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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第二章
36/57

第11話:正統派イケメンと新事実

 早く仕事を終えた私は、急いで家に帰るとさっそく部屋に引きこもった。疲れたのもあるけど実はちょっと試したいことがあってね。その試したいものというと…ケータイとmp3!この2つを充電したいと思います!

 私は魔法で雷が使えるから、もしかしたらこの2つを充電出来るんじゃないかと思ってたけど、失敗して壊れるのが嫌だったからまだコントロールが上手く出来ない時点ではやりたくなかった。そしてようやく今日、コントロールするコツを掴んだので充電したいと思います!まずはケータイから!


私はケータイの電池がいっぱいになるのを想像しながらケータイに触れた。すると携帯の充電ランプが赤く点灯した!やった!

 次は電源ボタン。こんなにドキドキしながら電源ボタンを押すのは初めてだ。私はぎゅっとケータイを握りしめながら電源ボタンを長押しした。


 点け、点け、点け!!





 チャラララン♪


「……ッ!!」


 点いた!!!思わず出そうになった叫び声を手で抑え、無事に待ち受け画面が出るのを待った。来い来い来い…キター!!!久し振りだな麦わら一味ー!!●ョッパー相変わらずかわいいぞコノヤロー!

 叫ばずにはいられなかった私は、枕に思いっ切り突っ伏して叫んだ。


〈やったーー!!!〉


 私は馬鹿みたいに手足をバタバタとさぜ、ベッドの隅から隅まで転がった。

 ここ最近で一番嬉しい!もしかしたらここに来て一番嬉しい出来事かも!!


「はー、もう嬉しい…」


 嬉しい以外言葉が出ない。他の言葉があるなら教えて欲しいくらいだ。


「ふぅ…」


 少し呼吸を整えた所で、ケータイをいじり始めた。

まず時間が…。うん、完璧ずれてる。電池が切れてそのままの日にちになっている。

 当然ながら電波は無し。では久し振りにデータフォルダでも覗きますかね!

 データフォルダの中にはこの世界に来る前に撮った写真や画像が沢山入ってた。


 あ、これこの間…じゃないね。春に海に遊びに行ったに撮ったやつだ。まだ早いから海に入れなくて、那由が波打ち際で波を追いかけて遊んでたら、何故か何もないところで転けた波にずぶ濡れにさせるという悲劇の一枚。マキシ丈ワンピだったからワンピが体など引っ付いて、風呂にいれられた直後の猫みたいになってる。

こっちは家族でネズミのいる夢の国に行った時の写真。やっぱりパレードはすごいよね!踊ってる時のネズミの格好良さは異常。惚れるわ。


 …さて、いつまでも写真を見てたらきりがないよね。そろそろmp3の方を試してみますか!

 私はmp3の電源ボタンを押すと、mp3は素直点いた。

 よし!じゃあ早速音楽…



 ゆーめーじゃないー あれもこれもー♪



 キター!!●'zキター!!!

 このこの熱いと音楽と声はB'’●しかないよ!!!夢じゃないよね!?ね!!?


 他にもmp3の中を漁ると、J-POPやROCK、K-POP、洋楽、アニソンやボカロなど久し振りに音楽を聞いて、私はもう何も言えなかった。音楽の力ってすごい。今までただ聞き流していただけの音楽も、今では私をこんなにも元気づけてくれる。音楽を聞いてこんなにも喜びを感じたのは始めて。…NO MUSIC, NO LIFE!!


その日、私は音楽を聞きながら眠りについた。最高の幸せかも。








 次の日から、テレウスさんの予告通り付加魔法を使った訓練が始まった。

 付加魔法は武器に魔法属性を付けて、より攻撃力を高め、戦いを有利に進めるんだそうだ。例えばー‥炎属性を剣に付加させる事で相手に火傷をさせるとか。これだと掠っても通常よりダメージを与えられる。

 それから付加魔法は、魔法自体はそんなに多くメージを消費したりしないけど、上手くコントロールしないと、攻撃力が落ちたり、無駄にメージを消費するらしい。誰にでも使えるけど、ちゃんと使うのは大変みたい。だからこそガイシス団長が三番隊に入れたんだけどね。

 ちなみに今私は、昨日以上に機嫌の悪いテレウスさんと一緒に、訓練所にある魔法練習人形の前にいる。この人形は魔法に耐性があるので魔法での攻撃練習に持ってこいらしい。

 

「マズ、剣に炎を付加させろ」

「はい」


 不機嫌そうなテレウスさんの指示に従い、私は構えた剣を握ると、炎が剣を舐めるように纏わりついた。なかなか上手く出来るようになったね!



