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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第二章
31/57

第6話:これがトリップの良いところ!

 翌日、ガイシス団長とロイス副団長と一緒に会議室へと向かった。

 はぁ…ちょっと緊張してきた。いくら突っ立ってれば大丈夫と言われても、大勢の前で自分のことをを議論されるのは如何なものかと。会議っていうより裁判な感じだ。


「緊張してるのか?」

「え!?」


 内心げんなりとしてると、いきなりガイシス団長に話しかけられたのでびっくりした。


「ええ、まぁ‥そうですね」

「ははっ!前回の謁見の時とはすごい違いだな」

「確かに。あの時のサーイェは怖いもの無し、って感じだったね」


 ガイシス団長とロイス副団長は前回の謁見の事を思い出し、笑い始めた。

 別に笑い事じゃないんですけど。


「あの時はどうせ死ぬならどうでもいいやって感じでしたからね。緊張も何もありませんよ」

「そうか。じゃあ、今はどうなんだ?」

「今は…どうでしょう?」

「何だ、分からないのか?」

「‥多分、怖いんだと思います」

「怖い?どうしてだ?」




 また自分の居場所を失ってしまうかもしれないから。




「どうしてでしょうね?」


 私はそれを口にすることが出来ず、ニヒルと笑っておどけた。そうするしかなかった。同情なんかされたくない。

 ガイシス団長はしばらく私を見つめると、私の頭をぽんぽんと軽く叩き、屈んで私と目線を合わせた。


「お前が怖いと思っていても、俺達はお前の味方だ」

「それに陛下が居るんだからあんまり怖がらなくていいよ」


 ロイス副団長が私を安心させるようによしよしって感じに私の頭を撫でたので、何だか照れくさくなった私は俯いて顔を隠した。そしたら今度はガイシス団長が顔を覗き込んで来たので困った。

 私を子供だと思ってるから仕方ないけど、一応女の子だという事と自分の顔の良さを自覚して欲しい。


「分かったか?」

「‥はい」


 返事をするとガイシス団長が微笑んで私の頭を優しくぽんぽんと叩いた。2人とも私の頭に触るの好きだな。別に悪くないけどさ。

 2人を見上げると優しく微笑んでくれていたので、私もそれに笑顔で応え、再び足を進めた。







「失礼致します。サーイェ・アマーノゥを連れて参りました」

「入れ」

 

 私は軽く深呼吸をすると会議室へ入った。部屋のドアが開くと、室内全ての視線が私へと注がれた。

 約半数の人の髪が濃さは違えども赤い髪をしていた。多分王族か貴族だろう。これだけいれば自分の赤髪が貴重じゃないように思えてくる。

 特に髪の色が赤い集団の中にはマーリンドも混ざっていた。今日はちゃんと王子っぽくしている。マーリンドと目が合うとウインクをされので、黙ってればイケメン王子だと思いつつも、少し緊張がほどけて有り難かった。

 マーリンドの隣を見ると、これまた美形が座っていた。赤くて緩くウェーブの掛かった超ロング髪の毛を三つ編みにしている。三つ編みにはアクセサリーが散りばめられていてオシャレ。服はゆったりとしていてレイが着ていた物に似ている。色白で美人だけど、そこまで華奢でもないし肩幅もあるから男性だろう。

 その人と目が合うと、穏やかに微笑んでくれた。…良い人だ。

 だけど部屋の中の空気は穏やかではなかった。好奇や異物を恐れる空気で満ち溢れているからだ。私は内心溜め息を吐いた。


 こんなことは今までに何度もあった。発作を起こした後、怖がられたし気持ち悪がれもした。だけどそれでも私は学校へ行った。だって行かなくなったら負けの様な気がしたから。

 怖いから何?気持ち悪いから何?他人がどう思おうと私は私だ。他人の定めた価値になんて堕ちたくない。

 自分の価値を落とすのは自分がそれに負けたとき。私は自分を信じたい。私の価値を決めるのは私だけだ。



 私はオズの元にたどり着くと隣りに立たされ、ザビーの説明が始まった。


「この者がサーイェ・アマーノゥです。年齢、出生ともに不明。外見から推測すると50代かと思われます。三ヶ月程前に護神の森から現れ、それ以降イセアで暮らしていました。先日、魔物を操りイセアを襲撃させた嫌疑に掛けられていましたが、陛下はこの者は犯人ではなく、先々代国王・アルフェルド陛下の庶子の子と判断され城で保護する事になりました」


