第7話:これが我が家か・・・。
「ら、ラヴィーナ…」
「はい、何でしょうか?」
「ヒヨと兄妹なんだよね?」
「はい」
「えーっと‥兄妹でキスするのって普通の事なの?」
「はい。仲の良い家族ならしていると思います」
「そっか…」
なら良かったわ。まぁほっぺにキスくらい海外なら普通だよね!て、訳でこれからはそれを見て萌え萌えさせてもらうよ。ふへへ。
「簡単に説明しますが、こちらが洗面所でその奥にバスになります」
「うん」
「そしてこちらのクローゼットにはサーイェのドレスや下着などが入っています」
「え?私の服?」
「はい。サーイェがこちらに暮らすと決まり、この部屋の家具を含め、陛下が全て御用意して下さったのです」
「へぇ、そうなんだ」
それじゃあ後でちゃんとお礼言わなくちゃね。私は早速クローゼットを開けてみた。…が、絶句した。
「…………」
「わぁ!素敵なドレスです!」
中にはフリルがたっぷりのドレスや女の子らしい服が大量に入ってた。
「…何これ?」
「何ってサーイェのドレスですよ」
「…普段着なの?」
「はい!とても可愛らしくて素敵なものばかりですね」
「…そうだね」
ラヴィーナは嬉しそうだけど、私は複雑な心境だった。
確かに可愛らしくて素敵な物だよ?だけど私、ロリータ服着ないんだよね。街で浮くし色々痛い目を見るのに大枚叩いてまで着たくないっす。大体可愛い子やなりきってる子ならまだしも、乗り気じゃない人間に着せるのが一番痛いんだぞ!辱めだ!
「きっとサーイェによく似合いますよ」
「いや確実にラヴィーナの方が似合うからね」
「謙遜なさらないで宜しいんですよ?」
「謙遜じゃなくてガチで言ってるから。あ、ラヴィーナと私の服交換しない?私はラヴィーナの着てる服着るから全部あげるよ」
「な、何言ってるんですか?」
「ラヴィーナ‥服だって然るべき人に着てもらった方が喜ぶと思う。だからラヴィーナが着なよ」
「サーイェ!これは陛下がサーイェの為に用意して下さったものですよ!」
「えー?だけど私はもっとシンプルな物の方がいいよー」
「我慢してください!」
「むぅ~」
贅沢言える立場じゃないけど抵抗が…。はぁ、業に従えって事ですね。
「けどさー、この下着?はもこもこして邪魔じゃない?」
私はクローゼット内の引き出し中に綺麗に収まっているドロワーズを取り出した。メイド喫茶のメイドさんの穿くようなドロワーズは、やたら装飾に凝っていてボリュームがあるのでズボンを穿くとなると絶対穿きにくいだろう。これならアンヌにもらった下着の方が幾分マシ。
「こ、これは!サーイェにはまだ少し早いです!」
「え?何が?」
「とりあえずこの下着はラヴィーナが預かっておくので他の物を履いて下さい!」
「じゃあそれ穿かなくていいの?」
「はい!」
それにしてもこの慌てよう…もしかして勝負下着?ちょっとかまととぶってみるか。
「ねぇラヴィーナ、その下着って何か特別なの?」
私は何も分かんない感を振りまいてラヴィーナに尋ねた。
「あの、いえ、別に…」
ラヴィーナは少し顔を赤らめ、なんて説明しようか悩んでいた。これはいじめっ子心をくすぐるな。
「じゃあ何が早いの?気になるよー」
「と、とにかく早いんです!もう気にしないで下さい!!」
「はーい」
結局ラヴィーナ説明する言葉が見つからず無理やり話を打ち切った。
この慌てよう、そして顔を真っ赤にして言ってる辺りもう確定だね。オズよ、実年齢を知ってるとはいえ外見年齢13才位の子に勝負下着は早くない?まぁこんなの私からしたら全然セクシーでもないし穿かないからいいけど。
それにしてもこれに色気を感じるのか。きっと地球に来たら大変だね。この程度で顔を真っ赤にしちゃうラヴィーナは可愛いけど、お姉さん将来が心配だわ。
一段落着いたので、私達はリビングへ戻りお茶をする事にした。ラヴィーナが用意してくれたのは結構本格的で、イギリス式のようだった。お菓子もスコーンやら何やら種類が豊富で何を食べようか迷っちゃう。
