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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第二章
37/57

第12話:甘い罠

 この話にはR15要素が含まれています。苦手な方はご注意ください。




 あの日以降、私の訓練は筋トレ中心となり、あまり魔法は使わずに地道な基礎訓練が行われるようになった。

 テレウスさんは注意を受けたのか、本を持ってくるのは止め、ほんの少しだけ休憩をいれてくれる等、以前よりちゃんと私の訓練を見てくれるようになった。しかし訓練とは関係無い私への指摘は増えた。

 そして筋トレに関しては鬼だった。いきなり腕立て100回は無理だよ!!

 それとか全訓練所の周りをランニングをしたりした。ランニングはキツかっけど、走っていると声援が聞こえたりして嬉恥ずかしく思いながら何とか乗り切っていた。


 それから私は、出来るだけルーカス隊長に近付かないようにした。テレウスさんに誤解されると面倒だからね。

 自分の仕事も出来るだけルーカス隊長が居ない時にやるようにしていて、隊長室にルーカス隊長が戻ってきたら、適当な所で仕事のきりをつけて、外で休憩する等、自分でも涙ぐまし努力だと思う。

 そのおかげか、テレウスさん当たりがほんっっっのちょっと良くなった気がする。1ナノくらいかな。うん。…少しでも良くなったと思わないと報われないよ!これも結構面倒臭いんだからね!!


 いやはや、人間関係にこんなに気を使ったのは初めてだよ。まぁ、友達が少なかったってのもあるけど。社会に出るのは大変だなぁ。…これはちょっと違うか?




 今日もルーカス隊長が居ないのを見計らって隊長室に入り書類整理をしようとした時、その直後にルーカス隊長が隊長室に入ってきた。


「あ…」

「久しぶり」

「お久しぶり…です?」


 まぁ確かに久しぶりか。隊長室で顔合わせたのは一週間ぶりくらい。はぁ‥ツいてないな。まさか部屋に入った直後に入ってくるとは思わなかった。

 ルーカス隊長は部屋に入ると、気怠げにソファに寝転がった。


「サーイェ、茶」

「はい」


 何だよこの倦怠期の夫みたいな態度は。まぁいいや。仕方ないからお茶の用意するか。

私はそそくさとお茶を淹れに行った。

 あ、お菓子がない。最近ここでお茶飲まないから補充してないんだよね。


「ルーカス隊長、お菓子無いけどいいですか?」

「ああ。あるからいい」


 自分で持ってきたんだ。珍しいな。

 私はさっさとお茶を淹れると、ルーカス隊長の所に持って行った。テーブルの上には綺麗にラッピングされた箱が置いてあった。貰ったのかな?


「どうぞ」

「ん」


 ルーカス隊長にお茶を渡したとき、ルーカス隊長から女物の香水の香りがした。…だから気怠げなのか。多分これも女の人から貰ったんだろう。お疲れ様です。


「どうした?」

「いえ、何も」

「サーイェは飲まないのか?」

「仕事があるので結構です」

「ふーん、仕事熱心だな」

「別に普通ですよ」

「その割には最近ここには来ないな」

「たまたまルーカス隊長が居ないだけですよ」

「そうか?最近ここには結構入り浸ってるんだけどな。不思議なほどお前に会わない」

「最近はよく外で休憩を取るので」

「ガイシスの所か?」

「そうですね、ロイス副団長の所にも行きます」


 ロイス副団長の淹れるお茶は神だからね!マーリンドの所は一回行ったら、マーリンドがそのまま仕事をしなくなったので自主的に行かないようにしている。だけどやっぱり一番隊が一番行きやすい。行くと大体お茶しに来たんだなぁって皆に分かってもらえるからね。

 実は前にガイシス団長に嘘を吐いてお茶をして以来、一番隊の騎士からよくお菓子を貰うようになった。きっとわざわざ離れた一番隊にまでお菓子を貰いに来たひもじい子とでも思われてるんだろう。くれる人数が日に日に増えてきたので、貰うのにも限度があるからと断ったら、次の日からは順番にお菓子をくれるようになった。一体何なんでしょうね?私に貢いでも御利益なんかないよ。だけどそのお陰でお菓子には困ってないし、お菓子のブランドにも詳しくなった。



「俺の補佐なのに、俺には茶を淹れずに他の男に茶を淹れてるんだな」

「……」


 まるで私が浮気してるみたいな言い方じゃないか。私はあんたの恋人でもないし付き合う気はない!ていうか迷惑被ってるのはこっちなんだからね!!私を色恋沙汰に巻き込むな!!