 ザビーの説明を聞くと室内にざわめきが起こった。

 そりゃそうだ。いかにも怪しい奴が先々代の庶子の子だなんて俄か信じがたいだろう。だけどこいつは魔者ですーとか言っても同じようにざわめきが起きそうだ。


「陛下!一体どういうことですか!?」

「この者が先々代王の庶子という証拠はどこにあるというのです!」


 おーおー、まるで記者会見のようだね。総理や芸能人はいつもこんな面倒な人達に付き合ってるのか。大変だな。

 その時、騒音の中に木製ハンマーの音が部屋に鳴り響いた。


「静粛に」


 ザビーの冷淡な一声で部屋の中は一気に静まり返った。


「これより陛下が御説明されますのでご静聴下さい」


 いつもの用に淡々とした話し方も、時と場合によっては威圧的に聞こえる。だけどオズはそれをまるで気にしていないようなので、私も気にしないことにした。


「まず、証拠の一つはこの髪だ。この様に美しい赤髪は王族の中でも極稀だ。先々代のようにな。奴は生命力に溢れた美しい髪をしていた」


 オズは私の髪を手に取るとそれを弄んだ。遊ぶなよ。私の髪は生命力が溢れる所かキューティクルが死滅しかかってるぞ。トリートメントやケアを怠ってるから傷毛も出てきたし…。ぐすん。

 そんな事は気にせずオズは私の髪をかき揚げ耳に掛けた。



「次にこのピアス。ピアスは本来力を抑制したり付加させる物だ。このピアスからは神聖な力を感じる。アンシエルにも確認してもらったから間違いない。そうだろう?アンシエル」

「はい、陛下」


 さっきの赤髪の美人さんが穏やかな顔で答えた。意外に低くて落ち着いた声が素敵だった。それにしてもいつ確認したんだ?


「そんな力を持つ者が邪悪な者とは思えぬ」


 神聖な力っていうとレイのおまじないか。やっぱりレイは神聖な存在だったんだね。あんなに綺麗で可愛くて癒やし効果満点な子が邪悪な存在な訳ないじゃないか!親バカだと思われるかもしれないけど、親バカじゃないって。会えば分かる。うん。


「それにこの様に美しく精巧な装飾を施したピアスなど、庶民どころか貴族でもなかなか手に入れることは出来まい。おそらく金品に目の無い奴が贈ったのであろう」


 そう言ってオズは私の左耳にぶらざかるピアスに触れた。

 私の耳にはピアスが5つあり、そのうちの4つは丸型のスワロスキーのピアス。そして左耳の1つだけぶら下げるタイプのもの。 それはドロップ型のスワロスキーを中心に銀の装飾が周りを囲み、耳朶の留め具は百合マークになっている。

 そしてこれもプレゼントされたもの。大切なものだからあんまり触ってほしくないんだよね。失礼だけど汚れちゃうような気がする。


「それからサーイェの話す断片的記憶ではこの容姿は生まれつきで、黒の髪が生えてきたのはイセアで暮らし始めてからだ。だとすると親も赤髪を持っていると考えるのが普通だろう。容姿、強力な魔力、美しい装飾品。これは王族の血を受け継いでいるとしか思えぬ」


 おぉ、ここでうっかり漏らしてしまった情報を消化したよ!ナイスだオズ!!


「先々代の王は強力な魔力を用いて国の拡大させた偉大なる王だ。だが成し遂げるためなら手段を選ばず、女遊びや金使いも荒い本能に忠実な愚王でもあった。そんな王に庶子の一人や二人居てもおかしくなかろう?」

「……」


 軽く言っているけど、オズの顔には冷たい嘲笑が浮かんでいて少し怖かった。


「よって余はサーイェをオーディスラルドの血を受け継ぐ者だと考えている。誰か意見はあるか?」


 部屋の中は静まり返り、少し空気が重かった。その中には俯いている人もいる。そんなにスゴい王様だったんだね…。

 沈黙を肯定と取ると、オズはザビーに視線を向け説明を促した。


「この者は先々代の庶子となりますが、王族とは見なさず身分は庶民とし、一切の政治的権力を持たないものとします。そして騎士となり粉微塵になろうとも一生涯国に尽くすことを誓いました。何か不明な点、意見のある方はおりますか?」



 私が意見したいんですけど。そんな事言った覚えはないよ!