「お茶が入りましたよ」
「ありがとー。ではいただきまーす!」
私の前に出されたお茶は飲みやすく、セイロンのような味がした。
「んー!ロイス隊長のお茶もおいしいけど、ラヴィーナのお茶もすごくおいしいよ」
「まぁ、ありがとうございます」
可愛いねぇ~。はにかみ笑いは天使のようだ。
「お菓子、食べてもいい?」
「はい。どうぞ召し上がって下さい」
積み上げられたらお菓子はどれも美味しそうでどれを食べようか迷った。う~ん…。悩んだあげく結局クッキーにした。いただきまーす。
パクッと一口食べて、私は衝撃を受けた。これは…カントリーマ●ムバニラ味!?外はさっくり、中はしっとり。ほのかに温かい焼きたて感がすごく美味しい。
私はカントリーマア●が大好き過ぎて、親が仕事で居ないのを良いことに、一日三食カン●リーマアムで過ごした事がある。親が帰ってきてゴミ箱を見た時は発狂されたけどね。流石に自分でも4袋は食べ過ぎだと思う。だけど栄養を考慮してちゃんと野菜ジュースも飲んでたよ。とにかく中毒性があって一度ハマるとなかなか抜け出せない。
「サーイェ?」
はっ!しまった!懐かしくて自分の世界に浸ってしまったよ!
「お口に合いませんでしたか?」
「違う違う違う!!むしろその逆だよ!美味しすぎて感動してたんだよ!」
「本当ですか?」
「うん!このクッキー本っ当に美味しいよ!また作ってくれる?ていうか作って!!」
「はい!」
不安気な顔から一転して、可愛らしさ全開の笑顔に私の顔も綻んだ。
「ふぅ…」
お菓子でお腹も満たされ満足した私達はまったりとお茶を満喫。
「気持ちのいい場所だね」
「そうですね」
「この別荘ってよく使われてるの?」
「いえ、昔は奥様のリリエル様の療養地として使われていましたが、亡くなられてしまったので今は使われていません」
「あー‥そうなんだ。なんか、ごめん」
「気にしないで下さい」
「…ありがと。リリエル様ってどんな人なの?ヒヨとラビィーナのお母さんでしょ?やっぱり2人みたいに可愛いお母さんなんだよね?」
ベルクラース様要素が殆ど無いんだから、きっとラヴィーナに瓜二つなんだろうなぁ。わくわくする私とは反比例して、ラヴィーナの顔は曇っていった。
「残念ながらリリエル様は、ラヴィーナ達の実の母ではありません」
「え?」
予想していなかった言葉に固まってしまった。実の母ではないっていう事は…
「義理の母親って事?」
「お兄さまにとってはそうですが、ラヴィーナにとっては御主人様です」
「御主‥?え?何?どういう事?」
「少し複雑なのですが…よろしいですか?」
「うん。全然構わないよ」
ラヴィーナはカップを起き、姿勢を正した。
「ラヴィーナとお兄さまは、代々ダリウス家に仕える使用人の子供で、使用人頭のバッシュおじい様の孫なのです」
「バッシュさんの孫?」
「はい」
「じゃあ実の親は?」
「ラビィーナ達が25才の時に、仕事での出張中に事故で亡くなりました」
25才っていうと人間で言ったら10才位かな?
「ベルクラース様は仕事の関係で私達の親を亡くしたこと責任を感じたのかラヴィーナ達を養子に迎え入れる事を申し入れて下さいました。しかしバッシュおじい様はお兄さまだけをダリウス家に養子に出したのです」
「え、何で?2人一緒の方がいいじゃん」
「はい。ですが、ベルクラース様とリリエル様の間にはお子様がおられませんでした。だからバッシュおじい様はお兄さまを養子に出す事でダリウス家を存続させ、ラヴィーナを残してウィレット家を存続させる事にしたのです。だからお兄さまはラビィーナの御主人様でもあるのです」
「そんな…」
なに『悪ノ●使』みたいになってんの?『君は王女 僕は召使』ならぬ、『君は主 私は召使』みたいな?それこそ本当に大人達の勝手な都合で2人の未来は二つに裂けてるじゃないか!こんなの絶対おかしいよ!
