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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
23/57

第22話:人の話をちゃんと聞け!

「おい、起きろ」

「ん…」


 目を開けると昨日の騎士が目の前にいた。どうやら昨日気付かないうちに眠っていたらしい。もう窓からは朝日が差し込んでいる。


「…おはようございます」

「ああ」


 なんだか今日の騎士は昨日に比べてそっけない。何でだろう。私が寝てたからかなぁ?


「そろそろ謁見の時間だ。謁見の間行くからこれを被っていろ」

「あ、はい」


 そういって手渡されたのは昨日の麻袋。はぁ、今日も蒸れそう。私が麻袋を被ると、ちょうど他の黒騎士たちが入ってきた。


「マーリンドお疲れ」

「ああ」

「何か変わった事はなかったか?」

「特にねぇな」

「わかった。じゃあ行くぞ」

「はい…」


 昨日の見張りをしていた騎士が私の腕を取ると、後ろに持っていき、昨日のように拘束した。もう一人騎士が来ると、私の左腕を取って彼らに連れて行かれ、昨日の魔方陣がある所まで行くと黒騎士団長がいた。今日もばっちり装備をしているので顔が分からない。ここの黒騎士達はみんな甲冑を被りっぱなしで苦しくないのか?蒸れて禿げるぞ。


「じゃあオレの仕事ここまでだから。いってらっしゃーい」


 見張り番をしていた騎士はここで止まってあくびをしながら手をヒラヒラと振っていた。もしかして昨日寝てないのか?‥まぁ、見張りの仕事だもんね。お疲れ。



「それでは行くぞ」

「ああ」


 黒騎士達は私の四方を囲むように魔方陣に立った。なんか威圧感で空気が薄くなったような気がする。

 私達は魔方陣の中に入ると、もとからうっすら光っていた魔方陣の光りが強くなり、質素な部屋の中に移動した。

 部屋の中には神のようなものが描かれている大きな宗教画が飾ってあった。真っ赤で波打つような長髪を持った軍神マルスみたいな人…いや神か。それが球状のもの…多分世界だと思うけど。それを包み込むように抱きしめている絵だった。


「今から謁見の間に向かう。これでお前の処罰が決まる。祈るなら今のうちだぞ」

「いえ、結構です」


 私が即答した事に騎士達は吃驚していた。だって私ここの神様なんて知らないし。ていうか普段だってそんな信仰心なんて無いからね。頼りにしてるのは困ってる時にお願いする神様くらいだよ。


「では行くぞ」

「はい」



 騎士に続いて部屋を出て行った。しばらく外のに出ている長い廊下を歩き、城の中に入ると広く煌びやかな廊下を歩いていった。またそこを真っ直ぐ進んで行くと、だんだん廊下の両端に騎士か等間隔で立っていた。団長がいるので通るたびに緑色の騎士たちが敬礼をしてくる。お勤めご苦労様です。そしてようやく、大きな両開きのドアに辿り着いた。


「黒鷹騎士団団長、ガイシス・マングランド。先日のイセア襲撃事件の容疑者を国王陛下との謁見のために連れてきた」

「ご苦労様です。どうぞお入り下さい」


 団長が用件をいうと、扉の両隣に控えていた騎士たちが敬礼をして扉を開けてくれた。

 中に入ると、白と金を基調にした部屋だった。玉座まではグリーンカーペットが敷かれていて、その玉座は20段くらいの階段の上にあった。かっこいいなぁー…。

 玉座を見てみるとまだ王様は来ていなかった。しばらく待つみたいだ。


「跪いて頭を下げていろ」

「…はい」


 跪くとか…初めて言われた。これが女王様だったらSMっぽいな。『跪いて足をお舐め!』みたいな。もちろんその気は無いですけどね。団長を始め他の騎士たちは私の両隣に一列に並んで王様を待っていた。

 しばらくすると甲冑の足音が聞こえ、隣にいる黒騎士たちが片足を着いて跪いた。


「よい、顔を上げよ」

「はっ!!」


 返事をすると黒騎士達は立ち上がり気をつけをした。王様は声を聞く限りで優雅だけど威圧感がある。


「その者が先日のイセア襲撃の犯人か?」


 ん?王様とは違った声がする。こっちは感情が篭ってなくて冷たい感じがする。


「はい、しかしまだ犯人かどうかということははっきりとはしておりません」

「話はザビロニスから聞いている。見せよ」

「は」


 団長が返事をすると、私の麻袋を外した。王様の前のせいか、前より扱いが丁寧になってる。最初から優しくしてよ。ふぅ、外れた。だけど団長の手がそのまま乗ってるから顔を上げるなって意味か。へいへい。


「ほう…確かに話通り赤髪を持っているな。女、顔を上げよ」


 あー嫌だ。あげたくないよー。けど命令には逆らえないんだよなぁ…。

 私は黙って顔を上げた。顔を上げるとまず階段が目に入り、上へ視線を動かすと、玉座に佇む王がいた。明るい赤色の髪の毛を三つ編みにして肩へ流し、瞳が青緑できりっとした目。鼻筋が通っていて肌が白いので美しい。だけど男性らしさがちゃんとある。

 王様の隣にいる冷たい声の持ち主であろう男もけっこう肌の色が白く、落ち着いた青の髪を肩くらいまで伸ばしている。目がエメラルドグリーンで綺麗だけど、鋭い目が冷たさを感じる。総合的に二人とも若いしカッコイイ。さすが異世界トリップ。目の保養。


「ほう、瞳も『黒』か…」


 あ、忘れてた。二人が美形だから見入っちゃったよ。王様は珍獣を見るように私を見て、隣の男は冷たく見下ろしていた。いくら美形でもこういう風に見られるのは嫌だ。男は冷たく私に詰問してきた。


「サーイェと言ったか」

「はい」

「正直に答えろ。お前はバルファーとバルフを操りイセアを襲わせたのか?」

「違います」


 襲わせるわけないっつーの!どうして自分で自分の居場所を失くす馬鹿がいるんだよ!!


