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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
24/57

第23話:最悪な処罰

「…異世界からきた、だと?」

「はい、そうです。信じられないでしょう?」


 余りに予想外の話に王様もビックリしたらしく、さっきの真面目な顔に戻った。


「確かに、とても信じられるようなものではないな…」

「だから確認したんですよ。本当に信じてくれるのかを」

「……」

「私だってそんな事言う人が目の前に現れたら頭がおかしいんじゃないかって疑いますよ。だけどこれが真実です。もし陛下が信じられないようでしたらこの話はここで終わりにします。先程も言いましたが意味が無いし面倒くさいんで」


 私が溜息を吐くと、王様は肩を揺らした。


「‥何ですか?」

「余りに素直な反応が面白くてな」

「最後ですからね。だったら開き直るしかありませんよ」

「フッ、そうか。だがまだ最後とは決まっていないだろう。余はお前を信じると言った。最後まで話を聞かなければ判断をする事が出来ないからな」

「そうですね…」


 王様の笑顔は人をからかって笑っているような笑いではなくどこか温かな笑いだった。こんな風に人を信じられる王様はすごいな。



「話を続けよ」

「‥はい。私は人間が住む地球という星の日本という国に住んでいました。私は持病を持っていて、今回はその発作が起きて意識無くなり、次に目覚めた時には神聖樹海に居たんです」

「お前は神聖樹海に居たのか?」

「ええ。そうですけど…」

「護神の森から着たとは聞いていたが、まさか神聖樹海から来たとはな…」

「やっぱり神聖樹海は特別なんですね」

「ああ、神聖樹海は王族でさえ勝手に立ち入る事は出来ぬ。そこまでの道中が厳しい事もあるが、あそこには我が世界の神々が住まうといわれている場所だ」

「…罰当たりですみません」

「いや、お前も分からないなら仕方がない」


 本当ならかなりやばい事だろうけど、王様は苦笑しながらも許してくれた。ありがとう王様!


「お前は人間の居た世界から来たと言っていたが、お前も人間なのか?」

「はい」

「では何故魔法が使えるのだ」

「それは多分森の中で出会った人のおかげかと」

「…誰だそれは?」

「えーと、倒れている私を介抱してくれた人が居たんです。その人にこの世界の事を少し教えてもらい、えと…まぁ色々あって森を出て行くときににおまじないを掛けてくれたんですよ。それ以来魔法が使えるようになりました。あと多分言葉が通じるのもそのせいだと思いますよ」


 そうだよ、レイに舐められまくってから使えるようになったんだよなぁー。レイ元気かな…。


「ほう‥その者は一体何者なのだ」

「分かりません。突然ふらりと現れ、ふらりと消えていってしまったので」

「そうか」


 何となくレイの話を他の人に話したくなかった。やっぱりレイの存在はこの世界でも特別だと思うから、ここで話したら迷惑が掛かるような気がした。


「魔人でも人間に魔法を使えるようにするような力を持っている者がいるとは聞いた事がない。ではそのまじないのせいでお前の髪もそのような色に変化したのか?」

「いや、これは自前です」

「自前なのか?」

「はい。私の世界では髪の毛を染める事が出来るんですよ。だから私は赤に染めたんですけど、髪の毛が伸びてきたので元の髪色である黒が生えてきてこんな風になったんです」

「それでこうなったのか…。我々魔人は髪の色を変える事が出来ぬのだ。髪はそれぞれのメージが関係しているので意図的に変化させる事は出来ない」

「なるほど。だから私の髪が珍しいんですね」

「ああ、しかも聖と魔という特別な色だからな」

「私の世界ではそんな設定無いし、普通の色だからそんな風に好奇の目で見られて本当に迷惑です」

「フッ」


 王様はまた楽しそうに笑ってるよ。他人事だと思ってー!



「お前の世界で簡単に異世界に来る事が出来るのか?」

「出来る訳ありませんよ。仮に出来たとしても私は行こうとは思いませんね」

「では何故お前はここに居るのだ?」

「それは私が知りたいですよ!」

「そうか…。では戻る事も出来ないのか」

「その方法が分からない限り戻る事など出来ないでしょう。森の人の話だと、この世界に異世界から人が来たなんて前例は無いのでしょう?」

「ああ、その様な話は文献でも読んだ事が無いな」

「ですよね…。じゃあ戻る方法はほぼ無いと考えても良いと思います。しかし唯一考えられるとしたら、また発作が起きるのを待つしかないでしょうね」

「そうだな…。お前の発作は頻繁に起こるではないのか?」

「いつ来るかは分かりません。それをいつまでも期待して大人しく待ってても仕方が無いでしょう?だったら前向きにこの世界で暮らしていく事にしたんです」

「なかなか良い考えだな」


 王様は微笑んだけど、複雑な気持ちだった。


「だからイセアで平穏に暮らしたかったのですが…」

「今回の事件が起きた、か」

「はい。例え私が犯人でなくても、容姿や能力の事を考えたら私が疑われて当然です」

「そうだな‥。しかしお前はそれで良いのか?」

「別に。元からいつまでも平和に暮らせるとは思っていなかったので」

「何故お前はそう思ったのだ?」

「それはですねー‥」


 はぁ…。王様の目が私を射抜くように見ているけど、私は思いっきり溜息を吐くしかなかった。



「私の世界にはトリップ小説と言うジャンルの物語があるんですよ。そのお話の主人公は大体は神に選ばれたとかふとした出来事で異世界に行く事になるんです」

「ほう」

「それで異世界に行った主人公は特殊な能力や魅力があったり、特別な存在として世界を救う勇者になったり、巫女として崇められたり、お城で美形に囲まれモテモテになって暮らしたりして異世界で生活するんです。そして成長してもとの世界に帰るか、幸せに異世界で暮らすんです」