「それデ練習人形、斬レ」

「はい」


 私は目の前にある木製の練習人形を斬りつけた。…が、パワーが無いので、剣は振り下ろした反動で弾かれてしまった。


「ナンダその剣は?マッチじゃないんダゾ」

「すみません…」

「火力も弱い。早く斬レ」

「はい」


 しかし斬るなんて技術なんて無いから、すぐに出来るはずもなく、そこからはずっとは素振り状態。火は点くようにはなったけど、体力が無いから今までで一番キツい訓練だ。

 そして素振りをして間も、テレウスさんは指導と言う名目で私を詰り続けた。

 『屁っ放り腰』だとか『振り方がダサい』とか『身長が小さすぎる』かと、段々関係の無い方向まで文句を言うようになった。だけどそれに負けたくないし、疲れてくると、その詰りもどうでもよくなってくるから放っておいた。せいぜいほざいてろよ、クソガキ。







 どれくらい時間が経ったのだろう。疲れた…。素振りのし過ぎで手が手が痛いし、皮が剥けそう。剣を振る腕のキツいし、この暑い中、近くで炎燃えているから余計暑い。息も荒いし動きがへろへろになってるのが自分でもよく分かる。だけどテレウスさんは休憩を挟もうとはせず、前回同様、木陰で飲み物を飲みながら本を読んでいる。本当に訓練見てんのか?

 とうとう、耐えきれなくなった私は、剣を下ろして座り込んでしまった。


「はぁっ‥はぁ‥はぁ…」


 息も荒く座り込むと、テレウスさんはひどく苛立ちながら私の所へやってきた。


「ナニ座っている?早くタて!!」

「っはぁ‥はぁ‥はぁ‥すみません…少し、休憩させて下さい…」

「甘えルナ!!トットトやれ!!!」


 テレウスさんが怒鳴ると突風が私の周りを駆けた。その勢いで、へろへろになった私は簡単に地面に倒された。


「っ!!」


 受け身を取ったときに手のひらを動かしたらかなり痛かった。手の皮が剝けた所がぐちゅぐちゅになっていて血が滲んでいる。

 あー、剥けちゃってるよ。実際に怪我を見ると急に痛みが強くなってきた。しかし疲れもあいまってどこか他人事のように感じた。


「おいテレウス!お前少しやり過ぎだぞ!」


 顔を上げてみると、よく知らないけど訓練中の騎士の人が止めにきた。


「オマエには関係ナイ!」

「関係なくとも限度ってものがあるだろ?」


 そうだ知らない人…!もっと言ってくれ!!


「それに彼女は女なんだぞ?」

「本人が気にしないでいいって言った」


 まぁ確かに言いましたけど…今のこれは性別関係なしに酷くないか?