 言葉には出さずに黙っていると、ルーカス隊長は溜め息を吐き、立ち上がると私の座ってるソファの隣に座った。な、何?


「サーイェ」

「は、はい」

「お前、露骨に俺の事避け過ぎ」

「そんなつもりはないんですけど‥」

「じゃあ何で俺がここに居る時は来ない?」

「…ガイシス団長のお菓子が美味しいし、ロイス副団長の淹れる紅茶は神の飲み物なので…つい」


 ルーカス隊長はわざとらしいくらいに大げさに溜息を吐いた。そ、傍で吐息を吐かないでもらいたい!!!


「ならこれやる」

「何ですか?これ」

「貰った」


 そう言って手渡してくれたのは先程の包み箱。


「多分中身は菓子だと思う」

「多分ですか?」

「貰い物」

「ルーカス隊長は食べないんですか?」

「今は腹減ってない」

「じゃあ減った時に食べればいいじゃないですか」

「お前はそんなに俺のあげたものが食べたくないのか?」

「いや、そう言う訳じゃないですけど本当に良いんですか?」

「ああ」

「…では頂きます」

「ん」


 ラッピングを丁寧に開けると、何とも上品な紫の箱にチョコが入っていた。


「こ、これは…!!!ブルーリボンじゃないですか!!」

「そうなのか?」

「そうですよ!ブルーリボンと言ったら貴族御用達の高級チョコレートですよ!!そんなもの貰ったですか!?」

「みたいだな」


 うっわ興味無さそう。


「食べてみろよ」

「はい」


 私は手前にある金粉の乗った一口サイズのチョコを食べてみた。


 う、うまい!チョコを噛むと、中から液体が出てきた。多分ウィスキー・ボンボンみたいな感じで中に入ってるのはラム酒だと思う。上品な香りが口いっぱいに広がった。ウィスキー・ボンボン好きの私にとったら最高のチョコだよ!


「美味いか?」

「すごく!美味しいです!」

「良かったな」


 ルーカス隊長は私を見てクスリと笑った。


「はい、有り難うございました!」


 私はお礼を言うと、箱をそのままルーカス隊長に返した。


「もういいのか?」

「ルーカス隊長のですから」

「お前が全部食べて良い」

「けどそれじゃくれた人に失礼です」

「俺は別にいらない。勝手にくれただけだ」

「…それすごく失礼ですよ。食べないんだったら貰わないで下さい」

「だけど俺が貰ってきたお陰で、お前は美味いチョコレートを食べられる。違うか?」

「そうですけど…くれた人にはそれなりの気持ちがあってルーカス隊長にくれたんだと思います。それを無碍にしないで下さい」

「…随分、くれた奴の肩を持つな」

「私がされたら嫌だからです」



 昔、バレンタインにアイツにチョコを上げた時、恥ずかしくてつい義理チョコだって言ったら、アイツが『義理だから』って言って他の子に私のあげたチョコをあげてたのはかりなりムカついたなぁ。その後、アイツを蹴り上げて、チョコを奪って溝に捨てたけどね。

 やり過ぎだって?恋する乙女を侮辱したんだからこれくらい当然でしょ。


 ルーカス隊長は無表情で私を見つめるので睨み返すと、また溜め息を吐いた。私は恋する乙女の味方だぞ!!