 内心ザビーに対して悪態を吐いていると、えんじ色の髪のおじさんが手を上げた。


「何だ?」

「いくら強力な力を持っていると言っても、彼女は女性です。女性が騎士になるのは如何なものかと思います」


 おっさんは意見は一見私の心配をしているように思えるが、どこか差別的な感じがした。


「本人が望んだことだ。それに騎士の仕事でも安全な補佐をさせるつもりだ。それなら問題なかろう」

「では生活の方は如何なさるおつもりですか?規約の通りだと一般の騎士は宿舎で生活することになりますが、まさか御一緒に生活させるつもりでは有りますまい」



 え、そうなの?男性宿舎に女一人…そんな定番の逆ハーとか断固拒否!!イケパラになんて行きたくない!瑞●がどんなに大変な生活をしていたことか‥いや、あれは佐●の方が大変だったか。同じ部屋で好きな子が寝泊まりなんて男子校生にはきつくない?ここでは騎士宿舎だけど、いくら騎士とはいえ油断したらガチで襲われそうじゃね?

 私、貞操の危機に瀕したら相手を殺りかねないと思う。だけどあの部屋からは出て行きたいし…。魔法で念じれば何とかならないかなぁ?


「その事については騎士団総団長であるベルクラースと話し合い、ベルクラースがサーイェを引き取ることになった」



 引き取る?騎士総団長が?私を?…どどどどどちら様ですかぁ!!?

 騎士団総団長を探そうと部屋を見渡したらすぐに見つかった。だってでかいもん。

 ていうか…ものすごくどストライクなおじさんなんだけど!!

 外見年齢40代後半、隣に座ってるおじさんより二周りは大きい筋肉質な体型で緑色の固そうな髪を後ろへ流している。左頬には一文字の傷跡が耳まで達し、厳つい顔が騎士団総団長の厳格さを醸し出している。そしてかなり渋くて格好いい。


 私、老けメンキャラ大好きなんだよ!おじさんっていいよね!あんまり余計なことは語らない渋いキャラが一番好きなんだ!時々見せる優しい顔にめっちゃキュンときちゃうんだよ~!

 FF10のアー●ンさんとかいいよね。昔は熱いやつだったって設定も最高っす!こんな人が私を引き取ってくれるなんて超ラッキー!!

 狂喜乱舞しているとベルクラース様と目があった。クールで鋭い視線がたまりませんな!


「騎士団はベルクラースの管轄であり、何か問題があっても対処できるであろう。サーイェを引き取る事には本人も快諾した」


 快諾だなんて…!私は顔がにやけそうになるのを必死で我慢した。

 本当に有り難う御座います!問題なんて起こしません!いい子にします!


「他には何か?」

「いえ‥結構です」


 えんじ色の髪のおっさんは渋々と言った感じで着席した。私とベルクラース様の仲は引き裂かせないんだからね!


「他に御質問が無いようなのでこれで会議を終了させて頂きます。ベルクラース様には詳しい御説明をさせて頂きますのでそのままお残り下さい。解散」







 会議が終わり、大臣・貴族連中は部屋から出て行くと部屋には私、オズ、ザビー、ベルクラース様、それと何故かマーリンドと隣にいた美形さんがいた。


「あの、陛下」

「何だ?」

「どうしてマーリンド‥様がここにいらっしゃるのですか?」

「マーリンドでいいぞ。今更言われると気持ち悪い」

「うん、私も言ってて気持ち悪かった」

「おい」

「ふふふ」


 あ、つい本音が零れて美人さんに笑われてしまった。


「この者達は余の兄弟だから余には教える義務がある」

「兄弟…」

「サーイェにはまだ紹介していなかったが、これは第二王子のアンシエルだ。我が国の教皇を務めている」

「きょうこう…教皇!?」


 この人が教皇って…。普通教皇ってもっとじいさんがやるもんじゃないの?地道にお務めを果たして献金して位を上げて、選挙に勝った人がなれるようなイメージなんだけど。やっぱり王家の血筋か?それともじゃんけん大会でもやってるの?


「初めまして」


 うぅ‥眩しい!聖人だ!聖人がいるよ!!まさに雰囲気がそんな感じだ。

 アンシエル様は失礼にもまじまじと見ている私に対して、優しげで穏やかな笑みを浮かべて手を差し出してくれた。

 こんな人に触っていいのかと迷ってると、向こうから握手してくれた。うわぁ~何か申し訳ない。罪悪感で手汗出そう。手汗付いたらごめんなさい。そんな私を見てアンシエル様はくすりと笑った。


「2人の言っていた通り、可愛らしい方ですね」

「え?そんなことありませんよ」

「謙遜なさらないで下さい。それにとても清らかなメージの持ち主です。素晴らしい」

「…あ、有り難う御座います」


 可愛いだの清らかだの…ごめんなさい、完全不純物なんですけど!性格悪いし肉もジャンクフードも大好きだし、処女でもないよ!

