第15話:男のジェラシーは見苦しいぜ
そして次の日、これ以上休む気になれなかったので仕事に行くことにした。まだ左腕は痛かったが、これ以上休んでいたら余計な事をばかり考えてしまい、逆に辛い。
心配するラヴィーナを安心させるように、出来るだけいつも通りに装い、ヒヨと一緒に家を出た。
「腕は治ったんですか?」
「うん、だいぶ良くなったし、これ以上休むと身体が鈍っちゃうからね」
「そうですか。でも無理はしないで下さいね」
少し眉を八の字にして心配する仕草がラヴィーナみたいで可愛い。
「ふふふ!」
「何ですか?」
「ラヴィーナみたいで可愛いなぁって思って」
「た、確かにラヴィーナにはよく似ているとは言われますが、僕は可愛くないです!」
顔を赤らめ、一生懸命反論する姿がまた可愛い。
「いやいや、可愛いって。ラヴィーナもよく顔を赤くするし、2人とも良いところばっかりそっくりでお姉さん嬉しいよ」
「サーイェは僕より年下でしょう!?」
「あー‥まぁ、そうだと思うけど、2人の可愛らしい姿を見てるとね、お姉さんみたいな気分になれるんだよ!」
「よく分かりませんが…」
「そんなに気にする事じゃないよ」
「そう‥ですね」
分かってないだろうが、とりあえず納得する姿がまた可愛くて、ヨシヨシって頭を撫でたらまた怒られた。
途中でヒヨと別れて、私は四番隊隊長室へ向かった。
「失礼します」
「ん」
ルーカス隊長のいつもの気怠い返事が返ってきた。
「おはようございます、ルーカス隊長」
「ああ、サーイェか。おはよう。身体の方はもういいのか?」
「はい、たっぷり休ませて貰ったので大丈夫です」
「そうか、良かったな」
ルーカス隊長は少し安心したような笑顔を見せた。その笑顔は無邪気というか何というか…可愛い。普段はこんな風に笑わないから貴重かも。
「何だ?」
「いえいえ!えっと、ご心配お掛けしました」
「ん」
私が謝ると、ルーカス隊長は返事をして私の頭に触ろうとしたが、やっぱり止めて手を引っ込めた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない」
もしかして前回、私がマーリンドを拒絶したから気を使ってるのか?だからといって別に男が怖い訳じゃない。気持ちを落ち着けた今なら全然平気だ。
だけど触ってもいいよ、とか言うのもおかしいので放っておく事にした。
「今日は軽く書類整理をしてくれ」
「はい」
「その後は筋トレや素振り。指導はテレウスがする」
「分かりました」
テレウスさんかー。なんか久しぶりな気がする。この数日の内容が濃すぎたせいだ。今日もやつあたりされるのかな…。
「あ!」
重要な事忘れてた!
「どうした?」
「る、ルーカス隊長、テレウスさんは私の事を何か言ってましたか?」
「いや、特に言ってない」
「そうですか…」
「何かあるのか?」
「え、いや‥何でもないです」
何だか言い辛くて口ごもると、ルーカス隊長が無言で見てきた。…その視線、痛いっす!