「ほう…」

「だけど私はそんな王道トリップは絶対に嫌です。世界を救うために冒険したり、お城で美形に囲まれて暮らす気もありません」


 王様は面白そうに興味を示した。


「それは何故だ。幸せに暮らせるなら良いだろう?」

「読んでいる側なら良いけど自分がその立場になるのは嫌なんですよ!例え私が勇者だったとしても、私は命懸けで世界を救うほどの正義感もやる気もありません。そして巫女にだったとしても、大した人間でもないので崇められても気持ち悪いだけです。それからお城で暮らしたとしても、私には魅力もないし、下らない陰謀やどろどろの恋愛に巻き込まれるのも真っ平ごめんです。だから私は平和に小さな村で暮らしたかったんです」

「くっ‥ははははは!!」

「陛下!これは私にとっては異世界で暮らすにあたって重要な問題なんですよ!」

「あぁ、そうだな。実に気持ちの良い意見だな」

「…それはどうも」

「しかし、自分の能力を生かそうとは思わないのか」

「例え能力があったとしても、自分の意にそぐわない物だったら要らないでしょう?私は一般の平均的な力があれば良かったんです。だけど私は見た目も能力も普通ではありません。だから普通の暮らしはいつか終わってしまうと思っていました」

「そうか…」

「私がいる事で村の皆を危険に晒し、迷惑を掛ける形になってしまったのなら私が事件の犯人です。どのような処罰でもお受けします」

「…随分、潔いのだな」


 王様の言葉は独り言のように聞こえた。それくらい静かで、私には寂しく聞こえた。


「私はもう、何も持っていません。だから殺すならそれで構いません」

「それなら何故、その様に悲しそうな顔をするのだ」

「え?」


 王様は玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を下りてきた。



「お前は命懸けで救うほどの正義感は無いと言ったが、お前は村に迷惑を掛けた責任を取って死のうとしている。それは規模も形も違えども、お前の貫く正義ではないのか?」

「……」

「そして自分の事を大した人間では無いと言ったが、他人を思いやり自らを責め、死を覚悟できる者を余は大した人間だと思う」

「……」

「それから魅力が無いとも言ったが、自分の意志をはっきりと伝えるその強さと時折見せる儚さは十分な魅力の一つだろう」

「……」

「そしてやはり…」


 王様は跪いている私の目の前に立つと、しゃがんで目線を合わせた。


「お前は美しい」

「…は?」


 何言ってんだこいつ。顔が良くても目が悪いんじゃないか?

 王様は私の顎に手を添えると、観察し始めた。


「猫のように愛くるしい目に長い睫。柔らかそうな桃色の唇に肌理細やかな肌。我ら魔人とは違う人種だか、余はお前を美しく思う。」

「陛下…それ褒めすぎです。嘘はいけませんよ」

「余は嘘を吐いてまで女の機嫌など取らぬ。ん?よく見ると目も黒ではなく濃い茶色だな…」


 近い近い近い近いっ!!!


「陛下顔が近いです!」

「気にするな」

「気にします!!」

「フッ、照れておるのか。可愛い反応もするのだな」

「な!とにかく離れてください!」


 陛下はクスクス笑ってどんどん顔を近づいてくるので私が後ろに逃げた。


「何だ、つまらんな」

「私は面白さを求めているんじゃないんです!私の処罰を決めるための謁見です!!」


 ったくこの世界のイケメンは顔を近づけるのが好きなのか!?


「あぁ、その事はもう決めた」


 決めてたのか!だったら遊んでないで早く言ってよ!!


「お前への処罰は…」


 さぁ、来い…。







「我が城で生活させる」



「はぁ?!何でそれなんですか!?」

「余がお前を気に入った」

「だからってそれが罪人に出す処罰じゃないでしょう!」

「お前は城で暮らすのが嫌だと言っていただろう。それなら十分な罰だ」


 この王様は…!!罰というより罰ゲームみたいな事するな!!!負けて溜まるか!


「だけど私のようなものを城で暮らさせたら陛下の立場だって危なくなるし、碌な事がありませんよ!!」

「だからと言ってお前はこの先行く当てはあるのか?イセアにはもう戻れないし、徐々に黒髪が生えてくるのなら人々はお前を気味悪がり、どこにも行けなくなるだろう」

「そう‥かもしれませんが…」

「それが嫌なら余の妃になるか?」

「謹んでお断りします」


 それなら普通に城で生活した方がマシだぁあ!!


「即答で断るとはいい度胸だな」

「有り難うございます」


 王様は爆笑してるよ。最初の威厳のある態度はどこへ行ったんだ!!!


「お前はどのような処罰でも受けると言っていただろう。大人しく城で暮らせ」

「……」

「分かったな?」

「…はい」



 王様の高らかな笑い声が謁見の間に響いた。こんな王道トリップ生活が始めるなんて…バルフ‥バルフの馬鹿ヤロー!!!!









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