 異世界トリップってそういうのが重要なんじゃないの?よくあるじゃないか『乙女の純潔を捧げよ』、みたいな。私は乙女っていうよりヲトメです。日々妄想に取り憑かれてます。


 うーん…失礼だけどアンシエルさんはちょっと苦手かな。それは悪い意味じゃなくて、褒められなれてないからこういう風に純粋に褒められると困るんだよ。アドニス団長のとはかなり違う。あの人は褒めてるんだろうけど胡散臭いから嫌だ。


「それから先程も申したが、これがサーイェを引き取ってくれる騎士団総団長のベルクラース・クロエ・ダリウスだ」


 待ってました!目の前に立つベルクラース様はまるで壁のようだった。もしかしたら私の倍はあるかもしれない。上を見上げると無表情で私を見下ろしていた。ちょっと怖いけど…かっこいい!


「先々代の頃より国に務めておるのでな、是非にとお前を引き取ることを申し出てくれた」

「あ、有り難う御座います!」

「いえ、オーディスラルドに仕える者としてアルフェルド様のお孫様を預かることが出来、光栄に御座います」

「そ、そんなっ!こちらの方こそ総団長様に引き取って頂き至極光栄の至りであの、その…」

「お前少し落ち着けよ」

「うぇ~‥」


 落ち着けるかぁあ!!声まで超イメージ通り‥大塚明●っぽいんだよ!!!あぁもう最高…。


「至らぬ点も御座いましょうが、どうぞ宜しくお願い致します」

「よ、宜しくお願いします!」


 そう言ってベルクラース様は手を差し出してくれた。え?これ握手してもいいの?いいの?

 テンパった私は、何故か確認するようにオズとベルクラース様の手を交互に見た。オズは苦笑しながらながら頷いた。

 あーこんなにドキドキするの久しぶりだー!周りにイケメンがいてもときめかない私がこんなになるなんて…!!

 恥ずかしさで俯きながら手を握り恐る恐る顔を上げると、ベルクラース様はほんの少し微笑んで優しく握り返してくれた。いやー!!もーかっこぃいい!!!

 私は完璧顔がにやけた。興奮し過ぎと思われるかもしれないけど、私にとっては大ファンのハリウッドスターが私のために微笑んで握手してくれたのと同じ価値があるんだ!!


「おい、何にやけてんだよ」

「い、いいじゃん別に」

「不愉快だ。やめよ」

「…すみません」

「ふふふ」


 何だよみんなして!そんなに不機嫌にならなくてもいいのに。どうせ私のにやけ顔なんて気持ち悪いですよー。


「言っておくけどベルクラースは結婚してるしガキもいるからな」

「へぇ、そうなんだ」


 それは別に問題ない。私は好きな芸能人とかに恋人がいても気にしない派だからね。いいなぁ奥さん。こんなかっこいい旦那さんなんて最高じゃないか。一歩後ろから着いてくる昔の日本人タイプの奥さん希望。そんで子どもは普段父親とは喋らないけど密かに尊敬してるみたいな感じで。将来はお父さんに似ていい男になるんだろうなぁー。うへへ妄想が止まんねぇや。


「ちなみにガキはヒヨックートな」

「へぇ-‥ぇええ?!!嘘ぉ!!?」

「いやほんと」


 私は絶句した。嘘だよ絶対!こんな大きくて渋くてかっこいいお父さんから、あんなに可愛くて女の子みたいな子が生まれる訳がない!!遺伝子組み換えでもしてんの!?それとも変態動物ですか?!

