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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第二章
27/57

第2話:お仕事が決まりました。

 監視と哀れみの目で食事を見られる気まずさで、結局食事はほとんど喉を通らなかった。私があまり食べなかった事でヒヨには更に哀れまれたが苦笑を返すしかなかった。

 君たちがいなかったらちゃんと食べてたよ!…何て言えない。

 食後、結構汚れていた私は風呂に入らせてもらった。浴室へ行く途中、ベッドルームを通っていったが、ベッドルームもこれまた豪華だった。もちろんベッドはキングサイズで天蓋付き。だけどそのベッドがダブルベッドに見えるくらい部屋は広かった。寝るだけなのにこれだけ広くしてどうすんだよ。ここ合宿所じゃないだろ。

 壁は青空が描かれていて清々しかった。光りがよく入る大きな窓の外にはバルコニー。外に出てないからよく分からないけど景色は良さそうだ。


 ベッドルームの中のドアを開けるとすぐに浴室に出た。浴室と言っても脱衣所だったけどね。脱衣所はクリーム色が基調の部屋で装飾に金や銀が使われていて上品だった。

 正面には磨りガラスのドアが付いているから多分浴室。右の壁には洗面所とドア。多分トイレかな。そして左の壁は全部鏡になっていた。…一体何をそんなに見るんだよ。自分の裸体をずっと見なくちゃいけないとかかなり嫌なんだけど。悲しいスタイルしか映らない。私が部屋を観察している間にヒヨは部屋から出て着替えを持ってきてくれた。


「有り難うございます」

「いえ、では失礼します」



 ヒヨは私に着替えを渡すと、早足でとっとと部屋を出て行ってしまった。心なしか顔が少し赤いような気がしたけど…まぁいいや。

 私は着替えを確認すると、ちゃんと下着まであった。しかもアンヌにもらったやつより豪華なレギンス。かわいいって言えばかわいいけどさー‥穿きたくない。下着どころかノーパンでズボン穿いてるようなもんだぞ。全然下着じゃないし。

 ん?もしかしてヒヨは女性の下着を持ってきたから照れていたのか?……超ウブじゃん!!見た感じ高校生くらいだけど、このパンツであの反応!普通の青少年なんて年齢制限を無視してエロ本やAV見てるのに。あの子に見せたらどんな反応するんだろう?顔真っ赤にして部屋から出て行くか気絶しちゃいそう。うわーやばい。可愛い。

 ニヤニヤしながら次の着替えをめくるとコルセットが出てきた。え、使い方知らないんですけど。アンヌはコルセットなんてくれなかったし。もしかして上流階級はつけるのか?あー、よく映画でドレス着る時とか着けてるよね。窒息どころか骨格まで変わりそうなくらいきつく縛ってさ。これ胸の部分まであるから胸まで潰れそうだ。うーん‥ブラの上に落ちない程度に軽く締めておくか。適当でいいや。

 服はシンプルだけどふわふわとしている白のロングドレス。白い長袖には肩のところにボリュームがあり、手首の辺りがきゅっと締まってる。首はタートルネックになってるけど普通に着やすい感じでよかった。今履いている靴と合わせると随分アンバランスになるけど仕方が無いか。


 お風呂に入ろうと浴室に入ると、とても広くて周りには外の景色が広がっていた。すごい景色だけど…これって外から丸見えなんじゃないの?

私はタオルを巻いて景色を近くで見ようとしたら頭を打った。う‥これ壁だ。壁がスクリーンのようになっていて魔法で外の景色が映るようになってるのか。すげー。地球でも未来で発明されそうだな。