「ではバルファーと遊んでいたという報告は何なのだ」

「傍目から見たら遊んでいるように見えたのかもしれませんが、断じて私は遊んでいません」


 あれでも私なりにバルファーを引き付けてたんだよ!おもちゃのようになってね!!


「その後上空から降りてきたという報告があるが、それは本当か?」

「はい」

「何故お前は上空にいたんだ」

「バルファーが炎を吐き暴れ始めたので上空に避難しました」

「では、お前は上空で何をしていたのだ」

「燃え広がる炎を消火しました」

「ほう、お前が広範囲の炎を消火したのか?」

「はい」


 だって燃え広がったら村が危ないし。この質問にはみんな興味深く私を見た。えー?…消火しちゃいけなかったんですか?


「では何故それ程の力を持ちながらバルファーを倒さなかったのだ。お前一人であれほどの広範囲が消火出来るのならバルファーなど簡単に始末する事が出来ただろう」

「それは‥どうしようか考えていた時に騎士団の方がこちらに向かっている姿が見えたので、騎士様におまかせしようと思い、消火のみに専念致しました」

「そうか、だがお前の判断で少なからず我らの騎士も負傷した。それが狙いだったのではないのか」

「え?」

「バルファーを操り、村を襲わせることで我が国の騎士団を呼び出し、国の戦力を削ぐ。そしてその隙を突いて我が国を攻め落とすというそういう命令を受けていた。もしくは自分が国を支配しようと目論んでいた。違うか?」

「……」


 何なんだこいつ。人の話を全然信じて無いじゃん。とにかく私を始末したいのか。はぁ…面倒くさい。


「そうです…」

「‥やはりそうか。お前はどこの…」

「そう言えば、信じてもらえるんですね」



 私が冷たく男を睨みつけると、男も私を見下ろした。


「いくら私が真実を話したところで貴方が信じようとしないならそれは全て嘘に変わり、嘘が真実になります。貴方の思っている通りにしたいのでしたらこの謁見には意味がありません。殺すなら早く殺してください」


 何で変わらない結果をわざわざ必死になって弁解しなくちゃいけないんだよ。面倒くさい。宰相は表情が変わらないので何を考えているのか分からない。この鉄仮面が。お前は顔筋ちゃんと使ってんの?

 私が宰相を睨み続けていると、隣りで大人しく話を聞いていた王様が口を開いた。


「お前を簡単には殺しは無い。真実が分からぬままお前を殺しては、真相は闇の中に落ちてしまい、その後の我が国に何かしら影響を与えるかもしれぬからな」

「そうですか。ですがこの様な話は不毛です。如何なさるおつもりですか?」

「全てを話せ。余はお前を信じよう」

「え…?」

「陛下」

「お前は黙っていろ」


 王様の厳粛な命令に男は黙った。良いぞ王様もっと言え!!ていうかもういっその事こいつをクビにしてくれ!!!


「陛下は、本当に私の言うことを信じてくれるのですか?」

「ああ、信じよう」

「例えそれが、とても信じられるような話でなくとも信じてくれるのですか?」

「お前の目を見れば分かる。信じられないような話でもそれが真実なら信じよう」


 王様は頼もしく私に向かって笑いかけてくれた。…王様、あんたは本当に良い男だ!外見も良くて中身も男前!!素晴らしいね!!!


「…私を信用してくださり有り難うございます。では私も陛下を信用して、真実をお話します。しかし、この話は陛下のみに話させて頂きます」

「何だと?」


 何だとじゃねぇーよ。お前に一番話したくねぇーんだよ。最初から信じてもいないやつを簡単に信用できるほど私の心は広くない。名前なんだっけ…。えーとザビロー…あーもうザビーでいいや。ザビーは出てけ。布教活動でもしてろよ。そして禿げろ。


「私が話す事はとても重大な事です。軽々しく話すことは出来るものでは無いと考えております。真相は陛下のご判断でお伝え下さい」

「分かった。そういう訳だ。お前たちは全員出て行け」

「しかし陛下…」

「私はサーイェを信用すると言った。約束は守る」

「…御意。それでは失礼いたします」


 ザビーが出て行こうとしたとき、王様が引きとめた。


「盗聴するような真似は許さんぞ」

「……」


 お前する気満々だったのか!!ホント抜け目ないな!


「失礼致します」



 王様の命令で部屋には人っ子一人いなくなった。王はぶつぶつ呟き終わると、椅子の上で面白そうな顔をして私を見た。


「これで誰も入ってこれん。さぁ、邪魔者は居なくなった。話を聞こう」

「はい」

「緊張せずとも良い。気楽に話せ」

「え?」

「その様に畏まっていたら言いたい事も言えぬだろう」

「はぁ…」

「それで良い」


 さっきまで厳粛な感じだったのに一気に砕けたな。ガールズトークみたいにうきうきしてるよ。まぁいいや、そっちのが話しやすいし。


「ではそうさせてもらいます」


私は大きく息を吸うと、ゆっくり息を吐いた。





「私は、異世界から来ました」








一応元ネタ解説


・ザビー-スタイリッシュ英雄アクションに登場する宣教師。



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