「分かった」


 ルーカス隊長が一番小さなチョコを口に放り込んだ。


「これでいいか?」

「味はどうですか?」

「…美味いな」

「でしょ?それを彼女に伝えてあげて下さい」



 チョコを他の子にあげられた時はかなりムカついたけど、その後すぐに私を追いかけてきて、アイツが溝に捨てたチョコを食べて『美味かった』って言ってくれたら、今までの嫌な気持ちなんて吹っ飛んだ。まぁチョコが食べれたのは溝が汚れてなかったってのもあるけど、わざわざそれを拾ってるところを想像したら笑えて仕方なかった。

 その事を思い出したら心が温かくなり、自然と顔が綻んだ。



「きっと、喜びます」


 ルーカス隊長は返事をせず、黙って私を引き寄せ頭をぽんほんとすると立ち上がった。


「…急に何ですか?」

「別に。出掛けてくる」


 お!早速言いに行くのかな?


「いってらっしゃい」


 ニコニコしながらルーカス隊長を見送ったが、ルーカス隊長の反応は予想に反して素っ気ないものだった。


「それ、全部お前が食べていいから」

「え?」

「お前の為に貰ってきたんだ。それ以上俺は要らない」

「だけどそれじゃあ…」

「ゴミ箱とお前の胃の中、どっちの方がそのチョコは報われるんだろうな?」

「……」

「あげる方の気持ちを考えるのもいいが、貰う方の気持ちも考えてくれ」


 そう告げると、ルーカス隊長は静かに部屋を去っていった。

 貰う方の気持ち、か…。確かに考えてなかったけど、そんなに嫌なのかな?だからって私を理由にチョコを貰うのはやっぱりお門違いだと思う。

 はぁ…難しいな。解決方法が分からないのに、誰かに説教するなんて図々しいよね。これからは控えよう。うん。

 けどゴミ箱はなぁー‥。うーん、私はあげた奴が誰かにあげようとするなら、ゴミ箱に捨てたくなるけど、先にゴミ箱に捨てようとしてるなら、自分で食べるか友達にあげたくなる天の邪鬼なんだよ。一般女性はどうなんだろう?

 …やっぱりもったいない。このチョコ本当に美味しいんだよ!今まで食べたチョコの中で一番美味しい。本人にバレなきゃいいかな?私の為に貰ってきたって言ってたし、この高級チョコに罪はないはず!

 私は無理やり自分を正当化して、残りのチョコをポリポリ食べてしまった。うまー。




 チョコも食べ終わり一服出来たので、私は仕事に戻った。


 しばらく書類整理をしていて、立ったり座ったりを繰り返しているせいか、だんだん暑くなってきた。いつもと同じくらいの動きなのにこんなに熱いなんて…夏だね。

 とりあえず最初は首もとのボタンを外す程度だったが、熱くなってきたので腕捲りになり、あまり脱ぐなと言われている上着も脱いでブラウスになった。だってこんな暑いの我慢できないよ!


「暑い…」


 靴脱いでズボンを巻き上げてやろうか?稲作ルックだろうが気にならんよ。もう肌にブラウスが触れているのも嫌な程度まで暑くなっていた。

 …流石にこれはおかしい。暑いのは外じゃなくて私が熱いのか…?

 とりあえず水でも飲んで熱を冷まそう。

 服が擦れて変な感じがするのを我慢しながらふらふらと給湯室へ向かった。水を出そうと流動石に触れたが、少し意識がはっきりしないせいでうまく調節が出来ず、大量に水が出てしまった。勢い良く出る水に触れると冷たくて気持ちいいが、流れ出る水が私を刺激して別の気持ちよさを感じて急いで手を引いた。


「はぁ…っ」



 もうなんなの?もしかしてこれ…媚薬?じゃあチョコに入ってた液体が…。多分そうだ。だって体は火照って少しの刺激を快感に感じてしまう。

 …ヤバい。こんな快感を感じるなんて久し振りだ。一人でこんな風になるなんて恥ずかし過ぎる!…他人がいても嫌ですけどね。

 水を飲んで薬を薄めようとコップを手に取り水を入れたが、飲む瞬間に手を滑らして思いっ切り自分に掛けてしまった。


「あっ…!」


 水の冷たさが私を刺激して、力が抜けてしまい思わずへたり込んだ。

 何あの声!!!!水如きに馬鹿みたい!!