 浴槽はよくホテルとかにある共同のお風呂みたいに広くて、壺を持った女性の壺からお湯が出ていたり、綺麗な女性や妖精の彫像があった。私からしたら無駄に広くて豪華。

 こんな広い浴室を独り占めなんて気が引けるし逆に落ち着かない。私はとっとと体を洗ってお湯に浸かるとすぐに風呂を出た。



 はぁ、全然気が休まらない…ってうわぁ!!ドアを開けたらガイシスさんの背中にぶつかり掛けた。


「あのー…」


 声を掛けると私に向き直りに頭を下げた。


「失礼致しました。僭越ながら、ここで警護をさせて頂きました」


 じーっとガイシスさんを見つめるけど、やましい感じがしないので多分真面目にドアの前で突っ立ってたんだと思う。


「そうだったんですか。えっと、警護とお風呂有り難うございました」

「いえ。リビングにお茶の用意が出来ております」

「分かりました」


 ガイシスさんに続いてリビングに戻ると、お茶とケーキが用意されていた。ヒヨがご丁寧に椅子を引いてくれたのでそれに座った。その時にヒヨと目が合うと、すぐに視線を逸らされてしまった。超ピュアだ。癒される。

 私はまたにやけそうになるのを押さえてテーブルの上を見渡した。お風呂の後に熱い紅茶を飲む気がしなかったし、ケーキも美味しそうだったが食べる気もしなかったので結局水だけ飲んだ。


「アマーノゥ様、先程もあまり食事を採られていませんでしたが、お口に合いませんでしたか?」

「あ、いえ。そんな事はありません。とても美味しかったです。有り難うございました」

「ではご気分が優れないのでしょうか?」

「そういう訳ではありませんが…」


 なんて言えばいいんでしょうね。うーん、と考えていると、ヒヨが心配そうに私を見つめてきた。…ヤバい。なんだこの可愛さ。すごい胸にくぅーっと来る‥!!

 ヒヨの可愛さはレイとはまた違った可愛さなんだよー!何だろう、レイの中身はわんこな妖精さん。マイナスイオンを大量発生させてきゅんきゅんくる可愛さ。ヒヨは全体的にわんこって感じがする。今のこの愛くるしい目とかミニチュアダックスみたいな。耳があったら今は絶対にへたれてる。うわぁ…犬耳と尻尾とか超萌え要素!


「アマーノゥ様?」

「あ、いえ…」


 耳と尻尾を想像して興奮してるだけです。気にしないで下さい。


「本当に大丈夫ですか?」

「……」


 …ダメだ。くぅーんって鳴き声が頭の中で聞こえる。私、可愛い子には勝てません。


「…少し、疲れました」

「そうでしたか。…早く気付かず申し訳ありません。隣りの部屋がベッドルームでございます。どうぞ、そちらでお休み下さい」

「はい、有り難うございます…」


 うう、もう好きにしてくれ…。何でも言うこと聞くよ。私はヒヨに続いてベッドルームに行った。



 ヒヨは私をベッドルームまで案内すると、一礼をして部屋を出てドアを閉めてしまった。そしてさっきからずっと黙って着いてきていたガイシスさんと2人、部屋に取り残された。


「あの‥ガイシスさん」

「はい」

「何故ここに居るのですか?」

「警護が私の任務です。お休みするのに失礼かと思いますが、どうぞご容赦下さい」

「そうですか…。分かりました」


 お仕事ですもんね。それはどうもお疲れさん。私は彼を外へ出すのを諦めて大人しく寝ることにした。さっき通った時はあれで寝るのは気が引けるなぁとか思ったけど、そろそろ疲れがピークに達してきたのでどうでもよくなった。

 ベッドの中にもそもそと潜ると、見た目に反して布団はかなり軽くて温かく、心地良かった。かなり寝やすいコタツに潜ってる感じだ。ぬくぬくする。あー、幸せ。しばらく出たくありません。コタツに入るとなかなか出れないんだよなぁ。全く動かない。コタツには魔物が住んでるからね。

 布団に包まって和んでいると、ガイシスさんと目が合った。ガイシスさんは私をガン見していた。…和んじゃいけませんでしたか?いや、けど休めって言ってたし。…気にするな。うん。それが一番。寝よ。あ、そういえば…。