「ヤサしくなんてしていたら、ルーカス隊長に迷惑がカカる。いつまでもルーカス隊長の尻を追っかけてるな!」


 追っかけてねぇよ!それはテメェだろうがゴルァッ!!!…て、言いたいけど喉がカラカラで言えなかった。水‥水をくれ…。


「おい、どうしたんだ?」


 顔を上げると、ロイス副団長が私に駆け寄てきて、私の体を抱き起こしてくれた。


「サーイェ、大丈夫か!?」

「‥水、下さい…」

「分かった」


 ロイス隊長は素早く返事をすると、何やら呪文を唱え始めた。


『大気の水よ、凍てつく杯と成り、杯を満たせ』


 呪文を唱えると、ロイス隊長の手の中にパキパキと音が鳴りながら氷のジョッキが出来上がり、その中にはいっぱいの水が入っていた。

 おぉ、すごい…こういう使い方もあるのか。水を自分で出せるって便利だね。遭難してもしばらく生きていけそうな気がする。


「はい、水だよ。飲める?」

「ありがとうござっ…!!」


 ロイス隊長が差し出してくれたので受け取ろうとしたが、手が痛くて曲がらなかった。


「この怪我は…」

「だ、大丈夫です。それより水…」

「サーイェ、悪いけど上を向いて口を開けてくれないか?サーイェの手じゃ持てないから、変わりに俺が持ってサーイェに飲ませるよ」

「けど…それじゃロイス副団長に悪い…」

「そんな事無いから」

「いえ、しかし…」

「はい、飲んで」

「んっ」


 最初は優しく説明してくれていたロイス副団長は、結局私の口にジョッキを押し付け黙らせた。けっこう強引だな。

 ロイス副団長がジョッキを傾けると、ゆっくりと口の中に冷たい水が流れ込んできた。水が喉を通り、体の中に流れ込んでくるのがよく分かる。

 水が冷たくておいしい…。こんなにおいしい水は初めて。生き返るってこういうことを言うんだね。

 口から水が垂れているのも憚らずにゴクゴクと飲んでいると、ジョッキを離されてしまった。まだ飲み足りないっす!

 ロイス副団長を見ると少し眉をハの字にして苦笑した。


「落ち着いて。そんなに急いで飲んだら咽せるだろ?慌てないでゆっくり飲んで」

「…はい」


 そういうとロイス副団長はハンカチで私の口を優しく拭ってくれた。なんて甲斐甲斐しい…!!さっきまでのテレウスさんの酷い仕打ちに比べたらもうロイス副団長、天使だよ!ロイスまじ天使!!この優しさはまるで聖母だな!

 ロイス副団長の言う通り、今度はちゃんと落ち着いて飲んだ。多分他の人がこの現場を見たら、ほ乳瓶でミルクをあげてるお母さんと赤ん坊みたいに見えると思う。ウマウマー。


「…そこの君、アドニスがトリスを呼んできて」

「あ、は!」


 ロイス副団長の指示を受けた先程の騎士は、敬礼をすると駆けだしていった。行ってらっしゃーい。出来ればトリス副団長をお願いしますー。

 そして次にテレウスさんに指示を出した。


「君はルーカスに報告して」

「え…」

「聞こえなかったか?ルーカスにサーイェが怪我をした事を報告しろと言ったんだ」


 急にロイス副団長の雰囲気が少し怖くなり、びっくりした私は思わず咽せた。


「ゴフッ!…コホッ」

「あ、ごめん大丈夫?」

「はい。すみません」

「謝らなくていいよ。ちゃんと見てなかった俺が悪い」


 そう言うとルーカス隊長は私の口をハンカチで拭った。ほんと介護士になれそう。その様子をじーっと見てると、ロイス副団長はくすり笑い返してくれて、さっきの怖い感じは無くなっていた。

 ロイス副団長からしたらちょっと苛ついただけかも知れないんだけど、普段優しい人が怒るのってやっぱ怖い。


「テレウス、早く行け」

「…ハイ」


 テレウスさんは気まずそうに返事をして駆けていった。私としても気まずいのでどこかに行きたいなー‥。


「じゃあサーイェ、俺達も移動するよ」

「え?」


 ロイス副団長は私の返事を待たずに、軽々と抱き上げて移動してしまった。やっぱり強引だ。私を木陰に連れて行き、木の側に下ろすと私の服に手を掛けた。


「え!ちょっと!?」

「悪いけど上着を脱がさせてもらうよ」

「な、何で?!」

「熱中症になりかけてる。体を冷やして水分を取る必要があるんだ。その手じゃ出来ないだろ?」

「そうですけど…それなら先に言って欲しかったです」

「ごめん、急いでたから」


 ロイス副団長はクスリと笑うと手際良く私の服を脱がした。…もしかしてロイス副団長も脱がし慣れてる?いやいやそんなルーカス隊長やジャン副隊長じゃあるまい。…けどロイス副団長も男だし、これだけ面も中身も良ければ女なんて掃いて捨てるほどいるか。私はじーっとロイス副団長を見つめた。


 さらさらなアーモンドショコラの髪、くっきりとした二重でまつ毛はもちろん長い。その影に隠れているアンバーの瞳。通った鼻筋に程よい厚さの唇。そして男臭さが無くて清潔感がある。‥‥うん、これなら仕方ないよな!正統派イケメン!絶対人気投票で3位以内に入ってそう!




