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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第二章
33/57

第8話:新生活スタート

 ダリウス邸に引っ越してからは毎日が勉強の日々だった。勉強内容は主に国語、歴史、現社、魔法、そして作法。この年で文字が書けないってヤバいかなぁとか思ってたけど、この世界ではまだ平等に教育を受けられる制度がないので、庶民で田舎出身の子がちゃんと文章を書ける人は少ないらしい。そのおかげで私が勉強をする事に不信感を抱かれずにすんだ。

 さらに、嬉しいことにオラリオスの文字は日本語をローマ字にしただけだった。つまりKouiukoto.(こういうこと。)書く方はいいけどちょっと読みにくかったから、ひたすら読む練習をしたよ。おかげで目が疲れた。


 歴史と現社は大まかに習うくらいで、魔法もほぼ基本だけ覚えた。魔法は基本的にスペルを唱えるんだけど、私の場合唱えなくても使えるから勉強する必要なし。

 作法は…大変だった。一番やっかいな勉強だよ。作法には色んな種類の作法があって、私が覚えたのは2種類。まず騎士としての作法と女性としての作法。身分によって作法が違うらしい。一つに統一してくれ。

 特に面倒だったのが女性としての作法。着慣れないドレスを着てきつくコルセットでウエストを締め上げ、ヒールの靴を履いて気品があり優雅な動きをしなければならない。何なんだこれは。セレブにやらせろ。

 庶民だから関係ないじゃん!ってラヴィーナに抗議したけど無駄だった。やっぱり王家の血筋上なにかパーティーに呼ばれるかもしれないから覚えなくちゃいけないんだとさ。あと女性であることを忘れてはいけません!ってさ。

いや女性だってことは忘れてないけどさ、家ではスウェットばっかりだった奴にこんなきついものを身に着けろなんて拷問だよ。

 私のやる気の無さに反比例して、ラヴィーナのやる気はぐんぐん上がってしまった。面倒くさがりながらもラヴィーナの熱血指導を受けたおかげで、まともにドレスを付けて動けるようになったし、少しは上品な振る舞いが出来るようになった。まぁ、部屋で一人の時は超だらけてるけどね。

 そんな忙しい毎日だったけど、ヒヨやマーリンドが遊びに来てくれたおかげで勉強漬けにならなくて済んだよ。マーリンドには毎回失敗を笑われたけどね。小学生かっつーの。









 ここでの生活に慣れてきた頃、私の黒騎士団服を作るために袖通しをする事になった。ラヴィーナが持ってきてくれたのは一番サイズの小さい団服で、ヒヨと同じサイズだそうな。私はそれを広げると自分にあてがいはしゃいだ。

 

「かーっこいいねー!」

「はい!」


 みんなが着ていたからデザインは知っていたけど、やっぱり団服はかっこいい。団服は濃紺を基調にしていて、縁にはシルバーのラインが引かれている。黒騎士といっても、やはり黒は縁起が悪いという事であまり城では使われてないようだ。ズボンは白で足先に向かって細くなるタイプ

 実は団服を着れて結構嬉しいんだ。格好良くてドレスより断っ然動きやすいし、軍服とか無駄にテンション上がらない?まぁ端から見たらただのコスプレイヤーなんですけどね。


「では裾合わせをするので試着して下さい」

「うん」


 私は上機嫌で制服を着てみたけど、鏡を見てテンションが下がった。

 サイズが大きいから襟の位置が高く、手の裾は長すぎて指先ギリギリ。ズボンはパンツのボリュームでお尻の部分はきゅうきゅうなのに、裾が長すぎて足が出ないという何とも残念な姿だ。

 これが東洋人と西洋人の差か?それとも男女?どちらにせよ体系が違いすぎる!!てかズボン!まるで私がケツでか女みたいじゃないか!