「あの、ガイシスさん」

「何でしょうか?」

「陛下が来る事が分かったら起こしてくださると嬉しいです」

「分かりました」

「有り難うございます。お仕事頑張ってください。ではおやすみなさい…」

「はい」


 私はお礼を言うとまたもそもそ動いてガイシスさんのいる逆の方向を向くと、のび●君のように3秒で寝た。










「…きろ」

「ん…」

「いつまで眠っているつもりだ。早く起きろ」


 んー、ザビー…?何だもう来たのか、早いな。ゆっくり瞼を開くと…


「目は覚めたか?」


 面白そうに笑う王様の顔が見えた。


「陛下‥?」

「目は覚めたか?」

「え?あぁ、はい、目は覚めましたけど…。あの、ガイシスさんは?」

「やつは下がらせた」

「そうでしたか…」


 起こしてって頼んだのにな。まぁいっか。王様は関係ないように私の顔を撫でた。


「陛下、かゆいです」

「起きている時は美しいが、寝ているお前は愛らしいな」

「陛下、寝言は寝てから言ってください」

「身も綺麗になりその服も良く似合っている」

「陛下、人の話を聞いてください」


 いつまでふざけた事言ってるんだ。顔を顰めると陛下に笑われた。


「陛下に向かってその様な振る舞い、失礼だと思わないのか?」


 そういえばザビーも居るんだった。陛下のおふざけですっかり忘れてたわ。


「余が許したのだ。気にする事はない。ザビロニスもわざわざそのような事で目くじらを立てるな」

「……」

「サーイェもザビロニスに気遣う必要は無いぞ」


 うわぁ…こいつ明らかに不満そうな顔してる。うん、気遣う必要は全く無いな!ざまぁ!!


「陛下は貴重な時間を割いてここに参られたのだ。さっさと話を聞かせろ」


 お前は姑か。まぁ話さなきゃ埒が明かないな。私は荷物を取り出すと、私のいた世界やここに来た経緯を詳しく二人に話した。









「…と、まぁこんな感じです」

「……」


 私の話を聞き終えた二人の表情が対称的だった。王様は面白そうに微笑んでいて、ザビーの表情は全く変わっていなかった。何を考えているのか読み取れない。


「陛下」

「何だ?」

「これからどのようにしてこの者を住まわせるつもりですか?」


 いきなり話が飛ぶな。まぁ信じてくれたのは嬉しいけどね。見たことも無い容姿や道具を持ち、何を聞いても的確な答えを返すやつがいたら信じない訳にもいかないだろう。もし私がド●えもんに会ってどこで●ドアや●ケコプターを実演されたら信じると思うし。


「サーイェを王族の血筋を引いていることにするのが無難だろう」

「真実を隠して城に住まわせるという事ですか?」

「ああ、この話を信じる者は少ない上に世界を根本的に覆す話だ。これ以上騒ぎを大きくする事を本人が望んでいないからな」

「…ほんと申し訳ありません」

「気にするな。余はお前のその正直さを気に入ったのだからな」


 不敵に笑う王様の笑顔は頼もしかった。その前向きな性格と器の大きい所はぜひ見習いたいよ。


「多分王族の血筋になるだろうと思って、私も少しは考えておきました」

「では聴かせよ」

「…はい」


 ザビーが王様以上に偉そうに言った。お前は何様だよ。あ、お義母様か?


「どなたか過去に女遊びの激しい王族はいませんでしたか?」

「先々代の王は女遊びが激しかったと聞いているが…」

「では私を『先々代の王が一夜の遊びで出来た庶民の女性との間に出来た子供の子供』ということにして下さい」

「庶子の子、ということか?」

「はい」

「確かにそれなら存在が明らかにされてなくても不思議ではないな…」

「しかし陛下、庶子の子が王族として城に入るのは反発する者が多々いるかと思います」

「あ、別に私は一般庶民と同じ扱いで構いません」


 二人は訳が分からないといった顔で私を見た。そこまで変な事言ったか?