『冷えろ』


 ロイス副団長はハンカチを取り出して冷やすと、私の顔に当てた。


「これを頭や首に当てて冷やすんだ。冷たいから気を付けて」

「はい」


 ロイス副団長が私の顔に冷えたハンカチを当てた。


「気持ちいー‥」

「クス、それは良かった」


 

 思わず漏れた私の言葉に、ロイス副団長は笑った。何だかここまで面倒を看てもらって申し訳ないな。


「ロイス副団長」

「何?」

「迷惑掛けてごめんなさい」


 私が頭を下げると、ロイス副団長はキョトンとした後に微笑んだ。ちょっとかわいい。


「別に迷惑だなんて思ってないよ」

「けど…」

「苦しんでる仲間の面倒を看るのは当然だろう?それに、これはこれで結構楽しいよ」

「楽しいんですか?」

「うん、サーイェが大人しく俺の言うことを聞いているのとか、面白いし可愛いよ」

「……」


 あれ?ロイス副団長って黒いの?これは喜べばいいんでしょうかね?ロイス副団長はすごくいい笑顔で答えると、冷えた手を私の首元に当てた。


「ひゃっ!つ、冷たいです!」

「ふふふ」


 ロイス副団長は笑いながらぴとぴとと私の首に触ってきたので、そのたびに私は体を震わせた。完全にからかってるな。…この人実は結構Sかもしれないな。


「水はもういい?」

「あ、頂いてもいいですか?」

「もちろん」


 ロイス副団長は優しく微笑み、再び私に水を飲ませてくれた。

 いつも穏やかで落ち着いてる感じだと思ってたけど、実は強引だったりSっ気な一面もあるんだね。このギャップが魅力的だと思う。ギャップ萌えな人が俄然釣れるね!


 水を飲みながら呑気にそんな事を考えてたら、遠くからあの人の声が聞こえてきた。


「サーイェ!無事かい!?」

「あ、アドニスが来たみたいだね」

「ゴクッ…みたいですね」


 アドニス団長かぁ…やだなぁー。トリス副団長の方がマシだったかも。けどトリス副団長も私の事かなり嫌ってるからなぁ。キザで胡散臭い垂らしと、嫌悪感丸出しの無口とどっちがマシなんだろうね?


「ロイス!私が一生懸命走ってきたのにサーイェといちゃついてるとはどういう事だい?」

「別にいちゃついてないよ。それより早くサーイェの手を治してあげてくれ」

「そうだね、そっちの方が重要だ。サーイェ、君の可愛らしい手を僕に預けてくれないか?」

「……」


 くっせー!!これに付き合うのはかなり面倒臭い事が目に見えて分かる。

 私は目を合わせないようにしながら黙ってアドニス団長に手を見せると、アドニス団長は大袈裟に心配してみせた。


「可哀想に…。君のニャンコの様に柔らかな手の平がまるで荒れ地のようになっているではないか」

「ぶっ!!!」

「サーイェ!?どうしたんだい?」

「いえ、ちょっとくしゃみが…」

「風邪でも引いたのかな?」

「いえ!大丈夫ですので早く治して下さい!!」


 アドニス団長におでこを触られそうになったので、私はアドニス団長に手を差し出した。

 それにしてもニャンコって…!!多分猫の事だよね?大の大人の男でニャンコはないだろ!!!

 大体あんた、私の手を触ったこともないくせによくもまあニャンコの様な柔らかい手とか言えるな。もう片腹痛いわ!!私はもう笑いを堪えるのに必死だ。


「震えるほど痛いんだね。私が直ぐに癒しそう」


 あんたが黙るのが一番の薬だよ!!!


『光り輝く力よ 傷つきし者を癒せ」


 キザな呪文を唱えると、私の手の傷から痛みが退き、みるみる治っていく。治る過程を早送りで見てるみたいで面白い。


「はい、傷は治ったよ。痛みの方はどうかな?」

「全然痛くありません。どうも有り難うございます」

「当然の事をしたまでだよ」


 アドニス団長がニコッと笑うと、キラッと歯が輝いた。クリ●カのCMにでも出なよ。



「えーと‥ありがとうございました」

「うん、どう致しまして」


 気付いてくれないかなぁー。早く手を放してくれ。黙って目で訴えてるが、アドニス団長は全く気付かず、じーっと見つめ返してきた。勘違いすんな!


「こんなに熱心に見つめて貰えるられるなら、何時だってサーイェを癒してあげるよ」


 あーも~イラってくる!!


「あの、もう治療終わったので手を放して下さい」

「私としてはもう少し触れていたいんだけどな」

「私としてはそろそろ手汗が出そうなので放してもらいたいですね」

「ぷっ!」

「…そうだね、今日は少し暑いからね」

「はい」


 にっこり笑顔を返すと、アドニス団長は少し固まった様な笑顔で手を放してくれた。ざまぁ!!