 鏡の前で眉間に皺を寄せていると、ラヴィーナがほわほわした顔で鏡越しに私を見た。


「これはこれで可愛いです」

「え?」

「ぶかぶかの男性用服がサーイェの可愛らしさをより引き出しているんですね!」

「‥‥」


 なんとなく言いたいことは分かるけど、ラヴィーナがやった方が俄然萌えるよ。


「まぁそれは置いておいて、サイズ直そうよ」

「そうですね」

「…って言っても、ここまでサイズが違ったら作り直した方がよくない?」

「そう‥ですね。ではサイズを測ってサーイェ用に制服を仕立て直しましょうか」


「うん。さて、次は下着!」


 これは常々不満に思ってた事だよ。いつまでもノーパンでかぼちゃパンツは嫌!どんだけパンツに執着してるんだとか思われるかもしれないけど、結構重要だよ?やっぱりパンツはフィットしてる方が落ち着く。だけど男の白ブリーフは嫌です。はい。


「しかし今サーイェが履かれているものが一番シンプルなのですが…」

「そっか。あ、じゃあ男性は?みんなズボン穿いてるよね」

「えっと…もっと体に沿った物を穿いてらっしゃいます」

「え!?」


 なんだよみんなトランクスじゃなくてブリーフ派なの?!それともボクサーパンツ?いやいや、そこはまだ分かんないよ。けど体に沿ったものとは言ったけど、フィットしてるとは限らない。とりあえず実際に確認してみないと分からない。


「じゃあそれ持ってきてくれない?」

「え!?」

「だって女性用が無いなら男性用のを穿くしかなくない?」

「そう、ですね…」


 そう言いながらラヴィーナは頬を赤らめもじもじしている。あらまぁ可愛い反応だこと。そういえばヒヨも私の着替えを持ってきてくれた時も恥ずかしがってたよね。可愛い兄妹だ。


「…では取ってきます」

「あれ?あるの?」

「…もしかしたらお兄さまの所に新品の物があるかもしれません」

「あ、なるほど」

「ではラヴィーナ、お兄さまの所へ行ってきます‥」

「いってらっしゃい」


 まるでこれから戦場でにでも行きそうな顔つきでラヴィーナは部屋を出て行った。大丈夫かなぁ?






 しばらくすると、ラヴィーナが任務を完了したようなすっきりとした顔で戻ってきた。


「お兄さまから貰ってきました!」

「おー、お疲れ様ー。ヒヨ、居たの?」

「はい!最初は驚いていましたが、事情を話したら新しい物を出してくれました」


 そりゃ驚くでしょ。可愛い妹にいきなり『パンツくれ。』なんて言われたらショックだよ。まぁ、ラヴィーナは満足そうだからその事は言わないであげよう。


「で、これが例の下着?」

「はい、そうです」


 ラヴィーナから下着を受け取るとそれを広げた。


「…………」


 THE ☆ MOMOHIKI !!!


 股引かよぉお!!それともタイツって言えばいいの?!ブリーフorトランクスでは無くまさかの股引…!これが黒なら江●2:50みたいになってるよぉおお!!!みんなこんなの穿いてるの?いや、けど私でかぼちゃパンツや6分丈ズボンなら十分あり得るよね…。それにしてもうーん、これかぁ…。みんながこれを履いてる姿を想像すると、吹きかけた。


「くっ…」

「サーイェ?」

「な、何でもないよ…」


 人の下着をとやかく言うのは良くないよな!股引とはいえフィットする素材なんだ。これを使わない手はない。


「じゃあこれをちょっと改良しようか」

「改良ですか?」

「うん。はさみあるかな?」

「ありますよ。どうするんですか?」

「もちろん切るの」

「えぇ!?」


 いきなりの事にラヴィーナは戸惑っていた。


「まぁまぁ、心配しなくても大丈夫だから。はさみ貸して?」

「はい…」


 そう言ってラヴィーナはハサミを取りに行ってくれた。ラビィーナからハサミを受け取ると、足の部分をざっくりと切り、ボクサーパンツにした。普通のパンツにするにはちゃんと裾にゴムを入れないといけないから面倒くさいんだよ。それに運動用ならボクサーの方がいいと思うし。