「ラヴィーナはそれでいいの?お兄ちゃんと主従関係なんだよ?」
「はい」
「え!?」
即答?!!ラビィーナの余りの潔さに吃驚した。わけがわからないよ!
「確かに身分は違いますが、お兄さまはお兄さまです。それにベルクラース様もリリエル様も、使用人のラヴィーナのことを本当の子供のように接して下さいました。だからラヴィーナは辛くありません。ただ…」
「ただ?」
「ただ、時々ベルクラース様とリリエル様が本当の親なら良いのなぁと、思うことはあります」
ラヴィーナの寂しさの入り混じった表情はとても儚なく、私は掛ける言葉を無くした。気まずく思っているとラヴィーナは笑顔で振り切った。
「ふふ、恐れ多いですよね。気にしないで下さい」
「そんな事ないよ」
「え?」
根拠なんて無いのに、私は意地になって答えた。
「血が繋がって無くったって家族になれるもん。ベルクラース様達が本当の子供のように育ててくれてたなら、遠慮する方が失礼だよ。胸張って良いと思う。『私の育ての親はベルクラース様とリリエル様です。2人のことが大好きですー!!』って」
「サーイェ…」
「その方が絶対2人も喜ぶよ。ね?」
そう信じたかった。勝手なことだとは分かってる。
「…そうですね」
「うん」
ふふふってラビィーナが幸せそうに笑うから、私も嬉しくなった。
「サーイェは不思議ですね」
「何が?」
「私より幼いのにしっかりしていて、黒騎士団に入団しようとする程の強さがあります」
「そんなこと無いって。まだまだ甘ったれだよ」
「いえ、そんな事あります!」
そんなに過大評価されても…。部屋は汚いし、休みの日は一日中パジャマだったりするし、ジャンクフードばっかり食べてるとかあんまり良い生活してないよ?多分ラビィーナが見たら卒倒するね。
「…じゃあ一緒に暮らしているうちに分かるよ」
「そうですか?」
「うん」
その日の夜は本邸で、ベルクラース様達と一緒に夕飯を頂く事になった。食事をするのはベルクラース様とヒヨと私の3人で食事をすることになった。静かな部屋の中、長机に3人で座り食事をするのは少し緊張した。当然並んでる食事は上品に盛り付けられた料理の数々。テーブルマナーが間違ってないか心配だなぁ…。
「家の方は」
「え?!」
私はいきなりベルクラース様に話し掛けられた事にびっくりして、思わず動きが止まった。
「家の方は如何ですか?」
「あ、はい!」
私は急いでナイフとフォークを置いて姿勢を正した。
「私なんかには勿体ないほど素敵なお宅です。それにラビィーナがとても親切にしてくれているのでこれからの生活がとても楽しみです」
「そうですか。気に入って戴けて何よりです」
「あの…」
「何でしょう?」
「ラビィーナから聞いたのですが、あの家は奥様のリリエル様が生前暮らしていたそうですね」
「はい」
「そんな大切な家に私が住んでもよろしいのでしょうか?」
ベルクラース様の最愛の奥様が最期に過ごした思い出の場所でしょ?そんな場所に私が暮らすなんてまさに場違いだと思うし、少し心苦しい。
「…構いません。家内は寛大な者です。サーイェ様が暮らすこともきっと許すでしょう」
リリエル様を思い出しているのか、ベルクラース様の眼差し雰囲気が微かに柔らかいものに変わった。それだけで私はベルクラース様のリリエル様へ対しての愛情が伝わった。すごくリリエル様の事を愛していたんだね。こんなに厳格な人を柔らかくすることが出来るなんてすごいよ。そこまで愛してもらえるなんて羨ましい。
「…では有り難く住まわさせて頂きます。それから、お願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「何でしょう?」
私は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「私の事は気を使わずに普通に接して頂けませんか?