 水が掛かった瞬間は良かったけど、そのせいで服が体にへばり付いて気持ち悪い。


 もうやだ…。わけ分かんなくなってきた。頭ぐるぐるするし気持ち悪いしなにも考えたくない。考えるのがめんどうくさい。もういい‥ふく脱ごう。

 力無くブラウスのボタンに手を掛けるも上手く外れず、その焦れったさが嫌になる。


「ぅう~‥」


 脱ぎたいのに脱げないのがもどかしい。もういい。

 脱ぐのを諦めた私はごろんと床に寝転がった。


「ん…!」


 ゆか、きもちいい…。火照った体を床の冷たさが気持ちよくて、転がると、その分冷たさと服の擦れで私を快感を誘う。


 わたし、何してるんだろう?服がすれてきもちいいとかガキみたい。

 そんな自分が馬鹿みたいと思う反面、もっと快感が欲しいと願う体。

 自然と私の手は秘部へ向かっていった。


「あっ…!」


 気持ちいい…だけど嫌だ。それでも私の手は動きを早める。


「んん…」


 私は腰をくねらせ、どんどん自分から求め始めた。心と体が離れていく。



 やだ。ほしい。やめて。もっと。


「やっ‥!んっ…!」



 刺激が欲しいの もっと もっと!


「あっ…!んぁっ…!!」


 ちがう やめて はずかしい


「んんっふぅ…っ!!」



 いや

 ほしい

 ほしい

 いや


「はぁっ‥はぁっ‥んっ…!」


 いや


 嫌っ!!!



 果てる寸前、私は思いっ切り自分の手を噛んだ。


「っつ~…!!」


 流石にこれは痛い。だけどそのお陰で少しは意識が戻ってきた。

 なにこんな所で本格的にオナってんだよ…そんな情けないことしないでよ…!!

 そう強く思ってても、まだ快楽を求める自分が居る。


 もうやだ…だれかたすけてよ!!



 悔しくて手を噛みしめると、ガチャっとドアが開く音が聞こえた。

 もしかしてルーカスたいちょう?


「る‥かす…たいちょう」


 とにかくこの状態をどうにかしてほしい。私はルーカス隊長を呼び、何とか体を起こそうとするが力が入らず再び倒れた。


「ふぅっ…!!」


 やだ!こえでるな!!


 声を必死で抑えていると、私の倒れる音に気が付いたのか、コツコツと足音がこちらに向かってくるのが分かる。


「サーイェか?」


 ルーカス隊長給湯室のドアを開けると、私を見て目を見張った。


「おい!どうした!?」


 急いで私を抱き起こしたが、その衝撃か私をひどく刺激し、びくりと大きく反応してしまった。


「あぁんっ!!」

「っおい!」

「さわんないで‥!ください…!」


 ルーカス隊長に触られた所が熱いしそわそわする。顔も熱い。ほんと恥ずかしい。恐らく私の顔は真っ赤だろう。

 ルーカス隊長はゆっくりと私を横たえたが、その間も私は必死で声を押し殺した。快感と恥ずかしさで体が震える。その様子を見たルーカス隊長は、私の顔を優しく撫でた。


「っ!!」


 てその手はどんどん下がり、首、肩、腕を撫でていく。


「やめっ‥てっ!!」


 ほんとにヤバイから!!

 必死でルーカス隊長を振り払うと、ルーカス隊長はぴたりと止まった。


「媚薬だな。…もしかしてあのチョコか?」


 私はこくんと黙って頷いた。それを見たルーカス隊長は、はぁっと溜め息を吐いた。


「悪かった。俺の不注意だ」


 珍しくルーカス隊長は申し訳無さそうに謝った。


「いまは…そんなのいいです。このままじゃわたし‥おかしくなっちゃう…。はやく、たすけて…ください…」


 私は余りに必死で上手く声が出ずに掠れてしまった。ルーカス隊長に触れられて余計に熱が上がって辛い。このままじゃルーカス隊長を襲ってしまいそう。そんな動物みたいなことしたくない。

 せがむ様にルーカス隊長を見つめると、ルーカス隊長は私に覆い被さった。


「ル‥カスたいちょっ?!」


 うそでしょ?!やめてよ!!