「えっとですね、4日前に私がルーカス隊長に介抱されているときにテレウスさんが隊長室に入ってきたのを覚えてますか?」
「ああ、そう言えばそんな事もあったな」
「それでテレウスさん、私と隊長の仲を誤解されてたら嫌だなあっと思いまして…」
「その事か…」
ルーカス隊長は気怠げに髪をかき上げた。
「してるかもな。面倒だから向こうがその話を出すまでは出さなくていい」
「そう…ですね」
確かにあの毒舌嫌みに付き合うのは面倒くさい。
「揉めそうなら俺を呼べ」
「分かりました。そうさせて貰います」
「ん」
そして何を言うわけでもなく、私達はそれぞれ自分の仕事に向かった。
仕事も終わり、訓練に向かう途中、すれ違う騎士達が色々心配の声を掛けてくれた。
「体調の方は大丈夫か?」
「食い物に当たるなんて残念だったな。それからは胃も鍛えた方がいいかもな」
「病み上がりに無理はするなよ」
どれもこれも温かい言葉、最初、こんな風に騎士団にとけ込めるなんて思ってなかった。
騎士団に入って間もない頃は、誰も声を掛けてくれなかった。むしろ物珍しそうに見るくらいで私に近付こうとはしなかったね。だけど一緒に訓練しているうちに、だんだん私のことを理解し始めてくれて話しかけてくれたり、ジャン副隊長とかと一緒に居るときに話しかけてくれて仲良くなれた。それを思うとジャン副隊長にも感謝だよなぁ。いらないくらいべた付いてきたから、多分みんなも危なくないって思ってくれたんだと思う。
「お!サーイェちゃんっ!!」
噂をすれば影だね。まぁ噂はしてないけど。私を見つけたジャン副隊長は、私目掛けて走ってきた、
「久しぶり!もう大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「ほんとに心配したんだぞー!
ジャン副隊長が私を抱き締めようとしたが、ぴたりと止まってスッと元に戻った。
「び‥あー、お腹壊したって言うから心配で見舞いに行こうかと思ったけど止められてな」
「そうですか…」
決まりが悪そうにしながらポリポリと顔を掻いているジャン副隊長を見ると、申し訳無さが沸いてきた。
ジャン副隊長も何があったから知ってるんだね。多分隊長、副隊長格は知っているんだと思う。気を使わせて申し訳無い。
「心配掛けてごめんなさい」
詫び代わりと言うのも何だけど、私はジャン副隊長に抱き付いて謝罪した。
「サーイェちゃん…」
「もう大丈夫ですから‥ってうわぁ!!」
自分にも言い聞かせるように呟くと、急に視界が高くなった。ジャン副隊長が私を持ち上げて高い高いしたのだ!
「子供の心配するのが親の勤めだ!」
「いつ私の親になったんですか!?」
「いやー、サーイェちゃんを見てると娘を思い出してねぇ、つい甘やかしたくなるんだよ」
「私、そんなに幼くないです!」
「ちっちゃくて可愛いぞー」
アッハッハッっと笑いながら私を上げたり下げたりして、休日のお父さんと子供みたいになってる。周りも楽しそうに私達を見て笑ってる。
…何だこの微笑ましい空間は!!恥ずかしいな!ていうかこれと似た会話を朝にしてたよ。ヒヨ、いつもの事ながらごめん。
「もう何でもいいですから降ろして下さい!!」
そう言ってもがくと、ジャン副隊長はようやく地面に降ろしてくれた。
「大丈夫そうで何よりだ」
うんうん、とジャン副隊長は一人で頷くと、私の頭を撫でた。
「今日は何の訓練だ?」
「一応筋トレはやりますが、あとはテレウスさんに聞かないと分かりません」
「テレウスか…。最近落ち込んでたから多分サーイェの心配してたんだろう。会って元気付けてやってくれ」
「…はい」
私の事が大嫌いな奴が、ほんとに心配してるのか?違う事だと思うけど…まぁいいや。適当に話を切り上げて、テレウスさんのところへ向かった。
「テレウスさん」
テレウスさんに声を掛けるが、テレウスさんは私の顔すら見なかった。
「今日のトレーニングですが…」
「ケンジュツ。ついてコイ」
「‥はい」
端的な言葉がいつも以上にキツく感じた。
はあ…今まで頑張ってルーカス隊長に接触しないように頑張ってたけど、完璧にパァになったな。着いてこいと言った割にはさっさと一人で行っちゃうし。こんなので普通にトレーニングなんか出来るのか?