 そんな私の反応を見てベルクラース様は少し苦笑した。

 あ、もういいっす。この顔見れたらどんな子でも関係ないっす。たとえバナ●マンの●村が息子でも何にも言いません。


「おい、またにやけてんぞ」

「ふへへ」

「…サーイェ」

「えへへ、すみません」


 私の浮かれっぷりに2人は呆れ、1人は笑い、3人は見守っている。だがザビーはそんな事気にもせずいつも通り淡々と話した。


「これからお前はダリウス邸で暮らすことになるが、本邸で生活するのは些か問題が生じる。それで敷地内に別邸があるのでそこで暮らせ」

「はい」

「後でヒヨックート副隊長が迎えに来るので部屋で待機していろ」

「分かりました」

「では解散」







 話し合いも終わったので、私はガイシス団長とロイス副団長と一緒に部屋へ向かった。


「無事に終わって良かったね」

「はい。本当に突っ立ているだけだったので全然大丈夫です。それにしても…ベルクラース様カッコいいですねぇー!」


 私にとっては会議なんかよりベルクラース様に会えた事の方が大きな収穫だった。トリップして良かった!って思えるのはこういう時だよね。


「サーイェがこんなに興奮するの初めて見たよ」

「そりゃあんなに素敵な人を見付けたら興奮しますよ!」

「クス‥今まで素敵な人に出会ってなかったみたいな言い方だね」

「あ、皆さんも十分に素敵ですよ?だけどこう‥理想の人の素敵さとはまた違うじゃないですか」

「確かにそうだな」

「じゃあサーイェはベルクラース総団長みたいな人が理想なの?」

「はい。外見もストラ‥好みにぴったりなんですけど、硬派で余計なことを喋らずに行動で示すみたいな感じの所が好きです」


 古き良き日本人男性ですな。昨今では草食系のヘタレばっかりで今や絶滅危惧種ですよ。実に嘆かわしい。あ、だけど恋愛に関してはちょっとヘタレだと萌えるかも。ギャップ萌っていいよね!!


「じゃあザビロニス宰相とかはどう?あの方も十分にストイックで余計な事を口にしないと思うけど」

「ザビー‥ロニス宰相は無口で冷徹過ぎます。余りにも喋らな過ぎるのは駄目です」


 しかも鼻で笑ったり人を小馬鹿にしたり典型的なニヒルキャラじゃねぇか!それで途中で過去の悲しいエピソードが出てきたりしてファンのハートをキャッチするんだろ?

 別にそういうキャラは嫌いじゃないけど、自分が馬鹿にされるのは嫌なんだよね。あと私はどちらかと言えばカリカリよりマッチョ派だ。ザビーはそんなにカリカリとは言わないけど、やっぱりベルクラース様に比べれば貧弱貧弱ぅっ!!


「なかなかサーイェも難しいね」

「そうですね。だけど理想の人なんて滅多にいませんよ。だからベルクラース様の存在は奇跡です」

「ハハハ!奇跡か!」

「はい、奇跡です」

「ふふ、だからあんなにも興奮してたんだね」

「はい。私の気持ち分かってもらえましたか?」

「うん。十分に分かったよ」


 分かってもらえて何よりだわ。


「ベルクラース様ってどんな方なんですか?」

「今は赤、緑、黒、白の全騎士団を纏める騎士団総団長を勤めているが、嘗てはオラリオスの虎と呼ばれる程の屈強な黒騎士だったんだ」

「虎…ですか?」

「ああ。強さを象徴する伝説の生き物だよ」


 虎かぁ。虎ってあの虎?四神にも白虎がいるみたいにそれと同じ様なものかな?


「様々な武勇伝があるが、一番有名な話が500年程前のブルジアーノとの戦いだ。オラリオス軍は一時壊滅状態に陥り撤退を余儀無くされたんだ。その時に殿を務めたベルクラース総団長だったんだが、追撃部隊を一人で撃退し、そして敵陣へ乗り込み形成を逆転させたんだ。その時に打ち取った敵の数は600を越えると言われている」


 すげぇえ!!それもうB●SARAだよ!!!


「その後も様々な武勲を戴き、黒騎士としての現役を退くと騎士団総団長という今の地位を賜ったんだ」

「すごいです!英雄なんですね!」

「ああ。あの方は俺達オラリオスの騎士にとって誇りであり憧れの存在さ」


 ガイシス団長の誇らし気な笑顔が本当にそう思っているのだということが伺えた。立場も人柄も申し分ない設定だね!惚れ直したよ!


「きっとヒヨからしても誇らしいお父さんですよね」

「あぁ、そうだろうな」

「噂をすれば、だよ」

「あ」


 気が付けば私達はもう部屋まで着ていた。そこにはもう既にヒヨが着ていて部屋の外で待っていた。


「ヒヨただいまー!」

「皆様お疲れ様です。会議の方は如何でしたか?」

「ああ、無事に予定通り終わった」

「そうですか。あの‥サーイェはご機嫌のようですが何かあったんですか?」

「ベルクラース様の事を話してたんだよ。素敵なお父さんだねー!」

「え?ええ、そうですね」

「もう格好良すぎてヤバいわぁー!」


 ヒヨは私の浮かれっぷりにかなり戸惑っていた。その様子にガイシス団長達は苦笑した。


「ただのファンだから問題ない」

「そうですか…」

「じゃあサーイェの事を頼んだよ」

「はい」

「じゃあサーイェ、俺達仕事に戻るからいいこにするんだぞ」

「はい!」

「じゃあね」


 ガイシス団長は私の頭を撫で、ロイス副団長はひらひらと手を振り爽やかに帰って行った。2人ともすっかり良いお兄ちゃんになってるわ。良きことだ。


「さて、じゃあ荷物取ってくるからちょっと待ってて」

「はい」



 私はヒヨに断ると寝室へ向かった。朝にテーブルの上に置いておいた白い布に巻かれた私の荷物。この白い布はレイが私にくれた布だ。私の荷物はその布に巻いておけるくらい少ない。トリップした時に着ていた服にミュール、バッグ。そしてバッグの中には財布、ケータイ、MP3、化粧ポーチ、ハンカチ、ティッシュ。