うん!っと一人満足をしていると、ラヴィーナがそれをぼーっと見ていた。


「サーイェ、それをその‥下着にするのですか?」

「うん、そうだよ」

「そう、ですか…」

「どうしたの?」

「いえ、その‥その下着が異国の踊り子の衣装に似ていると思いまして…」

「異国の?」

「はい。確かマシュリッカだったと思います」


 マシュリッカっていうと、年中温かい国か。夏の暑さはハンパないって習った。


「その衣装ってどんな感じなの?これに近いんだったらその衣装を下着代わりにすればよくない?

「ダメです!!」


 思いの外、ラヴィーナが思いっきり反対したのでびっくりした。


「え、何で?」

「いえ、あの、その…」


 ラヴィーナは顔を赤らめ言葉を濁した。


「ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ?」


 悪いけどこれは死活問題なんだ。恥ずかしいから言えないとか言われても困るんだよね。じーっとラヴィーナを見つめていると、言いにくそうに小声で教えてくれた。


「その衣装は、踊り子と言ってもハーレムの踊り子や、その…娼婦が着て踊るものなのです」

「あー‥なるほど」


 だからピュアっピュアなラヴィーナは言うのを戸惑ってたんだね。ここの世界観だときっと着こむことを美徳としてそうだから、露出してるのはかなり破廉恥で下品なんだろうね。真夏のビーチにつれていってやりたいわ。生足魅惑のマーメイドがたくさんいるぞ。

まぁいいや。私には関係ないし。多分ラヴィーナが言ってるのはベリーダンサーが着る衣装だと思うから、きっとブラもついてるんだと思う。


「やっぱりそれを買うよ」

「しかし…」

「だってこれからものすごく動くんだよ?それなのにコルセットとドロワーズなんて動きにくいよ。それにどうせ下着なんて誰も見ないんだから気にしなくていいって」


ラヴィーナは渋っていたけど、私の意見が正論なだけに反論できなかった。


「しかし異国の衣装なので取り寄せるとなると、お金も時間も掛かってしまうのですが…」

「そっか」


 そうだよね。異国の物だから輸入するしかないよね。それに衣装だから値段も高いだろうし。だからと言ってオズに買ってもらうのも嫌だし。私は男性に金をもらうって下着を買いたくない派です。あ、ていうか別に買わなくてもいいじゃん。


「自分で作るよ」

「自分で作るのですか?」

「うん。めんどくさいけどその方が自分に合った物が作れるだろうし、お金の節約にもなるから」

「確かにそうですね」

「…と言うわけで、給料出たら必ず返すので布代を貸して下さい!」

「そんな貸すだなんて!布代なら差し上げます!」

「いや、それじゃ駄目なの。自分で買いたいの。だからどうか貸して下さい!」


 この通り!とお願いしたら、ラヴィーナは優しく微笑んでくれた。


「分かりました。ではラヴィーナもお手伝いさせて下さいね」

「え、けど自分でやれるよ?」

「ラヴィーナは裁縫が好きなのです!…それとも、迷惑ですか?」


 眉を寄せ不安げに私を覗く姿はすごく可愛くて、思わず顔がにやけた。

 おっといかんいかん!私のにやけ顔は気持ち悪いことに定評があるからな。顔は引き締めないと。


「全っ然迷惑じゃないよ。じゃあ手伝ってくれる?」

「はい!喜んで!」




 こうして下着制作が始まった。…と言っても、私達と言うよりほぼラヴィーナが作ってしまったんだけどね。裁縫が好きと言うだけあって、ラヴィーナの裁縫技術が神掛かっていた。速度で言ったら徒歩と自動車。勝てる気がしない。

 私のサイズを測ると迷うことなく手を動かし始め、私がブラと格闘している間に、中盤辺りでもうブラ二つを完成させてしまった。難しいからという事でブラをラヴィーナの任し、私はパンツを作ることになった。しかし私がパンツを作っていると、ラヴィーナは私が疲れているだろうから休んでくれと休憩をさせて、休憩が終わった頃にはパンツも作り終えていた。すごいよねー!