「しかしサーイェ様は先々代国王陛下のお孫に当たる御方、そのような事は…」
「だけど私は庶民です。しかも騎士で居候なのに、騎士団総団長で家主であるベルクラース様に敬語を使われるとその…とても気まずいのです」
ええもう壮絶に。私、好きなものにはかなり熱くなるしデレるからさ、超理想通りの人がいたらまず直視出来ない。ベルクラース様の様な方には跪きたくなる。だからかなり迷惑も掛けてるのに恭しい態度とられると本当に困るんだよ!胃に穴が空きそう。
ベルクラース様は無表情で私を見つめながら少し思案しているようだった。うひぃー!見つめないでー!
居たたまれなくなった私は俯くしかなかった。
「…では、サーイェも自分の家だと思って楽に過ごしてほしい」
「え、けど…」
「良いな?」
「は、はいっ!」
有無を言わせない強い言い方をしたベルクラース様だったが、私がすぐに返事をすると少し微笑えんだ。ちょっ‥!その笑顔は反則だよ!威圧感を出した後にそんな優しげな顔をされたら、私がときめかない訳がない!!
内心フィーバーしていると、私の考えていることが伝わったのか、ヒヨが苦笑していた。てへぺろ。
「えと、これからよろしくお願いします」
「ああ」
「よろしくお願いします」
何だかんだ言ってたけど、なかなか平和に過ごせそうかも。
別邸、基我が家に帰るとさっさと風呂に入った。お風呂は小さい銭湯くらいの大きさ。今まで居た部屋の風呂に比べたら小さいけど、庶民からしたらだいぶ広いし豪華。前に居た部屋の風呂同様、壁は映像が出るようになっていた。今日は花びらが舞っている。まるで花見していみたいだ。しかもフローラルな香りがリラックス効果を増長している。誰か酒持ってこーい、ってか?
私は浴室の中でうーん、と伸びをした。はぁー気持ちいい。やっぱりお風呂はいいなぁ。心身共に癒されるね。ルシ●スがお風呂に情熱を注ぐ理由がよく分かったよ。
ふぅ、と一息吐くと、私は今までの事を思い出した。
いきなり森の中に居ると思ったら超絶美人に遭遇。魔法も使えるようになり、冒険して新居を見つけたと思ったら村が襲われ犯人扱い。そして死ぬかと思ったら王様に気に入られ、城で保護されて、イケメンばかりの騎士団に所属が決定。そして家には超どストライクなオジサマと萌えっこ達がいる生活ってどうよ?
全体的に見たら主人公最強設定の逆ハーレム物というトリップ小説好きからしたら涎物の出来事だよね。私も読むならいい。だけど実際に自分がその立場になったらかなり迷惑だよ。主に特殊設定とか逆ハーとか逆ハーとか。大切な事なので二度言いました。
今はまだ外に出てないから何とも言えないけど、きっと仕事するようになったら面倒事に巻き込まれるんだろうなぁ…。
私は深いため息を吐いた。異世界に来てから波瀾万丈だな。今までぼんやり生きてきたからこんな事になるとは思わなかった。
平穏第一な私にとっては有り得ない様な生活だ。『人生は小説より奇なり』って言葉が骨身に染みるわ。
お風呂から出てくつろいでいると、オズから通話がきた。通話っていうのはこの世界の電話みたいなもの。通石と言う物を使って離れている人と連絡を取るらしい。ヤン婆が使ってたのがそれと同じ。だけど高価だから一般にはあんまり普及してないんだってさ。
ここにあるのは通石は鏡に相手の姿が見える優れもの。つまりテレビ電話だね。使い方も電話と同じで相手の番号に掛ければOK。
「こんばんわ」
「ああ」
仕事が終わったのか、オズは自室にいるらしい。オズの背後に見える壁や家具が私の過ごした部屋並に豪華だ。こんな所で休めるってことは、やっぱり慣れなんだなぁ。
「どうした?」
「いえ、何でもないです。オズの方こそどうしたんですか?」
「新居の方が気になってな」
「おかげさまで問題ありません。家具や服も一式揃えて下さったそうでありがとうございます」
「ああ。ドレスもよく似合っている」
「…そうですか?」
似合ってると言われたのは、前の部屋でも来ていたドレス。そんなに似合ってないと思うんだけどなぁ。これもトリップ補正か。
「余は似合っていると思うんだがな。そのナイトドレスもまるで妖精のように軽やかで愛らしい」
オズは綺麗に微笑んで誉めてくれたが、私は引きつり笑いしか出来なかった。よくそんな例えが出るな。確かにこのナイトドレスは可愛いよ。他のドレスに比べたらフリルも少ない。だけど妖精って…。きっと私は良いドレスに着せられてる屋敷しもべ妖精レベルだろ。
「気に入らないのか?」
「うーん…家具は好きですよ」
「ドレスは気に入らなかったのか?」
「えーと、デザインは可愛いと思うんですけど、派手というか華やかすぎるのは私はちょっと苦手ですね」
まさに嫌いじゃないの、嫌なだけって感じ。
「そうか」
「すみません」
「謝る必要はない」
オズはフッ、と優しく微笑み許してくれた。サーセンね。だって私はもっとシンプルなものが好きなんだもん。フリルとレースの塊のようなドレスより、こっちじゃ下着扱いされるワンピースの方が断然良い。だけど文句の言える立場じゃないしそこは我慢するしかない。
「明日、違う物を用意させよう」
「へ?」
「気に入らなかったのだろう?」
「まぁそうですけど…」
「だから今度は気に入る物を用意しよう」
「じゃあこの服はどうするんですか?」
「処分する」
「え?処分って捨てるって事ですか?」
「ああ」
そんな…!!