 本当に遊びに出掛けるときに必要な物しかない。今の私に残されたのはこの両手、いや片手で足りる物しか残ってないのだ。それを抱きしめると虚しさに浸った。







「おまたせ」

「いえ大丈夫です。ではダリウス邸にご案内します」

「うん、お願いします」


 私達は城を出て馬車のようなものに乗り、ダリウス邸に着くまで私はベルクラース様の素晴らしさを熱く語った。ヒヨは酔っ払いの相手をするように相槌を打っていたようだがそこは気にしない。


「ねぇねぇ、ヒヨの家族ってどんな感じなの?」

「どんなってどういう事ですか?」

「何人家族だとか雰囲気だよ」

「ああ、一応今の暮らしは父上、僕、妹と使用人の計7人で暮らしています」

「あれ?お母さんは?」

「42年前に亡くなりました」

「…ごめん」

「気にしなくていいですよ」


 ヒヨは気にしてないようだけど、何となく居たたまれなかった。


「あ、妹がいるって言ってたよね?やっぱりヒヨに似て可愛いの?可愛いよね?」

「僕に似ているからとかは別として、可愛いとは思いますよ」

「だよね!やっぱり可愛いよね!早くみたいなー女版のヒヨ~」

「……」

「ん?心配しなくても大丈夫よ。例え妹が可愛くてもヒヨの事を蔑ろにしないから」

「そういう意味じゃありません!」

「はいはい」


 私の脳内は加工されたベルクラース様と女装したヒヨで一杯だった。渋いおじさんと萌え萌え兄妹に囲まれた生活なんて幸せ過ぎる!!

 私の態度にむくれつつも、ヒヨは諦めて溜め息を吐いた。







 語り始めて約10分、私達はダリウス邸に到着した。


「おお…おっきー」


 でかいなぁー。これ富豪の家だよ。マンション位はあるもん。もちろん縦長じゃなくて横長ね。クリーム色の上品な屋敷は庭は綺麗に剪定されているのでより栄えた。本当にお手伝いさん5人で生活大丈夫なのかな?もっと居てもおかしくないような気もするけど。

 玄関に着くとヒヨは丁寧にドアを開けてくれた。


「どうぞ」

「お邪魔しまーす‥」


 何となくでかい家に入るのって恐縮しちゃう。それが庶民の性さ。

 中にはいると落ち着いたエメラルドグリーン色のバルコニーが広がっていた。正面は二手に分かれた階段があり、高そうに花瓶と壁には凛々しいお祖父さんの肖像画が描かれていた。カッコいいー。ベルクラース様によく似てる。

 左右に通路と斜めドアがある。作りとして大富豪の別荘みたいだけど、やたら金ピカしたり大量のモニュメントも無く、上品に落ち着いた雰囲気にまとまっている。うん、いいね。


「お帰りなさいませヒヨックート様」


 声のした方を振り向くと、5人の使用人さんと思われる人達がいた。4人は中高年だが一人だけ金髪の美少女…女版ヒヨがいた。


 かーわーいーいー!!!!ドレス着たヒヨが居るよ!ヒヨに比べて少し垂れ目で童顔。金の髪の毛もツインテールでふわふわしていて触り心地良さそ~!ほんっとお人形さんみたいに可愛い!服はかなり質素な服だけど…やっぱり可愛い子が着れば何でも可愛くなるよね!

 私は他の使用人さんには目もくれず、女版ヒヨをガン見していた。


「ただいま。今日はみんな揃ってるんだね」

「はい、今日から新しくこの屋敷に住まう方がいらっしゃるので、是非ともお迎えせねばと思いましてな」


「彼女がこれからうちの別邸で暮らすことになったサーイェ・アマーノゥだよ」

「存じております。初めましてアマーノゥ様。使用人頭のバッシュと申します。私は本邸に居りますが、これから生活のお手伝いをさせていただきますので、何かが御座いましたら何なりとお申し付け下さい」


 きれいな白髪が印象的なバッシュさんはやんわりと微笑んで挨拶をしてくれた、だけど何を考えてるのか分からない様な目をしている。多分私を警戒しているんだろう。


「こちらにいる使用人は右からカケール、ハンマルア、ターシャ、そしてラヴィーナです」


 順番に薄い茶色のおじさん、緑がかった髪の身長の大きいおじさん、アッシュ系の緑掛かった髪のおばさんがそれぞれお辞儀をしてくれたが、やはりどこか態度がぎこちない。

 仕方ないよね。だけど弁解する気もないし、自然と理解してくれるまで待とう。

…あれ?いま使用人って言ったよね?ラヴィーナちゃんも使用人なの?


