガイシス団長が叱るように軽くぽんっ!と私の頭を叩いた。ガイシス団長の手は好きだからむしろ嬉しかった。
「そうそう、サーイェへの処罰なんだが」
「はい」
「全訓練所の掃除な」
「‥分かりました」
掃除だけで済んだならまあいっか。
「じゃあまずうちに来いよ!」
「第四訓練所に?」
「おう!少し汚くなってきた」
「『少し』じゃなくて『だいぶ』だろ?俺の隊の騎士から苦情が出ている」
「え…」
そんなに汚いの?
ロイス副団長の言葉に少し不安に思うと、ロイス副団長が苦笑した。
「四番隊はその、豪快というか、細かいことを気にしない人が多いんだ」
四番隊は武術だっけ?あんまり用が無いからほとんど行ったことないけど、肉体系が多かったな。
「二番隊は逆に細かいというか神経質なヤツが多いよな」
「へぇ」
確かに二番隊は大人しいというか、物静かな人が多かったな。
「毎回第二訓練所に行く度に綺麗に使えってうるせえもん」
「お前が汚く使うのがいけないんだろう?」
「ちゃんと綺麗に使ってるぞ!」
「だけどこの間だって…」
ロイス副団長とマーリンドの口喧嘩を始めたのを見ていると、上からガイシス団長の苦笑が聞こえた、
「俺の所はそんなに汚くないが、全訓練所の掃除は大変だから頑張れ」
「…はい」
その後は二人の口喧嘩をみつつ談笑してから、それぞれの仕事場に戻った。いやー、楽しい時間は早く過ぎ去るものですなぁ。
…あ、MP3とケータイの事すっかり忘れてたわ。みんなの反応見たけと、全然知らなさそう。やっぱり知ってるのはルーカス隊長だけみたいだね。
この後起きることを考えると憂鬱だわ…。
ま、来る前までより気持ちが楽にはなったけどね。
ケセラセラになんくるないさ!きっと何とかなるよ!だって逆ハー気味の異世界トリップのチートものだもん!!
私は変な確信を信じ、自分を鼓舞して三番隊隊長室へ向かった。
隊長室に行くまでの間、擦れ違うほとんど騎の士達が私に優しく接してくれた。勝手な行動をして、迷惑掛けたのに心配までしてくれて、本当に頭が上がらない。
贅沢だけど、優しくされるのは叱られるより辛い。今度何かお返ししたいな。
大きく息を吸って~、吐いて~‥よし!
先ほど同様、深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、四番隊隊長室のドアをノックした。
「サーイェです」
「ん‥入れ」
ルーカス隊長返事はいつもより気怠そう。大丈夫か?
「失礼します」
そろ、っとドアから覗くように入ると、ソファで腕組みをしながら座っているルーカス隊長と、対面のソファに姿勢を正したテレウスさんがいた。
…ごめんなさい、テレウスさん。ちょっとあなたの存在忘れてました。
「ん」
ルーカス隊長は腕組みをやめ、私をちょいちょい、と手招きし、次にテレウスさんの隣を指した。そこまでめんどくさがらなくても…。
内心溜息を吐き、そそくさとテレウスさんの隣に来ると、ルーカス隊長は視線でソファを指した。…座れってことね。
きっと近いとテレウスさんが嫌がるだろうから、私は出来るだけ端っこの方に座った。
「2人とも、何で呼んだかは分かるな?」
「ハイ…」
「はい…」
「じゃあ後は2人で話し合え」
「はっ!?」
「どういうコトですか?」
「そのまんま。今回は件は色々な要因はあるが、お前達の問題だろう。餓鬼じゃないんだ。自分達で解決しろ。俺は寝る」
めっちゃ丸投げ!!
確かに言ってることは正しいけど、正直めんどくさいからでしょ!!
ルーカス隊長はくぁ、と猫の様に欠伸をすると、ふらりと立ち上がってとっとと出て行こうとしていた。
「話し合いの結果報告は明日でいい。じゃあな」
「ちょっと!」
引き留めたが、ルーカス隊長はいつもの様に背を向け歩きながら手を振って去っていった。
あのですね!私との話はどうなるんですかね!?
ちらりとテレウスさんを見ると、頬を染めてドアを見ていた。…ほんと恋する乙女だな!!
しばらくテレウスさんを見ていると、はっとしたように私を見た。
「ナ、ナんだよ」
「いえ、何も」
「………」
「………」
気まずいのでお互い沈黙…。はぁ、いつまでも黙っていても仕方ないし、とっとと謝りますか。
「テレウスさん」
「…ナンだ」
「御迷惑お掛けしてすみませんでした。私のせいで牢獄に容れられたみたいで…ほんとにごめんなさい」
真っ直ぐテレウスさんを見つめると、テレウスさんは目を丸くしていた。…が、すぐに逸らされてしまった。やっぱり駄目っすか?
「…悪かった」
私がしょぼんとしていると、小さく謝る声が聞こえた。すぐに顔を上げると、テレウスさんは苦い顔をしていた。
「今回のことでお前が悪くないのはよく分かった。嫌がらせをしたのも、ただの‥僕の嫉妬だ」
「……」
「僕が絶対ルーカス隊長に相手にされないのは分かっている。だけど、お前みたいに何処の馬の骨か分からないような奴が、あの人の隣に居るのは堪えられなったんだ…!」
テレウスさんの顔には悔しさが滲ませ、拳を握りしめた。うーん、恋の病ですなぁ。
「あのー、そこまで嫌ならやっぱりルーカス隊長に言った方が…」
「だから僕の一方的な嫉妬って言ってるだろ!?勝手な事するな!!」
「す、すみません?」
「謝るな!」
「は、はい」
なんかよく分からんが逆ギレされた。もう黙ろう。
「あぁー‥もう!」
テレウスさんは前に屈むと頭をぐしゃぐしゃにした。…大丈夫?
とりあえずしばらく黙って見守っていると、テレウスさんは独り言のように語り始めた。
一応元ネタ解説
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