「選べ」


 ルーカス隊長は真っ直ぐ私を見つめた。


「手っ取り早く俺が熱を冷まして楽になるか、無理矢理媚薬を体から抜くか、どっちがいい?」

「え…?」

「ま、手っ取り早く熱を冷まして楽になる方が、お前は気持ちいいだろうな」


 ルーカス隊長の艶やかな視線に、私はぞくりとして疼いた。


 …ルーカスたいちょうとヤるってこと?だめだよそんなの。わたしはあいついがいとはやらないってきめてるんだ。

それでもルーカス隊長を求めてる体が情けない。自然と手がルーカス隊長の元へ行こうとするが、心を鬼にして自分の手を噛んだ。


「おいサーイェ!!何してるんだ!!」

「ぐぅ…!」


 しっかりしろ!!りせいをとりもどせ!!!

 ルーカス隊長が私の手を無理矢理口から外した。


「はぁっ!」

「落ち着け!」


 痛みと熱で呼吸も荒くなる。

 くるしいよ…。もう泣きたい。


「……て」

「ん?」

「ぬいて…」

「…熱か毒、どっちだ?」

「どく…」

「分かった。少し辛いと思うが我慢しろよ」


 私がこくりと頷くと、ルーカス隊長の呪文を呟き、顔が近付いたと思ったらルーカス隊長の唇が私の唇に触れた。


「…?!!」


 気だるく開いていた口から意図も簡単に私の咥内に侵入したルーカス隊長は、私の舌を絡め取った。


「んんっ!!」


 いってることがちがうじゃないか!どくをぬくんじゃないの!?

 私は必死に抗うがルーカス隊長に腕を押さえ付けられていてビクともしない。


「んん‥っ!!ん~っ!」

「……」


 私がどんなに抵抗しても、ルーカス隊長は涼しい顔をしてキスを続ける。クチュクチュと聞こえてくる音が卑猥で耳を塞ぎたい。


「っふ…んん…」


 舌が熱い。口の中だけに性感体があるんじゃないかってくらいビンビンに感じてる。このまんまじゃキスだけでイっちゃいそう……!!

 どんどん激しく、きつく吸い上げ深く入ろうとするルーカス隊長の舌を拒み、思いっ切り噛んだ。ビクッとルーカス隊長が怯んだが、構わずキスを続け、口の中に錆の味が広がった。少し罪悪感も感じたが、これ以上わたしの中に浸入して欲しくなかった。


「んんっ!」

 


 貪る様にルーカス隊長にキスされていると、少しずつだけど、自分の体から熱が引いていくのが分かった。イったわけではないが身体から力が抜けていく。熱が引き、どんどん落ち着いてきた、しかし今度は寒くなってきて、さっきとは違う感じに力が入らない。


「んん‥」


 もう十分だと催促するようにルーカス隊長の舌を軽く噛むと、ようやくルーカス隊長は私から離れてくれた。


「んっ、はぁっ、はぁっはぁっ…」

「悪い、ちょっと吸い過ぎたかも」


 お互いの唇が離れた時に引いた銀糸が、ルーカス隊長を扇情的で艶めいて見えた。


「無理矢理吸い取ったから少し体に負担が掛かったと思うが、大丈夫か?」

「はい…」



 私はルーカス隊長抱き起こされたが、まだ息も整わないし、うまく力が入らない。ルーカス隊長は黙って肌けた私のブラウスのボタン留めてくれた。


 ああ、そう言えばぬぎかけだったね。何かここまでくると、恥ずかしさより申し訳なさがこみ上げてける。

 その時、ドアの方から物音が聞こえた。…誰?

 疑問に思った時、そこにはテレウスさんがいた。


 ザ・ワールド!!


「…………」

「…………」

「…………」



 そして時は動き出す!!!