「御迷惑をお掛けすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

「別邸での家事やお世話はラヴィーナがする事になっておりますので、何かあったら彼女にお申し付けください」

「よ、よろしくお願いします…」


 小さく鈴の鳴るような声でラヴィーナちゃんは答えた。少し緊張して私を窺う仕草がまた萌える。周りは美形の男ばっかりで正直疲れてたから余計に癒されるわー。多分ここ最近で一番いい笑顔をしたと思う。可愛い子の前じゃにやけてもしょうがないって。

 あ、やばいビビらせたかな?ちょっと驚かれてるというか固まった。私のにやけ顔は気持ち悪いんだよね。テンション上がりすぎてすっかり忘れてた。せっかくのかわいこちゃんに会えたけど、仲良くなるのは難しいか…。


「すみません。ラヴィーナは人一倍恥ずかしがり屋なんです」

「あ、そうなんだ」

「別邸へ案内します。ラヴィーナ、行くよ」

「は、はい、お兄さま」


 キター!!お兄さまキター!!!これ完っ璧。最強妹属性メイドだよ!変態臭いけどペロペロしちゃうよ!!チュッチュしちゃうよ!!!キモくてごめんよ!!!

 二次元に行きたいと常々考えてたけど、こんな形で萌えっ子に出会えるとは思わなかった 異世界ありがとう!そしてありがとう!






 本邸から歩いて約5分、木の茂る場所に別邸があった。別邸はまるで1/2スケールの本邸だった。外観も室内もデザインはほぼ同じ。違う点は部屋数が少ない事と殆どドアが無い事、そしてリビングからすぐに庭に出られることかな。あと少し離れたところに湖があって景色がいい。まるて療養地みたいだ。

 私は一通り家の中を案内してもらった。一階にはリビング、キッチン、お風呂など生活に必要な物があり、2階にはベッドルームや書室などがあった。私の部屋は一番奥の2階では一番広い部屋だった。室内は薄いピンクの壁で天蓋付きのクイーンサイズのベッド、大きいクローゼット、真っ白でピカピカの洗面所があり、まるで高級ホテルのようだった。


「こんな素敵な部屋に私なんかが住んでもいいの?」

「ええ、サーイェのために用意したので是非使って下さい」

「ありがとう」


 にっこりと笑うヒヨはやっぱり可愛いな。きっと言ったら怒るだろうけどね。

 広い庭には綺麗な花が沢山咲いており、手入れが行き届いている事がよく分かる。


「もしかして庭の手入れもラヴィーナ‥さんがやるんですか」

「‥は、はい」

「家事も庭仕事もやってたら大変じゃありませんか?」

「いえ、あの、大丈夫‥です」

「ラヴィーナは家事や花の世話をするのが好きなんです。ね?ラヴィーナ」


 ラヴィーナちゃんは黙ってコクっと頷いた。あぁ、かんわい。こういうのは普通の人がやると根暗だと思われるけど、可愛いがやるとほんわかする。今まで萌えに飢えてた分、私のデレデレ度はハンパない。


「だけど生活に馴れて余裕が出来たら私もお手伝いします」


 そう言うとラヴィーナちゃんは丸くした。


「手伝う…?」

「はい、全部ラヴィーナさんに任せていたら悪いですし、出来るだけ自分で出来ることは自分でやりたいんです」


 笑顔で言うと、ラヴィーナちゃんは俯いてしまった。え?何で!?やっぱりキモかった!!?


「あの、もし手伝われるのが嫌ならいいんです!ただ迷惑掛けてるんじゃないかなぁって思いまして…」


 今度は顔を覆い隠したぁ!!!えー!?何でー!??もう話しかけんなとか見るのもおぞましいとかそういうレベルですか?!だったら泣くよ?!!