私は溜め息を吐くと、早足でテレウスさんを追い掛けた。
テレウスさんについて行き、行き着いた場所は人気のない雑木林だった。雑木林の中に開けた場所があるので、私達はそこに移動した。
「フカ魔法、デキるな?」
「出来ますけど、何の属性をを付加すればいいですか?」
「ジブンで考えろ」
そう言って私を睨むテレウスさんを見て、思わず怯んだ。いつもは嫉妬って感じがするけど、今日は憎悪って感じで怖い。
「ハヤクしろ!」
「は、はい!」
私は急いで剣に風の魔法を付加させた。
「そのジョウタイでボクと剣術のトレーニングしろ」
「え!?」
「テカゲン、いらない。ボクもしない」
「ちょっちょっと待って下さいよ!!」
「待たない」
テレウスさんは私の意見を無視すると、早速攻撃を仕掛けてきた。テレウスさんが上段から剣を振り落として来るのを何とか受け止めた。
「っ!!」
剣が熱い。テレウスさんは炎属性を纏わせているから、炎が私に引火しそうだ。風で防護してなかったら完全に火傷をしていた。力のない私は風圧で後ろに飛んでテレウスさんと距離を取った。
「ニゲるな!」
「逃げますよ!怪我したくないです!」
「ニゲてたらトレーニングにならない!!」
テレウスさんは剣を握りしめて私に向かって斬り込んできた。激しい連撃をしてくる中、私は交わすか受け止める事しか出来ない。
ひぃー!怖い!!もうこれトレーニングじゃないよ!!試合っつーか死合い!!テレウスさんの目がイっちゃってるもん!!!親の敵‥いや恋人を寝取った女狐か。どっちでもないんですけどね!!
私達の激しい打ち合いにギャラリーが集まってきた。
「おいおいテレウス少しは手加減しろよなー!」
「サーイェなかなかやるなぁ」
「もっと攻めなきゃやられるぞ!」
うるさーい!!出来るもんならやってるよ!このトレーニングでは剣術と付加魔法と強化魔法しか使えないから、私にはかなり厳しい。ちなみに今は村でバルファーと戦った時のように体を軽くして避けてます。
「サーイェのやつ余裕で避けてるぞ!」
「あんな風に紙一重で避けるなんてすごい」
「本当に病み上がりか?」
褒めてー!もっと褒めてー!…はい、自重します。今の所はそれでいいけど、避けることは出来てもなかなか反撃が出来ないという弱点がある。さて、どうしたものかと考えていると、テレウスさんの呟きが聞こえた。
「何でこんな女なんだ…」
「え?」
テレウスさんは属性を炎から風に切り替え、体の軽くなった私を風で巻き込み、引っ張られて隙の出来た瞬間に私に剣を打ち込んだ。
やられる!!
痛みを覚悟した瞬間、私の持っていた剣だけが飛ばされ、盛大に尻餅をついた。
「……?」
何が起きた?攻撃されると思ったのにされなかったのが意外だった。ぼーっとテレウスさんを見てると、先程上空に飛ばされた私の剣が私の側に落ちた。…こえー!!!
「あー、サーイェ残念だったなー」
「けどよく頑張ったな」
びびって座り込んでいると、周りから励ましや労いの声が聞こえた。
負けたって事か。そりゃ勝てる気がしなかったし。当然の結果だよ。
よいしょ、と立ち上がろうとした時、テレウスさんは私に剣を突き付けた。
「弱い」
大きな目は細められ鋭く私を睨み付ける。
「こんなに弱くて気持ち悪い女のどこがいいんだ」
「……」
「僕の方が強くて優秀で可愛いのに、こいつは女ってだけでちやほやされてつけあがってる」
別につけあがってないし。それより自分が可愛いって自覚あるんだね。自覚してない方が可愛いよ。ヒヨを見習ってくれ。
あと君の特徴のカタコト喋りはどうしたの?普通に流暢に喋れてるじゃないか。もしかしてそういうキャラ作りをしていたの?あー、そうしないと目立たないもんね。
頭の悪いハーレム物とかさ、キャラクターの語尾がやたら変なのいるよね。☆とか♪とかvはまぁ…まだ我慢するけど、#とか♭ってどうよ?一体どんな発音してるの?それとかやたら語尾を延ばす奴とか、『ぅ』を入れたりとか何?馬鹿なの?幼稚園児じゃないんだから少しはちゃんと話せよ!もうそのアピールの必死さが痛くてそういうキャラ萌えだけのハーレム物は嫌い。
テレウスさんもね、他のキャラと差別化を図りたくてやってるのかもしれないけど、どんなに頑張ってもサブキャラになるときはなるんだよ。それで面倒臭い奴はそのうちサブキャラからも外されてモブキャラになっちゃうかも知れないから気をつけなよ?