 テレウスさんは私たちを見て、何も言わず全力で走り去っていった。

 あーあーあー…。これは、うん…この間の私ですね。はい。


「ルーカス、隊長…」

「ああ」

「はぁっ‥テレウスさん、追っかけてくださいよ…。あれ、はぁ…完全に勘違いしてますよ」

「今はサーイェの方が先決だ」

「私なら‥大丈夫です」

「俺が居ないときに他の奴が来て襲われてもいいなら行く」

「多分‥襲われませんよ」

「今のお前は自分で思っている以上に色っぽい」

「……ルーカス、隊長よりもですか?」

「フッ、ああ。そうだ」

「じゃあ‥傍にいて下さい」

「ああ」


 嘘だと思うけど、ルーカス隊長以上だったら色んな人がホイホイされるな。残念ながら今の私の状態では逃げることすら出来ない。

 少し落ち着いてきた私は、口を洗うために立ち上がったが、ふらふらとしてすぐに倒れかけた。



「無理をするな」

「もう‥大丈夫ですから…」


 ルーカス隊長が私を支えて制止をするが、私はそれをを聞かず、震えるから体を無理やり動かしシンクへ向かった。シンクにたどり着くとすぐに口を洗い、出来るだけ唾を吐き出した。


「おぇっ…!」

「気分が悪いのか?」

「ごほっ…そうですね」


 心配したルーカス隊長が私の背中をさすってくれた。


「悪い…。美味かったからつい吸い過ぎた」

「うまかった?…どういう意味ですか?」


 場合によっちゃ本気で軽蔑するわ。


「俺がやったのは毒…媚薬を吸い出したんだが、それと一緒にお前のメージも一緒に吸い出さなければならなかった」

「だから力がぬけていったんですね」

「ああ。メージは人によって性質があるからそれぞれ味が違う。甘味がある奴もいれば辛味がある奴もいる。美味い奴もいれば不味い奴もいる」

「へえ、そうなんですか」

「ああ。お前のは今まで味わった事が無い程美味かった」


 ルーカス隊長は味を思い出したのか、自然と口角が上がっていた。

 知らんがな。大体私のメージじゃないし。多分それレイのだよ。


「…ちなみにどんな味ですか」

「蜂蜜のように甘いかと思えばすっきりとした喉越しで、濃厚で味わい深くて飽きない。全て味わい尽くしたくなった」


 …なるほど、わからん!