「私の存在は今まで認知されていなかったし、王族とは全く関係ありませんでした。私が王族に入っても陛下の立場を悪くしたり利用されるのが関の山です。それに陛下には言いましたけど、下らない陰謀に巻き込まれるのはごめんです」


 後半が本音ですけどね。素直に言ったらまた王様に笑われ、ザビーには呆れたような視線を送られた。


「そうか。ではお前は我が一族・オーディスラルド家の血筋を引く者だが、王族の地位や権力は全く必要ない、という事でいいのだな?」

「はい、お願いします」

「しかしお前が王家に入らないにしろ、暮らしも庶民と全く同じにする訳にはいかない」

「そうだな」

「じゃあどうするんですか?」

「部屋はこの塔の一室を使い、生活はまず城での振舞いや教養を身につけてもらう。その後はあまり表に出ないように静かに暮らすことになるだろう」

「…という事は、私は働かずにこの塔で大人しくしていろ、という事ですか?」

「そういう事だ」


 何だそれ。それって結局この塔に軟禁されているだけじゃないか。ふざけんな。これじゃあ神聖樹海から出てきたことすら無意味になる。そんなの絶対に…


「嫌です」

「何だと?」

「宰相の言う通り、ここで大人しくしていれば問題も起きる事はないと思います。だけど私は働きたいんです」

「何故だ?」

「先程も言いましたが、私は病気持ちなのであまり自由に一人で何かをする事が出来ませんでした。大人なのにいつまでも親に甘えて、仕事もせずに家に居るのはとても心苦しかったんです。その心配をする必要が無い今、私は自分で生きてみたいんです。何でも構いません。私に働かせてください」



 私が頭を下げると沈黙が続いた。


「サーイェ、顔を上げろ」

「はい…」


 ゆっくりと顔を上げると二人は真面目な顔をして私を見ていた。


「お前は…成人しているのか?」

「え、そうですけど…。あれ、言ってませんでしたっけ?」

「聞いていない」

「あー‥それはすみませんでした」


 陛下たちから見たら子供だっていう事をすっかり忘れてたわ。確かに言ってなかったかね。ていうか言うタイミングなかったし。


「お前はいくつなのだ?」

「20歳です」

「人間で20歳ということは、魔人では100歳か…」


 王様は信じられないと言った顔で私を見て、ザビーの眉が少し寄った気がした。


「背も低いし顔も幼いから50代くらいかと思っていた」

「あー、ダンさ…ラウム家の人にも言われました。魔人は何歳から成人なんですか?」

「100歳からだ」

「あー、じゃあ同じですね。私の国も20歳が成人なんですよ。50代ってことは…私って10歳位になるんですか?」


 まさか10歳は無いだろ…。だって小学四、五年生だよ?20歳になってランドセルを背負うのはキツイよ。三●春馬がランドセルを背負っているとか…無理だ。そんな小学生は絶対に嫌だ。


「いや、人間で言えば13~16歳くらいになるだろう」

「そうなんですか。ちなみに私は人間で何歳くらいに見えました?」

「13・14歳位だろう」


 やっぱり若いなぁ。6、7才の差ってかなり大きいぞ。


「成人か…」


 王様はぼーっと私の顔を見た。確かに外人から見たら若く見られるけど、そこまで信じられないものか?私が首を傾げると陛下はまた顔を触ってきた。


「成人という事は、結婚できる年齢だな」

「へ?ああ、そうですね」

「それならやはり余と結婚しないか?」

「はぁ?」


 何言ってんだよこの王様は。朝に話した話覚えてないの?馬鹿なんですかそれともタラシなんですか?きっと馬鹿って事は無いと思うから後者か…。成人女性なら誰でもいいみのかよ。うわサイテー。