「何をさも当然のように言ってるんですか!勿体無さ過ぎます!!」
「勿体無いも何も、サーイェが要らぬと言ったのだろう?」
「そうですけど、この服高価な物ですよね?」
「値段は知らぬが恐らく妥当な値段だろう」
「…きっと庶民には高い値段だと思います。それを捨てるくらいなら私が着るからいいです」
「無理せずとも良い。サーイェが欲しい物を申せ。お前が望む物全て余が与えてよう」
楽しそうにオズは言うけど、私は全っ然楽しくない。これがセレブの感覚か。ぽいぽい何でも買えちゃう辺りが怖いわ。
タダで欲しい物が手にはいるのは確かに嬉しいことだけど、それじゃあ私にとって何にも意味がない。
「さぁ、何が欲しいのだ?」
「大変有り難いですけど、結構です」
「遠慮をせずとも良いのだぞ」
「遠慮じゃありません。嫌なんです」
私がオズの申し出をきっぱりと断ると、オズは片眉を寄せた。
「何を怒っている?」
「……」
「申せ」
黙っているとオズはやや真面目な顔付きなり私の話に耳を傾けた。出来れば自分で気が付いて欲しいんだけどな。私は軽く溜め息を漏らしながらも教えてあげた。
「まず一つ。服を捨てること。オズのお金って税金ですよね?」
「ああ」
「それを私に使うのは税金の無駄使いです。更にその買った品物を捨てるなんてほんとに無駄ですよ。それに作った職人さんに失礼です」
もし私が職人の立場だったら相手をはっ倒してるよ。頭の中でですけどね。オズはなるほど、と言うような顔をすると続きを促した。
「二つ、私に何でもかんでも物を与えないで下さい。それだと私が働く意味がないんです。自分の物くらい自分で買います」
自分の力で生きるって決めたのにまたニート生活なんて嫌だ
「そして三つ、特別扱いしないでください。庶民で得体の知れない奴がVIP待遇を受けてたら他の貴族連中等から妬まれます。面倒事に巻き込まれたくありません」
そう言いきると、オズは溜め息を吐き頭を抱えた。そんな頭を抱えるほどの問題じゃなくない?もしかして体調が悪くなったとかじゃないよね?
「オズ?」
「くっ‥くく…」
「ん?」
心配しているとオズは肩を揺らし始めた。どうやら笑いを堪えているらしい。またか。
「…何笑ってるんですか」
「いや、すまない」
オズは笑いを堪えながら謝った。あんまり謝られている気がしないのは気のせいだろうか?
「サーイェは賢いな。今までそこまで考えている女などいなかった」
「へぇ、そうですか、じゃあ今までの女の人は頭が弱かったんですね。御愁傷様です」
「クッ‥ハハ!そうだな。確かにそうだ」
我慢できなくなったオズはとうとう笑い出した。笑い上戸だな。そんなに面白いものか?まぁ楽しそうだからいいんだけどさ。
「オズも金があるからってホイホイ使っちゃ駄目ですよ。税金は国民の血と汗と涙の結晶なんですから」
「フッ‥!ああ、そうだな」
私の表現にツボったのか未だにオズは笑っていた。いや笑い事じゃないし。脱税みたいなものだからね。私は腐った奴にはなりたくないぞ。怒っているよりか笑っている方が良いですけど…笑いすぎですよ?