「とりあえず、次にそんなことしたら絶対に許しません」

「ああ。残念だ」


 ルーカス隊長はふぅっと溜め息を吐くと、髪をかき上げた。


「悪かった」

「いえ、助けてくださりありがとうございました」

「取り敢えず今日はもう帰れ。辛かったら明日も休んで構わない」

「あの‥この事って報告するんですよね?」

「当然だ」

「ですよね…」


 媚薬盛られて乱れてましたとか知られたくない。


「あまり差し支えない程度にしておくから心配しなくていい」


 あ、気付いてくれたんだ。言わずとも分かってくれると楽だ。


「家まで送る」

「大丈夫です。一人で帰れますから」

「途中で倒れられても困る」

「倒れません」

「青白い顔で言っても説得力がない」

「……」

「それにそんなお前を放って置いたら、後で余計詳しく聴かれるだけだがいいのか」

「…分かりました」


 ほんとルーカス隊長ってこういう誘導が上手いよね。悔しいけど事実だから言い返せない。


「じゃあお前が少し楽になったら家に送る」

「はい」


 それからしばらく私は水道で口を洗い続け、不可抗力でルーカス隊長におぶられ家に帰った。



「サーイェ?!一体どうしたんですか!?」

「まぁちょっと色々ありまして…」

「毒を盛られたチョコを食べたんだ。幸い処置も早く解毒もしたから酷くはならないが、大事をとって明日も休ませてくれ」

「はい!」


 ラヴィーナは元気よく返事をすると何か栄養のあるドリンクの準備をしに行き、私はルーカス隊長にベッドまで運んでもらった。


「わざわざありがとうございました」

「礼は言うな。俺のせいだ」

「けどルーカス隊長はチョコに毒があるなんて知らなかったし、あれしか方法がなかったので仕方ないですよ…」


 うん、ていうかもう思い出したくない。


「他人の物を食べた私が悪いのです。もうこれ以上この話をしても仕方ありません。出来れば忘れてください」

「…分かった。1日休めばメージは回復すると思う。しっかり休め」

「はい。ありがとうございました」

「ん」


 ルーカス隊長が部屋から出て行こうとすりと、入れ替わりでラヴィーナが入ってきた。


「あっ、ルーカス隊長はお茶の方はいかがですか?」

「俺はまだ仕事が残ってるからいい」

「そうですか…。わざわざサーイェをお送り下さり有り難う御座いました」

「ん」


 ルーカス隊長は短く返事をすると、仕事に戻っていった。

 その後、私はラヴィーナが用意してくれたお茶を飲み、お風呂で汚れを落とすと、mp3で音楽を聴きながら眠りに落ちた。






 その日、私は夢を見た。

 久しぶりにあいつがいる夢。デートの時、いつもの様にあいつは私の手を握りながら楽しそうにジョ●ョの話をしている。誰のスタンドが一番強いか討論していて、私が熱くなった一瞬の隙を突いて私に優しくキスをした。

 この不意打ちが恥ずかしくて顔を真っ赤にしていると、あいつはどや顔で私を見ていた。

 それがムカつくけど愛しくて、だけど悔しいから脇腹に一発決めてやった所で目が覚めた。



 …なんて夢見てるんだよ。あいつが出てくるなんてかなり珍しい。…昨日のキスのせいかな?よっぽど嫌だったんだね。…よっぽど嫌でしたよ!!


「はぁ…」


 なにセンチになってんだよ…。もう考えたって仕方ないのに。それにルーカス隊長もちゃんと謝ってくれたんだ。責めちゃいけない。他人のチョコを食べた私がいけないんだ。だけど昨日の事を思い出すと、あんなに乱れた事をした恥ずかしさと後悔で胸がいっぱいになる。

 うわーん!もう私、お嫁に行けないよ!!あ、行く気なかったから問題ないか。…て、そういう意味じゃなくて!仕事の上司とあんな事になるなんて最悪だ。多分これからもっと外で休憩するんだろうな‥はは。めんどくさ。

 ルーカス隊長は大人だ。多分何も無かったかのように振る舞ってくれるよ!それを信じよう!

 今回のキスは毒蛇に咬まれたけど、夢であいつが消毒してくれたって事で終わり!以上!!


 そろそろ起きようと思った時、遠慮がちにドアが開いた。


「あ、サーイェ!起きてたんですね」

「うん、今起きたところだよ」

「御身体の方は大丈夫ですか?」

「うん。ちょっとだるいけど問題ないよ」

「ダメです!もしかしたら倒れてしまうかもしれないから、しっかり休んで下さい!」

「いや、けどね…」

「もう昨日のサーイェの青白い顔を見たら心配で…。昨日、陛下も来られたんですよ」

「え?オズ来たの」

「はい。夜の8時頃に来られましたが、サーイェは寝ていたので顔だけ見てお帰りになられました」

「へえ、そうなんだ」


 寝顔見られたのはちょっと嫌だけど、わざわざ来たのに寝てたのは申し訳無い。



「すごく心配されていらっしゃいましたよ。また本日来られると仰っていたので、その内…」


 ラヴィーナと話していると、玄関戸が叩く音が聞こえた。


「…もしかして来た?」

「分かりませんが行ってきます」


 ラヴィーナは小走りに一階へ向かった。誰が来たのか気になり私は聞き耳を立てた。…ぉお!この低い声はベルクラース様!まさかベルクラース様が来て下さるとは!!じゃあ早く着替えて会いに行こー!


 いそいそと髪をとかしていると、ラヴィーナの慌てる声と、階段駆け上がる音が聞こえる。何だろう?