「‥サーイェ、それは王に向ける視線ではないぞ」

「普段だったら不敬罪に問われるものだ」

「え、ああそうでしたか?それはすみませんね。つい思った事が顔に出てしまって」

「お前…」

「ほら、いつまでもふざけてないで話を進めますよ」

「……」


 王様は溜息を吐き後ろにも垂れると気だるげに話を促した。


「私の事は50代のー…人間年齢で13歳という事にしておいて下さい。子供なら許される事もありますし、いざこざにも巻き込まれにくいと思いますし」

「ああ、そうだな」

「しかし一口に働くと言っても、50代で城での仕事というのはかなり限られているぞ」

「別に掃除係とか皿洗いで良いですよ。というかそれがやりたいです」

「駄目だ」

「何でですか?」

「いくら地位は無くとも体裁上、王族と同じ血を引く者にその様な仕事をさせる訳にはいかない。それにその外見ではよく知りもしない者には不気味でしかないだろう」


 私の希望はすっぱりとザビーに斬られてしまった。


「じゃあどうするんですか?」


 下働きも駄目で年齢的にも駄目だったら仕事なんてほとんど無いじゃないか。


「黒騎士か白騎士が妥当だろう」

「え、騎士!?」

「黒騎士と白騎士に所属する者は貴族から庶民まで幅広い身分も関係なく過ごせる。よって貴族の干渉も受けにくく、王族の血を引く者として品位を落とす事はない。身の守る術を自分で覚える事も出来る。最初は慣れないかも知れないが、強力な魔力を持っていれば武術が使えなくとも平気だろう」

「そうですね…」

「確かにザビロニスの言う通りだが、サーイェには危険過ぎないか?」

「気になるようでしたら魔獣の討伐や戦闘には参加させず、騎士団の中でも安全な仕事を回せばよろしいかと思います」


 そうか、騎士って言っても安全な仕事もあるんだ。だったらいいじゃないか。警察官だってお巡りさんからCIAまで色んな部署があるし。


「陛下、わたし騎士団に入りますよ」

「いいのか?」

「はい。話を聞いた限りでは一番適当ですし。武術は使えないので雑用や見回りなどの地味な仕事をやらせてもらいますよ」

「そうか」


 王様は再び私の顔に手を伸ばして優しく撫でた。この人、人の顔を撫でるの好きだなー。


「だが騎士団の入団には男のみとなっている」

「え、そうなんですか?」

「ああ、女は生命の母。守るべき存在だからな」


 おぉ…紳士というか騎士道というか……クサイな。ブラック●グーンとか見せてあげたい。戦う女がどんなにかっこよく美しいか…。女優だったらアン●ェリーナ・ジョリーとかミ●・ジョヴォビッチもそうだよね。だけど男しか入れないのにどうやって…まさか!


「男として入れとか言わないですよね!?」

「それはない。お前の存在はイセアに行った騎士たちは知っているし、そのことは既に他の者にも知れ渡っているだろう」


 なら良かったー!男装物の逆ハーとか私には無理だ!!やり切れる自信がない。


「余が許可を出せばサーイェは入団する事は出来る。だが男しか居ないから襲われるかもしれないぞ」

「常に寝食共にしている訳じゃないから大丈夫でしょう。それに私を襲う人なんかいないと思いますよ。不気味な奴に手を出す物好きはいないでしょう」

「いや、お前は美しい」


 …たくこの王様は。いつまでふざけた事を言ってるんだ。早く医者に診て貰った方がいい。もう溜息しか出ない。


「仮にそうだとしてもマニア向けでしかありませんよ」

「そんな事はない。ザビロニス、お前も美しいと思ったであろう?」

「……」


 返事ねぇじゃねぇか。目を逸らされるのも案外むかつくな。


「これでマニア向けって分かったでしょう?」

「だが…」

「陛下は心配のし過ぎです。例え襲われても()られる前に()ってやりますよ」

「……」


 『()ってやる』じゃないだけ良いと思って欲しいものだ。ふんっと鼻を鳴らすと陛下が肩を揺らし始めた。


「クックックッ、そうだな…それがいい」

「分かってくれましたか?」

「ああ」

「じゃあ騎士団に入団ということでお願いします」

「分かった。入団を許可しよう」

「有り難うございます!」



 よっし仕事決定!人生で初の仕事だ!!あー嬉しいなぁ!少し不安もあるけど、とりあえずやってみないと分からない。安全な仕事もあるみたいだし。仕事を貰ったからには真面目にやりたい。笑顔でお礼を言ったら苦笑した王様に頭を撫でられた。


「明日、適性検査をしてどちらの騎士団に入団するのを決定する」

「分かりました」

「ザビロニス。ガイシスとアドニスにこの事を伝えておけ」

「御意」

「では余は部屋に戻る」

「あ、はい。忙しいのに有り難うございました」

「良い。お前も疲れているのだろう。よく休め」

「はい」


 王様が部屋から出て行くのを見送ろうとしたら、陛下が振り向いた。何?