「いつまで座っている。立て。トレーニングを続ける」
私の胸中を知らず、テレウスさんは私から剣を背けると離れていった。
「サーイェ頑張れよー」
「はーい…」
はぁ‥これは大変なトレーニングになりそうだ。内心溜め息を吐き、私は剣を引き抜くと、構えを取った。
もうさっきの避け方ばかりじゃ勝てない。そして攻撃魔法も使えない。どーしよー…。
悩んでる間にテレウスさんは攻撃してきた。私はそれを受け止める。テレウスさんは剣をぶんぶん振りながら私に怒りをぶつけてきた。
「お前が女じゃ、なかったら、お前みたい弱くて、気持ち悪い奴なんか、相手にされるはずなんかないっ!」
「確かに私は、女ですけど、皆さんが優しいのは、私が、先々代の王の孫だからと、思ってるだけでっ!」
「サーイェは受け止めるのが上手いなぁ」
「それだったら、ルーカス隊長は、絶対お前に、触れたりしない!」
「え!?どういうことですか?」
「もっと攻めろって!そんなんじゃ勝てないぞ!」
えーい!外野は黙らっしゃい!!私が呑気なヤジに苛ついている隙に、テレウスさんが攻撃してきて後ろに飛ばされた。
「くっ!!」
私はなんとか体勢を整え、テレウスさんとの距離をとった。お互いが睨み合う中、テレウスさんは小さな声で話し始めた。
「あの人は自分の損得しか考えてない。だからお前みたいな先々代孫で魔者と思われてるような怪しくて気持ち悪い奴には、手を出すなんて真似は絶対にしない。…強い思い入れでも無い限りな」
「…ちょっと待って下さい。手を出すってこの間の事を言ってるんですか?」
「……」
黙ってるって事は肯定か!やっぱり誤解してた!!!
「あれ誤解です!あれはチョコに毒が入ってて、ルーカス隊長は解毒してくれただけです!!」
「なら何で服がはだけてたんだよ?」
「それは…」
「雌臭い匂い放しやがって。この淫乱!」
テレウスさんは軽蔑の目で私を見ていた。淫乱って…あの時の事を思い出して赤面した。
「だから誤解だって言ってるじゃないですか!あれは不可抗力です!」
「何が不可抗力だ!」
テレウスさんは声を荒げると歯を食いしばり私を眉間に深く皺を寄せた。
「ムカつくんだよ」
私は初めて受ける憎しみの籠もった視線に思わず固まった。
「お前が女じゃなかったらルーカス隊長はお前を側に置かないし、関係を持とうとしない。他の騎士達もお前にちやほやしない。こんな事にならなかった」
テレウスさんは剣に風を纏わせ、徐々にスピードを上げて私に向かって来た。多分さっきみたいに風で私を巻き込み攻撃を当てるつもりだろう。それなら巻き込まれないようにしなくちゃ!どうしよう…。とりあえずガード!!
