第1話:やっぱりイケメンばっかり
なぜこんな事になったのか、それは私が城で暮らすことが決まった日に遡る…。
「サーイェ、いつまで落ち込んでおるのだ。城で暮らすというのなら早々に準備を始めるぞ」
「…はい」
誰のせいで落ち込んでると思ってんだよ!王様は気にせず階段に座り込み話を進めた。
「余はお前の事をザビロニスに話すことにする」
ザビロニスって…
「隣にいた男性ですか?」
「ああ。あれでもこの国の宰相、余の右腕なのでな。このように重大な事を隠してはおけん」
「そうですか…」
「嫌か?」
「‥別に構いません。これから暮らす上で必要な事ですから」
仕方ないよね。それで少しでもマシに暮らせるなら我慢するよ。
「先程のあやつの態度だが、許してやってくれ」
「え?」
王様を見ると苦笑していた。普通王様がこんな風に簡単に謝るものなのか?
「あやつは昔、イセアに住んでいたのでな。村を荒らされて少なからず苛立っておったのだろう」
「そう、ですか…」
それは申し訳ないことをしたな…。私を犯人だと思っているんなら許せないだろうね。もし私が彼の立場だったら簡単に許せる事が出来るだろうか?…難しいかも。
「分かりました。その事は水に流します」
「うむ」
「ただ問題は彼が私の言うことを信じてくれるかという事ですね」
「そうだな。信じさせる証拠があれば良いのだが…」
証拠かぁ…、あ。
「あります!」
「何がある?」
「私の荷物です。私の荷物の中に今まで向こうで生活していた物が入っているんです。それを見たら信じれくれるんじゃないでしょうか?」
「それはどこにあるのだ」
「騎士様に私の荷物を村からこちらへ持ってきてくれるように頼んであります。昨日頼んだので多分もう持ってきてくれていると思うんですが…」
「そうか、では後ほど詳しい事を決める時に持ってきてもらおう」
「はい」
「ではとりあえず謁見はここまでにする。余は他にもやらなければならない仕事があるのでな」
そりゃそうだ。王様だもん。いきなり罪人の謁見が入って迷惑だよね。
「お忙しい中お時間を割いてくださりありがとうございました」
「気にするな。なかなか面白かったからな」
王様はにんまりと私の方を見た。そんな基準で良いのか。
「では詳しい話は夜にする。部屋を用意するのでそこで大人しく待っておれ」
「分かりました。だけど牢屋じゃなくて良いんですか?」
「お前はもう罪人ではなかろう?ならば部屋で良い」
「…ありがとうございます」
王様は私に笑いかけると、ぶつぶつと呪文を呟いて魔法を解いた。
「話は終わった。ザビロニス」
「は」
すぐに返事が聞こえ、ドアが開きザビーがやってきた。
「この者を城で生活させる事にした」
「……」
ザビーは返事をせず、目を見張って王様を見ていた。少しは表情変えられるんだね。とは言っても筋肉は全く使ってないけど。
「詳しい話は公務が終わってからする。この者を最重要客室に連れて行け」
「陛下…」
「それと村から持ってきたというこの者の荷もそこへ運べ。くれぐれも扱いには気をつけよ。良いな?」
王様はザビーを見つめ、ザビーもしばらく王様を見ると、ようやく返事をした。
「御意」
「では余は執務の戻る。後は頼んだぞ」
「は」
どこからともなく最初に王様と一緒に居たらしい赤い鎧の騎士たちが入ってきて、王様と共に部屋を出て行った。その態度は毅然としていて、さっきまで気軽に話していた雰囲気など微塵もなかった。切り替えが早いな…。さすが王様だ。
その様子をぼーっと見ていると、ザビーが降りてきて私に近づくと冷たく私を見下ろした。何だよ、やんのか?
私も負けじと見返すとザビーは何も言わず目を逸らし、黒騎士たちを呼んだ。
「黒騎士」
ザビーが呼ぶと私を連れてきた団長達が入ってきた。
「この者をアイ塔の最重要客室へ案内しろ。陛下が来られるまでそこで過ごしてもらうので部屋の警備をせよ。そして陛下から扱いには気をつけよとのお言葉があった。失礼の無いように」
「は!」
失礼の無いようにって‥あんたのその態度はもうすでに失礼だよね。淡々とやる気ありませんみたいな感じでいうなよ。説得力ないなぁ。
ザビーはそれだけを伝えると、とっとと部屋を出て行ってしまった。余程私と一緒に居たくないらしい。まぁお互い様だけどね。
それにしても最重要客室って…何でそんな部屋を用意してくれてるんだ王様!普通の部屋でいいのに!!