「まだ言っていなかったな。我が名はオズウェルシス・ヴェントナート・オーディスラルドだ」

「おずうぇるしす?」

「ああ」


 …長ぇ。特に後半部分。


「身分は違えど我らはこれから親族だ。いつでも頼れ」


 私の頭を優しく撫でる陛下の手がとても暖かくて、なぜか気恥ずかしくて俯いてしまった。


「…はい。ありがとうございます。陛下」

「名を教えたのに陛下と呼ぶのか?オズウェルシスでいい」

「そんなの庶民が呼べる訳ないじゃないですか」

「お前なら気にせん」

「オズ、ウェルシス…。これで、いいですか?」


 恐る恐る陛下を見上げると、陛下はいきなりガバっと抱きついてきた。


「な、何ですか?!」

「良い!やはりお前は愛らしい!」

「はぁ!?訳分かりません!ていうか離して下さい!!」

「嫌だ」

「ちょ、ザビーどうにかして!あ…」

「ザビー?」


 しまった!ついいつも考えている方が出てしまった!!ザビーの方を見ると『何言ってんだこいつ…』っていうのがひしひし伝わってくる…。


「いやー‥これは深い意味は無くてつい出てしまったんですヨ…ハハハ」

「……」


 無言の視線が恐ろしい…。


「では余の事はオズと呼べ」

「はぁ?」

「ザビロニスだけ愛称で呼ぶのはずるいであろう」

「ずるいも何も無いでしょう!ちょっと間違っちゃっただけじゃないですか!いい加減離・し・て・下・さ・い!」

「嫌だ。オズと呼ぶまで離さん」


 こいつは…!『俺の名を言ってみろ』とかお前は●ャギか!!いくら押しても離さないし!


「あーもう分かりましたよオズ!これでいいですか!?」

「ああ」


 満足げに返事をすると、陛下はようやく離してくれた。


「ほらもう遅いんだから早く部屋に戻ってください!」

「急かさずとも良いだろう?」

「良くないです!宰相!早くこの人を連れて帰ってください!」

「……」


 こいつもまだ黙っていやがるし!そんなに気にする事か!ちっちぇ野郎だな!!


「あーもうさっきはすみませんでした!だから早く…」

「陛下、明日も仕事があります。行きますよ」

「そうだな。ではまた明日」



 最後に王様は私の髪をさらりと梳くって優雅に部屋を出て行った。もちろんザビーは私の方を見向きもせず、寡黙に王様の後に続いて出て行った。

 嵐が去った…。仕事が決まって嬉しかったけど、今ので一気に吹っ飛んだ。疲れた…。さっき寝たといっても完っ璧に熟睡だったから寝た気しないし……とっとと寝よ。





 一応伏字&元ネタ解説


・の●太君-国民的アニメに出てくるキャラクター。いつもネコ型ロボットに頼ってばかりいるダメ人間で、寝るのがやたら早い。だけど心優しく射撃が天才的に上手い。

・ど●でもドア-ドラえも●のひみつ道具の一つ。行きたいところに行ける。

・タケコプター-上と同じくひみつ道具の一つ。頭につけて空を飛ぶ。

・三浦春●-1990年生まれの人気俳優。お気に入りの漫画は『はじめの一歩』。

・ブ●ック・ラグーン-原作:広江礼威。戦う女性が多く、やたらかっこいい。

・アンジェリーナ・ジ●リー:1975年生まれのハリウッド女優。代表作品『トゥーム・レイダー』など。唇がセクシー。

・ミラ・ジョヴォ・ビッチ:1975年生まれの元・モデルのハリウッド女優。代表作品『バイオ・ハザード』など。胸は無いけどかっこいい。

・ジ●ギ-原作:武論尊のハードボイルドアクション漫画に出てくるキャラクターの一人。主人公の義兄。断末魔の叫び声は『ばわ!』




ウィキを参考にしつつ適当に解説しています。ウィキで調べると色々な事が分かって面白いです。



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