 ロイス副団長がクスクス笑っているのが気に入らなかったのか、アドニス団長は違う話題を降った。


「それにしても、サーイェはどうしてこんな怪我をしたんだい?

「訓練で素振りしてたら手の皮が剥けました」

「こんなになるまで振っていたの?」

「‥ええ、そうですね」


 だってテレウスさんが止めてくれなかったし。けどそれを言うと色々聞かれて面倒な事になると思って、この事は黙っておく事にした。


「確かテレウスがサーイェの訓練に付き合ってたよね?」

「テレウスは何をしてたの?」

「私の指導…ですね」

「どんな?」

「私の悪いところを教えてくれました」


 訓練に関係無いことまでしっかり教えてくれましたよ。大きなお世話だよまったく!


「それだけ見てたのにテレウスは気付かなかったの?」


 う、鋭いところを!もしかして、ロイス副団長は何か気付いてるのかもしれない。けど面倒だから話さないよ。


「…そうですね。手の事には気付かなかったようです。ロイス副団長も私の側に来るまで気付きませんでしたよね?」

「…ああ、そうだね」

「だからテレウスさんが悪いとは言い切れません。倒れるまで素振りしていた自分に責任があります」

「しかしちゃんとサーイェの訓練模様を眺めていたのなら、少なからず異変には気付くはずだ。本当に何も言わなかったのか?」

「…多分それがテレウスさんの指導方針だと思います」

「と言うと?」

「『自分で考えろ』、と言うものです。呪文を使わない私にはそれくらいしか訓練方法が無いと思ったんでは無いでしょうか?」


 私はそれらしい言い訳をすると、ロイス副団長はそれ以上追求しようとはしなかった。


「…分かった。この件でテレウスは不問とする。これからは適度に休みながら訓練をしろよ?」

「はい、御心配お掛けして申し訳ありませんでした」

「怪我をしたら直ぐに私を呼ぶんだよ。直ぐに駆けつけるから」

「有り難う御座います」


 …つってもアドニス団長は緊急で無い限り、絶対呼ばないと思うけどね。


 2人に心配されつつも、取り敢えず私の訓練は終わりと言うことで、三番隊隊長室へ向かった。テレウスさんがもう報告してるはずだからルーカス隊長もこの事を知ってると思うけど、また色々聞かれそうで面倒臭いなぁ。

 私は軽く溜め息を吐きながらドアを開けた。


「失礼しま…」


 そこで私はフリーズした。

 何とそこにはソファの上で服が肌蹴て泣きそうな顔でルーカス隊長に迫るテレウスさんと、素面でテレウスさんの顔に手を当てるルーカス隊長がいたのだ!

 2人と目が合い、そして時は動き出す。


「…した」


 意識を取り戻した私はすぐにドアを閉め、急いでここから走り去った。



 ぉおお思わずザ・ワールドが発動しちゃったよ!!ガチで私の時が止まった!!!ていうかアイツ等がガチだよ!!!!二人の服はちょっと肌けてたし、迫ってたし、目が潤んでたし!あの短時間でしっかり観察してる自分が憎いわ…!

 生まれて初めての生のBLを見て、私はかなり動揺していた。

 本人達が良いなら良いって言ったけどさ、それを生で見るのは違わない!?ていうか自分の知り合いがいちゃついてるところに遭遇するのも気まずいよ!!上司と部下だなんてビバリとルイだな!最初は否定したけど、シチュエーションは同じだね!…ルーカス隊長とテレウスさんがギャランドゥだったらショックでしばらく休みそう。

 これからどう接すればいいの?…やっぱり何も見てない振りが一番か。うん。何も見なかったことにしよう。 


「おい!サーイェ!」

「え!?」


 びっくりして振り返ると、そこにはガイシス団長がいた。はぁ‥ルーカス隊長が追いかけてきたのかと思ってびっくりした。


「そんなに急いでどうしたんだ?」

「いや、別に何も無いです」

「ならどうしてここにいるんだ?」

「ここって…あ」


 気が付けば私は第一訓練所まで来ていたらしい。第一訓練所は主に一番隊が使用している訓練所で、三番隊が主に使用する第三訓練所からだいぶ離れている。多分急いで離れなくちゃと思って、無意識の内に魔法を使ってたんだろう。無意識ってすごい。


「えっと‥早く訓練が終わったので、体力作りでもしようと思って走ってました」


 さすがに『上司と同僚が隊長室で情事に耽っているようなので逃げてきました』なんて言えないよ!