「申し訳ありませんが移動のためこれをお被り下さい」
「あ、はい」
私が王様に心の中で文句を言っていると、団長が麻袋を見せた。最初より喋り方が断然丁寧になってる!だけど、今までの団長の話し方も嫌いじゃないよ。ザビーみたいに見下してるわけではないし、軽蔑しているようでもなかった。粗野でも気持ちの問題なのさ。私は大人しく麻袋を被せられた。
「ではこちらへどうぞ」
私はまた黒騎士に囲まれ移動を始めた。謁見の間から出てしばらく歩くと、床にサークルが描かれていた場所に来た。そこの両隣には緑の騎士が立っていた。
「アイ塔の客室広間まで頼む」
「了解いたしました」
私達がサークルの中に立つと、緑の騎士達が呪文を唱え始めた。するとサークルには魔法陣が現れ始め、全て描かれえると一瞬で豪華な作りの広間に移動をした。
「しばらく歩きます。私に着いてきて下さい」
しばらく歩いていくとまた緑の騎士とサークルがあり、さっきと同じように瞬間移動をした。それを3回位繰り返すと、もっと豪華で品のある廊下に出た。そこはもう歩くことはなく、すぐ傍に両開きのドアが一つだけあった。
「こちらになります」
ドアの前に着くと、私の両隣にいた騎士達が左右のドアを開けてくれた。
「うわぁ…!」
部屋の中はクリーム色を基調にした部屋で、細やかな壁画が描かれていた。天使はいなかったが、可愛らしい妖精や植物が描かれていた。そして透かしのように薄っすらと、さっき見た宗教画の神様も描かれていた。
すごーい!超豪華!!さすが最重要客室だね!これはもう世界遺産の領域だわ。ヴェルサイユ宮殿みたいに豪華だよ。あの絵、描くの大変だっただろうなー。
「どうぞお入り下さい」
「あ、はい。すみません‥」
こんな所でアホみたいに口を開けて見てちゃいけないよね。
私が部屋に入るとドアが閉まった。そして腕の拘束を解き、丁寧に麻袋を外してくれた。
「有り難うございます」
「御礼など必要ありません。私達の今までの無礼をどうぞお許し下さい」
団長を含め、他の騎士達の私に頭を垂れた。うわぁ‥何だこれ。
「あの、その事は気になさらないで下さい。私は罪人として捕まっていたので当然の態度です。それに皆さんは私を貶めるような態度ではありませんでした。私はその事がとても嬉しかったです。有り難うございます」
「……」
いま思えば、だけどね。普通だったらもっと怒鳴り散らされたりぶん殴られてもおかしくなかっただろう。だけどみんな紳士だし。
「お許し頂き、有り難うございます。ここでは私達黒騎士がこの部屋の警備、警護をさせて頂きます」
「分かりました」
警備と言えば聞こえは良いけど、実際は監視だよね。夜までこの部屋で軟禁かぁ…。まぁ牢屋よりかマシか。あそこはお尻が痛くなるからね。
「ご挨拶が遅れました。私はこれよりアマーノゥ様の警護をさせて頂く黒鷲騎士団・一番隊隊長兼、団長のガイシス・マングライドと申します」
団長はようやく兜を外して自己紹介してくれたのだが…かなりのイケメンだった。スポーツマンタイプのイケメンだね。
健康的に焼けた肌に金の短髪で、瞳は濃い水色。逞しく精悍な顔つきなのに、目に少し愛嬌があるので、近寄りがたいという感じがしない。それに真っ直ぐに見つめる視線は、この人の性格を表している様だった。身長も190cm以上はあるだろうなぁ…。とにかくでかい。大きくてこんだけ面が良ければモテるよなぁ。まぁ私はずっと近くで見ていると首が痛くなりそうなんだけどね。
「どうかなされましたか?」
「あー‥いえ、何でもありません。こちらこそよろしくお願いします」
「こちらに居るのはこの部屋の警備を行うロイス・テレミスと、ルーカス・フォンドです」
団長が二人の騎士を紹介すると、二人も冑を外して自己紹介した。
「ご紹介に預かりました黒鷲騎士団・二番隊隊長兼副団長のロイス・テレミスです。警備は万全を尽くしますのでどうぞ安心してお過ごし下さい」
「…はい、有り難うございます」
「同じく黒鷲騎士団・三番隊隊長兼参謀のルーカス・フォンドです。よろしくお願いします」
「…よろしくお願いします」
またもやイケメン's…。ロイスさんは身長180後半?程よい肌色で赤茶髪の前髪をななめ分けにしていて、明るい茶色の目をした万人向けのイケメンさん。
ルーカスさんはロイスさんよりちょっと身長が高くて、少し白めの肌色。よくいる欧米人タイプの白さだから不健康そうという訳ではない。薄い茶髪で少し眺めの前髪で少し垂れ目で左目の舌に泣きぼくろ。アンニュイな感じのフェロモンを出してる。
…どうしてイケメンばっかりわらわらと出てくるんだよ!!入団試験でオーディションでもやってんのか!?あーもう落ち着かない!普通の人出て来いよ!!!禿げたおっさんでもいいから出てきて私を落ち着かせて!!!