一頻り笑うと満足したのか、ようやく私の方を見た。
「お前はいい女だな」
「はぁ?」
何故そこに行ったし。人のこと笑ってから言う台詞じゃないだろ。しかもまた私の顔を見て笑い始めてるし。そろそろ怒ってもいいですか?オズは呼吸を整えると私を見た。
「余に対して物怖じせずに自分の考えを素直に言える者は少ない。それに自分の利益だけでなく他人を思いやれる優しさもあり賢い」
か、買い被りすぎだよ…。あまりのべた褒めに普段ならどん引きしてしまうけど、オズが余りに優しく微笑むからなんだか私は照れてしまった。
「やはり余の妻になら「絶対なりません」
恥ずかしかったのに自分でもびっくりするくらいの速さで断った。反射ってスゴいね!
「ハハッ!相変わらずの即答ぶりだな」
「ありがとうございます」
「まぁ今は良い」
後でも良くねぇよ。大体『遊びに行かない? 』程度の軽いノリで言うな!
なんだか色々疲れて溜め息が出た。
「用件はそれだけですよね」
「え?ああ。何だもう寝るのか?」
「今日は色々疲れたんですよ。それに夜更かしは美容の敵なので」
「ほう、そうなのか?」
「はい。夜10時から2時までの間に肌が再生されるゴールデンタイムのようですよ」
「ではサーイェの夜枷は早めにしなければならぬな」
「よとぎ?」
「営みだ」
「しねぇよ!」
オズのデリカシーの無い言葉にまた私は葉遣いになってしまった。くっくっくと笑いながらオズはしたり顔をしていた。
「営みをすれば更に肌も綺麗になると思うんだがな」
「それでもしねぇよ!!」
「ハハハハ!!!」
何言ってんだこいつ!下ネタかよ!軽くセクハラだぞゴルァ!!
「せっかくの下着を使う時だと思ったんだがな」
「あ!やっぱりあの下着選んだのオズだったんですね?」
「下着だけは外せぬからな」
て、事は全部オズの趣味か。にゃろう…。下着よりドレスを選べや。
「気に入ったか?」
「気に入るも何も、ラヴィーナが真っ赤な顔して没収しましたよ」
「それは残念だな」
「オズが悪いんでしょ。じゃあ私もう寝ます」
「待てサーイェ」
「何ですか?」
オズがにやにやしながら自分の頬を軽くつついた。あーあーあー‥あれね。おやすみのチューですか。まだ引っ張るのかよ。鏡越しで要求するとかどんなんだよ。
「はぁ…」
私は大きく溜め息を吐くと、ゆっくり鏡に近付いた。
「オズ」
「ん?」
「寝ろ」
私はドスを利かせて言うと、返事も聞かずに通話を切った。そしてベッドへ行くと倒れこんだ。
ほんと疲れた…。今日一日色々疲れたけど、オズとの会話が一番疲れた気がする。まさかオズが下ネタが言うとはねー。あの程度ならまだいいけど、あんまり度が過ぎると引くわ。
…でも、良い人なんだよなぁ。それに綺麗な顔立ちしているから、真面目な顔は誰でもどきっとしちゃうと思う。
あんな風に言っちゃったけど本当は色々面倒見てくれて感謝してるんだよ?だけど言ったら調子に乗りそうだから絶対に言わない。簡単に私がデレると思うなよ!
一応伏字&元ネタ解説
・カント●ーマアム-カカオマスやカカオバターがたっぷり入った本物のチョコチップのおいしさを生の状態で閉じ込めて、活性化させるクッキー。
・●ノ召使-悪ノPことmothyが鏡音レンを用いて制作したレンオリジナル曲。栄華を極める王国の暴君王女である姉の召使として仕えた双子の弟が歌った歌。
・ル●ウス-漫画・テルマエ・ロマエの主人公。浴場を専門とするローマの建築技師。質実剛健・謹厳実直な、根っからの仕事人間。