私は剣に氷を纏わせ、テレウスさんの風の攻撃を必死で弾いた。
「お前がここにいるのがいけないんだ!お前が来なかったら、僕は平和に暮らせていたはずなんだ!ここから出て行け!!迷惑なんだよ!!とっとと帰れ!!!」
その言葉に私はプツンと切れた。
「ふざっ‥けんな!!!」
「うわぁっ!!」
私はテレウスさんを押し返すと、思い切り剣を振ってぶっ飛ばした。テレウスさんは50m程後ろに吹っ飛ぶと体勢を崩した。
「おぉ!すげぇ!!」
「いいぞサーイェ!」
「今のうちに反撃だ!!」
「テレウスもへばってんなよ!」
私は周りからの応援を無視してテレウスさんに向かって歩き出した。
「テレウスさん、あなたさっきからごちゃごちゃ五月蠅いんですよ」
テレウスさんは起き上がると私に剣を向けた。
「そんなにルーカス隊長が好きならそう言えばいいじゃないですか!!」
「なっ!!」
急にテレウスさんは顔を赤くした。何照れてんだよ!!今更遅いっつーの!!
「だってそうでしょ?私が女だとか誑かしたとか…自分が相手にされないからって、ルーカス隊長の近くに居る私に八つ当たりしてストレス発散とか、あなたは小姑ですか!?」
「は!?」
「大体私は目立ちたくないんです!だからフェロモン過多のセクシー隊長の補佐なんてなりたくなかったんですよ!そのおかげで地味な嫌がらせ受けたり媚薬盛られるしいい迷惑です!!そんなに私のポジションが良いならなら、私は喜んでそのポジションを譲りますよ!」
「だ、だからそんな事出来るわけ無いだろ!」
「何で!?」
「お前が特別だからだ!」
「じゃあ自分の力で特別になって下さいよ!」
「はあ!?どうやってだよ!」
「自分で考えて下さいよ!!」
「ふっふざけるな!!お前は特別だから僕の気持ちが分からないんだ!」
「そんなのお互い様ですよ!あなただって特別じゃないから私の気持ちが分かんないんです!」
私達はもうすっかりトレーニングそっちのけの口喧嘩をしていた。流石に様子がおかしいと思った野次馬達が、私達を止めに入ったが、私の熱は収まらず、それを無視して喧嘩を続けた。
「大体ね、私が特別扱い受けてるとか言って妬んでますけど、私だってそんなの望んでいませんよ!普通がいいんです!!平凡に暮らしたかったんです!!それなのにこんな所に連れてこられて魔者だ先々代の孫だの色々言われて好奇の目に晒されて嬉しいと思ってるんですか!?そんな訳ないですよ!!」
「だったら帰れよ!!お前の居たところに!!!」
「帰られないんです!」
私は一際大きな声で叫んだ。
「私だって帰りたいですよ!だけど帰る方法が分からないんです!!だったらここに居るしかないじゃないですか!!もし分かるんなら教えて下さいよ…。私を帰して下さいよ!!!」
私は今まで一気に捲くし立てた分、肩で息をしていた。テレウスさん達は呆然と私を見ていた。
あー‥やらかした。私は馬鹿だ。こんな事をテレウスさんに言ったって、何の解決にもならない。テレウスさんがそんなの知る訳ないんだ。それなのに私はまた悲劇のヒロインぶって相手に同情を押し付けて、なんて愚かなんだろう。
「…っ!」
自分の馬鹿さ加減が悔しくて、涙が出そうになった。
「おい、そこまでだ」
気が付けばルーカス隊長が私達の所に来ていた。
「ルーカス‥タイチョウ」
テレウスさんは心底驚いたのか、大きな目を更に大きくしていた。
「揉め事の原因は隊長室で聴く。俺についてこい」
「はい…」
「……」
「サーイェ、お前もだ」
ルーカス隊長に言われても、私は動かなかった。
「サーイェ?」
「…ごめんなさい。少し、一人にして下さい」
「あ、おい!」
私はルーカス隊長を振り切り、空を飛んでいった。
どこへ行くかなんて分からない。ただもうここには居たくない。その思いだけで私はひたすら飛んでいた。