私が内心荒れ狂っているとドアのノック音が聞こえた。誰か来た!来いおっさん!!
「失礼します」
ドアを開けて入ってきたのは………カワイイ系のイケメンでした。
「サーイェ・アマーノゥ様の荷物をお持ちいたしました」
「お渡ししろ」
「は」
かわいこちゃんは私の元に来ると、一礼して荷物を渡してくれた。
「初めましてアマーノゥ様。黒鷲騎士団・一番隊副隊長のヒヨックート・レン・ダレリウスです」
名前長っ!!え、ていうかこの顔で‥いや、若そうなのに副隊長なの?すごー‥。あ、貴族の息子とかそういう感じか。
身長はあんまり高くなく私より少し高いくらい。160cm代だと思う。黄色味の強いブロンドで後ろで髪を結んでいるが少しボリュームがあるから少し先が跳ねててかわいい。しかも顔も小顔で男のわりには色白、大きい瞳はエメラルドグリーン。‥女の私より可愛いってどうよ?誘拐とか襲われないのか不安だ。
「本日は陛下が来られるまでアマーノゥ様の御世話をさせて頂きます」
「そうですか…。よろしくお願いします‥」
こんな可愛い子に面倒をみられるとは…むしろ私にさせて下さい。かわいこちゃんにそんな事させてしまうのはどうも気が引けるよ。
「陛下がこちらに来られるのは夜になりますので、それまでこの部屋でお寛ぎ下さい」
「……」
どう寛げと?世界遺産レベルの部屋で尚且つイケメンに囲まれて寛げるほど私は神経太くないぞ。
「では私達には部屋の外で警備を致しますので失礼します」
そう言ってロイスさんとルーカスさんは出て行った。そして残るは団長ことガイシスさん。
「私は室内で警護をさせて頂きます」
「…分かりました」
「どうぞお座り下さい」
「はい…」
え、これって座っていいの?座るものというより飾るもの的な意味合いの方が強そうなんですけど…。私は恐る恐るかなり高級そうなソファに座った。
うわぁ…!座り心地抜群!!だけどなんか寛げねぇえ!!小庶民がこんな高級そうな椅子に座って気が休まるわけが無い!ていうか私風呂に入ってないし洗濯もしてないから汚いんだよ!ソファを汚す事の方が罪悪感感じるわ!!
それに部屋に居るイケメンだよ!減ったにしても寛げないよ!!ヒヨックート‥めんどいからヒヨでいいや。ヒヨは隣の部屋に行ったし、ガイシスさんは私から少し離れたところにイギリスの衛兵の如く立ってる。…あー!こんな事になるなら牢屋の方が良かったかも…。
私はソファに凭れないように背筋を伸ばしてどうしようかとそわそわしていると、ヒヨが戻ってきた。
「アマーノゥ様、食事の用意が出来ましたので、どうぞこちらでお召し上がり下さい」
「え?あ、はい。有り難うございます!」
やったソファから離れられる!私は荷物をソファに置いて立ち上がると、ヒヨに続いて隣の部屋に入った。
そこには長いテーブルの上に豪華なフランス料理のような食事が用意されていた。こんな短時間でどうやって用意したんだよ…。ヒヨに椅子を引かれて椅子に座ったのは良いが、こんなに食べられない。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。初めて見る豪華な食事に驚いてしまって…」
誤魔化すためにアハハと空笑いしたが、かなり哀れみの目で見られた。
こんな空気が夜まで続くなんて嫌だー!!!