第3話:これが現実、そして真実
「…ん‥」
白い光りが瞼を照らし始めたので、眩しく感じた私は瞼を開くと…
『おはよう』
……目の前に微笑んでいらっしゃる白い御方のご尊顔がぁああ!!!!
私は叫びたい衝動を抑えてすぐに右手で口を押さえて左手で顔を隠した。
やばい朝から悩殺されかけた。だって美しいお姿が朝日に照らされてキラキラ輝いているんですものぉー!!朝日のキラキラもあるけど、白い御方自身のキラキラがもう少女マンガのエフェクトなんかじゃ足りないくらいに輝いているんですものぉお!!!
『ねぇ』
「はいっ!」
『手、どけて』
「!!いや、そんな私が貴方様のご尊顔を拝見だなんて…!!!」
『ねぇ、見て?』
「!!!」
そんな風におねだりされて断れる人間なんかいるのだろうか?そんな人がいるなら会ってみたい。殴ってやるのに。
私は恐る恐るといった感じで手をどけ、ゆっくり目を開けると白い御方は私を見つめていた。多分私は顔を真っ赤にしてゆでダコ状態だったと思う。
『夢、醒めた?』
「……」
そうだ、夢だと思っていた。
家に居たはずだったのによく分からない森の中にいて、白い御方に出会ったことも、あまりにも奇妙で現実味に欠けているから、全て夢の中だと思っていた。いや、思っていたかった。
だけど結局寝ても醒めても何も変わらなかった。
これが現実、それなら受け止めるしかない。例えそれが、私の予想通りの場所だったとしても。
『醒めた?』
白い御方は首を傾げて尋ねてきた。その愛らしい仕草に私の緊張も解れる。
「…いいえ」
『目、覚めた?』
「はい‥‥すごく、よく、覚めました」
微笑んで白い御方の目を見つめ返した。私、ちゃんと笑えてたかなぁ?
だけど頭は妙にすっきりしていた。
『じゃあ、起きようか』
「はい」
差し伸べられた白い御方の手をとって、私は起きた。起き上がってあらためて周りを見回すと、そこは大自然に囲まれていて美しかった。
青々と茂った植物、そこから顔を出す可愛らしい花々、朝日に照らされて輝く湖、遠くまで見える沢山の青く生い茂った木々たち。
日本では見られない光景…そう、まるで外国にいるような気分だ。ぼーっとその景色を眺めていると、白い御方に顔を覗きこまれた。
『何を見ているの?』
「へ?!…あぁ、周りの景色を眺めているんですよ」
私は苦笑しながら白い御方に答えると、視線を逸らした。それでも白い御方は私の正面に来て目線を合わせると、私の目を見つめてきた。
『何処を見ているの?』
「……」
じーっと覗き込んで見つめてくる白い御方の質問に戸惑った。
覗き込んでくるご尊顔を直視するのに困ってるのもあるけど、見つめてくるトパーズのような透き通った瞳には、何もかも見透かされているような気がして。
『遠くを見ているの?』
見つめてくる綺麗な瞳には、私の情けない顔が映っていた。
そんな私を純粋に見つめてくれる白い御方には、何一つ嘘をつけないと思った。
「はい。すごく、遠いところです」
『何があるの?』
「もう何も…ありません」
白い御方がぼやけて見える。口にすることで、これが事実だという事を改めて実感した。
ちゃんと受け止めてるよ、これが現実だって。分かっているから余計に辛いんだよ。もう家族にも、奈由にも会えない。やりたい事は何も出来ない。欲しい物も二度と手に入らない。
今まで大切にしていたもの全てを失ってしまった。そんな私は一体何を持っているんだろう?
もう、何も無い。
こんな顔を見られまいと、私は俯いて歯を食いしばって涙を堪えた。すると白い御方は私の頬に手を伸ばして顔を上に向かせたので、私は驚いて目を見張った。
『悲しいの?』
「…はい」
『苦しいの?』
「…はい」
『ならどうして泣くのを我慢するの?』
「こんな情けない顔を、貴方様に見せられないからです…」
『気にしない』
「……」
『泣きなよ』
「‥…っ!」
その言葉を聞くと、堰を切ったように涙が溢れてぼろぼろ落ちていった。
私は子どものように泣き叫び、目の前にいる白い御方に縋り付いた。白い御方は嫌な顔を一つせず、子どもをあやす様に私を優しく包み込んでくれた。
その温もりに、私は余計に泣けてきた。
「ぐずっ・・・」
あー泣いた泣いた。こんなに泣いたのなんていつ振りだ?もしかしたら初めてかもしれない。
ここは異世界で、自分の世界に戻れない思うことがこんなに辛いとは思わなかった。だけど、泣いているだけでは何も変わらない。これからは自分でどう生きていくか考えなくちゃ…。
思いっきり泣いて落ち着いてくると、自分が非常に失礼で恥ずかしいことをした事に気がついた。
白い御方に抱きついた挙句、涙も鼻汁も唾液も垂らして泣き叫んでいました。
‥‥うぁぁあああああああ!!!!
『ん?』
私は白い御方の胸を押して急いで離れた。とりあえず謝るしかない!!
「申し訳ありませんでした!!!泣いて縋り付いた挙句、貴方様のお召し物まで汚してしまって…!!」
目をキョロキョロさせて青い顔をしてガクガクしている私は、明らかに挙動不審者だったと思う。だけどやっぱり白い御方はどこまでも懐が広かった。
『気にしてない』
あぁ‥もうこの笑顔には何も言えません…。一人で至福のときを堪能していると、自分の手に違和感を感じた。
「…ん?」
もう一度確認するために失礼ながらも白い御方の胸を触らせて頂いた。
『どうしたの?』
「……ない」
『何が?』
「胸が…無い」
『そうだね』
と、いう事は……
「貴方様は男の人…だったん‥デス…カ?」
驚きのあまり思わずカタコトになってしまった。白い御方は優しい微笑みを浮かべていた。
『君が思っているとおりだよ』
…なーんてこったぁあーいっ!!!
私は急いでその場から離れると、混乱する頭を抱えて考え始めた。
今まで女の人だと思ったからゲロ吐いたり泣き叫んだり抱きついたりしてたけど、男の人なら話が違うよ!!いやゲロ吐いて迷惑かけるのは男女ともにいけないと思うけどさ、会って間もない男の人に泣き縋るのはさすがにいけないだろ。
確かに身長は高かったけど、外人さんならそれくらいあるかなぁとか思ったし、友達の優花ちゃんは『私‥お金が溜まったら胸大きくするヨ…』とか言って本気で豊胸手術を考えるくらい胸が平ら…密やかだったから、白い御方もパリコレに出られるような体型だから無いのかなぁって思ってたんだけど‥‥男性だった。あの美人顔で男性って反則じゃないか!
『そうなの?』
「うわぁっ?!!」
気がついたら白い御方は私の真ん前にしゃがみこんでいた。不思議そうな顔で私を見つめてくる白い御方に‥もう理性が耐えられなかった。
「…男だろうがなんだろうが私は貴方が大好きです!!」
だって私の恩人の白い御方には変わりない。性別なんて関係ないのさ!
突然の告白に白い御方が少しビックリしたみたいだけど、嬉しそうに笑ってくれたから良し!!!
あ、ちなみにこれは純粋な『好き』だから誤解しないでね。さすがに恋愛なんて無理です。色んな意味でね…。