「自主的に体力作りか。偉いぞ」


 ガイシス団長は疑う様子は全く無く、爽やかな笑顔で私の頭を撫でた。…全く疑って無いからちょっと心苦しいな


「今日は何の訓練をしていたんだ?」

「武器に付加魔法を付けて素振りをしていました。だけど体力が無くてすぐにへばってしまい、ロイス副団長達に心配を掛けしまったので、次回はそんな事にしないように体力作りを…」

「そうか。ルーカスから聞いたが、魔法のコントロールは上手くなったみたいだな」

「はい、お陰様で」

「それなら付加魔法は後にして、これからは筋力トレーニングをメインにしてみたらどうだ?付加魔法はあくまでも基礎攻撃上に成り立っているから、基礎攻撃が出来ないと厳しいぞ」

「そうですか…」


 そうだよね。付加だから+αと同じ意味だよね。


「じゃあ次はそういう訓練をするように提案してみます」

「ああ。それからルーカスに用事があるんだが、隊長室にいるか?」

「いえ!居ません!!」


 私はガイシス団長を速攻で止めた。あんな現場に行くもんじゃないっすよ!!


「そうか…それなら室内で待たせてもらおう」

「いや、今ちょっとお茶を切らしているので…」

「ああ、お茶なら構わない」

「けどお菓子もないし…」

「お菓子も無くていいぞ」

「けど迎える側としては申し訳ないですし…」

「子どもがそんな事気にしなくていいんだ」


 ガイシス団長はハハハと笑い、私の頭をぽんぽんした。

 あーもーこんな時の親切いらない!お茶も菓子もあるけど、来ちゃダメです!!そして私は子どもじゃない!!…って言ってやりたい!


「サーイェどうしたんだ?さっきから様子が変だぞ」 

「えっと…」

「何か悩みでもあるのか?」

「……」


 ガイシス団長は腰を屈めて私と目線の高さを合わせた。私はまっすぐにガイシス団長を見られないので急いで目を逸らした。

 悩みって言ったら…まぁ悩みですよね。けど何て言えば良いの?『ルーカス隊長とテレウスさんが隊長室で如何わしい行為をしてます。こういう時はどうすればいいですか?』って素直に言う?けどそんなの言い辛いし、私の口からその単語が出たら、ガイシス団長はショック受けそうだなぁ…。

 じゃあもっとオブラートに包んでに『職場恋愛ってどう思いますか?』とか?だけどこれはこれで私がルーカス隊長の事を好きなんじゃないかって勘違いされそうだし…。駄目だ、やっぱり言えない。


「黙ってたら分からないぞ?」

「あの…ガイシス団長」

「ん?」

「お時間ありますか?」

「ああ、あるぞ」

「じゃあお茶、しませんか?」

「お茶?」

「お腹、空きました」


 うう、こんな言い訳しか思い付かない自分の頭が憎い…。

 ガイシス団長はきょとんとすると、声を上げて笑った。


「そうか、お腹が空いてたんだな。確かに女の子は言いにくいな」


 笑いながらガイシス団長は私の頭をぽんぽん叩いた。ガイシス団長‥そんなでかい声で笑っていたら周りに筒抜けです…。周りを歩く人達も、私を見て微笑ましそうに笑いながら通り過ぎている。くそぅ、何で私がこんな恥ずかしい思いをしにゃならんのだ!!

 

「じゃあしばらく一番隊隊長室で休憩しよう。この間貰ったクキーは美味いぞ」

「ぜひ頂きます」


 そして嘘から始まったとはいえ、お菓子を貰って嬉しいと思う自分の食い意地の悪さも憎いよ…。

 結局その後私はガイシス団長とお茶を飲み、ルーカス隊長に会う気もしないので、ガイシス団長に報告を頼んで家に帰った。はぁ…疲れた。



一応伏字&元ネタ解説


・麦わら一味―国民的海賊マンガの主人公の率いている海賊団。

・チョッ●ー―麦わら一味の船医だがペットとして懸賞金が掛けられている。よくグッズ売り場やお土産売り場で見かける。

・B●z ―日本が誇るロックユニット。

・クリニ●―ライオンから発売されている歯磨き粉。

・ザ・ワールド―ジョ●ョの奇妙な冒険に出てくる敵のスタンド。能力は時を止めることが出来る。



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