「ラヴィーナ?どうしたの?」

「…す」

「ん?」

「ラヴィーナ、すごく恥ずかしいです」

「え?」

「ラヴィーナは、サーイェ様の事をもっと怖い方なのだと思っていたんです…」

「それは当然の事だと思います。得体の知れない存在ですし」

「はい。それに先々代王のアルフェルド様のお孫様なのに黒髪を持ち、女性ながらも黒鷲騎士団に入団される方なので、きっと岩のようにいかつくて体も大きく、刃のように鋭い目つきをした方を想像していたのです」

「ラヴィーナ…」


 怖ぇよ。それもう女を通り越してモンスターだよ。ラヴィーナちゃんも想像力豊かだよね。まさかそこまで思われてるとは思ってなかったよ。そして何気に何でも素直に言う子だね。まぁその方が気が楽で良いけど。


「だけど実際は華奢でとても可愛らしい方でびっくりしてしまいました。更に私にも気を使って下さる優しいお方だと分かり、とても申し訳なくて恥ずかしくなってしまったんです…」

「そう‥ですか」


 可愛いって‥ラビューナちゃんの方がよほど可愛いんですけど。…まぁ私も化け物に比べたら可愛く見えるか。

 ヒヨは申し訳無さそうに私に謝った。


「サーイェ、ごめんなさい」

「ううん、大丈夫だよ。ラヴィーナさんも気にしないで下さい」

「うぅ‥ありがとうございます」


 そう言いながら情けない顔をするラヴィーナちゃんはすごく可愛かった。お姉さん何でも許すよ!


「あの、サーイェ様は私に気を使わないで下さい」

「気を使わないでと言われてもラヴィーナさんも使われてるし…」

「ラヴィーナは使用人だからいいのです!」

「だけど‥。あ、友達ではいけませんか?」

「友達ですか?」

「はい。私、友達がいないので…」

「サーイェ様…」


 ここにはもう友達はいない。アンヌ達とは友達になれたけど…正直会い辛い。自分から会いに行く事はないだろう。だから友達が欲しいと思ってた。それにラヴィーナちゃんと仲が良い方がもっと気軽に生活出来るしね。


「分かりましたサーイェ様。お友達になりましょう。ラヴィーナの事は気軽にラヴィーナとお呼び下さい」

「じゃあ私もサーイェで」

「はい!」

「友達が出来て良かったですね」

「うん!」

「不束な妹ですがよろしくお願いします」

「いやいや、こちらこそよろしくお願いします」

「はい!」


 うわぁーなんだこの可愛さ!この展開!女の子の青春友情物語だよね。なか●しとかでありそう。私はりぼ●派だけど。


「あの、だけど私に敬語を使う必要はないんだよ?」

「これはラヴィーナの癖なんだ」

「はい」


 へぇー。一人称が自分の名前、シャイ、敬語口調、ツインテール、メイドで妹。最強すぎる。


「2人が仲良くなったし、僕はそろそろ仕事に戻ります。後の事はラヴィーナに任せるので、分からないことは彼女に聞いて下さい」

「分かった。わざわざありがとね、ヒヨ」

「どう致しまして」

「ではお気をつけていってらっしゃいませ」

「うん、またね」


 そう言ってヒヨはラヴィーナの頬にキスをして部屋を出て行った。







 …えぇええ?!


一応伏字&元ネタ解説


・イケパラ-ドラマ:花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~の略称。原作は中条比紗也の少女マンガ・花ざかりに君たちへ。瑞樹と佐野はその登場キャラクター。アメリカ育ちの少女・芦屋瑞稀は憧れのハイジャンパー・佐野泉に会いたい一心で、単身米国から帰国。泉の通う私立の男子高校・桜咲おうさか学園に男装して入学を果たす。運命か偶然か、泉と同じクラスになり、そればかりか寮でも相部屋になって満願成就の瑞稀だったが、狼の園に子羊一匹。にぎやかで個性的な寮生に囲まれた学園生活を送る。

・ア●ロンさんーFF10のパーティーメンバーの一人。基本的に冷静沈着だが、それは過去の後悔から来るもので、根は友情を大切にする熱血漢。

・大●明夫ー声優、俳優、ナレーター。独特の低い声質で知られる。映画の吹き替えやアニメ、ゲームなど多数出演。代表作はブラックジャック、攻殻機動隊のバトー、メタルギアソリッドのスネーク。

・バ●ナマンの日●―人気お笑いコンビの一人。『子供の頃の貴乃花』の物真似が有名。

・BASA●A-個性あふれる戦国武将が活躍するスタイリッシュ英雄(HERO)アクションゲーム。

・●かよしー3大小中学生向け少女漫画雑誌のひとつ。

・り●んー同じく3大小中学生向け少女漫画雑誌のひとつ。


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