 不思議に思っていると勢いよくドアが開いた。


「サーイェ!」

「ああ、オズ。おはようござ…」


 オズは返事をせずにずかずかと部屋に入ってくると、きつく私を抱き締めた。


「ちょっとオズ!苦しいです!」

「まだ体に毒が残っているのか?」

「いや、そうじゃなくてオズの力が強いので…」

「…ああ、すまない」


 そう言ってオズは抱き締める力を緩めてくれたが、私を放してはくれなかった。

 それから遅れてラヴィーナと ベルクラース様が私の部屋に入ってきた。


「オズウェルシス陛下!サーイェはまだ体調が悪く、着替えてもいません!」

「構わぬ」

「しかし…」


 ラヴィーナは何か言いたそうだったけど、ベルクラース様に目で何かを訴え、ベルクラース様はそれを理解したらしい。


「陛下、サーイェも女性です。寝間着姿で会うのはあまり好ましくないかと存じます」

「構わぬと言っている」


 いやいやこちらが構いますよ。こんなボサボサヘアをベルクラース様に見られたくなかったよ。

 ちなみに今日のベルクラース様が素敵過ぎる!いつもよりラフな格好もいいですね!!


 …って言いたいけど、言えない。オズの機嫌が悪いからだ。こういうときは黙っておくのが一番。


「貴様等は下がれ」

「…御意」

「……」


 オズの命令にベルクラース様は返事をし、心配そうにしながらラヴィーナも黙って礼をして返して部屋を出ていった。パタンとドアが閉まり、部屋に静寂が訪れた。微妙に気まずい。


「えーと、わざわざお見舞いに来てくれて有り難うございます」

「心配したのだぞ。サーイェが無事で良かった」


 こうやって優しく抱き締められると、ほんとに心配掛けたんだなぁって思う。


「心配掛けてすみません。ほんとにもう大丈夫ですから」

「…媚薬だと聞いた」

「ええ、そうみたいですね」


 ルーカス隊長どこまで話したんだろう?あんまり触れたくない話題なんだが…。


「ルーカスに何もされなかったか?」

「は?」

「噂では相当な色男だと聞いている」

「あー、そうですね。だけど何もありませんでしたよ」

「本当か?」

「はい。ちゃんと解毒してくれました」


 ここでキスされたとか言ったら、オズがかち切れそう。


「場数を踏んでるからこそ落ち着いて対処出来たのではないでしょうか?あまり心配しなくていいと思います」

「しかし奴も男だ。サーイェの乱れた姿を見て何も思わない訳がない」


 乱れた姿って…。


「ガキに欲情する程ルーカス隊長は餓えてないと思いますよ」


 そりゃ多少遊ばれたけど…。普通にブラウスのボタン止めてくれたし、私の心配したりと面倒見は良かったと思う。それに多分だけど隊長室で会う前に、既に女性とヤってと思う。そうでなきゃ女性物の香水があんなに香るはずがない。気怠げでフェロモンもプンプンだったし!あ、フェロモンプンプンはいつものことか。


「サーイェは男を分かってないな」

「え?」


 そう言うとオズは私をベッドに押し倒した。


「ちょっと何するんですか!?」


 私はもがくが、オズが私の両手を取り、片手で括くり、私に跨り動けない様に固定していた。

 またこんな展開かよ!!連日こんな事が起こるとか本当に疲れるんだよ!


「放して下さい!」

「餓えた、餓えてないは関係無い。目の前に熟れた極上の果実があれば、食べたくなるものだ」


 オズの手が私の太ももに触れ、私は粟立った。


「やめて!!」

「本当に分かっているのか?」

「分かりましたから離れて下さい!!」

「どうだかな」


 私の意志とは関係なく、オズは手が私の身体を這いまわる。


「っ…!」


 それが気持ち悪くて懸命に抗ってみるがびくともしない。オズの手が私の腹、胸を撫で顔まで辿り着いた。無理やり視線合わせられ、オズは無表情で真っ直ぐ私を見つめた。



 何を考えてるのか分からない。冷たくて、怖い。



「その表情すら、余を刺激する」


 冷酷に笑うオズの顔が近付いて来たので全力で避けたが、オズは私の首もとに顔を埋めると首元がちくりと痛んだ。


「もうやめて!!!触らないで!!」


 あんたの印なんて付けないで!!!!

 私の拒否も聞かず、オズは首に舌を這わせ耳を舐めた。


「ひっ!!」




 今、舐めた。私のピアス。


 あいつから貰った大切なピアス。




 その瞬間、私の中で何かが弾けた。


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