そして団服もラヴィーナが自分できっちり私に似合うように作りたいと熱心に言うので任せることにした。ほんと申し訳ないっす。

 まぁそんな感じにラヴィーナが頑張ってくれたおかげでその日の内に、私は下着と団服を手に入れることが出来た。



「ラヴィーナってさ、絶対いいお嫁さんになるよね」

「え?」


 夕飯時、私はラヴィーナと食卓を囲み、ご飯を噛みしめ呟いた。ラヴィーナは突然の事でよく分かってないようだった。


「だってご飯も美味しいし、裁縫得意だし、綺麗好きだし、面倒見いいし、何より可愛い」

「そ、そんな事ありません!」


 私の言葉に照れたラヴィーナは、頬を染めて慌ている。それがすでに可愛いいんだってばよ!


「それにご飯ならサーイェも手伝ってくれたじゃないですか!」

「いや、私は食材を切るとか鍋かき回したりしかきてないよ。あと摘み食いとか」

「サーイェ…」

「料理の大事な味付けとかは全部ラヴィーナがやってるし、私はその指示に従ってるだけだもん」

「ラヴィーナは昔からやってるので、少しくらい出来ないと恥ずかしいです。サーイェきっと忘れているだけで、覚えたらすぐに出来るようになりますよ」

「そ、そうかな?」

「はい!」


 ラヴィーナのフォローに私は失笑しか出なかった。忘れるどころか元から知りません。ラウム家でも今やってることと変わらないし。得意料理?卵かけ御飯ですが何か?

だけどにこにこしながら私をフォローしてくれてたラヴィーナには申し訳ないので黙っておこう。


「えーと…じゃあ、これからお料理とか教えてね?」

「もちろんです!!」


 ラヴィーナはきらっきらの満面の笑みで答えてくれた。喜んでくれるなら何よりですよ。ははは。






 …と、適当に頼んだ次の日から、ラヴィーナがみっちり色々教えてくれた。料理、お菓子作り、掃除、洗濯、裁縫、ガーデニング等。何だこの女子力アップ授業は!!前までの私じゃ考えられない。前まではやる事と言ったら、食べる、寝る、ゲーム、漫画、アニメ、DVD鑑賞、パソコン等。…完っ璧なニートでヒッキーなダメ人間でしたよ!!!女子力の『じ』の字もない!女子力ってなーにー?状態だよ!!

 だけどここには電化製品なんて無いし、やることもないからラヴィーナ先生と一緒に勉強しましたよ。

 火の調節がうまくいかなくて生焼けだったり、逆に強すぎて鍋溶かしたり、指に針刺しまくったり、まっすぐ縫ったつもりが気け付けば円を描いてたり、虫にびっくりして花燃やしちゃったりとまぁ…これはひどい。『自分、不器用なんで…』じゃ済まさない不器用さだよ!!

 そんな私をラヴィーナは根気よく教えてくれた。作り直したり、縫い直したり、新しい花植えてくれたり…思い出しただけで涙出そう。

 おかげで料理は進歩したよ!まだ人には出せないけど、味が薄いとか濃いとか焦がす程度なんて可愛いもんだよね!

 お菓子はダメ。分量の正確さ・時間が大切だから、目分量・直観万歳な私にはまだ難しい。焼いてたら漫画みたいに爆発した。

 掃除・洗濯はいいとして、裁縫は指を刺す回数が減ったし、虫だけ吹っ飛ばすことが出来るようになったよ!

 それに何でもだけど、やってるとだんだん楽しくなってきたから今では進んでやるようになってる。良きことだ。

 そうやってここでの新しい趣味を見つけて楽しみながら暮らせるっていいなって思う。





一応伏字&元ネタ解説


・●頭2:50-上半身裸に黒スパッツ姿の芸人。笑いのためなら死ねる数少ないサムライ芸人として称えられている。



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